労働新聞 2007年9月5日号・2面 社説

臨時国会始まる
民主党の「対決」路線は
欺まんである

 参議院選挙後の臨時国会が、九月十日に開会する。
 参議院段階ではあるが、初めて与野党の勢力関係が逆転した下での臨時国会となる。政局はいちだんと不安定に、自民党と支配層は大きな困難を抱えることになった。
 政局の焦点は、衆議院解散と総選挙、さらには政界再々編に向けて動き出している。
 労働組合など闘う人びとにとって、安倍政権による悪政を打ち破る好機である。だが、それは議会内の交渉や選挙、ましてや、二大政党制の一方の装置である民主党に頼っては不可能である。闘いが求められている。

危機に陥った安倍政権
 参院選で大敗した安倍政権は、従来の政権運営の手直しを一定程度余儀なくされている。
 八月末に行われた内閣改造では、派閥領袖クラスを重用する「挙党態勢」でのぞみ、舛添厚労相や増田総務相の起用で年金問題での政権批判をかわし、「地方重視」のポーズをとった。しかし、麻生幹事長、町村外相、高村防衛相などの布陣は、基本的に「主張する外交」や行財政改革など、安倍路線を推進する体制をとったと見るべきであろう。一時内閣支持率は上がったが、組閣一週間もたたぬうちの遠藤農水相の辞任など、政権の求心力は早くも低下している。
 一方、民主党も新役員人事を行った。岡田、前原の両元代表を副代表に起用、直嶋参議院議員の政調会長への起用で衆参の連携を強化、要所には山岡国会対策委員長、赤松選挙対策委員長などの「小沢側近」を配置、態勢を整えようとしてる。
 「政権交代」を第一の課題とする以上、民主党は参院選「マニフェスト」掲げた「格差是正」などの政策を当面堅持し、安倍の基本政策と「対決」するポーズをとっている。

民主党の特措法「反対」は欺まん
 当面して焦点になっているのは、テロ特措法の延長問題である。
 テロ特措法は米軍のアフガンスタン占領を支援するものだが、小沢代表は「国連決議をへての戦争でない」ことを理由に、「反対」を表明している。
 今回、小沢がこの問題で「反対」を主張しているのは、明快に政権獲得を意識し、野党勢力の結集をはかろうとしているからだ。もちろん、米ブッシュ政権の国際的孤立が際立ち、政権がレームダック化する下、一定程度の対米「自主」を主張する余地があるからにほかならない。
 それでも、もしテロ特措法延長ができず、十一月に自衛隊の給油活動撤収という事態になれば、米国とそれに追随する欧州諸国などからの批判は高まるだろう。ドイツのメルケル首相が米国の要請に応じて小沢に会ったのも、そうした事情だった。こうした中で、民主党は徹底して「対決」できるだろうか。
 小沢は、シーファー米駐日大使との会談の際、国連決議さえあれば、アフガン本土に展開する北大西洋条約機構(NATO)主導の国際治安支援部隊(ISAF)に参加する意思を表明した。インド洋への派兵には反対だが、アフガン本土でもよいというのか。
 これは国連を隠れみのにしながら、米戦略の下での日本の軍事大国化をめざす危険な道である。これが小沢民主党の本音で、テロ特措法「反対」は術策的なものに過ぎず、欺まん的なものである。

財界からの圧力も強まる
 内外の危機が深まる中、財界からの圧力も増さざるを得ない。
 わが国多国籍大企業は経済連携協定(EPA)や、消費税増税を含む行財政改革を強力に求めている。対米追随の下での軍事大国化、海外派兵拡大も、世界中に広がった権益を維持することをもくろむ多国籍大企業の意思に基づくものだ。
 サブプライムローン問題を契機に広がった世界金融市場の動揺で、わが国を取り巻く経済環境はいっそう不安定さを増している。だから、財界は、この時期の政治の混乱、「政権交代」を望んでいない。
 民主党は自民党と同じく財界の支持を受け、献金も受け取っている。「読売新聞」の主張する、自民・民主による「大連立」はないと仮定したとしても、民主党は、財界の要求を長期にわたって無視し続けることはできないであろう。

民主党は保守二大政党制の装置
 そもそも民主党は、財界が狙う保守二大政党制実現のための一方の装置である。このことを、いまいちど鮮明にさせておこう。
 八〇年代半ばからの「国際化」と産業構造調整、そして冷戦構造の崩壊という内外環境の変化を受け、自民党の政治支配は大きく揺らいだ。財界は、自らの政治支配を安定したものとするため、米英などと同じく、基本政策で違いのない保守二大政党制を実現することをもくろんだ。これが実現できれば、政権が二大政党のどちらに転んでも、「財界のための政治」に変わりはないからである。
 民主党は、この財界の二大政党制への「期待」を背負って生まれた。
 だから、民主党は国民犠牲の構造改革を積極的に推進する立場であった。外交問題でも、「日米基軸」は党の基本方針となっている。財界の意を受けて、二大政党制への移行を意識的に追求してきた小沢らが合流してから、二大政党制の一方の装置という性格はいっそう強まった。
 また、保守二大政党による「体制安定」は、一方の政党が労働組合を支持基盤として組み込み、体制内化させることが重要なカギとなる。
 小沢が参院選政策で連合を引きつける政策を掲げたのはこのためであり、別に労働者の立場に立ったからではない。労組との関係を悪化させていた前原前代表の後であっただけに、小沢には連合対策がむしろやりやすく、労組からすれば「よりまし」に見えるに過ぎない。

国民運動の発展がカギである
 今回、民主党が参院選で前進できたのは、小沢民主党が「生活が第一」などと強調する一方、外交・安全保障問題が争点となることを意図的に避けたからである。争点となっては、自民党と何ら変わらないことが露呈してしまうからだ。
 だが、こうした「争点隠し」も、今後続けられる保証はない。
 例えば、昨年秋、安倍政権発足後の中国・韓国と関係「改善」、さらに朝鮮の核実験と国連による制裁で、民主党は外交問題で手も足も出なくなった。鳩山幹事長は朝鮮制裁で「政府に協力する」とまで言い、まさに与党と同じ態度であった。民主党が直後の衆院補欠選挙で連敗したのは、当然の流れであった。
 外交問題の争点化を避ける小沢の手法は、いったん情勢の変化があれば維持できない、きわめて不安定なものなのである。
 民主党も、党内の意思一致が進んでいるわけではない。参議院選で勝利したことで、政権獲得に向けて、一時的に小沢の求心力が増しているだけである。今回、民主党を支持した旧自民党支持層や無党派層も、以降、民主党支持層として定着する保証は何もなく、以降の前進は保証されていない。
 わが国の自主的な進路、そしてアジアの平和を願う人びと、改革政治への怒りをもつ人びとは、小沢民主党に幻想を抱くべきではない。
 安倍政権と支配層の政策に対する真の対抗軸は、対米従属から脱却とアジアでの共生の道であり、多国籍大企業のための改革政治ではなく真に国民生活と国民経済を豊かに発展させる道である。テロ特措法延長反対でも、大衆的闘いを組織することが肝心である。
 この点で、労働組合の役割が問われている。強力な労働運動とそれを中心とする国民運動の発展こそが事態を決する。国民運動の発展のためにも、それと結びついた新たな政党・勢力の結集が求められていることは、わが党がかねてから提案してきた通りである。
 わが党はこんにち、自らの党の強化に全力をあげているが、改めてこの点を、労働組合をはじめとする皆さんに呼びかけるものである。


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