労働新聞 2007年10月15日号・2面 社説

深刻な米価の暴落

価格を市場原理に任せた
政府の責任

 十月初旬から、二〇〇七年産のコメ取引が本格化している。
 だが、コメ落札価格は軒並み下落する深刻な事態となっている。例えば、東北産銘柄は前年同月比で一千円以上も価格を下げている(六十キロ当たり)。
 もちろん、コメ価格の下落傾向は、いまに始まった事態ではない。例えば、宮城県産「ひとめぼれ」の平均落札価格は、〇二年〜〇六年で六・七%下がっている。しかし、今年の同銘柄は七・四%も下落。五年間の値下がり幅以上の暴落が農家を直撃している。〇二年に平均一万六千六百四十二円だった価格は、一万四千三百八十円にまで下がった。
 ただでさえ、農民は数年にわたる米価下落で打撃を受けてきている。転作奨励金も減額される一方で、農業所得は減少。肥料や農薬などの費用を差し引いた、販売農家(注)一戸当たりの年間農業所得はわずか百七十万円(〇五年)である。後継者がいなくなるのも当然で、耕作放棄地が増え続け、地方経済が疲弊(ひへい)する一因となってきた。その上にこの暴落である。地方では「生産費もまかなえない」「もうコメはやれない」という悲鳴があがっている。
 農水省は、この暴落は「供給過剰」が理由であるとしているが、それは事態の一面でしかない。
 今回の暴落は、国が大規模農家中心の補助策(品目横断対策)を打ち出したことが原因である。対象外の小規模農家(四ヘクタール以下)は生産調整から離脱せざるを得ず、結果としてコメが「過剰」となったのである。農水省の言い分は、歴代農政の責任を農民に押しつけるもので、断じて許せないものだ。
 しかもコメ価格の下落は、政府の政策にしたがって農地集約に貢献してきた「担い手」、大規模コメ専業農家にほど打撃を与えている。農政の責任は、二重三重に重大である。政府は、農家の損失を直ちに補償すべきだ。
 だが、より根本的には、国民の主食であるコメの価格決定を市場原理に委ねてきたことが問題なのである。歴代政府は、米国の圧力に屈したコメの市場開放に踏みきり(一九九五年)、それに合わせ、食糧管理法廃止・食糧法制定でコメの販売を自由化した。さらに、〇四年には食糧法を大幅に改悪、誰でもコメを販売・流通できるようにした。
 こうした市場開放と規制緩和が、コメの価格を引き下げ、農家の生活を立ちゆかないものにさせているのだ。
 ここにメスを入れない限り、わが国農業の再生、農家の経営安定はない。品目横断対策などの「担い手育成」策を抜本的に見直し、経営の基礎としての家族農業を守る農政への転換こそが必要である。
 また、独立国として国境措置を強化し、食料自給率や穀物自給率の大幅強化を図るべきである。昨今、全世界で穀物不足が叫ばれ、海外産農産物の安全性が問題になっていることもある。多国籍大企業の利益のために農業を犠牲にする、経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)を許してはならない。
 ところで、与党・自民党はこの事態に際し、米価下落への緊急対策を検討するとしている。もちろん、これは参院選での惨敗を「教訓」に、近づく総選挙目当てに打ち出されているものだ。
 緊急対策は当然のことだが、品目横断対策を維持するなど大規模優遇の現農政を前提とした「対処療法」では、目前の米価下落を乗り切ることはできても、農家が安心して農業に従事できるような農政を実現することは不可能である。
 民主党の掲げる「戸別所得保障」も打開策とはならない。これは農産物の完全自由化を前提としたもので、自由化によって減った所得を補う、というものでしかないからだ。
 労働者・労働組合は、わが国農業・農民の問題に関心を寄せ、その要求を支持しともに闘うことが求められている。

(注)販売農家=耕地面積三十アール以上、または年間の農産物販売金額が五十万円以上の農家。


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