2008年4月15日号 2面 社説 

08春闘
中小組合はいよいよヤマ場

大手組合の「低額妥結」の
影響打ち破り、闘って
大幅賃上げを勝ち取ろう

 〇八春闘は、中小企業の組合を中心とする後半戦に入っている。
 多国籍大企業が五期連続で空前の利益をあげる一方、労働者の平均賃金は五年連続で減少、加えて灯油・ガソリンや食料品など生活必需品の値上がり、定率減税廃止など負担増で可処分所得は低下し生活が厳しくなっている。さらに、パート、派遣など非正規労働者が急増、年収二百万以下の労働者が一千万人を超え、貧困化が急速に進んでいる。
 こうした中、連合は〇八春闘に臨んで「生活の維持・向上をめざし、社会的な分配のあり方に労働組合として積極的に関与し、内需拡大などマクロ経済への影響力を発揮する」と「実質一%以上の配分」を提起、昨年以上の賃金改善を実現し、非正規を含むすべての勤労者への適正な成果配分の実現をめざす、とした。
 しかし、先行した大手労組の妥結状況は、それを裏切るものとなった。三月中旬に回答が出そろった自動車、電機、鉄鋼などの製造業大手は最高でわずか千円、「三年連続の賃上げ」に違いはないが、昨年並みの低額水準にとどまった。消費者物価が〇・三%上昇するだけで帳消しになる額だ。マスコミからさえ、「労組は本気で賃上げに臨んだか」(産経新聞)と批判される体たらく。例えば、トヨタ自動車は二兆三千億円もの営業利益をあげたにもかかわらず、わずか千円にとどまった。二千円を求めた電機は千円と半額の回答で、労組が力を入れたとされる時間外割増率引き上げは「ゼロ回答」であった。
 高木・連合会長は「春闘の社会的な役割や個人の期待に十分応えられたか、といえば大変残念さも感じる」と述べたが、責任は重大だ。
 これからヤマ場を迎える中小労組にとっては、否定的な影響をもたらすことになった。なぜそうなったか、ふがいない大手労組の妥結結果から教訓をくみ取り、資本の攻撃と闘って困窮化する生活に歯止めをかけ、生活できる賃金を勝ち取るために奮闘しなければならない。

危機に備え、労働者に犠牲押し付け
 今春闘は、当初「賃上げ容認」論が宣伝され、日本経団連も政府も後押しをしているかのような態度がマスコミから宣伝されていた。連合は「内需拡大には賃上げを」と強調し、産別に要請していた。
 にもかかわらず、日本経団連の「経営労働委員会報告」は、国際競争力の強化優先、賃金改善は総額人件費の伸びの範囲内、市場横断的なベースアップは過去のもの、業績改善は一時金に反映など、これまでの主張を繰り返していた。
 米国のサブプライムローン問題に端を発した金融危機が年初から一挙に深刻化、米国発の危機の大波が株安、原料高、ドル安・円高、対米輸出減となって日本経済を襲うことが必至となり、個別企業、資本の側の交渉態度が一転して厳しくなった。
 財界の「余裕」は吹き飛び、「賃上げ容認」論は急速に後退することとなった。渡辺・トヨタ社長が、福田首相の賃上げ言及に対して「それで考えがガラリと変わるわけではない」と言い放ったごとく、春闘ヤマ場の三月に入る前に、財界はこれまで以上に、危機を労働者に転嫁して乗り切る決断をした。足元の五期連続増益にもかかわらず、「収益環境の厳しさ増大」「先行き不透明」を口実に、「賃上げ容認」「内需拡大」論など一顧だにせず、先手を打って難局に備えるよう対処した。
 多国籍企業として、世界的危機の深まり、その下で予想されるグローバル競争の激化に対する危機感、主導権を取らねばとの使命感があり、国民経済の成長など「関係ない」とする身勝手さが端的にあらわれたものと見るべきであろう。

押しつけに労組は受身に回った
 組合側は、この事態を正しく見抜き、対処できたのか。
 昨年十月の連合第一〇回大会では、賃上げを「賃金改善」という呼称に変え、引き続き連合としての賃上げ目標を設定しない代わりに、「参考値」として「労働分配率の反転、一%以上」を掲げた。連合総研(連合のシンクタンク)の報告でも、三%程度の賃上げが必要だと指摘している。
 だが、各産別、個別労組の要求はきわめてつつましく、東電やNTT労組など要求提出さえしない大手があらわれ、三%はおろか、要求自身が昨年を下回った。連合方針はなんら拘束力を持たず、無視された。
 しかも、このわずかな「賃金改善」の実態たるや、労働者全体の生活改善にあてられるのではなく、企業の側の競争力強化の原資ともいうべきものへの配分である。例えば、三菱重工では原資をすべて成績反映分に組み込んだし、東芝は技術職向けの手当とした。これらの大手組合は、「ワークライフバランス」などと口裏を合わせ、「配分多様化」を経営側に逆提案するという犯罪的役割を演じた。
 根底には、戦後形成され、こんにち大手労組、連合指導部によって受け継がれている「企業を労使の運命共同体」と見る「労使協調主義」がある。連合は、日本経団連の「生産性の上昇・国際競争力の強化」を「共有認識」とし「労使の緊密なコミュニケーションを基礎においた生産性向上に向けた取り組みこそ、世界に誇ることのできる財産」との認識を「否定するものではない」(日本経団連「二〇〇八経労委報告」に対する連合見解と反論)と言う。
 こうした「労使協調主義」に立つがゆえに、ひとたび世界的な金融、経済危機が深刻化し、多国籍大企業が死活をかけて労働者への攻撃をしかけてくると闘えるはずもなく、無力さをさらしたのである。

大幅賃上げは闘ってこそ実現できる
 この多国籍大企業をはじめとする大手労組、連合指導部の「労使協調主義」こそ、「低額妥結」にとどまった主な理由である。労働者の賃金低下は、多国籍大企業をはじめとする大企業の経営側が「国際競争力の強化」を口実に「総額人件費の徹底管理」などと言って労働者の賃金を抑える大攻撃(パート、派遣などの激増も含め)に対し、労働組合、すなわち「労使協調主義」潮流が牛耳る連合指導部が闘いを放棄した帰結にほかならない。また、改革政治による規制緩和や各種負担増とも闘えていない結果でもある。
 中小企業は、多国籍大企業の法外な収奪を受けている。
 そういう下で、中小の労働者が生活を真に改善しようとするなら、「労使協調主義」の影響を払拭し、経営側の攻撃と対決して、大幅賃上げと非正規労働者の待遇改善を求めて闘い、多国籍大企業のための改革政治とも断固闘うべきである。
 経営側の「配当や内部留保と賃金との間にトレードオフの関係があるという主張は、説得力を欠く」(経労委報告)というウソを徹底的に暴露しなければならない。労働者が汗水たらして生み出した付加価値が、配当や内部留保に回るか、労働者の賃上げに支払われるかは、まさに「トレードオフの関係」で、もっぱら労資の力関係で決まる。どちらかが増えれば、他方が減る。資本家が自分の取り分をできるだけ多くしようとして労働者に低賃金を押し付けてくる以上、労働者は団結した力、ストライキで闘ってこそ賃上げを実現することができるのである。
 五年前に立ち上げられた「中小共闘」「パート共闘」、また「有志共闘」は、その現状に甘んじられない産別や中小労組の自然発生的な抵抗であり、共闘を強めることで主体的力を形成し、「大手次第」から自らの闘いで展望を切り開こうとする試みというべきだ。今年はその成果があらわれ、とりわけ百人以下規模での健闘が目立っているという。地方連合会での中小・地場共闘などの闘いも、次第に発展している。
 ドイツでは、金属労組が一万人が参加するストライキで鉄鋼労働者の五・二%賃上げを獲得、ここ十五年間で最大の成果は他産業の交渉にも影響を与え、「メガ賃金イヤー」と位置づけ攻勢を強めている。
 わが国でも、全国港湾や私鉄総連の中小バスが賃上げを実現するため、ストを構えて闘っている。
 「労使協調主義」の犯罪性を徹底的に暴露し、職場に渦巻く怒りとエネルギーにしっかりと依拠して、団結を固め、地域での共闘体制を形成して断固闘い、大幅賃上げを実現して、生活の改善を闘い取ろう。

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