2008年6月25日号 2面 社説 

最低賃金引き上げ

「スズメの涙」の恩恵もない

 政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」は二十日、現在の最低賃金の全国平均(時給六百八十七円)を、今後五年間で、小規模企業の高卒初任給の最も低い水準まで引き上げるとの「基本方針」について合意した。
 この「六百八十七円」という最低賃金では、一日八時間・月二十二日働いたとしても、年収は百四十五万円にしかならない。インフレや社会保障の負担増など、労働者の生活難が深刻化、ワーキングプアが社会問題となる中、最低賃金の引き上げが図られるのは、遅きに失したとはいえ当然のことである。
 しかし、合意された「基本方針」は、労働者の願いからほど遠く、およそ生活できる水準ではない。
 何より、経営側の抵抗で最低賃金の具体的目標額は盛り込まれず、厚生労働省の中央最低賃金審議会の議論に委ねられることになった。統計によれば、「高卒初任給の最も低い水準」とは時給七百五十五円で、現行からすると六十八円のアップとなる。だが、これでも年収は百五十九万円にしかならず、「生活保護基準を下回らない」とした改正最賃法(七月一日施行)さえも満たしていないレベルだ。しかも、実施は五年も先のことである。
 加えて、労働者の生活は、サブプライムローン問題を契機とした国際経済の変化が波及し、厳しさをいっそう増している。
 原油価格の高騰は、ガソリン価格や各種公共料金の値上げとなっている。大企業は、そのコストを合理化や人件費の削減で労働者に転嫁しており、下請企業や流通部門に過酷なコスト削減を強いている。これも最終的には、労働者に転嫁される。
 また、米国の景気後退と円高に対応すべく、多国籍大企業はさらなる選択と集中、寡占化を進め、さらなる海外展開も急いでいる。国内では工場の再編、閉鎖が増え、労働者の雇用に深刻な影響を与える。
 倒産などによる地域経済の悪化は、自治体財政をも直撃。この方面からも、行政サービスの切り捨て、負担増などとして、労働者には犠牲がしわ寄せされ始めている。
 政府による社会保障制度改悪で、国民負担も増え続けている。
 こうした状況を考えれば、仮に「七百五十五円」への時給アップがただちに実現したとしても、労働者の生活には「スズメの涙」ほどの恩恵もない。一千万人を超えた年収二百万円以下の労働者にとっては、なおさらそうである。
 それだけに、「円卓会議」に加わった連合中央が、自らが春闘の要求として掲げた「時給千円」をもやすやすと放棄して合意したことは犯罪的で、労働者を裏切るものだ。
 「格差是正」を掲げ「時給千円」で連合とタイアップした民主党は、この事態にどのような態度を取るのか。民主党が本当に「格差是正」を実現しようと思うのであれば、未組織を含む広範な労働者に大衆行動を呼びかけ、与党に最低賃金の大幅引き上げを迫るべきである。それなしに、財界によるコスト削減・賃金抑制攻撃を打ち破ることはできない。
 だが民主党も、連合の主力である自動車総連や電機連合も、「企業の国際競争力強化」を掲げる点では、財界と同じである。この論理を認める限り、多国籍大企業の攻撃に抵抗できず、頼りにならない。
 今回の事態は、連合中央の「協議」路線、あるいは民主党に頼った議会内の施策では、労働者の生活は改善されないことをあらためて明らかにしている。
 もうガマンは限界だ。労働者・労働組合は、最低賃金の大幅引き上げを求め、断固たる闘いを強めよう。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2008