2007年10月25日号 2〜3面・社説 

「北は核・ミサイルを放棄
すべき」という見解は誤り

「即時無条件正常化」
の旗掲げ、
広範な勢力は連合し
日朝国交を闘い取ろう

 朝鮮民主主義人民共和国の核実験から一年。この期間も、内外でいっそう追いつめられた米帝国主義は、対朝鮮政策の「転換」を余儀なくされ、拒否し続けた朝鮮との二国間交渉に応じ、「テロ支援国家指定」解除すら迫られている。一方、最近の南北首脳会談は、「自主統一の新時代を開く」という画期的な合意を見た。北東アジア情勢は急速に発展し、歴史的といえる変化の中にある。
 わが国にとっての焦眉の課題は、朝鮮との国交問題である。北東アジア情勢は、日朝国交正常化に有利な状況で、かつそれは地域の平和と安定に貢献することになる。
 ところが、わが国政府のように制裁で圧力を加えたり、ましてや拉致問題を突出させて、朝鮮と国交が結べるはずがない。地域の緊張をあおっているのである。福田政権になって「懸案の包括解決」といっても同じである。
 わが国は、明治以来の朝鮮侵略と植民地支配、さらに戦後、米帝国主義に従って分断策動に加担した歴史を謝罪・清算する責任はあっても、あれこれ難癖を付けるなど言語道断である。謝罪・清算と国交正常化は、小泉自公政権によってさえ日朝平壌宣言で確認済みではないか。
 国民運動を強め、福田政権に即時無条件の国交正常化を迫らなくてはならない。これは、わが国がアジアの共生で、自主・平和、繁栄の国の進路を切り開くための闘いである。

対米追随、朝鮮圧迫でもがく福田政権
 自公政権はこうした北東アジア情勢の発展から完全に立ち遅れ、「六者協議」でも孤立した。拉致問題などで反朝鮮の旗振り役となって首相に成り上がった安倍前首相だったが、それだけに米国の朝鮮政策の調整、転換に対応しきれなかった。後を継いだ福田首相は、対米追随の下での対朝鮮政策の調整に内外でもがいている。
 日朝国交即時実現への国民世論を盛り上げ、正常化を実現するチャンスである。また、制裁措置や朝鮮総聯への政治弾圧などを即時中止させなくてはならない。
 こうした時期だけに福田は「アジア外交重視」を旗印にし、朝鮮政策では安倍の行った「圧力重視」から、「対話重視」への転換をにおわせている。警戒すべきは、これがアジア外交の転換を期待する一部の人びとの期待を集めだしたことである。福田の側からするとそれは狙っているところである。
 しかし、これはきわめて危険なことで、この政権の基本政策は引き続き対米関係重視、従属路線であり、その「アジア重視」や「朝鮮外交」の限界は明白で、欺まんであることを見抜かなければならない。小泉政権の官房長官のときから、米国駐日大使が政策の相談に訪れていたというほど、米国の信頼の厚いこの人物は、自民党の中でも親米路線の代表的一人である。
 福田は「対話重視」というが、政権につくとすぐに、「拉致問題が進展していない」ことを理由に制裁を延長した。これが福田政権の最初の対朝鮮政策であって、この事実を見逃してはならない。
 福田の外交は、米国の対朝鮮政策の一定の調整に対応し、わが国の態度をそれに合わせて手直ししようとしているに過ぎず、突出しすぎた安倍の対朝鮮政策の調整を図るものに過ぎない。その基本政策は引き続き、米国とともに朝鮮包囲・圧迫策動を続け、核・ミサイルを破棄させ、帝国主義・大国支配に逆らう力を奪い取ろうと画策するものである。米国は、朝鮮では帝国主義の牙(きば)をとりあえず隠したに過ぎない。在韓・在日米軍七万人余が朝鮮や中国をにらんでおり、その再編強化、日米軍事一体化が進められている。こうした全体の中での「外交交渉」、その合意なのである。
 福田のあおる「アジア重視」「包括解決」などといった欺まんに惑わされてはならない。
 参議院を握った民主党だが、この焦眉の課題で積極的役割を果たしていない。むしろ、拉致、核問題など反朝鮮攻撃を自民党と同じかそれ以上に騒ぎ立てる議員も多く、これらの条件を持ち出して国交正常化を妨げている。

「核・ミサイル」口実に国交正常化を妨害
 問題は、「左」の一部が、福田政権の対朝鮮政策への応援団を買って出ていることである。たとえば、共産党の志位委員長は「核問題、拉致問題、過去の清算問題などの包括的解決を図る」ことを、福田首相に国会代表質問で求めた。これは、まったく福田の言い分と同じであり、朝鮮に武装解除を迫り、追いつめ、国交正常化をはるかかなたに押しやる反動的主張である。これは徹底的に打ち破らなくてはならない。
 しかし、われわれが危ぐするのは、「日朝国交実現」の旗を掲げ、そのために奮闘している戦線の中にある「核・ミサイル放棄」などを主張する動きである。例えば「日朝国交促進国民協会」事務局長の肩書きを持つ和田春樹・東京大学名誉教授は「核・ミサイル問題が、わが国にとっても東北アジア地域にとっても、最重要課題であり、この問題の進展の中でのみ、国交正常化も可能である」という。「包括解決で国交正常化」という福田よりも、強硬にすら見える。十月三日に行われた「東北アジアの平和と日朝国交正常化」の集会に登場した和田教授は、一方で、福田首相の対朝鮮外交を盛んに賛美しながら、他方で「日本に向けられている朝鮮の核・ミサイル」などと脅威をあおり、最重要課題と声高に主張した。
 このような主張は、国交正常化どころかそれを妨害しているに等しい。和田教授の意見は、客観的にはこうした役割を果たすのである。この見解は、国交正常化を求める運動の中にあって、わが国支配層と米帝国主義の策動を「左」から支える、もっとも危険な裏切り行為である。断じて許してはならない。

「核問題が国交の条件」では世界中の物笑い
 「核・ミサイル問題の進展の中でのみ、国交正常化も可能」と和田教授は主張する。だが、そもそも「核・ミサイル」問題を国交関係の前提とする外交政策は、現実の国際関係では成り立たず、あり得ないことである。これを前提とするなら、わが国は圧倒的な核超大国である米国とはもちろんのこと、英国、フランスや中国、ロシア、インド、パキスタン、イスラエルの各国と即刻断交しなければならない。こんなことを言い出したら世界中の物笑いの種である。
 一九七二年の日中国交正常化の時、中国に「核」放棄を求めるなど、当時の社会党はもちろん、自民党でさえ言わなかったことを思い起こすだけで十分であろう。
 国民はいまも、米軍の広島・長崎への原爆投下とその結果としての悲劇を許していない。和田教授は、この歴史的に形成された「反核」意識を巧みに利用し、「左派」面をして労働運動や平和運動を「日朝国交正常化」に敵対させ、広範な国民運動の発展を妨害する。これがこうした主張をする人びとが、客観的に果たしている、反動的役割である。

朝鮮が核を離さず南北関係も強化、北東アジア情勢は新たな局面に
 和田教授は、核・ミサイルの脅威をあおって、この問題を国交正常化の条件にしている。昨年来、自公与党とマスコミはもちろん野党各党もいっせいに「朝鮮の核は、北東アジア情勢を不安定化させる」と騒ぎ立てた。「左」の諸勢力の結構な部分も追随した。
 しかし、朝鮮の核・ミサイルが平和と安定を破壊したわけではなく、むしろ逆である。この事実は、事実として受け入れなくてはならない。この一年の経過は、誰が、北東アジアの平和、安定を脅かしてきたのか、明らかにした。
 どんな国も自力で独立を闘い取るものである。米帝国主義の核どう喝の下で、朝鮮が経済建設と併せて、核兵器も含めて防衛的な武装を強化するのは当然であった。
 ところが朝鮮の核実験に対して、国連安全保障理事会で「制裁決議」が採択され、各国は監視や船舶臨検などと事実上の封鎖を進め、安倍はすべての港湾で朝鮮船舶の出入りを禁止し、貿易もほとんど禁止した。米国と追随諸国による金融・経済制裁はさらに強化された。「核実験」だけで、これほどの仕打ちを受けた国はかつてなかった。
 「核」は口実であって、朝鮮の「体制転覆」が狙いだった。こうして緊張は高まり、北東アジアは戦乱を内包する状況となった。それはしかし、朝鮮が引き起こしたことではない。まったくもって米帝国主義とその追随者による「瀬戸際的」朝鮮敵視政策によって引き起こされたことであった。
 その後の展開はどうか。米帝国主義とその追随者には限界も明らかだった。米帝国主義は「不安定の弧」戦略などといったが、その西の端ではイラクなどイスラム人民の抵抗闘争の高まりに追いつめられていた。北東アジアでは、核武装した朝鮮は一歩も譲らず、米帝国主義やその追随者と渡り合った。ブッシュには朝鮮で戦火を交える選択肢はなく、米国の国内事情も周辺国もそれを許さなかった。中間選挙に大敗し、ブッシュは政策転換を余儀なくされ、米朝交渉に踏み切らざるを得なかった。
 朝鮮も平和と安定を望んでいた。国家体制の保障を含む「六者共同声明」の米国による誠実な厳守と引き替えに、核問題でいくつかの措置をとることに合意した。
 この一年、核武装を公然化させた朝鮮は、米帝国主義の「体制転覆」の野望を押しとどめた。
 朝鮮の核武装を含む断固たる闘いと同時に、南、韓国も大きく変化しつつある。最近の南北首脳会談で南北関係は、「互いに敵視せず、軍事的緊張を緩和し、紛争問題などを対話と協議を通じて解決する」にまで到達した。米国は南北関係の発展を妨害・介入できず、「歓迎」する以外になかった。今後の進展は紆余(うよ)曲折が避けられないが、朝鮮戦争以来の南北関係は明らかに変化し、新たな状況となった。
 一方、米国の言うがままに武装解除したイラクはこの一年どうだったか。国家体制は崩壊し、抗米と内戦が入り混じり、人民は塗炭(とたん)の苦しみをなめている。
 朝鮮は、核・ミサイルを含む武装強化で国家として独立と尊厳を維持し国民に当然の責任を果たした。こうして情勢を平和と安定に導きつつあるのである。
 これがこの一年間の朝鮮半島、北東アジア情勢の進展である。
 労働運動の活動家、平和運動の活動家たちは、観念的な反核論に固執するのではなく、「平和と安定」の、この現実を認めるべきである。「北は核・ミサイルを放棄すべき」という主張は、米帝国主義と闘う朝鮮民族のこうした歴史的前進を反古にし、イラクのような塗炭の苦しみ、悲劇を導くことになる。北東アジア情勢を、再び緊張と不安定に導くことになる。そうした現実を自覚しなくてはならない。

「即時無条件」でこそ国交正常化は意味を持つ
 米朝関係の帰趨は、まだ複雑な攻防の最中で、紆余曲折があるだろう。
 しかし、長年、帝国主義の支配圧迫をうけた朝鮮民族が、帝国主義と闘う核武装を堅持しながら南北関係も強め、自主的に統一と繁栄への確固たる歩みを強めている。こうした前進が、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定に貢献していることはもはや誰も否定できない。
 反米反帝国主義の大前進、それは世界のすう勢であり、朝鮮半島でのことも、その一部である。
 わが国の、朝鮮との国交正常化は、この北東アジアの平和と安定への動きを加速することになる。アジアの共生と平和安定に大きく貢献することになる。
 逆に、条件を持ち出して国交正常化を遅らせることは、進み始めた情勢に水を差し、地域の「緊張」をあおり、不安定要因となる。拉致問題を突出させるのはもちろんのこと、核・ミサイル問題等々、国交交渉の条件とはならない。そんなことは国際常識である。両国間に懸案があるとすれば、国交正常化と地域情勢の安定の中で初めて解決可能となる。
 あれこれ条件を付ける国交正常化の先延ばし、妨害策動を許してはならない。欺まん的見解を見抜き、打ち破って、即時無条件の国交交渉を福田政権に迫らなくてはならない。
 「即時無条件正常化」の旗を掲げて、広範な勢力は連合して日朝国交を闘い取ろう。


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