2008年3月5日号 2面 社説 

道路特定財源・暫定税率問題

地方への犠牲押しつけは
許されない

 二〇〇八年度予算案と租税特別措置法案が二月二十九日、衆議院で可決、予算審議の舞台は参議院に移った。
 憲法の規定により、年度内の予算案成立は確実となったが、関連法である租税特別措置法案が焦点化している。
 自民・公明の与党は道路特定財源を維持し、暫定税率を含む現行税率を十年間据え置くことを主張。対して、民主党や社民党、共産党は、特定財源を一般財源化し、税率を引き下げることを求めている。租税特別措置法案で与党を攻め、解散・総選挙を前に政局の主導権を確保しようとしている。
 マスコミは、いわゆる「ムダな道路」問題と道路特定財源を結びつけ、特定財源を一般財源化することが国民の利益であるかのような宣伝を繰り広げている。かれらの与党「批判」は、「改革の後退」などというものだ。
 だが、これらは道路特定財源問題の本質を突いたものではなく、しょせんは財界の掌(てのひら)の上での国会「論戦」にすぎない。
 道路特定財源の一般財源化が、誰のためのものであるのか、労働者・労働組合は支配層の狙いを正しく見抜かなければならない。

道路財源の本質は財界支援策
 そもそも道路特定財源は、一九五四年、「第一次道路整備五カ年改革」の開始にともない、揮発油税(ガソリン税)をその財源にあてたことが始まりである。これを主導したのは、田中角栄・自民党副幹事長(後の首相)であった。
 これは、国内インフラ整備の必要性から、道路整備が必要とされたこともあるが、本質的には、高度経済成長につながる景気刺激策の一つであり、国家財政(血税)を使った財界支援策であった。その後、道路特定財源は地方道路税、自動車取得税など六つの税源(国税四、地方税二)、年間五兆円規模にまで拡大することになる。
 このような事情から、いわゆる「道路族」を中心とする利権、政官財ゆ着の温床となった。野党やマスコミは、もっぱらこの点だけを「批判」している。
 だが、多国籍大企業にまで発展し、海外市場で利益の多くを得るようになったわが国財界にとっては、特定財源のような仕組みは、必要なものではなくなった。

財政再建が支配層の課題となった
 こんにち、多国籍大企業を中心とするわが国支配層、ひいては福田政権の課題は、大きく二つである。
 外交上は国際的な発言権の強化である。そして内政面は、財政再建を急ぐことである。財政再建は、米国の急速な衰退と景気後退、輸出依存の日本経済の先行き不安が拡大していることなどで、支配層にとってはますます切迫したものとなっている。財政危機を抱えたままでは、採れる経済・社会政策に限界があり、危機に対応できないからだ。
 「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権以来のさまざまな改革政治は、基本的にこの流れの中で進められている。年金・医療・生活保護・介護など社会保障政策での国民負担増、定率減税廃止などの増税がその代表である。
 「三位一体改革」などの地方制度改革も同様だ。地方交付税交付金や補助金は削減され続け、「アメとムチ」による市町村合併が進んだ。財界は道州制の導入を主張しているが、これは究極的とも言える自治体合理化策である。「地方分権」などというかけ声はペテンであり、中央政府の財政再建のために、地方への財政支出を減らすことを目的としたものである。住民にとっては、負担増と各種サービスの低下となる。
 ゆえに、住民はもちろん、保守系を含む首長や地方政治家が、小泉政権以来の改革政治に反発するのには根拠がある。

一般財源化は財界の要求
 問題となっている「道路特定財源の一般財源化」も、この改革政治の中から出てきたものである。これを最初に取り上げたのが小泉政権(〇一年「骨太の方針」)であり、一部一般財源化に踏み切ったのが、これを引き継いだ安倍政権であったことを思い出せば十分であろう。
 その狙いは、地方の道路向けの財源を奪って、中央財政に投入しようとするものであり、地方への収奪、負担押しつけの一環なのである。
 こんにち、地方自治体の財政状況は危機的である。九〇年代初頭のバブル経済の崩壊以降、地方自治体は、政府によって、公共事業などによる景気刺激策を強いられた。こんにちの地方の財政危機の主要な原因はここにあり、責任は、中央政府とそれに従った地方の支配層にある。
 この上に、地方交付税削減などの改革政治が降りかかっている。独自の財源が乏しい地方自治体からすれば、道路財源はこれまで以上に重要な財源となっており、これを奪うことは、結果的に、地方に深刻な影響をもたらすものなのである。例えば、降雪量の多い地域では、道路財源は雪かきなどにもあてられている。これを奪うことは、住民を郷里から追い出すことに等しい。

改革を競う自民党、民主党
 自民党も民主党も、以上のような財界の意図に忠実な「改革推進」の党で、本質的な違いはない。
 国会攻防の構図は冒頭に述べた通りだが、自民党が道路財源の維持を主張するのは、昨年の参議院選挙における大敗を「教訓」として「地方の味方」のごとく振る舞い、崩壊しつつある地方での支持基盤を維持しようという狙いからである。その狙いから、麻生・福岡県知事(全国知事会会長)や東国原・宮崎県知事など地方の裏切り者どもを動員し、「財源・税率維持」を叫ばせている。
 つまり、自民党の態度は総選挙目当ての戦術的「手直し」にすぎず、財政再建など改革政治の基本は捨てていない。それどころか、年金保険料引き上げなど、国民への犠牲押しつけを強めてもいる。消費税引き上げと大企業のためのさらなる法人税引き下げも策動している。
 一方、民主党の側も「道路財源見直し」という改革の旗を鮮明にすることで財界の支持を取り付け、都市での配分議席数が多い衆議院選挙での勝利をもくろんでいる。
 先の参院選では、民主党が農家への戸別所得保障を掲げるなど「地方の味方」づらをした。保守二大政党が、交代で、ニセの「地方重視」を競い合うなど、まさに欺まんであり、茶番ではないか。
 労働者・労働組合は、このような「国会劇場」に期待することはできないのである。

地方切り捨て、国民生活犠牲に抗して闘おう
 道路特定財源の一般財源化は財界の要求であり、地方切り捨て策である。これを支持することはできない。
 その上で、揮発油税などで本則税率に上積みされて徴収されている、暫定税率の撤廃が不可欠である。これは、七四年に二年間の臨時措置として始まったものが、すでに三十年以上も継続され、しかも税率は三度にわたって引き上げられているという不当なものである。
 中小零細業者がほとんどを占めるトラック協会は、かねてから、特定財源の維持とともに、暫定税率の撤廃を求める運動を行っている。当然の要求である。しかも、原油高騰は国民生活に深刻な影響を与えており、税率引き下げによるガソリン代などの値下げは急務である。与党の「税率十年間維持」などという大収奪を許してはならない。
 財政赤字は、それに責任のある中央政府が解決すべきである。地方や国民を犠牲にした財政再建は許されない。この十数年間引き下げられてきた法人税をもとに戻すなど、大企業に負担させればよいのである。
 労働者・労働組合は隊伍を整え、中小商工業者など国民各層の要求と闘いを支持し、闘いのその先頭でともに闘うことが求められている。


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