2008年6月5日号 2面 社説 

「日朝国交正常化推進
議員連盟」が発足

「即時無条件の国交正常化」
のための国民運動へ
共同の努力を強めよう

 五月二十二日、国会で「日朝国交正常化推進議員連盟」(以下「議連」)が、自民党の山崎拓・前副総裁を会長に超党派で発足した。この「議連」結成は、わが国の外交とアジアの平和にとっての重要課題として日朝問題をあらためてクローズアップさせ、国民世論を前進させる動きとして肯定的に評価できる。地方で、保守派にも良い影響が出ている。
 国会での動きと相互に影響しあっているのだろうが、十七日には兵庫県で、二十五日に福岡県で、日朝友好と国交実現をめざす超党派の県民組織が相次いで結成された。さらにいくつかの県で同様の努力が進んでいると聞く。
 情勢は、日朝国交正常化の実現に有利に進展している。
 米国が歴史的に衰退するこんにち、対米従属のわが国は、政治も軍事も経済も完全に行き詰まって、アジアの共生はますます真の活路となっている。そのために、米国のアジアへの干渉・侵略支配に反対し、平和な環境を実現しなくてはならない。
 わが国は、まずは、明治以来の朝鮮への植民地支配とその後の売国政権による朝鮮敵視政策の歴史を真摯(しんし)に反省・謝罪し、必要な賠償・補償も行って、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との関係を正常化しなくてはならない。これこそ真の国益である。そのため日朝国交正常化は焦眉(しょうび)の外交課題となっている。
 あらためて、「即時無条件の国交正常化」のための一大国民運動への共同の努力を呼びかける。

結成の背景と前進を妨害する「包括解決」論
 結成された「議連」には大きな役割が期待される。しかし、何事にも二面性がある。この「議連」結成も同様で、手放しに肯定的に評価することはできず、分析的に見なくてはならない。
 それは、この時期に成立した背景、諸条件に制約され、特徴づけられている。
 とくに直近では、朝鮮政府が原子炉稼働記録を米国に提出し、「核計画の申告」も近いのではと予測されるようになったことがあろう。そうなれば米国側も、わが国保守派が最も恐れている「テロ支援国家指定」解除を余儀なくされる。朝鮮側が主導性を保って、米朝間の攻防が続いている。
 残り八カ月の任期となったブッシュ大統領は、五月中旬、「泥沼のイラク戦争の汚名をそそぎたい」と中東諸国を歴訪した。だが、アラブ諸国は親米国家も含めて反発を強めただけだった。ブッシュにはますます時間がなくなって、受動的対応を余儀なくされている。
 韓国では李新政権が五月に発足し、わが国反動派は色めきだった。だが、早くも李政権は重大な困難に直面している。
 こうした中で、わが国福田政権は追い込まれ、進展を見せる米朝関係に対応を迫られている。わが国の対朝鮮政策を調整できなければ、内外でいっそう孤立し、日米関係すら容易でないところに追い込まれる。安倍政権の轍(てつ)を踏むことになりかねない。
 他方、わが国支配層は、米国衰退の中で対米追随の枠内とはいえ、時代錯誤にも東アジアでの「大国秩序」形成を主導することで国際的発言力を強化しようとの策動を強めている。「朝鮮包囲網の再構築を」などと夢想する動きもある。
 国内政局も複雑で、矛盾は激化している。与野党は解散総選挙をにらんでいる。総選挙となれば、対朝鮮・アジア外交は一つの重大な争点である。
 自民党内部の矛盾も激化している。政治・政党再編問題もある。
 もっとも奥深いところでは、米国発の金融・経済危機が世界を揺さぶっている。内外の階級闘争、政治闘争はいちだんと激化している。
 「議連」の発足は、こうしたことを含む諸状況・条件の中での現象である。この諸状況のすべてが大なり小なり「議連」成立に反映していると見るべきである。したがって、情勢を前進させる肯定面だけでなく、否定面も当然にも多く含まれている。
 とくに、この「議連」の限界、問題点は、規約に定められた「目的」に明らかである。そこには「核・ミサイル・拉致問題等の、諸懸案の包括的解決を図り、国交正常化をめざす」と明記されている。
 これを文字通りに解釈すれば、まずは「核・ミサイル・拉致問題」を解決して、その上で国交正常化という「段階」論である。だから、諸懸案の解決なしに国交正常化なしという、わが国政府のこれまでの「入り口論」となんら変わらない。
 参加した人びとの意思は別にして、当面、まずは諸懸案の解決に力を注ぐ「議連」ということになりかねないのである。国交正常化の中で同時解決、あるいは出口で解決する、だから「入り口論」ではないと理解する向きもあろう。
 だが、日朝国交正常化を妨害する勢力に介入の余地を残していることは間違いない。
 日朝関係について、朝鮮側は、両国の関係正常化をほぼ一貫して望んできた。妨げになってきたのは、わが国政府が戦後一貫して対米従属の下で朝鮮敵視政策をとり続けてきたことである。これを転換させ、即時無条件に国交を正常化し、懸案があるとすればその上で解決すべきである。これ以外にはあり得ない。だからこそ、「圧力」一辺倒から、「対話」で正常化をめざす動きが強まるのは必然だった。
 にもかかわらずこうした規約となった。「議連」内部には、「核・ミサイル・拉致の懸案包括解決」と「即時無条件の国交」、この二つの路線が並存するのであろう。
 今後、情勢の進展の中で、即時国交正常化をめざす動きも強まるだろうが、「諸懸案」ということで前進に反対する動きも「議連」内外で強まるであろう。「議連」と同日には、自民党の六人の議員が「北朝鮮外交を慎重に進める会」を設立、正常化への気運をけん制してもいる。
 真に国交正常化をめざすには、「二つの路線」の対立を激化させ、「即時無条件」の世論が流れを制さなくてはならない。
 大局のために時に妥協も必要なことは理解できる。しかし、真に日朝両国間の和解と国交正常化を求めるとするならば、この問題はあいまいにすべきではない。国の前途を憂えて、この「議連」結成のために努力された皆さんが、大道を歩まれることを心から希望する。

核保有は完全に朝鮮の主権問題
 「日朝間の諸懸案」というが、核・ミサイル問題は完全に朝鮮の国家主権に属する問題である。われわれは何度も主張してきたが、一国がその独立、安全を確保し、国民と国土(領海・領空)を防衛するため核を含めた武装をすることは、どの国にも認められた当然の権利である。朝鮮政府は、自国防衛のため政権として当然の責任を果たしているにすぎない。もちろん、核武装するかどうかはそれぞれの国の具体的状況に規定されており、わが国はすべきでない。
 ところがわが国では、とくに「左派」に、「核」問題を実際政治と切り離して観念的に、闇雲(やみくも)に否定する見解が根付いている。しかし、核武装は現実の国際政治では一般に否定されていない。むしろ、一九六四年の中国の核武装に始まって、弱い立場の国々、中小国は、米国など大国の核どう喝に対抗して自国を守るために核保有を熱望し、現実に進めてきた。これは歴史の大きな進歩である。
 一方、核保有の大国は、その核独占と支配的立場を維持するために、新たな核保有を阻止しようと策動してきた。
 こうした歴史である。しかし、核大国も、ひとたび核保有が明らかになると実際的に対処してきた。
 たとえば米国は、九八年のパキスタンによる核実験後、同国に経済制裁を実施したが、二〇〇一年の同時テロ事件後は即刻関係を改善し、アフガニスタン侵略の基地となし、さらに〇六年にはブッシュが訪問して「長期的な戦略的パートナーシップ」を確認した。こういった具合である。対米従属のわが国政府は、米国に従った。いったんは経済協力を停止したが、同時テロ以後は再開し、いまもどんどん強めている。
 同じく核保有し、経済発展がめざましいインドには、米国は経済制裁どころか、「原子力協定」まで結んで支援しているありさまである。これが国際政治の現実である。
 そもそも核武装した中国との国交樹立に、それを理由に反対した政党はなかったし、「左派」もそうだった。こんにちも誰も、国交に関わることとしては核を問題にしない。
 国交を結ぶ上で、核保有は問題となり得ないのである。

問題は米国とそれに従うわが国の敵視政策
 もし、朝鮮の核がわが国にとって「脅威」というのであれば、それは米国に従ったわが国が朝鮮を敵視し、敵国扱いしているからにほかならない。それをやめれば解決することである。
 朝鮮での核問題の発生発展の歴史を見れば明らかである。米国は朝鮮戦争で核使用のどう喝を加え、その後の分断以来、一貫して軍事的圧力を朝鮮に加え、朝鮮半島南部と日本に持ち込んだ核で威嚇し、いまも米軍再編・強化を進めている。わが国は、戦後、米国に追随し、朝鮮分断・包囲網に加担し、軍事圧迫を強めてきた。
 こうした包囲攻撃の中で、朝鮮人民は想像を絶する苦難を強いられてきた。当然にも朝鮮政府は、打開のために核兵器の保有に踏み切った。これは正当な権利である。
 それは朝鮮半島の歴史に決定的な変化をつくり出した。朝鮮民族は、近代以後の歴史の中で、初めて他国に侮られない「力」を保有したのである。以後、朝鮮は対米関係などで一定の主導性を確保した。
 「核を完全に放棄させろ」という主張は、これを後戻りさせ、朝鮮を再び大国の自由になる隷属の地に戻そうということにほかならない。こんにちの国際関係の中では、きわめて反動的な主張と言わざるを得ない。

「包括解決」は形を変えた朝鮮敵視政策
 「包括解決」路線の実質は、形を変えた朝鮮敵視政策である。「国交正常化」を掲げながら、実際は日朝関係の正常化を妨害する敵側の回し者が広げている路線にほかならない。
 「即時無条件」の外交路線こそ、日朝関係を前進させ、真の国益に資する、唯一の、原則的で正しい政策である。
 懸案といわれる「拉致問題」も、本当に解決しようとすれば、両国間に信頼関係を醸成し、その中で解決する以外にない。国交正常化は、その出発点となるであろう。
 この路線問題をきちんとしないと闘えない。
 共産党は、以前から最も積極的に「包括解決」を主張し、福田の応援団となってきた。労働運動・国民運動の側にあって、たえず分裂と戦線破壊を歴史的役割としてきた共産党の真の姿にまことにふさわしい。この党には、一切期待できない。
 今回、「議連」に事実上党として参加した社民党も、「包括解決」路線を認めているようである。これでは党として主導的役割を果たせないどころか、日朝友好と国交正常化のために地方・地域で奮闘する党員への裏切り行為にほかならない。社民党中央は、これが形を変えた朝鮮敵視であり、山崎氏らは「福田政権を支える」狙いもあって動いていることにまったく無頓着なほど、政治音痴なのであろうか。
 日朝関係の正常化を望むすべての人びとは、「即時無条件の国交正常化」の旗を掲げ、国民運動を発展させ、福田自公政権と闘って、朝鮮敵視政策を転換させよう。とりわけ労働運動が先頭に立って主導性を発揮することは、その歴史的任務である。


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