2008年1月25日号 1〜5面 


労働党
新春講演会・旗開き開催
先進国労働者階級の役割提起

大隈 鉄二議長の講演

 日本労働党中央委員会主催の新春講演会・旗開きが1月13日、東京で開かれ、各界からの来賓、多数の友人・党員が参加した。講演会では、大隈鉄二議長が講演を行った。この講演内容は分量が多いため、別の機会に発表される予定である。本号では、20日に行われた近畿地方委員会主催の講演会における大隈議長の講演内容を、編集部の責任の下で掲載する。なお、紙面の都合で一部を割愛せざるを得なかった。


 おめでとうございます。今日はたくさんの方にお集まりいただいて、ありがとうございます。
 先輩の方、社民党、新社会党、民主や公明党の方々も来ていただいております。感謝いたします。
 わが党の同志も結集していただいて、ありがとうございます。
 さて、恒例のようになっておりますが、新年にあたって、党としての情勢認識や闘い等々についてご報告させていただきたいと思います。

昨年を振り返って

 昨年は地方選挙の年だったんですね。それで一般に少数政党は、公認でも無所属でも、いくらか厳しかったように思うんです。ただ、わが党はところどころで成績を上げられたんです。福岡では、四人立てたんですけれど、全員当選でした。それから東京などは新人が上がって、言えば聞こえがいいんですが、倍になりました。埼玉もいい成績等々ですね、労働党に関する限り、少し上り坂というか、よい状況になったかと思います。
 大きな問題が、七月の参議院選挙です。これは予想されていたとはいえ、民主党は「躍進」でしょう。自民党は敗北したんですね。いろいろな評価があると思います。民主党に票を入れた大部分の人たちは、自民党の、主として小泉政権の改革政治への評価といってもいいでしょうか。安倍政権はそれを引き継いで、安倍にとってはちょうどめぐりあわせが悪く、その批判を一身に受けたというか。小沢民主党はそこに目をつけて、いわば格差問題を突いて、農村でも、それから都市の中小業者等々、それらの票を大きくとって前進したんですね。
 有権者から見れば、これまでの政府に対する批判を民主党に投じたわけでしょう。それを、特に労働組合の人たちでしょうか、これを「一つの前進」と見たんですね。まあ、「前進」と言えないこともないでしょう。ただ、保守二大政党制の一つとしての民主党が伸びたわけで、決して、労働者階級と当の自民党批判の人たちーー農村、それから都市の中小商工業者、その他ーーかれらの要求が解決に近づいたというのでは、本来はないんですね。
 少しさかのぼってみれば分かりますが、二大政党制は、自民党の単独支配が崩れて以降、支配層が長い間、安定して政権を運営するための戦略的に実現しなければならない仕組みとして、財界が推進してきたわけでしてね。小沢代表という男は、その担い手だったんです。自民党の最も中枢から、これを割って、二大政党制を実現しようという、財界から見ると困難な仕事を引き受けてきた。そういうこととして、民主党の前進があったわけですね。
 そういうわけで、われわれは異なった評価をしておりました。
 ただ、支配層にとってもこうなんですね。
 財界の小林陽太郎(富士ゼロックス相談役最高顧問、経済同友会前代表幹事)という人ですが、一九九三年の総選挙の結果として、自民党が比較第一党でありながら、小沢を中心とする細川連立政権ができた背景に、平岩外四(経団連会長、東京電力会長)という当時の財界中枢が積極的に支援して、連立政権を成立させたと。二大政党制の戦略に沿ってそうやったということを、今回の参院選の後で言っております。
 民主党の参院選での前進の結果として、点数をつければ、「五〇%ぐらい、二大政党制に向かって進んだ」と、こう言ってますね。

 にもかかわらず、二大政党制が敵側にとって大きな困難を引き起こしたんですね。つまり「ねじれ」現象です。後で申し上げるんですが、世界情勢の大きな転換の中で、わが国の支配層も困難を抱えているわけです。そういう中で二大政党制の前進の結果として、参議院選挙で民主党が他の野党と組めば、過半数をとるという結果ですね。
 衆議院段階では、自民党と公明党が安定多数を握っておりますが、国政が停滞する。めまぐるしく移り変わる国際情勢に対処できないというような結果として、支配層は非常な困難に当面した。「痛しかゆし」ということでしょうか。
 つまり、二大政党制がある程度まで前進し、参議院で民主党が握るようになった結果として、「大連立」によって二大政党制が暴露されるような、大衆が二大政党制に期待して敵側の策に乗るところを、支配層は連立してしか政治が続けられなくなった結果として、二大政党制に対する幻想は大きく打ち破られたと。
 われわれはしたがって、この敵側の策略である二大政党制を打ち破る条件、これが思わぬところで、敵に不利に、われわれに有利に展開したなと、参議院選挙の「ねじれ」等々の現状を評価しておるところです。
 したがって、以降についても、労働党は、民主党に対して主要な打撃を集中したいと思っているところです。

世界情勢、米帝国主義の衰退と多極化の新しい局面

大 さて、国際情勢も国内情勢も大きな変化がありますので、以後、少し世界情勢なり、あるいは国内情勢の新しい局面についてご報告し、その上で、労働党がどうしようとしているかを論じたいと思うんです。

多極化、昨年の評価とその変化

 まず、世界情勢から話してみたいと思うんです。昨年の新春講演会で、その前までのことと大きく変わったという評価をしたんです。「一極支配」ではなくて、イラク戦争の結果として、米国は世界に対する支配力をなくし、しかも経済もきりなく経常赤字を抱えることによって回りにくくなったというようなことですね。
 軍事力もずいぶんと力が伸びすぎて、そして兵隊も足らんというようなことなどで、結局のところ多極化したと。多極化したということは、米帝国主義が衰退したことによって、世界の強国の一つというところまで地位が下がったと。相対化したということでもいいでしょう。
 それは言うなら、帝国主義諸国ーーヨーロッパの主要国。それから日本は米国に追随しておりますが、イラク戦争にも加わっておるし、帝国主義的政策をとっていることは間違いないですねーーそういう先進諸国とだいたい同級生になって、米国は一人で決められなくなった。
 しかも、先進諸国、強国だけでなく、ロシアのプーチンですね。これは石油代金で潤ってきて、国際的な借金も払い、軍備にも金をかけられるようになったんです。それから中国も経済は前進して、そして、ますます国際政治で発言力を強めた。
 そういう意味で、特殊な、つまり帝国主義諸国間の力がわりと相対化したことによる多極化ではなくて、帝国主義諸国でない、ロシア、中国のような国もまた国際政治に一つのプレーヤーとして参加する。そういう意味で、「特殊な多極化」ということを申し上げました。つまり、戦後、あるいは九〇年代のソ連の崩壊後と言ってもいいですが、そういう世界から変わった世界になったということを申し上げたんです。

激動する世界政治と米国のリーダーシップ

 さて、昨年はもっと大きな変化が起こったことについて話してみたいと思うんです。
 まず、そういう昨一年の多極化、あるいは「特殊な多極化」の世界がどういう変化を遂げたんだろうかというのを、三つに分けて報告してみたいと思います。

 一つは、米国の力、特に激動する世界政治の中で、米国のリーダーシップといいますか、問題解決能力ですね、それがどんなに衰えたかということを少し並べてみたい。
 まず、イラクです。イラクはそれ以前ももうどうにもならないところまできていたんですが、去年の後半、例えばキッシンジャー元国務長官がこういう意味のことを言っていますね。「イラクを選挙によって民主的な政権、民主国家にするというようなことは、どだい無理だ」と。
 ブッシュ大統領は「民主化する」と言ったわけです。それでマリキ政権というのをつくったんですね、選挙で。それが「どだい無理だ」と。あそこは、シーア派、それからスンニ派、クルド民族の三つに分かれておるわけですが、フセイン政権の時はスンニ派主導ですが、その三つが統一国家として動いておった。
 しかし、米帝国主義がフセイン政権を倒し、そして「民主国家」をつくろうなどといって、無理して選挙までやって、マリキ政権というのをつくったんですが、これはシーア派の政権なんですね。内戦が絶えないわけです。そこで、ブッシュ政権は民主党の反対を押し切って軍隊を強めたりして、もうベトナム戦争の時の三倍近い軍事費をかけているんですね。にもかかわらず、泥沼化して一向に片付かない。
 一昨年にも、米国のフランシス・フクヤマですかーー「歴史の終わり」というのを書いた男ですがーーかれが「いっそのこと引き揚げて、かれらの内側でくたびれるまで戦争させたらどうだろう」と、こう言ったことがありましてね。ブッシュ政権は以後の一年もイラクに踏み込んでやっていたわけですが、戦死者はもう三千人以上になったですかね。そして、無理だから後ろにひいて、しかし、三派それぞれに武器をくれたり、ゼニを送ったりすることによって、「かれらにまかせたらどうか」と。時間を稼いで、そのうちにくたびれるじゃろうということなんでしょう。キッシンジャーはブッシュ政権の有力なブレーンで、そういうことを言ってます。
 今は、警察も軍隊も、シーア派の反米勢力が内側に入って握っているから、米軍がイラクから撤退すれば、あそこはよくも悪しくも「反米政権」になるんですね。そういう状態で、米国はもうどうにもならなくなっているということですね。

 それから、イスラエルとパレスチナ問題やイランの核問題ですね。最近一週間ぐらい、ブッシュは中東を回ったんですね。そしてあの男ももう一年で大統領は終わりですから、何かいい仕事を一つぐらいしにゃならんということでしょう。パレスチナとイスラエルを米国に呼んで話し合いをさせた上で、現地に乗り込んだんですね。
 そして、中東の六カ国ぐらい回った。どこででも、目の前で批判をされたりで、言うことを聞くやつが誰もいないですね。パレスチナとイスラエルの会談のところで、ブッシュが「イスラエルもそうだけれども、アラブ諸国ももう少し譲歩してくれんと中東和平は実現できない」と、こう言ったことをとらえて、頼りにしておった穏健派のサウジアラビアの外相ーー王家の一人ですねーーかれが「ブッシュはイスラエル寄りだ」「これ以上、アラブ諸国がなんで譲歩しなけりゃならんのか」と、公然と不満を唱えましたね。
 しかも、ブッシュはいたるところでイランの核問題を取り上げて、「危険な国だ」と宣伝して回る。ブッシュが帰った途端、主な国はすべて、「イランとの友好を推進する」という声明を出していますね。
 これでお分かりのように、米国は世界の処理能力がなくなったということですね。
 あと、その少し東側ですか、アフガニスタンとかパキスタン。あのへんの動乱ですね。反米の動きもますます強くなってきておると。最も親米政権であったパキスタンでも、ブット元首相が殺されたですね。あのブットを、パキスタンのムシャラフ大統領と話し合いをさせて、これで親米政権を打ち立てようとしていた。ところが、ブットが殺された。米国の計画は吹っ飛んだんですね。
 つまり、あの東側の数カ国の動乱に対しても、米国は何の影響も与えられないということですね。

 今度はわれわれの身近なところ、朝鮮やこのへんのところですね。まず、一昨年の十月に朝鮮が核実験をやって、核兵器を持っておるということ、使えるということを証明した。日本では、もちろん当時の安倍政権もそうですが、いきがって、いよいよ朝鮮への非難を強めた。日本の「革新勢力」も「核反対」と言ったですね。
 ところが、あの核実験をやったことが、六者協議を大きく前進させたんですね。核兵器を持っておるということが非常にはっきりした以上、ブッシュは現実的な対応をしなきゃならんと、こうですね。観念的な人たち、生きた政治が分からない人たちは、「朝鮮はこれで孤立するだろう」と。ところが、生きた政治を分かるやつはそういう状況を放置できないので、現実的な対応をしにゃならんと、こうなるんですね。
 したがって、朝鮮は孤立どころではなく、六者協議をいつ開くか、どういう話し合いをするか等々はーー他国、つまり五者が決めて朝鮮にのませるのではなくーー朝鮮が決めることで、他がその問題を相談をしてやる。これはつまり、主導性、あるいは主導的ということです。六者協議はそういうわけで、今はやや停滞しておりますが、いずれにしても、主導性は引き続き、朝鮮が握っていると思いますね。
 そして後半の韓国での大統領選挙前までの動きを見ますと、南北関係は大きく前進しました。
 韓国は大統領選挙で李明博政権になるようで、朝鮮には厳しい対応をとるというようなことを言っておりますが、しかし、今度の大統領も生きた政治家でしょうから、しばらくすると現状を見つめ直すんですね。したがって、南北間はやや停滞する可能性はありますが、すう勢としては、以前の南北関係で発生した流れは変わらないと思うんですね。
 北東アジアはそういう関係で、米国にとって、この地域を何もかも自由にできない、この状況はいっそう進んだと思いますね。
 米国自身が中東で手をとられることの結果として、朝鮮問題で対応できず、中国を使ってですねーーさっき申し上げたあの六者協議というのは、朝鮮に対する内政干渉の組織ですね。朝鮮が自国の独立のために何をやろうが、他の国がやっていることと同じことをやる権利はあるわけですから。何も六者協議などといって枠をはめて騒ぐことは、本来はないんです。
 にもかかわらず、すう勢は私は変わらず、米国がアジア問題で何か以前と比べて大きなことをできるわけではない。

 それに、昨年は日本がいちばん頼りになったんでしょう、米国から見るとね。日本もまた親米政権だったわけで、特に安倍は米国に輪をかけたような観念的な右派だったんでしょうが。この親米政権が、国際要因だけではないですがーー参院選の問題もあるでしょうーーついに崩壊したんですね。米国にとっては、やはり打撃だったと思うんですね。
 福田政権がそれに続いたわけですが、そうかといって福田政権が安倍と同じような「親米政権」と言われるのは、福田政権としては困難だと思いますね。そういう意味で、昨一年はアジアも、米国にとってあまりよい地域ではなかったということになりましょうか。
 さて、その他に、昨年は「有志連合」の筆頭であるブレアが去ったんですね。次にポーランドも。あれはEU(欧州連合)の中ではどちらかというとーーブレアほどではないですがーー親米政権だったんですね。あれもおしまいになりました。最後はオーストラリアですね。つまり、ブッシュといっしょにイラク戦争を始めた「有志連合」の政権は、これで全部一掃されたと。ブッシュだけが残っておりますね。まあ、それでも内側では評判悪いですから。

 これがまあ、私は昨一年の米国の国際問題に対する処理能力がどんなに衰えたかということについて申し上げたんですが、最後にロシア問題等々触れなければなりません。ロシアが力をつけたことによって、安全保障問題でも、米国の要求を受け入れなくなったですね。
 二つあって、ロシアは、弾道ミサイルを近くに配備することに強硬に反対し、しかも米国は押し切れないでいるということですね。それから、ヨーロッパの通常戦略協定ですね。これはヨーロッパで、NATO(北大西洋条約機構)軍とロシア軍がお互いに軍隊を動かすことを通報して、勝手にやらせんというようなことを協定していたんですね。これを、事実上無効にした。ロシアはもう国内で、あの地域で軍隊を動かす自由を獲得したわけですね。
 そういう意味で、ずいぶんと、私は米国は安全保障も含めて弱くなったというふうに思うんです。これが一番目です。昨一年の変化についてですね。

サブプライム問題に端を発した金融システムの動揺とドル問題

 二番目に、これが一番大問題だと思うんですね。今日もまあ、NHKで討論をやっていますね。サブプライムローンに端を発した金融システムの動揺について、少しお話ししてみたいと思うんです。

ドル問題の議論
 私は昨年の講演会時に、すでに一部は申し上げたんですが、昨一年もドル問題の本がえらく出版されたり、論議が盛んだったんですね。一月には武者俊司(ドイツ証券東京支店副会長)というのが「新帝国主義論」という本を出したですね。それから、水野和夫ですね。これは三菱系(三菱UFJ証券チーフエコノミスト)ですね。「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」という本を書いている。それに、グリーンスパンは辞めてからーーこれは早かったーー回顧録を上下二冊(「波乱の時代」)ですね。何年か前に、ルービン元米財務長官、まあ大蔵大臣ですね、かれも回顧録を書いているんですが一冊ですね。日本でも山のように積んであって、飛ぶように売れたということなんでしょうか。
 昨年、かれらがそういうことを次々に出したんですが、印刷されて、店に出て、皆が買う頃には「その評価は間違っていた」ということになった。グリーンスパンも含めて。かれは神様のように言われたんですが、今の事態をまったく予測していないですね。
 それに、今日の「日経新聞」の社説にこういうのがある。「今日の世界経済と金融市場の姿を一年前に指摘した人がいたら、大笑いされただろう」と。少し後に、「グローバル経済を取り巻く環境は一変した」と。こう言うんです。
 さっきちょっと申し上げたんですが、NHKでは榊原英資(元財務官、早稲田大学教授)と武者が論争していたそうです。榊原が「米帝国主義の終わりだ」と、「帝国主義」とか言ったんです。NHKがですよ。「帝国主義」と。武者は「まだそうはならん」と言った。
 中央の講演会の直前には、「クローズアップ現代」(一月七日)に水野と榊原が出ていました。水野が「資本主義の危機だ」と言ったら、アナウンサーが、「資本主義の危機ですか?」って、二度念を押した。そしたら、榊原がうやむやにもみ消して、それで放送時間ぎりぎりになった。
 「読売新聞」の年末年始の社説、これは他の新聞も同じですが、その間の変わりよう、あわてよう。明けてから株が大暴落したんで、それ以前の楽観論はみな吹っ飛んで、数日間は新聞はそれをどう理解したらよいかで、おろおろおろおろしている。皆、論旨が一貫していない。それほど、敵は動揺しているんです。
 わが国会は「平和」なもんでしょう、内輪ゲンカですからね。国会議員たちは何も世界のすう勢は議論していないですね。

サブプライムローン問題について
 さて、いわばドル還流システム、つまりサブプライムローン問題から始まって世界の金融が動揺し、ドル還流システムが動揺している問題について、少し話してみたいと思うんです。
 ここでは多分、サブプライムローン問題といっても、分かりにくい人がいると思うんです。なぜかというと、外国に行く人は円が上がったとなると、外国の商品が安く見えるんです。しかし、行ったことのない人は通貨が高いことの意味は分からん。ゼニの問題さえ、多くの労働者には分かりにくいんですね。日本は「円高は怖い」っていうわけです。輸出依存なので、円高になると輸出環境が悪くなって不景気になる。そこで、労働者にはろくなことがないと。だから、円高は「大変だ」ということになる。しかし、旅行しているやつや輸入業者からみると、円高はよいことなんです。そういうわけで分かりにくいと思うんです。

 さて、サブプライムローン問題というのを五分ぐらい話してみたいと思います。勘弁してください。金持ちなら、現金でさっさっと買う。私どもは、コンピュータを買うのにもローンを組む。まして自動車買う時には、相手方が「貧乏だ」と見てますから、「何十回にしますか」といってね、聞くんです。で、「何十回にすると、このくらいの利子」とね、「頭金入れますか」と。「入れない」と言うと、もうちょっと利子が上がる。詳細に読まないと分からないんですけれど、小さい字で「不渡り出したらどうなる」と。で、買っても実際の所有権というのはこっちにないんですね、これは。家を建てるのにも同じです。まあ、私などは、その話はおおかた縁がないです。家賃だけ払う。

 さて、ご存じのように二〇〇〇年代になって、すぐIT(情報技術)バブルが崩壊して、不景気になった。その時、グリーンスパンFRB(連邦準備理事会)議長がーー中央銀行総裁ですねーー不景気になったので、じゃんじゃん金利を下げたんですね。いろいろした中で、住宅の景気が出て、そして、住宅を建てるやつが増え、価格も上がり、右肩上がりになる。そうすると、家電製品が売れて、一般の消費も伸びるというようなことになりかけた。
 そこで、もっと景気をよくしようということで、貧乏人に家を建てさせることを考えたんでしょうか。それで「頭金もいりませんよ」と。そして数カ年は返さなくてよい。そして何年後から利子がかかって元金も含めて返していく。そして、その後数カ年して「借り換えをしませんか」というような、さまざまなローンの組み方をやっているんです。そして「ご安心ください。あなたが五年後に借り換えなきゃならん時には、住宅価格が上がりますよ」「それでもっと資金を借りることができます」と。もっと金を借りれば、資産が上がった分、一部は消費に回せるということですから、いろんなものが買えると。うまい話ばっかりなんですね。ただし、「一回でも不渡りしますと利子が上がりますよ、条件悪くなりますよ」と。そういうようなことだったから、家を建てられるというのでみんな喜んじゃって、どんどん家を建てたんです。
 住宅会社は建築費を貸すほう。貸すほうといってもバックにいる大きな銀行から借りていて、一定金額の枠組みがある。だから、家を建てる貧乏人に百人か五百人、ローンを組ませると、それ以上は銀行が保証してくれんので、そのローン、つまり契約書ですね、その契約書を銀行に渡す。銀行は、ローンを組ませる会社に、また大きな保証を与える。そして、そのローン会社はまた仕事が始められる。
 そんな具合で、大きな証券会社とか銀行は、そんな住宅会社、不動産屋を何百軒と子会社にして、資産としての契約書をどんどん集める。例えば、シティとかの大きな銀行。あんな銀行の利益の三〇%は、この住宅関係のローンで荒稼ぎした。「ドル箱」だったんですね。だから、それでもうかった会社ほど、今、大損しているわけですね。
 貧乏人の側から見ますと、サブプライムローンというのはだまされて、口車に乗って、借家住まいの者が自分の家を持つ夢を実現できると思って、契約書にハンコついてゼニを借りて、それを相手方に渡すことで、家を建てることができたんです。しかも、当時は家がどんどん右肩上がりで、中古でも建てた家より値段が上がっていた。ところが、それがはずれたんですね。
 しかし、払えなければ、ローン会社は、次の契約の時にもっとべらぼうな利子を課す。払いきらなければ、家を差し押さえる。しかも家の価格が下がってきたら、とりあえず家を差し押さえて、残りはその人個人が借金をして、鎖でつないだようにする。ちょうどサラ金と同じですね。その労働者たちは、家は取られたうえに、食わにゃならんですから働きにいく。その賃金が押さえられる。で、民主党がこれを批判して「略奪的契約書」と、こう言っている。「略奪」と。したがって、契約書を取り上げた側からみると、寝て暮らせるような、暴利をむさぼる、そういう仕組みなんですね。
 いまや住宅投資も、前年からすると十数%減っているから、家を建てる人がきわめて少なくなっている。しかも中古の住宅は取り上げ、差し押さえしているからどんどん集まっていて、そして「売ります」と書いていても売れない。だから、黙ってても価格が下がる。建てた貧乏人の労働者にとっては、地獄になるわけです。しかし、それで大もうけした会社も、その資産が目減りして、どうにもならないというので、その証券が他の自動車のローンとかいろいろなものと組み合わせて、別な証券をつくったんですね。
 三重の「赤福」で言うと、古いあんこを新しいあんこに混ぜて証券をつくるんですね。したがって、どの証券の中にも古いあんこ、目減りするあんこが入っている。ある会社は、住宅関係の証券を何億ドル、株式を何億ドル、現金を何億ドル、社債を何億ドルというふうな資産内容となっているんですね。そして「あの会社は素晴らしい」とーー例えばシティーーこういう評価されたものが、その証券に古いあんこが入っているということになれば、しかも混じっているから、混じっていないものも「混じっているかもしれん」ということで、その会社の信用はガタ落ちするわけですね。
 そういうわけで、今はサブプライムローンで貧乏人から略奪していたような証券会社ほど、大きな損失を抱えて、そして、その価格が減っているわけです。価格が下がっているものですからーー決算期ごとに、自分の会社の再評価をしなきゃならんのでーーまだ売らないにしても、目減りするための積み立て(引き当て)をしておかにゃならんですね。
 というわけで、銀行や証券、カネを扱う金融機関の集まりを、金融システムという言い方をすれば、「金融システムの動揺」というのは、そういうカネを扱う銀行や証券会社やファンドその他、そういうものがいつ倒産するかも分からないということで、毎日自転車操業しているような、この状態。これを金融システムが不安定になっているとか、動揺しているという表現をする。
 さて、そういうことで、サブプライムローンの話は少し締めたいんですが。

いわゆるドル還流システムは、昨夏以前の状態には戻らない
 そういうわけで、金融機関が随所で倒産する可能性が出てきたんですね。だから、銀行に行ってもカネを貸してくれんとすると、この株を売らにゃならん、そこで、東京市場で株が下落する。つまり、世界の金融機関の株式離れが出てるんですね。金融機関でさえそうですから、投資家たちは、誰を信用していいか分からん。そこでもう、株やそういう債券、資産担保のいろんな証券、こういうのに「近づかんほうがよいばい」ということになって、先物取引で金を買う、すると金の価格がべらぼうに上がる。先物市場で原油を買う、原油の契約書をつくる、そうするとこれがべらぼうに上がる。いま原油代が百ドルに達しておる。需給関係で決まる価格でなくて、残りの七〇%は行き場を失った投資家たちの資金です。
 今までは「どんどんもうかる」ということで、証券会社の勧めに応じて、いろいろな証券にも投資してきた。しかし危ない。そうなると、資金が金融機関に集まらない。銀行や証券会社もみな株を売ったりで、運転資金にも困る。証券資産を投げ売りするということになれば、さらに半額になりかねない。こんなわけで、米国とヨーロッパの中央銀行が話し合って、そして年末を切り抜けるために、輪転機をじゃんじゃん回して、ドルを印刷して、回すための資金は中央銀行がじゃんじゃん出すと。これをヨーロッパでもやった。
 そういうことでとりあえず収めようとする。しかし、とりあえず中央銀行からカネを借りて息継ぎをやったにしても、そういう証券会社は証券はそのまま持っているわけですから、しかも毎日目減りしているものを握っているわけです。いつかは、それを市場で誰かに買わせにゃならん。つまり、当面、年末とか決算期を切り抜けるという意味で役には立ちますが、この処理は十兆ドル近い額ですから、大変だと思いますね。そういうことで今、金融システムが動揺して、ちっとも収まらない。
 私は、それでどうなるだろうかと。今はまだ、二つの可能性があるとしか言いようがない。
 ですが、何年か後にこの金融システムの動揺がとりあえず収まった、ということになったにしてもですね、昨年夏以前の、順調に回る状況には戻らない。ドルの支配した世界は、昨年夏以降、別な状況に変わったということですね。だから小康を保ってやっとホッとしたとしても、世界は元に戻らない。つまり、ドルは「暴落」はないとしても、下落は避けがたい。これが一つの可能性。
 もう一つは、小康を保てないかもしれない。榊原は「米帝国主義の終わりだ」と。水野も「資本主義の危機だ」と。ドル暴落は、もう突飛な意見でなくなったんですね。
 まだ今は、二つの可能性がある。にもかかわらず、私の結論は、夏以前の状態に戻ることはない、というものです。

通貨や金融システムの問題の本質と、基軸通貨ドルの問題
 一昨年ごろから、本屋ですいぶんとにぎやかだった。一つは、ドルの暴落がもう間近に迫っていると書いてある本、もう一つは、「そうではない」という本。この二種類の本がじゃんじゃん本屋に積まれた。
 背景はですね、〇四年ぐらいは三千億ドルか四千億ドルぐらいだった米国の経常赤字が、〇五年、〇六年、〇七年と、この三カ年で五千億、六千億、七千億、八千億と、うなぎ登りに増えた。経常赤字のほとんどは貿易赤字です。つまり、米国の競争力が劣ったということです。米国の有力な製造業はみな、中国に移ったりしてます。米本国から売る品物が少なくなったんですね。
 したがってドル暴落説と「回る」という説が出た。なぜ「米国は回る」という主張があったのか。そしてまた実際に、それほど貿易赤字あるいは経常赤字が増えたにもかかわらず、米国はやってこれたのか。米国人がぜいたくな暮らしができたのには仕組みがあるんですね。それを、ドル還流システムという。米国以外の国だったら、貿易赤字あるいは経常赤字が増えますと外国から借金をせにゃならん。ある程度増えるとどうにもならないので、輸入を減らす。つまり金利を上げたりして景気を冷やして、その国の人たちがあまりゼニ使わんように始末をさせる。その代わり輸出を増やす。ということになれば、だんだんに経常赤字は減ることになる。基軸通貨国以外は、みなそうやってある程度の赤字、黒字という幅は埋まっているんです。それ以外に道はないんです。
 しかし、米国は基軸通貨国です。米国のドル還流システムというのは、一回目はレーガン大統領の時にやった。
 米国は「双子の赤字」で、国際収支も赤字、財政も赤字ということの中で、ドル高政策というのをやった。米国の金利を上げると、金持ちは米国に預金を預け、米国の資産を買ったりして、米国で利ザヤを稼ぐんですね。そういうわけでレーガンは、特に日本の黒字をあてにしてドル高政策をしたんです。そして、米国の国内では大企業に減税して、軍需産業にゼニを注ぎ込んで、景気を刺激する。したがってドル還流システムというのは、本当は九〇年代以降ではないんです。
 ただ、そうやっても、米国はうまくいかなかった。それで八五年に「プラザ合意」というのをやって、人為的にドルを下げて、競争力を回復しようとした。それはしかし、四、五年しか続かなかったんです。
 今回のドル還流システムは、とくに、アジア危機の九七年以降です。ああいう非常に悲惨な経験をしたので、アジアの企業家たちは自国に投資せず、黒字を外国に投資する。

 で、榊原の前の財務官である行天豊雄。サブプライムローン問題について、行天とグリーンスパンは、他の経済学者、論客とぜんぜん違うことを言っていますね。他の人たちはどう言っているかというと、「契約書が無理なことだから」とか「ヘッジファンドなどの規制をやらにゃならん」とかというようなことです。
 ところが行天とグリーンスパンは、それより「偉い」ことを言った。私は、そのことだけはその二人をほめたいと思う。行天はどう言ったか。「問題はそういうことではない」「世界はカネ余りでどうにもならんのだ」と。グリーンスパンは、金利をじゃんじゃん下げてバブルをつくった人なので、サブプライム問題が表面化したら、米国でいっせいに非難された。ところがグリーンスパンは、「もし緩めなかったら米国経済はどうなっただろうか、世界経済はどうなっただろうか」「世界がカネ余りでどうにもならないところまできてる」と言っている。したがって、「ヘッジファンドや証券を広めたりして、投資家のニーズに応えた」と。「規制してどうなるもんでもない」と、こう言っているんですね。そしてかれは「この問題はまた起こる。いつ起こるかは誰も予測できない」と。「できることは、起こったときの被害を最小限にとどめる工夫だけだ」と。この二人は、他の多くの証券会社や経済学者、評論家等々からみると、達観しているところがある。しかし、かれらもまたそれ以上ではない。
 だが、なぜカネ余りなのか。余りというのは二つある。品物が過剰生産でどうにも売れなくなったというこの余り。しかし、自動車を買いたい人は世界に何億といます。しかし売れない。つまり資本主義の下では、もうからんと売らんからですね。もうけたい人がおって、買いたい人がおってもゼニがない。そういう資本主義だから、過剰生産という現象がある。カネ余りもいっしょなんです。世界でモノの売り買いで使う金の百倍も、二百倍ものゼニが毎日あふれるようになっている。今はそのカネが行き場がなく、金を買ったり石油を値上げさせたりしている。株に集まれば株が暴騰する、逃げれば暴落する。しかし、世界にはその資金があれば飢え死にしないですむ数十億もの人がいる。世界を天国にできるほどの資金があり、動いている。資本主義だからできない。資本主義の過剰資金、過剰商品というのは、絶対的な過剰ではない。
 したがって、グリーンスパンや行天が「カネ余りでどうにもならんのだ」というのは資本家的感覚、それ以外に社会のありようを考えられない階級の考えですね。かれらは財産があり、資本家の財産を共有するなどということは想像もつかない。私有財産は「神聖にして侵すべからず」と思っている。しかし、貧乏人からしますと、その資本主義が滅びてもなんのことはない。現に社会を動かしているのは労働者階級ですから。グリーンスパンなどの見解は、階級の限界のある知識です。

ユーロや政府系ファンドの問題
 さて、なぜドル還流システムが前に戻らないかというと、そういう大騒動の中で、皆さんご存じのようにユーロが上がったでしょう。ヨーロッパは、ドルの暴落は、困難を伴うので恐れていますがね、やがてはドルが下落してユーロが上がるということは、ヨーロッパの支配階級の望むところなんですよ。あれらの時代が来る。
 もう一つ、政府系ファンドというのがある。これは二つに分類できるんですね。一つは、石油代金や資源を持った国のファンド。もう一つは、BRICsといわれる、特に中国に代表されるような貿易で稼いだ国のファンド。これが手に余って、運用しているんですね。
 この騒動の中で、この石油代金等々での政府系ファンドが、米国のシティやメリルリンチ、それからスイスのUBS等々にどんどん出資している。七〇年代のオイルショックのときはどうだったかというと、五千億ドルくらいのーー今と違って少ないけど、それでも巨額な金だったーー石油代金がたまって、ヨーロッパは欲しがったんです。しかし、ヨーロッパは恐れもしたんです。ヨーロッパの銀行家たち、企業家たちは「この五千億ドルは欲しいけれども、ヨーロッパが植民地になることを覚悟しなければ、容易にこれを入れるわけにはいかんのだ」と、こう言ったんですね。米国もまた自分たちの指導力が衰えることを恐れて、キッシンジャーは当時「戦争を仕掛ける」とまで言ってサウジアラビアなどを脅かしながら、協定を結んで、石油代金を米国の指導の下に一括して運用したんです。そして、他の先進諸国に回し、石油を持たない非産出国にもカネを貸した。これで、米国とロンドンの銀行は大もうけした。のちに非産油国は、借金が払えずどうにもならないところまで行き着いた(累積債務問題)。そういう経験がある。
 そこから見ると、もはや米国の指導力も落ちて、それを入れなければ米国の主要な銀行はもたなくなっている。プーチンのカネはさすがに、入れたいんだけれども怖がって入れない。しかし、中国は信用したんでしょうかね。メリルリンチとかその他に入れましたね。
 米国は今、このドルの動揺、還流システムの動揺を抑えようとして、必死になってカネをダブつかせ、ヨーロッパにも回した。米欧の中央銀行は、まだ統一行動をとっているんですね。
 しかし、民間はどうか。米国の銀行が、多くはサブプライムローンのような証券を抱えておるわけですが、これが五百億ドルの確保を要求したんですね。ヨーロッパと日本には百五十億ドル、三つの大きな銀行に五十億ドルずつ。そして米国の民間が抱えておる債券をしばらく預けておくからと、そういうことでヨーロッパと日本が合わせて三百億、米国が二百億で五百億ドル出して組合をつくって、そこに一時、そのカネで投売りしないように、大きな銀行が支えるというもの。
 ところがこの安定策を、日本でさえ、資金の回収ができなくなる可能性があるので「株主に申し訳が立たない」と断った。政権は売国政権ですがね、市中銀行は民間ですから断った。ヨーロッパも断った。そしてお流れになった。
 中央政府としては、このシステムを守ろうとして共同歩調をとっている。しかし、民間銀行同士では激しい争奪、闘争をやっていますから、その成り行きがどうなるかで、簡単に言うことを聞かない。

 しかもそれでは、石油代金を持っておる政府系ファンド、貿易黒字を持っておる中国のような政府系ファンド、これがなぜ資金を投入するかということになると、ドルシステムを守るためではないですよ。ドルが下落すると自分のドル資産が目減りするので、ということが一つ。
 もう一つは米国が困っているので、この際、重要な銀行の株主になったり、重要な先端技術を持った企業に投資することによって、技術を得ようとしているんですね。これは石油の王様たちも同じです。つまりかれらは、ドル還流システムを守ろうとするのではなく、自己の戦略的な国策に沿ってやっているんですね。それが分かっておるものですから、プーチンのやつは入れんと。重要な、戦略的なところには、外国資本は入れんということで、いわば戦略的な投資に対する警戒ですね。
 この動揺するドル還流システムの動きの中で、一方でこの傾向を守ろうとする動きと、同時に、ドル還流システムを打ち破ろうとする動き、この対立する二つの要因が進んでいるということですね。
 私が思うには、米側が「危機が一服しましたので、このカネは返します」と言ったところで、石油の王様たちはもう株主になっていて戦略があるので、「売りません」と、こう言うに決まっている。また、返すためにはどこかで稼がにゃならんので、短期間では返せない。

 したがって、この一つの不安定になった、哲学ではこれを同一性それ自身のうちに、いろんな情勢、いろんな運動と言ってもよい、その状況は、「一時的、条件的に成立しており、したがって時間とともにそれは別な状況に移り変わってゆく。その要因は常に内部に含まれている」という観点がある。これは銀行に限らず、世界の万物の法則なんですね。弁証法はそういう問題を研究するのに役立つんです。したがって、その対立する傾向、この状況を変えようとする傾向が、進んでいる。そしてこの状況は変わるであろう、したがってこういう客観的な動きを前提にして、研究し、さまざまやってみますと、元に戻らないという結論に行き着くんですね。ただ、二つの可能性として目下進行中ですから、暴落するか、小康を保つかまだ分かりません。しかし、日ごとに深刻だという状況が、毎日、昨日の新聞と今日の新聞は違う。進行中ですから、そういうわけです。

世界情勢の新しい局面、その特徴

 金融の世界の動揺にとどまらず、世界は新しい局面に入った。
 そして世界経済と金融の焦点が、どこに移るのか。ドルの後はユーロなのか、あるいはドルとユーロと元が話し合って、ドルがソフトランディングするのか。利害の対立で話し合いがつかず、そうこうするうちに暴落するか、これはまだ分かりません。しかし、世界の経済と金融の中心地が米国からどこに移るかという問題ですね。ヨーロッパに移るだろうか、ひょっとするとーー私はそうは思わないですがーー中国に移る可能性もあるかもしれない。そういう世界が大きなそれ以前とは異なった再編期に入ったということですね。そして、それは世界政治の以降の発展を大きく条件づけると。遅かれ早かれ国際政治もまた、その条件に突き動かされて再編期に入り、世界政治は大きく変わったと。
 昨年の大きな変化は、政治的な米国の衰えと軍事問題での相対化という問題がありますが、世界の情勢を変える最も大きな動きがあるとすれば、この金融から端を発して世界経済が再編期に入ったということです。私は、昨一年の大きな変化で、それ以前の世界と以後の世界は、明らかに状況が変わったものと理解しなければならないと思います。
 そういう激変期、それぞれの国は、それぞれの状況にどう対応してどう生きていこうとするだろうか。例えば米国自身は、ほぼ一割生活費が下がる。つまり百万円もらっていた家庭で九十万円になるわけですね。これまでは十万円借金して、百万円にして暮らしていた。九十万円で暮らすとすれば、誰かの生活費を減らさにゃならん。長男に「大学に行くのをやめろ」とか、嫁さんに「お前、中東に出稼ぎに行け」と言うか分からないですが、しかし、米国の国内矛盾、階級闘争が激化することは、疑いないと思う。
 しかし、米国が一割、経常赤字の八千億ドルとか九千億ドルとかいう、結構大きな国一つ分の消費が、米国人が始末して暮らすということになればーー世界は、そこに輸出していたわけですからーーその需要をどこで見つけるかですね。これまた、世界経済にとって大問題です。

 大きな変動期、それぞれの国の特徴によって、新しい世界環境の下でどう生きるかという問題が生じるわけです。したがってそれぞれの細かい分析をしておかないと世界情勢は見られない。米国自身も自分がどうやって生きていくかという問題に当面する。米国が方針を立てても、他の国が言うことを聞く保証はないですから。米国もヨーロッパを研究しなければならず、中国も研究せにゃならず、朝鮮がどう動くかということを研究せにゃならん。そういうわけで、複雑な世界に入ったですね。
 さてそういうわけで、いくつか、情勢を知る上で大事な研究は、一つは、衰退著しい米国がどんな問題に遭遇するかという、この研究、あるいはそれが世界情勢にどういう作用を及ぼすだろうか、こういう研究は避けて通れないと思います。
 もう一つ、「発展する中国」と言われておりますが、どの時期まで発展し得るだろうか。中国は、いま加熱しておりますね、経済では。続けられるだろうか。オリンピック前後が危ないといわれていますが。たとえば元値上げを要求されるわけですね。そうしたら中国の輸出産業は打撃を受けますね。農村から一億数千万、この二十年くらいのうちに農民がプロレタリア、つまり無産階級になったわけですね。そして、大なり小なりの資本家の下で搾取される労働者階級になった。しかし、かれらは移動の自由がなく、都市に籍を移してない出稼ぎです。経済過熱が収まって輸出が思わしくなくなれば、農村に帰れますか。農村もまた膨大な余剰人口がある。国内は危機を抱えておる。胡錦濤が「調和社会」などと言い始めているのは、その対処策ですね。そういうわけで、この中国の研究は避けて通れないんです。
 インドはどうだろうか。この研究もなけりゃいかんですね。産油国や資源を持った国、これはいつまでも石油でメシを食えると思っていないんです。したがってかれらは先進諸国の重要産業に投資して技術を入れようとしている。海水を淡水化して、砂漠の真ん中に工場を建てようとの計画もあるんです。自動車産業の計画さえあります。あるいはカネ余りで、米国やロンドンの市場に代わって金融の中心地になろうかという計画もあります。そういう諸国の動き等々の研究がなけりゃならん。

 そこでだいたい世界をどう見通すかということですが。こういうことになろうかと思うんです。
 いま米国の衰退が著しくて、還流システムが危機に瀕(ひん)しておりますね。そして多極化した社会になっておるんです。ブッシュはもうあと一年ですから。そこで民主党に代わったら解決するだろうかという問題があります。以後の世界を判断する上で、情勢を描く上で申し上げたいんですが、私の結論は民主党政権になっても、米国が衰退するこのすう勢は変わらないであろう。だって、一挙に米国の競争力を上げ、経常赤字をなくせますか。なくせないですね。したがって民主党に代わって政治手法が変わり、いくらかの状況の変化があっても、このすう勢は変わらない、これが一つです。

 それから多極世界の変動期ですから、長期的に、世界のすう勢はどうなるだろうかということは、帝国主義に反対する闘いの前進、とりわけ先進国での革命党と労働者階級の前進が、本質的には、どのような速さで発展するかに世界情勢はかかってくると思います。
 なぜなら、多極化した世界、しかも「特殊な多極化」でですね、そのプレーヤーですねーーそれは胡錦濤やプーチンも入れてですがーーそういう人たちが政治を動かしているわけですが、動揺した不安定な世界で、支配に対する危機感と利害の相互関係をどんなふうに調節するだろうか。かれらは皆、利害が異なっているわけですから。ますます親分なしの世界になって、これからしばらくはにぎやかな世界になる。そして中心地がどこに移行するかという再編期ですね。いつかはリーダーが現れる可能性がある。かれらもいち早く世界を安定させるために、さまざまな動きをする。
 したがって、支配層がこの世界でどう自分を立て直すのか、あるいは労働者階級が自分の隊伍を整えて、世界政治にどう登場するか。この二つの競争にかかっている。
 帝国主義反対のさまざまな中小国、あるいはアラブ諸国等々の闘いがありますが、かれらは帝国主義を打倒する上で決定的な役割を演じられない。先進諸国の労働者階級だけが、最後的に決定的な力をもつということですから、その発展の速度にかかっておると思います。

国内情勢について

 最後、国内問題を五分か十分でやります。

参院選の結果の衝撃と政局激変

 そこでですね。民主党が躍進したことが、昨一年の国内政治の大きな変化だと申し上げたんですね。そして支配層が待ち望んで、十数年かかってここまで二大政党制を育ててきながら、かれらはその矛盾に突き当たっている。
 というのは、この国は参議院と衆議院の権限を似たようなものにつくったんですね。戦後の政治は、衆議院でことが決まりそうになったら、参議院をブレーキ役として、割と権限を強くしとったんですよ。これは衆議院を革新系に、あるいは労働運動に牛耳られるようになったら、ブレーキをかけようという意味で参議院を狙ったんですね。そういう制度をつくったんです、憲法で。ところが、今回はこれが裏目になったんですね。参議院の権限が衆議院とあまり変わらない。したがって、参議院を野党が占領したら、国政がどうにも進まんという矛盾に突き当たる。
 さて、これをこの際、変えようという動きがあるんですね。しかし、それも時間がかかるので、「とりあえず連立を」と言って騒いでいるんです。そうすると、十数年も努力をしたのに、ということで、かれらはまた困った。結構なわけです。それが今の、昨年の大きな変化で興味あるところです。二大政党制は敵の思い通りにはなりにくいし、今度の総選挙の結果が、民主党が圧勝というわけにいかないですね、これは。したがって、「ねじれ」か、選挙の結果として、政党再編は避けがたいと思います。すんなりと民主党が大勝利して「ねじれ」が片付くことはあり得ない。私はそう思う。
 したがって、福田政権は、全力を挙げて選挙に打ち勝とうとして、改革も遅れているわけですね。もうゼニもみんな出しますといって、一生懸命やっている。だから、支配層は「改革が遅れる」と言っておる。しかし、政権政党の側から見ますと、政権の死活が大事なことで、いろんな問題はその後と、こう言っている。
 したがて、この勝敗は分からないですね。ただ言えることは、自民党が圧勝しても「ねじれ」が残っていますから。「片付く」ということは民主党が圧倒するということですよね。だから、政党再編は避けがたい。その時、いいですか、民主党の七割は元自民党か保守系です。ここに手がつくですね、再編は。そうすると、二大政党制、「あれは何だったのか」ということになる。
 社民党の重野幹事長、かれが「何としても野党が過半数をとらにゃならん」と、こう言っているが、むなしいことです。こうやればよい。「社民党は民主党と一切共闘はしない」と。「民主党に最大の打撃を集中するんだ」と。こう言ったほうが、民主党が前進するより、はるかに二大政党制が崩れ、社民党が生き残る道はあるんです。しかし、こういう計算ができないですね。だから、私どもは、社民党にそれを勧めておる。二、三の人はーー地方ですよーー納得するが、大多数は議員が残ったほうがいいと思って、民主党とすみ分けをしてでも残ると。損するのは社民党に決まっています。展望がないですね。
 したがって、私どもはこの選挙にあまり期待はかけないしですね、わが党が立てれば別で、やることは決まっています。朝から晩まで、民主党を暴露します。そして、民主党が大きく後退することを望みます。
 衆院選で民主党が負けようが、勝とうが、参議院選挙の議員は一人も変わりません。「ねじれ」は残ります。そういうわけで、敵側にとって不利になって、困っていると思うんですね。まあ、そういうことです。

福田政権の性格と課題

 福田政権は選挙を闘わにゃならんので、以後どうするだろうかという問題では、支配層が望んでいる明確な性格はまだ出していないです。小泉の時も安倍の時も、ましてや福田でも、財界の、多国籍大企業のための政権ですから、かれらが望んでおることは国際政治の中での発言権を今より強化することです。そのためには、海外派兵がなければならず、国内法としての憲法問題があります。
 もう一つは、財政再建です。日本は他の先進諸国と比べて、一・五倍の借金があります。さっき、それぞれの国が新しい環境の下でどう切り抜けられるだろうかということを申し上げたんですが、日本の財政が苦しいということは、国際環境、まして世界経済の大編成期に重荷です。
 例えば、輸出が減ったら日本はどうしますか。失業者が増えますね。もう、中小企業ではバタバタと倒産が増えていますね。最近の七年間のうち最高になっています。一万一千件を超しましたからね。以後、急速に中小企業が倒産し、労働者階級の失業が増える。企業は好景気だといって利益を上げていますが、派遣労働者の賃金を派遣会社が受け取って、そのうちの三〇パーセントは派遣会社が取る。労働者は踏んだり蹴(け)ったりですね。ここは大体、中小企業の労働者、中小企業の人でしょう。そういう問題に遭遇するんです。
 戦後の自民党は、どうにもならないところまで米国追随の政治をやり、経済をやり、米国のために黒字をじゃんじゃん還流させてきた。この国は、八千億ドルか一兆ドル近い、中国に次いで二番目の外貨準備を持っていますよね。ドルが下落すれば大きな資産の目減りになる。米国に収奪される。そういう国をつくった自民党。立ち往生すると思いますよ。
 だから、福田は選挙にも勝たにゃならず、そういう問題に当面した。するであろうではなくて、当面したんです。かれらには時間がないですね。悠長な選挙も困る。「大連立」もしなきゃならん。処理できるでしょうか。

激変にどう対処するか

 したがって、今回の選挙で、社民党とか野党の議席が数議席増えたとか残ってとか、残すとか残さんかの話ではなくて、私はここで、労働者の皆さんにですね、労働者階級の前進のために、選挙のために結集するのではなく、強固な党のために結集していただきたいんです。

 「闘うぞ!」なんてこと言って、「新しい情勢を切り開かなければならん」と言って、何をやっているか。九条ネットだとか、やれ社民党を選挙で担ぐとか、つまらん仕事をやる。労働者階級が根本的に考えにゃならんのは、隊伍を整えて、労働運動を復活させるためにも、革命政党を形成することが重要だと思います。
 社民にそれができますか。協会派もーー社会党で「左派」といわれていた。まだ機関誌を出していますねーー確固たる方針は、もうないですよ。もう普通の社民党員でしょ。そして、「議席を一つでも二つでも残さないと党が終わりになる」、こんなこと言ってるんですね。
 大局から見ると、政治に何の影響も与えない、そういう党にすでになっているでしょう。したがって、新しい方策を考えにゃならん。私は社民勢力の人びとに、すでにそういうことを勧めています。そういう道を探っていただければと思う。
 そして、国民運動、行動する国民運動です。労働運動は、ストライキでもやれる労働運動。
 そして、革命政党をつくる。そのことなしに、国の運命を変えていく展望は出ない。
 「進歩派」等々は必要で、そういう人たちの団結をわれわれは望みます。しかし、緊急の課題は、革命党の前進です。
 共産党は、デタラメなことを言った。七〇年代に「民主連合政府」などと言った。われわれは当時から「成立する条件はない」と。案の定、数年したらパーになった。
 国労などの労働者がスト権ストをやった。これにも反対した。賛成して支援したのは労働党だけですね。社会党も共産党もこれに反対した。「教師聖職者論」もありますね。
 社会主義が崩壊する時に、東欧からロシアも含めて民衆が立ち上がった。われわれは社会主義が崩壊している、そのさまを率直にとらえて、あれらの国の共産党の路線の誤りを暴露した。共産党、不破は「これからが本当に人間的社会主義の運動だ」、それが「間違いなく発展している」と、こう言ったんです。反革命が進んでおるのに、かれらはそういうでたらめを言う。朝鮮敵視政策、これはどうですか。すべてでたらめですよ。

 社会党、社民党には戦後、功罪があります。しかし、「山が動いた」と言った、土井たか子委員長の時、私どもは「どの階級がなぜ社会党を支持したのか、このことの教訓に学ぶべきだ」と、かれらに勧めた。かれらは「市民」とか「山が動いた」と言うけれども、どの社会層、どの階級が動いたのかを十分つかめなかった。私はそれを指摘して、社民党の以降の方針にーーちょうど今、小沢がやっている、「自民党離れ」の層というやつーーそこに目をつけて、労働運動の他に、その社民党が市民主義などではなくて、それらの階級が望んでおる、その政策を掲げて社民党の方針をつくれば、以降の前進はこの教訓に学んで、引き続き前進できるというふうに勧めた。以後、かれらはそういうことは何にもやらない。社民党の中央まで行って、有力な幹部にも私は勧めた。「本当にあなたと話す時だけが、階級の話ができるんです。本部にもっと重要な役割がありますが、そういう話をすると、誰も分かってくれん」と、こう言った。そういう幹部がいましたよ。
 つまり、今の社民党は、戦後の功罪合わせた、社会民主義者たちの運動のーー労働運動も含めてーー経験を受け継いでいないですね。

 私は労働党の前進を、わが党の利害というだけでなくて、国の利害にかかわるものとして、率直に皆さん方にお訴えしたいと、こう思うんです。
 政党批判も率直にしましたが、しかしどの党にも、国と階級の運命に心を痛め、なにがしかの政治貢献を望んでいる政治家の存在があると信じていることは、私とわが党の心情として、この場でも率直に表明したいと思います。巨大な事業を、一つの政党、少数の政治家でやれるものではないのですから。
 長々と話しましたが、国内政治の問題はもう少し話さにゃならん問題がありますが、今日は時間がありませんのでそのぐらいにして、お集まりの皆さんに、団結して闘いましょうと申し上げたい。
 労働党の前進のために力を貸していただきたいし、労働者の皆さんがーー誰でもがやれるわけではないです。自己犠牲も伴いますしねーー時代を変えようとすると、そういう勇気のある青年や、生涯の終わりにあたって、少なくとも道を見つけたということをやっていただきたいんですね。
 皆さんとの党内での再会ができることを期待して、私の講演・あいさつを終わりたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。


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