2008年5月15日号 2面 社説 

「改革停滞」に危機感強める財界

「多国籍大企業のための政治」
を暴露し闘おう

 このところ、わが国財界、多国籍大企業がまたも政治介入の策動を強めている。
 とくに、経済同友会は三月末から立て続けに政策提言を発表、内容は、わが国企業の国際競争力の強化のための諸提案や経済財政諮問会議の強化案、マニフェスト選挙の定着などである。財界総本山の日本経団連も、独自の年金改革案を発表している。マスコミもこれに呼応、日本経済新聞も五月初旬から社説「改革停滞を憂える」を連載している。
 これは、「改革停滞」に対する支配層・財界の危機感、あせりの反映である。
 昨年の参議院選挙の結果、こんにちの「ねじれ国会」が生まれた。与党は総選挙対策に懸命で、民主党も「対決」を演出せざるを得ない。この状態が、財界には「改革停滞」と映っている。参院選の結果は、支配層にとって「高いもの」についた。
 財界のあせりは、闘う側には悪いことではない。だからこそ、国民各層、とりわけ労働者に貧困をもたらしている改革政治がだれの利益のためのものであるかを今一度明らかにし、闘かわなければならない。
 ところが、「左派」の中には、改革政治が多国籍大企業のためのものであることを意識的にか無意識にか暴露せず、「新自由主義」という「考え方」に起因するものであるかのように考える論調が根強くある。
 これは敵をあいまいにするもので、早急に克服されねばならない。

改革政治は多国籍大企業のため
 二〇〇二年、旧経団連と日経連が統合し、日本経団連が誕生した。会長には、多国籍大企業・トヨタ自動車の奥田会長が就任した。
 影響力を増した財界は、前年に「聖域なき構造改革」を掲げて登場した小泉政権を強力にバックアップした。〇三年年頭には「活力と魅力あふれる日本をめざして」(奥田ビジョン)を発表、「消費税一六%」「法人税減税」「国益を追求する政治」などの要求を掲げたのである。これらの要求は、多国籍大企業の国際競争力を強め、国際的権益を確保することが狙いなのである。
 財界は、奥田自らが政府の経済財政諮問会議の民間委員となるなど改革政治の陣頭指揮をとることで、郵政民営化などの行政改革、社会保障切り捨て、地方犠牲などの諸改革を矢継ぎ早に行わせた。外交面でも、イラク戦争を直ちに支持するなど、ドル体制に依存した多国籍大企業の願う対米従属外交を進めた。
 日本経団連は、これらを政策をスムーズに行わせるために、政治献金のあっせんを再開、そのための基準となる「政党評価」を行うことで、政党を追い込んだ。また、保守二大政党による「安定した政治」を実現すべく、民主党を系統的に育成、「二十一世紀臨調」などの別働隊も使いながら、マニフェスト選挙などをあおり立ててきた。もう一つの財界団体である経済同友会も、同様の策動を強めた。
 また、改革は米国の求める政策でもあった。
 小泉、安倍、そして福田と続く自公政権は、その手先として、その意図に忠実に政策を進めてきたのである。

危機の中であせり深める財界
 福田政権には、飼い主である財界の求める「財政再建」と「国際的地位向上」を進める使命がある。
 だが、この実行には難問が山積している。
 最大のものは、わが国を取り巻く国際情勢の激変である。米帝国主義は、イラク戦争を契機に、国際的影響力を急速に衰退させている。経済面でも、サブプライムローン問題に端を発した米国発の世界金融システムの動揺が実体経済にも打撃を与え始め、ドル還流システムは危機に瀕している。危機は先進国財務相・中央銀行総裁会議(G7)でもなんら
打開策が見つからず、拡大する欧州共通通貨・ユーロ、ロシアや中東諸国の独自の動きなど、世界は再編期に入った。
 収益の多くを海外、とくに北米に依存するわが国多国籍大企業にとっては、まさに危機的な状況である。経済同友会は、「世界経済の激変への対応の遅れが日本の停滞をいっそう招きかねない」と、激変する国際情勢への早急な対応を求めている。
 しかし、福田政権は昨年の参議院選挙の結果として生じた「ねじれ国会」に直面しつつ、支持基盤のいっそうの崩壊を防ぎつつ次の総選挙に勝ち抜こうと、改革路線に一定の修正を加える必要にも迫られている。
 空港運営会社などの外資規制、閣議決定した道路特定財源の一般財源化に対し自民党内の抵抗が強いこと、後期高齢者医療制度での負担軽減策の検討などは、その最たるものである。これは財界からすれば「改革の後退」にほかならない。昨年の福田・小沢による「大連立」策動が破たんして以降、国際環境の悪化と歩調を合わせるように、そのあせりは急速に強まっているのである。
 与野党の議員によるさまざまな超党派の「議員連盟」や、北川元三重県知事らが呼びかけ、地方の首長や議員を巻き込んだ「せんたく議連」の旗揚げなども、この財界の意図と結びついた動きと見るべきである。
 社会保障制度改悪など、福田政権の進めるさまざまな悪政に対する国民各層の反発が強まっている。これをさらに強力に前進させるためには、福田政権が一握りの多国籍大企業の代理人であることを暴露し、広範な戦線をつくって闘うことが求められている。

多国籍大企業を暴露しない共産党
 「新自由主義批判」にとどまり、多国籍大企業を暴露しない見解の代表例は、共産党である。三月に行われた同党の幹部会で、志位委員長は、貧困と格差の元凶として「小泉・安倍政権が進めた『新自由主義』の暴走」などといい、「経済政策の民主的転換」を主張している。メーデーに際しての「赤旗」社説でも、労働者の闘うべき対象として「自公政権が推し進めてきた新自由主義的『構造改革』路線」を規定している。
 ところが、この構造改革路線がだれの利益を代弁したものなのかという点になると、共産党は一般的に「大企業」というだけである。つまり、共産党の主張では、大企業や自民党政権が「新自由主義」という考え方にとりつけれたために、構造改革政治が行われるようになったというのである。では、大企業や政権が「新自由主義」というイデオロギーを捨てればよいというのか。
 およそ、社会的に一定の位置を占める考え方(政策も)は、特定の階級や社会層の利益を代弁するものである。だから、それと闘うには、それを進めている階級や社会層を暴露し、それ以外の犠牲となる社会層を引きつけて闘うことが重要になる。
 自民党政治が大企業のためのものであることは、戦後一貫した特徴であって、いまに始まったことではない。小泉政権以降の自民党政権が「新自由主義」政策をとるに至ったのは、大企業の一部が多国籍大企業に成長し、この連中が財界の主導権を握ったからである。だが、共産党はこの重大な変化について、まったく考慮していない。
 つまり、共産党のいう「大企業」批判、「新自由主義」批判では、小泉政権以降急速に進んだ構造改革政治の背景を正しく暴露できず、多国籍大企業の代理人である政府・与党と闘うことができない。また、多国籍大企業を暴露できないことは、かれらが保守二大政党制による「安定した政治」を実現するために育成してきた、民主党への幻想をあおることにもつながるのである。

広範な国民運動の発展で闘おう
 共産党と似たような見解は、多少の傾向の違いはあれ、「左派」と呼ばれる党派や労働組合の中にもある。このような考え方は、早急に打ち破られ、克服されなければならない。
 多国籍大企業のための改革政治、その加速化のいきつく先は、これら資本家どもの利益のさらなる拡大であり、労働者をはじめ国民大多数の生活と営業の破壊である。
 国民各層の怒りに直接依拠した国民運動を発展させることが求められている。労働組合には、その組織者としての役割を果たすことが求められている。


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