2008年1月1日号 1〜5面 


大隈議長新春インタビュー

 激動の二〇〇八年の幕開けに際し、「労働新聞」編集部は、日本労働党中央委員会議長である大隈鉄二同志に新春インタビューを行った。議長は、昨一年を振り返り、米帝国主義の急速な衰退など国際情勢の特徴、およびサブプライムローン問題を契機としてあらわになった現代資本主義の問題、さらにわが国野党の状況などについて、縦横に語った。さらに、労働運動を中心とする国民運動の発展と、そのために労働党の建設を急ぐことを呼びかけた。紙面の都合で一部を割愛せざるを得なかったが、以下、掲載する。(聞き手、本紙/大嶋編集長)


現情勢の特徴をどう見るか

大嶋 新年おめでとうございます。

大隈議長 おめでとうございます。

大嶋 例年、大隈議長への新春のインタビューは、昨年を振り返るというところから始まります。
 私が見るに、昨年もまさに激動でした。国際情勢では、米ブッシュ政権が年頭、イラクへの二万人規模の増派を決めた。しかし、イラクの治安はその後も安定せず、英国の首相交代、ポーランドやオーストラリアの総選挙でいずれも親米政権が交代し、「有志同盟」は崩壊した。経済では、七月にサブプライムローン問題による金融不安が全世界的に表面化するという特徴があったと思います。
 米国の衰退ということでは、わが党は比較的早い時期から言っていて、二〇〇三年のイラク戦争にしても「弱さゆえの冒険」と暴露しました。
 そこで大隈議長にお聞きしたいのは、この一年の変化を通して、いまの世界情勢の特徴ですね。昨年の新春講演会では「多極化に向かっている」と言われましたが、それがどこまできたのか、現状をどう特徴づけたらよいのかというあたりをお話しいただければと思います。

大隈議長 いやあ、新年号では必ずインタビューでしょう。昨年は逃れたのかな。でも、三十数年、年末になるとインタビューの準備、秋の十月、十一月頃からいつも悩む。それが終わると今度は新春講演会。まあ、ようやってきたなと思いますよ。
 しかも、ますます複雑な、そして急激な変化なんですね。だから、悩むのは当然でしょうかね、これは。
 今年はどんなインタビューになるのかと、楽しみじゃないな、ヒヤヒヤしておったんですが、ズバリ、国際情勢をどう特徴づけるか、ということなので。本来は新春講演会で、と思っていたんだけどね。講演会なら、一週間か十日はある、早すぎましたね(笑)。難しい質問ですが、可能な限りお話ししましょう。

大嶋 よろしくお願いします。

国際情勢の特徴について

大隈議長 さっきあなたが言ったように、昨年の新春講演会で私は、国際情勢をいろいろ話した後で、世界は米国が衰退する中で、いっそう多極化してきた、しかも、米国が衰退したことによって、いわば帝国主義というか、先進諸国間の力関係が相対化する、そういう意味での多極化とは異なっていると。
 それは中国の登場だとか、ソ連は崩壊したけれどロシアの登場ですね。しかも最近は、プーチンも石油代金で元気が良くなっているわけでしてね。そういうこともあって、いま言った、プーチンのロシアとか胡錦濤ですね。ロシア、中国、そのほか、まだ国際政治でのプレイヤーはいると思いますが、そういう意味で、情勢は非常に複雑になっている。そんなことを言ったんです。
 もちろん、ロシアや中国が帝国主義国というわけではないですが、にもかかわらず、かれらは強くなってきながら、ときに「テロ反対」などと言ってみたり。つまり、世界人民が前進していくことで、とりわけブッシュのような帝国主義、あるいはヨーロッパの大国が困ってくると、世界人民の側にぴったりと立つのかというと、なかなかそういうものでもない。ときに帝国主義と妥協して、世界人民の側から見ると、「どっちを向いているんじゃ」という動きもするわけですね。
 そして、自国の利益を中心に考えて、公然と大国的な政治に加わっているわけですね。ときに人民の闘いに支持を寄せるようなそぶりもする。いわば中間派ですかね。非常に複雑なんですね。
 だから複雑だけれど、ますますそんな多極化は進むだろうと。
 それにしても多極化というのは、世界人民にとって、敵側が割れている、あるいは必ずしも一枚岩ではない、という意味で有利な状況だと。これは人民の力の前進がつくり出したことでもあるんだけれど。
 だから、その結びのところで私は「どうですか、すばらしい情勢だと思いませんか」と言ったんです。

 さて、そこであなたの質問。新しい年の情勢あるいは昨一年の変化を通じての、この局面を、どんなふうに特徴づけるかという質問ですよね。
 引き続き多極化、つまり米国はいっそう過ぎた一年も衰退した。他の国は現状を保ったか、発展し力をつけたんですね。したがって多極化、複雑な多極化のすう勢、この基本的方向は変わらなかったし、いっそうそれが定着したと思います。
 ただ、少しつけ加えなきゃいかんのは、昨一年を詳細に見ますとね、まず、国際政治で米国の指導力というか、いっそう衰えたんだけれども、注目すべきところは、よくいわれる米国の評価で、「超大国だ」といわれるような場合です。必ず、米国の軍事力が際立って強い国だとね。
 ある意味で、経済がうまくいかなかったりいろいろだけれど、国際政治で指導権を持っているのは、超軍事力があるからだと。他国の追随を許さないようなね。そういう評価が根づいていたんだと思います。

 しかし昨一年を見ましてね、私は、この点でもそうではなくなったというふうに思うんですよ。例えば、イランを口実にロシアの周辺にミサイル防衛(MD)システムを配置しようとする。だけど、プーチンはこれをきちんと拒否して、米国も強引のようだけれども、結局は妥協というか譲歩していますね(注1)。
 もう一つは、例のヨーロッパ通常戦力(CFE)条約も、プーチンは破棄したわけではないけれども、履行を停止したわけですよね。それから、ロシアを中心にした旧ソ連圏が、「テロ問題」を理由にしていますけれども、共同の軍事体制をつくりましたしね(注2)。しかも、それを単なる周辺の同盟というだけでなく、他の地域に派遣することも言っています。もちろん、昨年、一昨年あたりから、中国とね…。 

大嶋 上海協力機構(SCO)…。

大隈議長 それなどを通じての軍事協力もあったし、総合的な演習もやりましたけど、昨年はそういう意味で際立っていましたね。そういう意味で私は、多極化の情勢というときにですね、米国の「超軍事力」も、非常に具体的な生きた世界の状況下では、相対化したのではないか。この面も取り上げておく必要があると思うんですね。
 さらに、去年の七月以降大騒動になって、いま連日、新聞で取り上げられているサブプライムローン問題に端を発した金融の問題ね。
 これは米国発なんだけれども、ヨーロッパ諸国をみな巻き込んだし、中国その他、産油国も巻き込んだんですが、なかなか落ち着かないですね。しかも、米国だけでは片づかない。処理できる力がない。ヨーロッパも自分たちにも被害があったので、なんとかしてこの動揺、金融システムの動揺を収めるのに統一行動を取っています。
 それから、米国のシティバンクね、ここに産油国が…。

大嶋 アブダビ投資庁(ADIA)ですね。

大隈議長 そうですね。それが投資しましたし、それからスイスのUBSですね(注3)。これはしにせですよね、等々で。もはやこの面でも、ちょうどイラク戦争を始めたときのように、米国が主導権を取って「有志連合」で(笑)金融問題を解決できるかというと、もうそういう力はないですね。
 私は、これにつけ加えて歴史を振り返ってみたいんです。
 一九七〇年代、産油国の石油戦略(オイルショック)があったあの時期も、オイルマネーがずいぶんたまった。しかも当時、西欧諸国は資金に困っていました。ですがこのときはですね、例えばあの当時の新聞とか本を見ると、ヨーロッパの銀行が、五千億ドルのオイルマネーを欲しいんだけれど、植民地になることを覚悟しなければ、とても資金は入れられないということを言っているんですね(注4)。
 米国はその雰囲気を知ってーー当時はキッシンジャー国務長官ですよねーー戦争の脅しをかけたり、いろんな政治をやった。産油国が西側のあれこれの銀行とか企業に直接投資をすると困るので、まとめて、米国の指導下でこの資金を利用するように働きかけ、結局のところ産油国は、そういう流れになったんですね。
 その資金は西欧にも回ったんでしょうが、米国の指導下でウォール街やロンドンのシティーが巨利を得たんですね。それからもう一つは非産油国、ここに膨大な資金を流したんですね。それが後の累積債務、非産油国が借りたカネを返せなくなったという南北問題につながるんですが。
 当時は、米国が絶対的な力を持っていた。だから、オイルダラーも米国の指導下にあったわけですね。秘密条約もあったり、取引もあったらしいんだが、それは後でわかるんですね。
 いまは、産油国は石油代金を西洋の要所要所の有力企業に投資していますね。今度のような危機の時に、米国の代表的な銀行の一つにその資金が入り、それによって助かるということを考えてみますと、もはや基軸通貨国の米国、ドルがそこまで来ているということですね。

 そうすると、戻りますが、多極化というのを、いまは政治だけでなく軍事も、ましてや金融の世界でも、今度のような動揺が起こったときに、始末をつける意味で、米国の力が非常に衰えたということですね。
 そうすると、さっきの質問、多極化をどう特徴づけるのか、昨年と同じような延長線上の広がり、あるいは深化と見るのか、何か違った表現のほうがより適切なのかということになる。
 多極化がいまや政治的な、軍事的な多極化というだけでなく、金融も含めて、非常に米国の国力が衰えたという意味で、多極化がより定着し、全面的なものになったと。大きな変化ではないかと思います。

 それはまたですね、米帝国主義の発生と発展の歴史、あるいは第二次大戦以後の歴史の視野からも、概括して、その現在を評価することができるのでは、と思いますよ。
 米国が第二次大戦後、世界のリーダーになって、戦後のブレトン・ウッズ体制という通貨・金融のシステムが、七〇年代になると崩壊するんですね。その後も、固定相場制から変動相場制。また変動相場制も八五年のように行き詰まるんですね。そこで米国は力を使って、「プラザ合意」で通貨を調整するんですね。
 世界の経済力が不均等に発展して、諸国の力関係、競争力が変わっていく。それに規定されて世界の通貨体制や金融システムも変更や動揺を余儀なくされる。
 戦後六十数年かかって米国が衰退し、基軸通貨国でありながら経常収支赤字が八千億ドル。国際経済の異常な不均衡は、ひとまずは米国の問題でしょ。これが疫病神。そして、最後にこの問題、金融の動揺が起きているわけですから。
 われわれは衰退していると思っているんだけど、株屋、証券会社の連中に言わせると、ほんの数カ月前、「どれほど経常赤字が広がってもドルのシステムは続く」と。「そういう世界に入ったんだ」と宣伝していた。いまも言ってる。
 だけど、どうやらドル世界の末期かもしれませんね。つまり、きりなく経常赤字が増えてもーー他の国なら経常赤字が増えれば、食うものを減らして輸出し、赤字を補わないといけないーー基軸通貨国だから、輪転機を回して紙幣を印刷すればよいということなんでしょうが。
 だから、九五年以降のドル高政策、「強いドル」政策といってもよいが、それが少し続いた中で、株屋たちはその延長線上で世界を描いていたわけですね。もちろん、ドルが暴落するんではないかという見解もあって、その両方の本が売れたんですね。この数年の特徴ですよ。
 だけど、基軸通貨国といえども基本的には、国力が衰えると、いつまでも他国を犠牲にしてメシを食えるわけではないということが見えたわけですね。
 二通りの可能性がある。このシステムが、一〜二年、あるいは四〜五年のうちに落ち着いて小康を保つということになるのか、あるいはそのうちにハードランディング、ドルが暴落するのか、どちらかでしょう。暴落する、あるいはドルの時代がすぐに終わると言い切れるわけではないんです。しかし、仮にそうならなくても、もはやこの夏以前の状況と以後の状況は、すっかり異なった段階にきているということですね。
 つまり、もはや米国の時代は先が見えたということですよ。したがって、世界は経済の分野、金融の分野がそうなれば、その上部構造の全世界の政治に大きな変動が起こる、そういう時期に入ったというふうに思うんですね。
 だから前に戻りますと、特徴づけを、私は単なる多極化の時代、あるいは複雑でプーチンとか胡錦濤とかというこういうプレイヤーによる、帝国主義だけでない多極化ということを昨年言いましたけれども、この一年の変化を見て、私は、米国は強国の一つに落ちたというだけでなく(また依然として強国としてはとどまるでしょうが)、没落するのが見えてきた、そういう情勢に入ったと思います。
 したがって世界は、それぞれの国が、そのおかれている条件、新しい環境の下でどう生き抜くかということですよね。もちろん、日本も例外ではないと思うんですね。
 特徴づけは、だいたいそういうふうに言えばいいのではないかと思います。
 ただ中国、毛沢東が言ったように、戦略的には敵をべっ視し戦術的には敵を重視する、こうした観点は欠かせないですよ。

大嶋 少し戻るかもしれませんが、多極化、特に軍事に関連しての話の中で、ロシアの動向に注目されているという印象を受けました。ロシア、そしてその他の国々についても、もう少しお願いします。

大隈議長 ロシアが経済が復興する、復興できたというか、それ自身は石油の価格が上がったことが幸いしていると思うんですね。ロシアは石油、それから天然ガス、それで調子が良いという評価があるんですけれども、ロシアにはそれ以外にもさまざまな企業があって、石油、天然ガス、資源のところが脚光を浴びているんですがそれ以外のところがあって、それは必ずしも十分なところではないんですよ。
 だが、今のところ、石油が価格が上がったことでロシアは強くなっているんですが、そういうことを背景にして、軍事にカネを回せるという状況ができた。
 ただ、ソ連が崩壊して、その後、ヨーロッパが東方にずっと拡大していくわけね。それから、アフガン戦争のときに、それを口実にして、米国がアフガン周辺国にずっと基地をつくったりした。そういうことで、ソ連の崩壊の後、西側がロシア周辺をずっと侵食したという面があるんですね。それに対してやはり危機感をもっている。だからそういう流れの中で、経済力がついたことによって、それに手を打てるようになったということですよね。
 今みたいにだんだん自信がついてくると、米国の勝手にはさせんというようなことでしょう。昔と同じように周辺国を支配するということはないにしても、周辺と結びつきを強めれば、ある程度緩衝地帯になるわけですから。
 しかし、だからといって再び冷戦ということではなくて、むしろ当面のところは、ロシアの安全保障というか防御的なものと言ったらいいと思うんですね。
 けれども軍事力の方面で、米国に盾突く国はなかったわけですから、そういう点でロシアはソ連時代のミサイルからみんな持ってますから。防衛的だけれども、大国の地位をきちんと守ろうとしているというか、自国の防衛といったって、それは国際政治にも当然出てくる。中東に対してだってイランに対してだって、そういう態度をね。軍事力がないとできないですね。ロシアはそういう点で、米国を恐れなくなってきたというふうに言えるんではないかと思うんですね。これがやっぱり、以降の政治に大きく響くと思います。
 中国はどういうことになるか。あの政権が以降の世界的な激動の中で、内部にかかえているさまざまな問題をクリアできるか。いまのようなテンポで成長を持続できるか。いろいろな困難があると思いますよ。
 しかし、中国だって、軍の近代化等々やってますね。軍事力の強化、熱心ですね。それから、中ロが米国の世界支配に対して一定の、つまり多極化を見据えての共同行動は、戦略的に取りやすくもなっている。
 そういう点も考慮すると、米国が軍事面で、世界でずば抜けたという面をなくしてきていることは、世界政治がもっと多極化する流れで、非常に大きな要因とみる必要があると思うんですね。

情勢の変化と日本

大嶋 そういう世界の中で、私たちが日本で活動していく上で、日本の国のおかれている状況から見て、米国に対する分析やその戦略に対する理解が第一義的であることは変わらないにしても、今までに比べてより多方面の分析や研究が必要になったという理解でよろしいでしょうか。

大隈議長 うん、これも今度の新春講演会で言おうと思って整理はしているところなんだが、要するにこうなんですね。
 世界情勢は経済も政治も含めて、一つの概念として大くくりができるんですね。それを分析し、上部構造と下部構造に分けて研究するんですね。経済も、下部構造と一つにくくれるとしても、その経済も二つ、通貨や金融と実体経済や貿易などに分けられる。そして結局、通貨問題や金融のシステムというのは、各国間の不均等発展の結果として、それに規定されながら変化するわけね。そしてその変化がまた、実体経済に反作用を及ぼすという形で進んでいる。
 さて、その各国経済の相互関係が大きく変わってきたわけね。ドルを中心にして回ってきたような世界経済が、大きく変わってきた。そこに国際政治、あるいは国際安全保障というものが条件づけられている。
 したがって、この下部構造の大きな変化が、以降の世界政治に大きな変化を引き起こす、避けがたい、これはもう常識ですね。
 さて、各国からみるとそういう世界の大きな枠組みの変化は、構造的な変化という言葉を使ってもよいですが、そういう変化は、それぞれの国、あるいはそれぞれの地域から見ると、環境なんですね。したがって、この環境にどう対応するかは、それぞれの地域ーー例えばEU(欧州連合)の地域、ユーロ域、あるいはユーロ圏、あるいはもう一回り違って、そういうユーロ圏と接触のあるロシアとかその他、そういう地域ーーは、ドルがそれなりに威信をなくして米国の経済が弱り、政治も軍事も弱ってきた下で、どう生きるか、どう対処するかは、その地域の事情に規定されているんですね。内因ですね。
 さて湾岸諸国、これもまた一つの地域ですね。だから、ドルとのペッグ制問題や二〇一〇年には共通の通貨をつくろうだとか(注5)というのは、ドルの下落がはっきりしてきた下で、それを放置して従来通りドルとお付き合いし、ペッグ制で何も手を打たないとすれば、(原油取引はドル建てなので)もうやっていけないですね。だから、従来と同じでドル建てにするのも困るわけですね。
 アジアにはそれぞれ異なった状況も見られるし、共通の状況も見られる。そういう世界の状況の中で、アジアはほぼみな、西欧とも付き合っているが、どちらかというとまだ、米国との付き合いが多いですね。貿易などは。
 つまり国際情勢を見極めることは、それぞれの地域あるいはそれぞれの国の事情に分析を加えない限り、できないですね。
 従来、どちらかというと、米国が世界情勢に大きな影響を及ぼしていたので、したがって、米国を十分分析しておけば、それぞれの国は異なった状況にあるにしても、だいたいにおいて、大きな流れはつかめたんです。しかし、政治、軍事、経済も含めて多極化して、米国の力が落ちた条件の下では、米国が方針を立てても、世界がその通りには動かない。米国自身も、相手のことを見なければならないという具合に、力が相対化してきた。
 そういう意味では、あなたがおっしゃるように、以降の世界情勢を分析・研究する場合には、より詳細にそれぞれの地域や国が置かれている条件をーーかれらの外との経済的なお付き合いも安全保障のお付き合いも、政治の流れにどういうスタンスでやっていくだろうかというような判断をするにはーー分析しなければならない。
 そして、それを分析した上で、にもかかわらず、それらをひとまとめにして、以降の世界情勢の特徴を把握しなければならんわけね。とりわけ、われわれは日本で仕事をしているわけですから、日本がそういう環境の下でどうなるか。
 例えば円高ですね。米国が従来のように大量に消費をやって、世界からものを買って、ゼニを払わんにしても回ってきたわけだが。それをあてにした日本の企業が、こうした情勢、ドル安での円高、米国経済が活気をなくする、原油や資源高という下で、どうしたらいいかという問題に直面する。
 米国だけを向いてきた経済や政治からみると、大きな試練になるわけですね。
 最近、日本は米国と付き合いながらも、米国より中国との貿易量が多くなった。中国が成長しているからなんとかなるとも。しかし、中国もその問題に当面しているんですね。そうすると、今月か来月かではないにしても、米国が落ちて、中国が落ちるということでしょう。
 産油国はどうかというと、確かにカネを持っているかもしれん。以降、米経済のいわば衰退が出てくるにしても、産油国や中国向けは大丈夫だからと、こういう意見もある。石油代金がどんどん上がるということを前提にするんだけれども、その原油は下がるかもしれない。ため込んだカネもいつの間にか、ドルが目減りすればそれも目減りすることになる。
 そういうわけで、米国の衰退、ドルの大きな変動というのは、各国の事情によってだけれども、耐え得る力も違うんですよ。
 日本は危機のときに、例えばこの一年か三年かのうちに、失業者が膨大に出てというような社会的危機が来たときに、財政で維持できるだろうかというような問題がある。借金が少ない国は耐えやすい。ところが、日本はGDP(国内総生産)から見て、先進国平均の三倍なんです。よそは、借金がGDPのだいたい半分。日本は一・五倍ですから。だから、支配層は財政再建を急いでいるんだと思いますよ。
 今言ったように、われわれが世界情勢を描くときにそういう分析は欠かせない。米国が大きな影響を与えるから、この動向さえ見ておけばよいということではないですね。
 それからもう少し近場で、例えば中国はどう耐えられるか、どうするだろうか、アジアはどうするだろうかというようなこともある。こういう分析はきちんとしないと、日本はやっていけないですね。
 もう一つ、朝鮮問題がありますね。この一年を見てもわかりますが、朝鮮が核実験をやって「オレは持っているよ」といった状況になって以降、六者協議でもーー六者協議というのはどちらかというと、米国が中東に手いっぱいで、こっちに手が回らんので六者協議で枠をはめて、それでしばらく、朝鮮が「独走」せんようにという内政干渉の組織でしょうーー朝鮮はいわば主導性、ブッシュが衰えたこともありますが、政治的な主導性をまだ保ってますよ。そして、昨一年から見ると南北、つまり朝鮮と韓国の間でかなり関係が進んでいるんですね。だから私は、こんどの大統領選挙の結果、野党候補が当選して少しは影響を受けるにしても、大勢(たいせい)は変わらないと思いますね。
 そうなると、われわれが知っている歴史の中で初めて、南北朝鮮、朝鮮と韓国の人たちが、初めて世界で、あるいは少なくともアジアで、あなどられない、一定のプレイヤーとして、そういう状況をつくったと思うんですね。以前は、朝鮮半島は周囲の大国のあるいは強国の争奪の場であった。ところが今度は、彼らは意思をもって東アジアというかここのプレイヤーとして参加する。したがってこのことも、日本は考慮しなければならない。そして、中国がどうなるかという問題もある。アジアという近場で日本が以降どう生きていくのかという問題で、もう朝鮮を無視できないと思いますね。

 だからそういう点で、例えば、岡崎久彦・元駐タイ大使が「日本の外交で大事なことは二つしかない」と言っている(注6)。米中を対立させて日本がいくらかの相対的な自由を獲得する、そしてアジアでの主導性を握る、もう一つは、米国と同盟を強めて中国に対抗するしかないと。つまり、かれは中国が大変だと、これとどう対抗していくか。これとアジアで覇権を争うためには、米中を対抗させることによって、力のバランスを取れば、日本は比較的国力が小さくても生きていけると。そうでなければ米国と手を結んで生きていけると、こう言っているんです。ですが本当は、もうそういう時代ではないですね。
 そういうことではなくて、本当にアジアに対してきちんとした戦略をもって、中国を恐れるのなら、南北朝鮮、あるいは他のアジア諸国に対しても戦後処理の問題をきちんとして、そしてそれと連携しつつ中国とも連携する。しかし、岡崎は「中国は危ない国」という前提に立っている。
 そういうことから見ても、アジア情勢は一つひとつきちんと分析する必要がある。無視できる国はないですよ。特に北東アジアという意味では、南北朝鮮と中国と日本しかないんだもの。
 ヨーロッパは強くなると思いますね。途中で言えばよかったんですが、基本条約。やっぱりヨーロッパは柔軟で、問題を一つひとつクリアしている。もうあそこは二十七カ国・約五億人ですよ。しかも、EUの中心的な国は周辺への指導権というか、周辺の銀行なんかをほとんど握っていますから。
 そういう点からみれば、アジアは非常にバラバラ。だから、アジアはとっても難しい地域ですね。米国も参入していますから。今後は米国も後退せざるを得ないでしょうがね。
 非常に一般論だけれども、そういう世界情勢、しかも多極化した世界を見るのなら、それぞれの地域や国の中をよく分析してーーかれらはそこに規定されて、外に対して一定の動きをするわけですからーーわれわれもそうしなければならないわけでしょう。
 日本は資源なしでしょ。それから自国の市場は狭いんですよ。しかも自分の市場の国内も、皆を貧乏させているから、そして多国籍企業なんていうのは、当面日本では商売にならんので、世界でメシを食うといってやっているわけでしょう。だから、当然、今のような多国籍企業主導では日本は生きられない。
 政権の軸を国民の大多数のところに動かして、労働者階級が指導性をもった国でなければやっていけない。そう思いますね。

野党の状況について

大嶋 国際情勢の見方、見る上でどうしなければいけないかというお話から、それと関連づけての日本の問題、外交や内政での一般的な環境あるいは条件について、お話がいろいろ及んだと思うんです。破局が迫っている情勢を考えますと、どう闘うのかの問題と、特に野党問題についてお伺いしたいのですが、どうお考えでしょうか。

大隈議長 結論は新春講演会で、と思いますが、どういうふうに考えるかということで話しましょう。
 いずれにしても、今までと異なった世界情勢ですね。日本では、「米国は弱らない」と思ってやってきた面があるんですね。しかし、それがおおかた先が見えた。経済もそうですが、政治もまた米国が世界政治をリードできるわけではないですから、いつも米国の言うようにしておけばいいということではなくなって、自分で考えなければならないですね。そういうところにきている。
 それは保守はもちろん、野党を含む日本の政治家全体が、そういう状況に立ち至って、考えなければならないところにきている。
 大激動ーー少し幅をもたせて、今までとは格段に違って、日本が試練にさらされるような情勢と言っておきたいんですがーー何か抽象的にガラガラっというようなことではないですが、しかし、そういう時代に入ったわけですね。
 そこで、私は日本の政治を考えるときに、特に野党、あるいは労働運動などを考えるときにですね、戦後六十数年やってきた政治をきっちりと振り返りながら、以降の問題、あるいは野党の問題も考えねばならんと思うんですよ。
 例えば、戦後、選挙を何十回とやってきたわけだ。労働組合は一生懸命、活動家たちも「今度は変わるよ」「がんばらなくては」とやってきたわけです。労働運動への影響では、社会党がいちばん大きかったわけです。ですが、かれらの言う通りに全然ならないわけですよ。そして、自民党の単独支配が崩れた九三年の選挙のとき、ある意味でチャンスだったんですよ。だけど、あのときに社会党は大負けしたんです。それで連立政権の時代に入って、細川政権に入り、そして羽田政権を経て、今度は村山政権で自民党と手を組んだ。まあ、さんざんでしょう。そして今どうにもならんところにきたわけだ。そして今度も民主党の後ろにくっつくか、なんてやっている。
 したがって、まず労働組合に言わなければならんことは、選挙で何十年もやってきて展望がありますか、ということですよ。
 これは共産党も同じです。あれは多いときは三十何人かの議員がいた。三十九人かな。だけど、復活しないわね。そして、相変わらず「今度の選挙は…」とか、いろいろ言っている。
 要するに、選挙をやって展望はないわけですから、もう一回考え直してみるべきですね。考えたがらない人に考えろというのは酷かもしれんが…。けれど、異常ですね。

大嶋 (笑)

大隈議長 選挙ではどうにもならなかったが、ときに少しだけ情勢が動いた時期というのは、あったんですよ。戦後しばらくの時にはね、例の二・一ゼネストを打つというとき、米軍が出てきて止めざるを得なかったんです、これはね。吉田首相の時ですね。
 向こうはどうにもならなかったから、武力で抑えたんですよ。「民主主義」とかなんだとか言うけど、武力で抑えたんです。
 それと、もうちょっと後ですか、東宝争議(注7)とか、いろんなのがありましたよ。そういうときは政府はあわてたんですよ。
 それから、六〇年の安保闘争ね。これは皆が街頭で騒いだからだけではないですよ。三池闘争があった。あそこへ全国の労働組合が応援に行くなど、労働者が動いたからですよね。それで政治が動いた。あれは岸内閣が倒れたですね、そういうことですね。
 ごく近場では、九五年ですか、沖縄の少女暴行事件をきっかけにした闘いね。国の政治が動くときは、そういうことでしょう。
 議会で議席が少し増えて、国が揺れたことはないですよ。これは現実ですから。議会主義の野党に「選挙に出るな」とは言わん、国会議員になりたくもあろうし、上がったほうがよい、それはね。けれど、やはり時代を本当に揺り動かそうとするとき、そういう大衆を動員してやることが、本当には社会と国を揺さぶる力だということ。
 世の中を変えようとするなら、そういう意志のある政党や政治家なら、本当に揺さぶるつもりなら、戦後の歴史から見ても、労働運動なり国民運動なりとね、これと結合して揺さぶってこそ意味がある。
 国会議員は、国が生活を保障して、交通費も出して、議会内でおとなしく、少しばかり発言し、テレビに出して、言うならば、クソの役にも立たないが目立つ存在。ですから、それでいて外の労働組合とか国民運動にかかわりないなら、それこそ支配層にとっては、世の中が乱れないという意味で、国費を使って養う「価値」はあるでしょうけれど。
 もし運動と結びつけば、国会議員は議員でない者より、大きな役割を演じられるんですよ。名を残すならそうしたらどうか、と私は思う。

 さて、もう少し野党批判をやりますとね。いま、共産党も展望ないでしょう、これは。社民党ももはやどうにもならん。
 この間、地方の社民党の古手の人と話す機会があった。「あなた、なんで民主党と地盤を分け合って『すみ分け』するんじゃ?」と聞いた。
 私は、たとえ少数派党であっても、明確に対立して、民主党をたたいてやらんと、大衆から見て区別つかんのだから、と言ってやりたかった。ところがね、彼は「そこがあなたとの違いだな」とこう言った。
 「議会政党は議員がいなくなるとおしまいなんだ」と。「一人でも二人でも残っておらんと」ということらしい。だから今度の選挙ですみ分けして、いくつかの小選挙区で(民主党に)協力してもらって、他ではみな、民主を支持してでも「何人かが残ることが重要なんだ」と、こう言っていた。
 「きちんとした対抗軸でいかないと、長期の意味で、戦略的には、社民党はダメにならないか」と、私は思ったが。
 社会党が九三年の総選挙で負けたとき、社会党には戦略的指導者がいなかった。あのとき政権に入ってしまったことで、こんにちに至った。ーーというのは「反自民」で何十年とやってきたから、自民党と違う細川政権ができたときにこれに「反対」とは言いにくい。これはしょうがないとーーだけど是々非々でやる。そして、次の総選挙で増やす以外に道がないわけだから。政権の中に入ると、入った議員が大臣になると、それ以降は続けようとしてですね、あれこれ妥協すると。だから、山花は小選挙区制を採択するときの責任者にされた(注8)わけだ。そして、その小選挙区制の結果として、社民党はいっそう小さくなった。
 大臣になったやつは、その大臣を続けたいからーーいまの公明党の国会議員も同じで創価学会員をダマしているーーきちんとそうすべきだと。
 「今回も、二大政党制を打ち破らないとやれんのに。二大政党制の下では社民党はいらないということよ」とね。したがって、今度、戦術的に選挙に不利になるかならないかの問題はあるにしても、まず、二大政党制に対抗して民主党をたたいてやらないと、二大政党制に追随していくと、先々滅びると。かれは「そうかもしらんけれど、とにかく生き残らないと政党は滅びる」。「生き残っても滅びるではないか」と、オレは言うわけだ。まあ、そういう議論をして、「そこが違うんだな」と言っていた。
 社民党は、二大政党制を打ち破ろうとするのか、二大政党制を認めてそこに潜り込むか、じり貧で結局滅びるのか、という状況になっている。展望は全くない。
 本当に転機をつくろうとするなら、いっそのこと党を解体し、新しく大きな勢力を結集して党をつくったらどうか、これを私は、社民党の皆さんに勧めている。
 いずれにしても、われわれから見て、国民運動を進めつつ、議会内でも闘えるような政党があれば、それはそれで全体的な発展にとって有利なので、そういう提唱もし、そういう道をとる政党が出現するか、めざす動きが始まれば、われわれも力を貸そうと言っている。
 しかし、われわれはその人びとに代われない。かれらが望まないのなら、それはしょうがない。
 ただ、それがどうなってもわが党は、自分の党を強め、強大な党を築いてゆく。この方針は確固としており、これは変わらない。

 それから、共産党はもうどうにもならないところまできてね。情勢分析だって、見ていてあれらは展望がなくなっているんですね。したがってわれわれは、労働者階級に対して、あの党を暴露して闘うということでしょうか。

 いずれにしても、この時期に野党に対してどういう批判をするかというのは、こまごまとしたいろんな問題はあるんだけれども、とりあえずは歴史を踏まえて、きちんと考える時期にきている。労働者階級、労働組合、日本の進歩を願う人たちはそろそろそういう問題をきちんとすべきではないでしょうか、ということでしょうかね。労働運動を革命的になんとかと言ってみたところで、結局のところ、選挙で世の中が変わるという幻想をもつのは、革命的労働運動ではないですよ。変わらないですから。

 ところでもう一つ。労働運動の中で「闘うぞ」「闘うぞ」という連中がおる。そしてかれらは、具体的には社民党を支持してみたり、憲法九条改悪反対の運動をやっている。「闘うぞ」とポーズを取っていますけど、あれは革命的な労働運動でも何でもないですよ。急進主義的、小ブルジョア的な、あるいは社民左派的な、いや、それよりもっと悪い。全国単一の革命勢力の結集もせず、政党もつくらず、それに反対しているんですから。

大嶋 そうですね。党づくりに反対してますね。

大隈議長 連中は党づくりに反対する。そして「民主集中制はいけない」だと。だから、ああいう連中には、冗談めかして「あんた方には悪いが、わが労働党は軍隊のような組織をつくりたい」と言ってる。まあ、そういうことでしょう。
 この時期にわが党としては、確固として自分の道を進むと。そして、党を強め、政治的な統一戦線、自主・平和・民主のための広範な国民連合を支持し発展させる。それから、いろんな政治家がもし議会でやるだけでなく、議会の外でも闘うという人がいれば、われわれは広い連携をつくる。そして、そういう力が日本の運動の中でだんだんに登場しなければ、この局面では闘えないと思う。
 具体的には、新春講演会でもう少しお話ししたいと思います。

グリーンスパンの回想録など最近の書籍や雑誌、読んでの雑感

大嶋 岡崎が出ましたが、そのほか、気になった見解はどうですか。

大隈議長 昨年は、株屋の本が二冊ね(注9)。それから、グリーンスパン・前米連邦準備理事会(FRB)議長が本を出したし(注10)、かれら皆、明日のことがわからないんです。それだけ時代が速い、ということもあるでしょう。かれらには、きちんとした歴史観もない。
 こういうことですね。例えば、サブプライムローン問題で、いろんな経済学者が解説する記事が載ったですね。それは、サブプライムローンとはどういうものかという説明ね。それから、なぜああいうことになったかという説明でも、「もう少しこうすればよかった」「ああすればよかった」ということなんです。
 それと、日本の行天豊雄・元大蔵省財務官と竹森俊平・慶応大教授が「中央公論」の十月号に書いた。グリーンスパンは本も出しましたし、その前はインタビューが新聞に(注11)。というのは、グリーンスパンは在任当時、どんどん金利を下げてバブルをつくったと。逆に言うと、サブプライムローンのように返せない人にまで貸して家を造らせた、と非難されたから。だから反発もしたのでしょう。「オレのせいではない」と言ってね。
 私は、グリーンスパンを評価するわけではない。ただね、行天にしてもグリーンスパンにしても、ほかの偉い学者よりずっと偉いと思ったのは、こう言っている。サブプライムローンのあれこれの細かい説明はあまりしないで、要するに九五年以降、資本主義世界はもうゼニ余りでどうにもならなくなったと。そういうことの中で起こったと。したがって、それを情報公開とか規制とか言うけれども、規制してどうにかなるものじゃないと、グリーンスパンは言っているんですよ。二〇〇〇年にIT(情報技術)バブルが崩壊して以降、不景気になって、世界的な経済の調整期がきて、つまり米国のITバブルが吹っ飛んだから。それ以降どうするかというのは、金利を緩めてやる以外に道はなかった、「そうやったまで」と。そうしなければ、米国経済と世界経済がどうなったか。「オレはまっとうなことをやった」と言っているわけですよ。
 それでいま、この問題が起こって、規制しろとか言うけれども、こうしてカネ余りでどうにもならない世界になったので、そのためにヘッジファンドもあらわれたよ、と。つまり、通貨のレートが明日をも知れず変動していたら商売にならないわけだから。そういうのをある意味で保障する、安定させる。そういう意味でヘッジファンドが出てきた、と。それから、投資する場所がない人に投資する先を見つけてやるようなことをやることによって、世界は保たれてきた、と。したがって、もうそういう世界なんだから、「こういうことは避けがたい」「また起こる」。そして、いつ起こるかということだって「誰にもわからん」と。こう言っているんですよ。
 かれが言おうとしたのは、世界のカネ余りということの中でこの種のこと、つまりそこまで資本主義がきているんだということを言っている。行天も、そこをきちんと言って、これはサブプライムローンの問題ではなくて、カネが余ってしょうがないことの問題だ、と言った。だから、他のあれこれ説を唱える人から見ると、はるかに本質を突いているんです。
 しかし、本質を突いているといってもね。さまざま解説しているのより少し深いけれども、古代ギリシアの哲学者、アリストテレスの話を思い出すとね。アリストテレスは「本当の知識というのは」と例をあげて、火が熱いというのは誰でも知っている。しかし、なぜ火は熱いのかということになると、知らないと。つまりいろいろな現象がもう少し深いところで、それが必然であったという、つまりその現象があらわれる理由、原因ね、そこまで深めて初めて、良質の知識といえる、とこう言った。何千年前の哲学者がそう言っているんですよ。だから、人間はあまり知恵がついていないんでしょうか。
 グリーンスパンや行天は、資本主義社会のカネ余りがどうにもならないところまできている、資本主義の生産様式その経済がここまでずっと発展してきた、とは言っているんだけど、それと結びつけてこの意味、どうしたらよいのかということについて言うと、アリストテレスの言う「真の知識」ではないんですね。
 それはね、グリーンスパンや行天が頭が悪いからではないんです。かれらは資本主義がもうどうにもならないところまできた、とは言えない。資本主義以外の、例えば社会主義というものがそれに代わるものだというようなことは、かれらは信じられない。なぜかというと、かれらは市場経済、この経済だけがもっともすぐれた経済の仕組みだと思っているから。だからそういう意味で、ある意味で階級のおかれている状況でしょうか。
 かれらの思考は、資本主義の枠を超えられない。歴史から言うと、資本主義というのはほんの何百年で、それ以前にはるかな時代がある。したがってこの資本主義にも終末があって別のところに、というのは考えていいわけで。マルクスはそう言ったわけだ。しかし資本家たちは、世の中はこれまでずいぶんと発展してきて、いろんな変遷があって、ついに行き着いた生産様式だと思っているのね。
 それはかれらがその仕組み、あるいは自分たちの利益に執着して目がくらんでいるわけでしてね。対して、労働者階級は頭がよいわけではないんですよ。この世の中が続くと困るので、この世の中に執着するわけはないんですよ。おかれている立場から見て、必然、いわば労働者階級の歴史的任務ということでしょうかね。
 いろんな本を読んだけど、あれらは皆、一寸先は見えないんです。だから達観できるというのは、私欲で世の中を見ないことができるかどうかだね。毛沢東が「私心をなくさないと、客観的にものは見えない」と言った。佐賀県の言葉にもあるんです、「葉隠(はがくれ)」。良い思案というのは、私をなくさないとできんのだ、とこう言った。つまり、利害にとらわれると、どうしても誤ると。
 われわれはこの資本主義の「利」にとらわれているわけではなく、「害」にとらわれているから。「クソ食らえ」ということだから。この資本主義に末路があってもよいわけですよ。
 世の中は非常に複雑なんだけれども、私は近頃、複雑に変わっていく世の中に法則性、一般法則というのがあるということを、いっそう信じるようになったなぁ。グリーンスパンなどは「信じない」と、「世の中に法則性なんていうのはありはせん」と。だって、「世の中は投資家たちの心理で動くんだ」と言って、こう言っているでしょう。
 かれは、こう言っているんですね。一定の株、その株式市場がありですね、企業が大きく借金をしており、国家が借金をしている、これこそですね、カネを動かす人たちの富の源泉だ、と言っているんです(注12)。というのは、そのことによってーーかれらは仲介業でしょうーー銀行は困った企業があれば、手形一つでも銀行が保証するということが可能になる。国家の財政赤字があるとですね、国家は借用書を書いて国債を発行する。そうすると、銀行はそれを手に入れて売りさばく。つまり、投資家と借金を負った人との間の仲介業をやることで手数料を取る。信用のない人には銀行が裏づけをやることによって、あるいはサブプライムローンの契約書をごっそり集めて、それをもういっぺん証券化するというような、いろんな仕事ができるというわけです。
 そして、投資家たちがそれらのさまざまな証券、投資対象の資産でもうかると思えば、その資産は値打ちが上がる。あるとき、資産が「明日ゼロになる」と思えば、資産の価値が下がる。信用が膨張して平常に動いている間は、その資産が現金同様に機能すると言うんですよ。そして、それで自動車も買えれば、いろんなものを買えると。
 そうすると、経済を支えているのは、投資家たちがそれぞれの証券にどう期待をもっているか、もうかると思うかもうからないと思うかで、世界の富が膨大になったり縮小したりする、と。つまり、かれらは現実の経済の富の大きい小さいは投資家たちの心理にかかっていると思っている。ここでは、完全にひっくり返っている。観念論でしょう。
 では、投資家たちがなぜ不安に思ったり、なぜ熱狂するのかというと、それは客観世界にあるわけでしょう。つまり、投資家の心理は物質に規定されているんですよ。しかしグリーンスパンは、客観の富などというのはしょせん幻想にすぎず、投資家の心理が決定している、とこう言っている。仮の姿と見ているんだね。生身の、何億の人たちがそれでメシを食い、せっせと働いているこの世界を、投資家の心理状態に規定されていると見ている。
 私は反対に、投資家の心理は客観世界の物資に規定されていると思う。株屋の仕事をしているとああなると思うんですよ。そして、その限りでそれは事実だから。だから、唯物論か観念論という問題は、いまだに世界の状況を説明するときに、世界の基本的な観点として存在する。そして、かれらは法則など信じない、とこう言った。それは史的唯物論が登場したときに、例えば、「歴史をつくるのは英雄」と言うか、生産様式から説明するかというこの違いですね。
 例えば、徳川家康や豊臣秀吉がどういう政策をとったかというときに、なぜその時期にやったか、あるいはもう五百年前にその考えがなぜ生まれず、あの時期に生まれたのかというようなことですね。マルクスがあれほど頭が良くても、あと百年前に生まれたらマルクス主義はないわけですよ。そうでしょう。つまり、資本主義がある程度の生産様式となり、資本家と労働者が同時に成長してきたわけですよね。それで闘争して、その闘争が、ある程度まで資本主義社会の矛盾を暴露する時代になって初めて、マルクスという人がそれを分析する必要さに迫られたり、可能になったんですね、これは。
 マルクスは英国にあらわれなかったんですよ。フランスにもあらわれなくて、ドイツにあらわれた。それは、資本主義が発展してきて、ドイツが革命の時代に入っていたということですね。しかも、ドイツの場合には、労働者階級がある程度一つの勢力として、封建的な社会と対立していた。一大勢力になっていたわけですよね。だから、その運動、その革命情勢と結びついて、マルクス主義は登場しやすかったんですよ。つまり、ドイツの政治制度は古いけれども、資本主義的生産様式がある程度進んできた中で革命の時代になったわけですよ。もう独立した階級になっていたわけ、労働者が。
 それから、そういうマルクス主義が初めて歴史を科学的に分析する方法を見つけたわけですよ。それ以前は歴史をどう説明するかというと、あるアイデア、ある英雄があらわれたことによって、そういう政治が行われるようになったという考えね。中国を統一した秦の始皇帝とかだって、社会の必要さがあらわれて、初めてある人物があらわれる。歴史が英雄をつくるか、英雄が歴史をつくるかという、この問題ですよね。そこでマルクスのときを境にして、ちょうどそれ以前の考え方をひっくり返した。しかし、いま考えてひっくり返ったわけであってね、支配的なものになるには歴史が必要で、実践が必要だったわけです。しかしこの闘争は終わっていないんですよ。そんなところかな。

大嶋 長い時間、ありがとうございました。新春講演会も楽しみです。

【編集部注】
(注1)ミサイル防衛(MD)システムをめぐり、米ロで情報を共有管理する施設をモスクワに設置、迎撃ミサイル部品も北大西洋条約(NATO)とロシアで共同開発するなどの合意案。
(注2)90年に締結された条約で、欧州地域での戦車などの保有上限数を定めたもの。ロシア政府は07年12月、同条約の履行を停止。ロシア、カザフスタン、ウズベキスタンなど旧ソ連7カ国で組織する集団安全保障条約機構(CSTO)が10月、域外への派遣も想定した「平和維持部隊」を創設することを決めた。
(注3)推定8750億ドルもの資産を持つとされる、世界最大級の政府系ファンド(SWF)であるアブダビ投資庁が11月、米シティグループに75億ドルの出資を決めた。UBSには、シンガポールと中東のSWFが出資。
(注4)ソ連科学アカデミー世界経済・国際関係研究所編「資本主義の全般的危機の深化」による。「フランスの『バンク・ド・パリ・エ・ド・ペイバ』頭取は、英国の『タイムス』紙とのインタビューで、『アラブ資本は、われわれがそれによって植民地化される用意がなければ、期待される5000億ドル全部をヨーロッパに投資することはないだろう』と、言明した」
(注5)アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行総裁は11月、ドルへのペッグ制を廃止して通貨バスケットに連動させるよう呼びかけた。湾岸協力会議(GCC)諸国は、共通通貨・湾岸ディナールを2010年に導入することを検討し始めている。
(注6)「読売新聞」12月16日付。
(注7)1948年、映画会社・東宝における、1200人の解雇計画に対するストライキ闘争。スト現場を戦車が取り囲むなど米軍が露骨に介入、「来なかったのは軍艦だけ」とまで言われた。
(注8)93年、細川政権において、山花貞夫・社会党委員長は「政治改革担当相」に就任、小選挙区比例代表並立制案の策定責任者となった。
(注9)「新帝国主義論」武者陵司・著(東洋経済新報社)、「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」水野和夫・著(日本経済新聞出版社)。武者氏はドイツ証券東京支店副会長、水野氏は三菱UFJ証券チーフエコノミスト。
(注10)「波乱の時代」アラン・グリーンスパン・著(日本経済新聞出版社)
(注11)「日本経済新聞」9月29日付インタビュー。
(注12)「株式の市場価値と、非金融企業と政府の負債は、銀行などの金融機関の負債創出の源泉であった。こうした金融仲介のプロセスこそが、過去四半世紀に金融市場に流動性を潤沢に供給してきた主な要因である」(「波乱の時代」第25章)。


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