2007年11月15日号 2面 社説 

国会劇場のベールはがした
「大連立」騒動
 (1)
 「大連立」をめぐる騒動は、ふだんは厚いベールに覆われ、国民の目からは隠されている国会劇場の舞台裏を垣間見る機会となった。
 小沢民主党が、田舎芝居で「神話」を失墜させ、財界のための「二大政党制の一方の装置」としての馬脚をあらわして、幻想がはげ落ちたことは大変けっこうなことである。また、「密室談合」などと金切り声を上げ、「民意を守れ」と民主党を批判する共産党など議会信奉者の欺まん的な役割と無力さも明らかとなった。
 最も重要なことは、現実の政治が選挙で選ばれた議員による国会審議の場ではなく、「密室」で行われていることが白日の下にさらされたことである。
 この騒動は、対米従属の多国籍大企業を中心とする財界、支配層が置かれている深刻な困難、危機感を反映したものである。議会制民主主義では、もはや労働者階級と人民を欺まんすることが難しくなったことを暴露した。
 先進的労働者階級はこうした情勢の到来を洞察し、選挙の道ではなく、直接民主主義、断固たる闘争こそ唯一の現実的な政治転換の道であることを確信し、その準備を急がなくてはならない。

 (2)
 「大連立」が模索された党首会談は、「あうんの呼吸」と福田が語ったように、双方にその必要があった。
 福田首相は、行き詰まって安倍が投げ出した最悪ともいうべき内外環境、増大した困難をそのまま引き継いで登場したが、それゆえに小沢との党首会談を必要とした。福田政権は小泉、安倍政権同様、多国籍化したわが国大企業の走狗(そうく)という性格に違いはなく、軍事を含む国際的発言力の強化と財政再建が課題である。しかも、衆参「ねじれ国会」という、かつてない困難な政権運営に直面した。
 福田政権は、いかに国際的発言力を強めるのか、容易でない外交、安保課題が突きつけられた。なかでも、インド洋での海上自衛隊の給油活動には、米国から公然隠然の圧力が強まっていた。また、経済危機に備える消費税増税や法人税引き下げなど税財政問題も喫緊の課題となった。
 だが、民主党は解散総選挙を見据えて「対決姿勢」を強め、一本も法案が成立しない状況となった。財界の危機感は募り、自民、民主の両党に「妥協」のための圧力をかけたのは当然である。福田は首相に就任するとすぐに人を介して小沢と「水面下」で協議を始めた。
 他方、小沢の側にも必要さがあった。参院第一党になったものの、解散総選挙で自民党を破り、政権交代するのは容易でない。負ければ政権にありつけず、選挙民の支持を失うだけでなく、何よりも財界の支持を失う。これは、二大政党制を唱えて十数年来追求してきた小沢にとって受け入れがたい事態であろう。だから小沢も、選挙直後から「自民から連立を持ちかけられれば」と準備し、「二カ月前にさる人から呼び出しを受け、お国のために大連立を」という要請を受け入れた。
 こうして党首会談が実現した。いったん「大連立」で合意したものの、民主党執行部の了解を取り付けることができず、不調に終わった。
 この事件は、実際の政治が、まさに「密室談合」で進められ、財界の利害を実現するための政治であることを明け透けに物語った。どの政党、政治家も、いずれかの階級の政治的代理人にすぎず、小沢も階級的利害に忠実だった。彼の使命は、「お国のために」、すなわち多国籍大企業が支配する国家のために尽くすことであった。「お国のために」は小沢や鳩山だけではない。一九九八年の金融危機の際に、当時の民主党代表菅直人は問題を「政局にしない」と表明、自民党政権に協力し、血税を投入し大銀行を助けた。
 「この二カ月間、一本も法律が通っていない日本の政治を考え、小沢代表が政治家として責任を感じて解決策に乗り出した」という日本経団連・御手洗会長の発言こそ、真実を突いている。

 (3)
 この騒動は、国民をだますのに長期にわたって有用であった議会制民主主義が、効用を失いつつあることを示す画期的事件である。
 共産党が「国権の最高機関」などと神聖視する国会、「議会制民主主義」だが、こんにちのように最初からあったものではなく、あらゆる事物と同じで、ある時期に一定の条件下で成立したのである。
 戦後直後の一時期、労働運動は攻勢に立ち、敵側は守勢だった。かろうじて、米軍の直接支配によって体制は維持された。新憲法下で国会が始まるが、二・一ゼネストに象徴される労働運動の大攻勢などで、議会制での政治支配は安定しなかった。階級闘争は、議会制民主主義のベールに覆われることなく、労働運動の側も時に「法の枠」を超えてでも断固として闘い、敵側も米軍の戦車まで動員し、直接の「占領軍命令」、その後も法に基づかない「政令」など非合法の弾圧を繰り返した。敵は労働運動にレッドパージなど大弾圧と指導部の買収・分裂で階級協調派を育てる等々の攻撃を加え、労働運動は合法主義の枠内に体制内化し、議会から共産主義者は排除された。日和見主義、議会主義が労働運動を支配した。
 再び階級闘争の激化を恐れた支配層では、まず財界が統合し、保守政治勢力も合同し、こんにちの自民党がつくられ、議会内で単独政権を成立させた。これが、いうところの「五五年体制」の自民党単独政権時代の始まりである。ここに初めて、敵の側は議会制での比較的安定した政治支配体制の構築に成功したのである。
 宮本顕治、不破哲三、そして志位とこんにちまで続く共産党裏切り者指導部は、激しい嵐のような階級闘争を恐れ、弾圧を恐れ、敵に屈して法の枠内での闘争、議会主義に転落した。荒々しい階級闘争を、議会のおしゃべりに取って代えるために、「ストライキ万能論反対」などと言って労働運動と国民運動の発展を一貫して妨害し、現実の闘いを選挙闘争に押し込んだ。わが国支配階級は、裏切り者共産党の助けを借りて、労働運動を法の枠内、議会制民主主義の枠内に抑え込むことに成功した。

 (4)
 五五年体制下で自民党は、経済成長を背景に都市と農村の中間階級を「利益分配政策」で獲得し長期単独政権を維持した。それでも選挙のたびに支持が減る中で、首相の首のすげ替え(「振り子」理論)、自民党隠しの無所属立候補、新自由クラブのような新党づくり、民社党や公明党を引き込む「部分連合」等々、自民党政権を維持するために実にさまざまな術策も弄(ろう)した。
 それでも自民党単独政権は、八〇年代後半、ついに重大な困難に直面した。自民党への支持は急速に離れ、絶対支持率は二割にまで落ち込んだ。こうして九三年の総選挙を経て自民党単独支配の時代は終わった。
 にもかかわらず自民党支配が今も続くのは、議会での新たな「術策」によるものである。選挙民の投票での意思とは遠くかけ離れた政権を「連立」でつくり上げたが、これは政治的「詐欺」にほかならない。「非自民」連立の細川政権、自民党が「密室で」社会党を引き込んだ村山「自社さ」連立政権、その後の自自公、自公連立政権など、「保守党と中間政党との連立」という術策である。われわれはこれを「策略型政治」と暴露してきた。
 また、政治改革と称して、大政党に圧倒的に有利な小選挙区制が導入された。選挙制度は、何度も改悪され、資金力のある政党しか候補者を立てられず、影響の大きなマスコミ利用も権力次第、カネ次第などと、選挙制度はますます有権者の意思を反映しない仕組みとなった。投票所に行かない「棄権者」も増大し、どの国政選挙でも五割近くの有権者が投票しない。
 これが志位らが神聖視し、民意を代表するという「議会制民主主義」であり、その欺まんの歴史であった。「議会」と「民主主義」を無条件に信奉する共産党は、この支配層の策略を見抜けず、闘えず、ますます欺まんとなった民主主義に従い、自らも没落した。
 だから、今回の事態も驚くべきことでも何でもなく、九三年以来の「策略型」政治支配の当然の帰結である。自民党と財界にしてみると、議会支配の維持のための連立相手の中間政党を、公明党から民主党にすげ替えようとしたにすぎない。
 だが、「大連立」型策略まできて、議会を通じた支配にはどんな策略が残されているだろうか。
 財界はこうした事態の到来を予知しながら、この過渡期の十数年に、小沢らを使って「安定的に政治支配できる二大政党制」を推進してきた。その状況も一面で進んだが、まことにタイミングが悪く、成立はもはや難しくなった。
 今や議会制民主主義での政治体制では対応しきれないほどに日本の危機は深刻なものとなったのである。今後、労働者・国民は、議会制民主主義の欺まん性と独占体・財界による政治支配の真の姿を知る機会にますます恵まれることになろう。
 それでも共産党の志位は「密室談合」を非難し、「国民の前で堂々と論議」などと要求する。これは、ほころびた議会制民主主義の欺まんを取り繕い、この期に及んでなお、労働者を欺まんする態度である。
 一方、連合指導部も「開かれた議会制民主政治の実現に向けて、一刻も早い政権交代と二大政党的体制の確立をめざす考えには何ら変わりはない」と、わざわざ議会制民主政治の「効用」を説いて、これまた欺まんしている。

 (5)
 だが現実には、全国で農民が闘いを強めているし、沖縄戦の歴史わい曲を許さない県民闘争も発展している。空母艦載機部隊受け入れに反対する岩国では一万人規模の市民大会が予定されている。労働運動が、こうした闘いに連帯し、国民的な闘いに立ち上がればどうなるか。敵との力関係は一気に変わり、労働運動の大前進のチャンスとなる。
 欺まんに満ちた議会ではなく、労働者の断固たる闘いと広範な各層との連携にこそ、政治変革の展望がある。先進的労働者は、議会制民主主義の枠内での闘いに労働者階級を押し込めようとする裏切りを断固打ち破って前進しなくてはならない。
 議会主義の野党に頼らず、政治を自らの手に握る覚悟をもつ断固たる労働運動と革命党の強化、ここにこそ労働者階級の前途がある。


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