2007年11月25日号 2面 社説 

福田首相が米・アジアを訪問

対米従属ではアジアと
共生できない

 福田首相は、十一月十六日、就任後初めての外国訪問で、ブッシュ米大統領との首脳会談を行った。
 国会開会中のこの時期の訪米は、十九日からのシンガポールでの一連の東南アジア諸国会議(ASEAN)関連の首脳会議、中韓両国の首脳会談などの前に、ブッシュ大統領と協議を行い、日本の対アジア外交について「お墨付き」を得て、福田首相の「強固な日米同盟とアジア外交を共鳴させる」という外交理念をアピールしようというものだった。
 それは、「戦後レジームからの脱却」「主張する外交」を掲げた安倍前政権が、対米関係で行き詰まって政権を投げ出した後の日米関係を修復するためでもあった。

日米関係の深刻さ印象づけた会談
 福田首相は共同会見で、米国をわが国の「唯一の同盟国」とし、日米同盟が「両国がグローバルな諸課題に対処していく上でも、アジア外交を展開する上でも極めて重要な基礎となっている」などとうたいあげた。そして、「日米同盟とアジア外交との共鳴(シナジー)」などと言い、アジアにおいて米国のお先棒担ぎを行うことをあらためて宣言した。
 個別の課題では、朝鮮問題、アフガニスタン問題、海上自衛隊によるインド洋での米軍への補給活動、ミャンマー問題、イランの核開発問題、洞爺湖サミット、牛肉輸入規制の問題などを話し合ったという。
 だが、両首脳が「強固な日米同盟」をうたったわりには、福田首相の滞在時間は二十六時間という短時間で、たった一時間の首脳会談と四十五分の昼食会が行なわれただけだった。ブッシュが、先に訪米したサルコジ仏大統領とは六時間、メルケル独首相とは八時間も話し合い、米欧関係「修復」を印象づけたのとは対照的である。
 しかも、質疑応答抜きの簡単な共同会見に見られるように、首脳会談の詳細は明らかにされなかった。
 こうした異例ともいえる結果に、わが国マスコミも「日米関係の秋」(日経新聞)、「つれない米国、『イラン核優先』」(毎日新聞)などと評したほどである。
 いかにも中途半端な首脳会談ともいえるが、それはまた、日米両国がかかえている困難の深刻さのあらわれともいえる。
 民主党との「大連立」が破談になり、新テロ特措法成立のメドがたたない日本側、中東での行き詰まりで余裕を失って朝鮮政策を転換し、朝鮮の「テロ支援国」指定解除を検討している米国側、それぞれの事情があった。
 それにしても、日米同盟を基礎とすることをあらためて確認し、対米従属の下での対アジア外交をはじめ、世界的な諸問題に対処することを再確認した。朝鮮問題でも、福田首相は米テレビ局の取材で、「核兵器を放棄しなければ、(朝鮮は)生き残りはできない」と述べた。敵視の基本は変わらない。これらは、わが国の自主性を損ない、重荷をいっそう背負わされることとなったことを意味している。
 衰退する米帝国主義に追随し、これを支えて、全世界諸国・人民の反米・反帝闘争の高まりを抑え付けることを宣言した、時代錯誤の売国外交にほかならない。

日米関係に縛られる対アジア外交
 さて、日米首脳会談直後の十九日から、シンガポールで東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、日中韓首脳会談などが行われた。
 創設四十周年をむかえたASEANは、二十日の首脳会議で、二〇一五年までの「共同体」構築に向け、基本法となる「ASEAN憲章」に合意、加盟十カ国が調印した。ASEANは法的根拠をもつ地域機構となって、地域統合を加速化させようとしている。
 「アジア重視」を掲げ、米国では「共鳴」と言った福田政権であるが、対米従属の足かせが、このASEANをはじめアジア諸国との関係を縛り、めぼしい外向成果は得られなかった。せいぜい、歴史問題などの懸案にフタをしたまま、日中韓首脳会談の「持ち回り開催」が合意された程度である。
 安倍前政権のとき日本が提唱した米国抜きの「東アジア共同体構想」は、ブッシュ大統領を激怒させてとん挫した。アジアは米国にとっても死活にかかわる「工場」、市場であり、日本独自の構想など許さない。わが国支配層は、東アジア経済協議体(EAEC)構想、アジア基金(宮沢構想)と度重なる挫折を経験しながら、いまだに「米国抜き」での対アジア関係に踏み出せないのである。
 この結果、ASEAN諸国との関係強化においては、中国、韓国と比較しても、日本は周回遅れの状況にとどまっている。日朝関係はその典型で、朝鮮半島では南北首脳会談で和解と交流へ向けた動きが着々と進んでいるというのに、完全に孤立したままである。
 対米従属から脱却しない限り、真のアジアの共生など実現できないのである。

内外ともに行き詰まる福田政権
 だが、国内の論調は、日米同盟関係の「困難」に対して、「磐石な『同盟』を維持しなくては」(読売新聞)などと、あくまでも日米同盟の強化のため、米軍再編など個別課題も着実に解決せよと、叫んでいる。支配層の大方は、対米従属の下で、多国籍大企業の覇権的な利益追求の政治を求めているのである。
 だから福田首相は、ブッシュに対し、懸案のインド洋での補給活動再開を約束した。だが、その約束が果たせるのか、果たそうとすれば議会政局は流動化せざるを得ない。
 拉致問題を口にし続ければ、六者協議での孤立から抜け出せない。小泉政権以来、さんざん朝鮮敵視をあおってきたツケであるが、柔軟姿勢に転じることも容易ではない。
 すでに述べたように、対アジア外交でもめぼしい成果はなかった。
 このような具合で、福田政権がおかれている状況は安倍政権末期と大きな変化はなく、日米同盟にしがみつくかぎり、荷は重い。
 さらにサブプライムローン問題を契機とした全世界的な金融不安、実体経済への波及が、ヒタヒタとのしかかってきている。財政再建の問題もある。福田政権は、内外ともに「崖っぷち」なのである。

日米同盟を批判できぬ野党
 野党・民主党は、今回の日米首脳会談について、「実質的な内容に乏しい表面的、儀礼的な会談」(鳩山幹事長談話)と評するのみである。個別課題でいくらかの違いはあるが、「強固で対等な日米関係の構築をめざす」という点で、福田政権とまったく同じである。財界のもくろむ保守二大政党制の一方の装置である民主党は、またも、国の基本的な政策で与党との間に対抗軸を立てられないことを自己暴露した。
 共産党はどうか。この党は、インド洋での補給活動や米軍再編など、福田首相の米国への「貢献」を批判している。しかし、それだけである。志位委員長の談話(十七日)では、日米両政府の抱える困難について一つとして暴露していない。
 これでは、評価が一面的というだけでなく、労働者をはじめとする国民諸階層に、闘いの展望を指し示すことはできない。

対米従属を精算しアジアと共生を
 このように、民主党はじめ共産党まで、日米関係の根本的な転換を提起していない。
 そうした中、「自主・民主・平和のための広範な国民連合」が、福岡で全国総会を開催した。
 その中で、「対米従属の政治・軍事大国化に反対し、対米従属からの脱却、アジアの共生へ日本の進路を転換しよう。特に、日朝国交正常化の即時無条件実現、米軍再編反対・米軍基地撤去を要求して闘う」、そのために国民各層の共同行動を組織して闘おうと呼びかけた。わが党は、この闘いを断固として支持し、その発展のために全力をあげる。
 対米従属外交を打ち破り、わが国の進路を根本的に転換させなければならない。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2007