労働新聞 2007年8月15日号・1面 社説

第21回参議院選挙の
結果について

はじめに

 七月二十九日投開票の第二十一回参院選挙は、自民党の歴史的な大敗北となった。
 自民党は第一党の座を民主党に奪われ、連立与党の公明党と合わせても過半数に遠く及ばず、参院での与野党勢力が逆転した。
 安倍首相は、「参院選は政権選択の選挙ではない」と居直り、続投を宣言したが、有権者が自公与党に手厳しい不信任を突きつけた事実は疑いようがなく、安倍の求心力は衰えざるを得ない。
 しかも、衆参両院の「ねじれ」が生まれた下で、衆院で可決した法案を野党は参院で否決することもできるし、審議を引き延ばすこともできる。自公与党は、議会運営で深刻な困難を抱え込むこととなり、政局はきわめて不安定で波乱含みとなった。
 政権交代をめざす民主党は、この勢いの衰えぬうちに衆院を解散、総選挙に追い込み、政権交代を実現しようと勢い込んでいる。一方、与党は野党の攻勢を打ち破り、政権の安定を確保するためにも総選挙に勝って、有権者からの信任を示さなければならない。
 政局の焦点は衆院解散、総選挙へ向けて動き出した。議会での与野党の攻防は厳しく、かつ複雑となろう。

議席に見る各党の消長

 今回選挙で自民党は、改選前六十四議席(選挙区四十三、比例区二十一)を三十七議席(選挙区二十三、比例十四)へと大後退させた。これは、過去最低だった一九八九年の三十六議席に次ぐ惨敗である。参院での勢力は、非改選と合わせても八十三議席(公示前百十議席)にとどまり、自民党は結党以来初めて参院の第一党の座から滑り落ちた。
 連立与党の公明党も、公認候補を擁立した五選挙区で、二勝三敗と負け越し、改選前十二議席(選挙区五、比例七)を九議席(選挙区二、比例区七)へと後退させた。公明党にとって選挙区での公認候補が落選したのは八九年の参院選以来のことである。比例区ではどの党より多く得票数を減らした。与党として、自民党の悪政を支えてきた公明党への厳しい審判が下った、と見るべきだろう。
 自民党との選挙協力も民主党への「風」に吹き飛ばされ、公明党にとって与党効果はいよいよターニングポイントを超えた。
 野党の民主党は改選前三十二議席(選挙区二十一、比例十一)を六十議席(選挙区四十、比例区二十)へと大きく伸ばした。非改選四十九議席を合わせると参院での勢力は百九議席(公示前八十一議席)となって、参院で第一党の座を得た。
 少数野党の共産党は、沖縄以外の全選挙区に公認候補を擁立したが、唯一持っていた東京の議席も失って、全敗となった。比例区も三議席にとどまって改選前の五議席(選挙区一、比例四)から後退した。
 同じく社民党は比例での二議席のみ。これも改選前の三議席(比例のみ)から後退した。
 一方、少数野党といっても国民新党は選挙区、比例区で各一議席を確保、改選前勢力を維持した。新党日本も比例区で一議席を獲得した。郵政民営化反対を契機に、自民党から分裂した保守系の両党は、生き残ることとなった。

結果から何を読みとるか

 今回の結果から、何を読み取るべきだろうか。
 ブルジョア選挙は、本質的に権力や金のある側に有利な上に、マスコミなどの情報操作もあって、有権者には十分な判断をする条件も余裕も与えられない。しかも、衆院は小選挙区比例代表制という著しく不公平な制度の下でもあり、必ずしも直接に民意を反映するものではない。
 しかし、結果にあらわれた有権者の「かすかだが切実な声」をくみ取ることはある程度可能で、それはまた以降の闘いに備える上で有益でもある。

自民敗北を特徴づけた一人区の結果
 今回選挙での自民党の大敗を特徴づけたのは選挙区選挙、とりわけ一人区の結果であった。
 自民党は、これまでの参院選で比較的に優勢だった二十九ある地方の一人区で、六勝二十三敗と大きく負け越した。とりわけ山形、香川、徳島、佐賀、熊本など、歴史的に自民党の支持基盤が厚く、「保守王国」といわれた県で民主党に敗北した。岡山では自民党の大物、片山参院幹事長が民主党新人に敗北。閣僚経験者の落選も相次いだ。青木参院議員会長の地元島根県では自民現職が国民新党新人に敗れるなど、自民党が十四勝十三敗だった〇四年参院選に比べ、民主党などの野党に代わった一人区は十にも上った。
 同様の傾向は比例区選挙でも確認できた。前回の比例区選挙では、自民党は十八県で民主党を上回ったが、今回は十県のみ。他の三十七都道府県ではみな敗北した。しかも選挙区同様、北陸や中国、四国、九州など、保守地盤が厚いといわれた地方でも敗退した。
 要するに自民党は、都市部だけでなく、金城湯池(きんじょうとうち)と見られていた地方、郡部や農村部でも大きく後退したのである。

郡部での自民党支持層の離反
 この自民党の一人区での敗北の背景には、小泉、安倍と続く「改革政治」で痛めつけられ、切り捨てられてきた地方の有権者、とりわけ自民党の支持基盤内部の激しい怒りと反発があった。
 支配層、多国籍大企業の意向にそって「小さな政府」をめざす自公与党、政府の改革政治は、地方経済を崩壊の危機に追い込んだ。行財政改革や「三位一体改革」は自治体財政を破たんさせ、福祉を破壊し、住民生活は深刻な危機に直面した。労働者階級にとどまらずさまざまな階層、業種、地域間の経済的格差はさらに拡大した。
 しかもこんにち、多国籍大企業は、経済連携協定(EPA)締結を急ぎ、国内産業、とりわけ農業に犠牲を押し付け、切り捨てようとしている。
 八〇年代半ばに始まった国際化、市場開放政策に対し、当時の自民党幹部は「ムシロ旗が立つ」(二階堂幹事長・当時)と危機感をあらわした。現在、地方には、まさにそのような怒りが渦巻いている。
 今回選挙では、農協組織や農村を支持基盤とする地方議員の自民党からの離反も伝えられた。かつて自民党の強力な集票マシーンであった業界団体や医師会などの動きも鈍かった。これらの結果からは、自民党の支持基盤の崩壊が続いており、今回は都市部に限らず、郡部、農村部でも自民党からの離反が強まったことが見て取れる。
 しかも、民主党が一定程度その受け皿となったこともうかがえる。民主党は、格差是正、農家への「戸別所得補償制度」創設などの公約を並べて、自民党に不満を抱く保守層を取り込もうと画策した。小沢は歴史的な自民党の支持基盤と、改革政治がそれに与える深刻な打撃を知り尽くしているがゆえに、この弱点を突いたのである。
 存亡の危機に直面する農民と郡部の有権者は、自民党に「お灸(きゅう)をすえ」「今度は民主党に」と期待をつないだ。結果から見て、一人区、郡部重視の「小沢戦略」は、とりあえずは功を奏したのである。

無党派の「風」も集めた民主党
 さらに民主党は、首都圏、さらに愛知など、定数三以上の選挙区で自民党を押さえ複数議席を獲得した。
 前々回の二〇〇一年の参院選では、「自民党をぶっ壊す」「改革なくして成長なし」と叫んで登場した小泉前首相の下、自民党は政治の変化を望む有権者、特に無党派層の支持をかすめ取って大勝した。小泉の手法は、旧来の自民党政治の変更を望む都市無党派層の支持を自民党に引き戻す効果を発揮した。
 しかし今回は、「消えた年金」問題の発覚で政府への不信が増大、さらに「政治とカネ」をめぐる松岡前農相の自殺、久間防衛相の「原爆投下はしょうがない」発言など、政権の不祥事が相次いだ。自民党にとって激しい逆風の中での選挙となった。
 自民党、安倍はこの不利な状況に、「主張する外交」の「成果」を強調、改革政治で「ぶれない」姿勢を示して、これまで小泉を支持した層の獲得を狙った。しかし、高まる逆風をかわすことはできなかった。
 一方、民主党は、年金問題を争点に、「生活が第一」「格差是正」を掲げて自民党批判を強め、与野党逆転、政権交代をあおった。
 小沢代表が労働組合の連合幹部を取り込み、連合組織を使って、全国で候補者を擁立、運動を展開したことも、とりわけ都市部での民主党の存在感を高めさせた。
 結果はすでに見た通りだが、マスコミの出口調査によれば、〇一年参院選で、また、〇五年の郵政解散・総選挙で小泉を支持した無党派、支持政党なし層の多くが、今回は民主党に投票したことがわかる。 多くの無党派層の現状に対する不満や閉塞感を、かつては「自民党をぶっ壊す」といった小泉が、そして今回は「政権交代」を叫ぶ小沢が獲得し、「風」に乗って勝利したのである。

民主党は有権者の支持を維持できるか
 小沢は、来るべき総選挙に向けて今回の有権者の支持をつながなければならない。しかしそれは決して保証されたものではない。
 今回郡部、一人区で勝利した民主党候補者は、旧来の自民党支持層にとって必ずしもなじみのある候補ではない。一人区で自民現職を打ち破った民主党新人候補は八人いたが、そのうち旧来からの自民党系と思われる候補者は二人で、あとは公募候補や非政府組織(NGO)出身者、労組出身の民主党地方議員などであった。郡部や農村の「地盤」、構造がそのまま民主党に入れ替わったわけではない。
 しかも、その新たな支持層を固めるほどの地方組織、地方議員を民主党は持っていないからである。
 民主党が、この新たな支持者を長期に獲得し続けることができるかどうか、それは格差問題の解決、農業問題その他、この党が以降どのような政策と政治的態度を取るかに依存している。
 また、都市部での無党派層の動向も民主党にとって重大である。しかし、政治の変化を望みながら、時々の争点や政策の設定によってその選択を変更する無党派層が、引き続き民主党への追い風になるかどうか。それは、今回のように自民党の「敵失」が続き、民主党がそれを争点化できるかどうかにかかっている。しかし、それもまた保証の限りではないのである。

深まる政治の混迷

 選挙後、民主党小沢代表は、とりあえず野党が多数を制した参院を足がかりに、選挙で掲げた格差是正、年金改革、農家への戸別所得補償制度など地方や農業重視の政策実現を迫り、政府提出議案の否決や野党独自案の参院可決で与党への攻勢を強め、早期の衆院解散、総選挙に追い込み、政権交代を実現しようと狙っている。
 さらに自衛隊をインド洋に派遣するテロ特措法の延長にも反対の態度を打ち出し、とりあえずは対決姿勢を鮮明にさせた。それが総選挙で有利に働くと踏んでいるからである。

財界は何を望んでいるか
 財界は安倍続投をとりあえずは支持した。しかし、安倍は党内の厳しい不満にさらされ、対朝鮮政策など外交での孤立も深まる中、困難な党、政府運営を迫られている。
 「参院選は政権選択選挙ではない」と、自民党執行部は早くから言ってきたが、それは内外の多難な環境の下で、政権交代で政治の空白をつくりたくない財界の意向でもある。
 世界経済はこんにち、米住宅バブル後のサブプライムローンの焦げ付き問題が、世界の金融全体に波及する動きを見せ、先行きはいよいよ不透明感を深めている。米欧、さらにわが国の株価は急落、さらに乱高下し、為替も不安定となった。中国はじめアジア諸国の経済過熱化が懸念され、原油価格の高騰も続いている。ユーロの存在感拡大とドルへの不信の高まり、そしてわが国の「回復」を支えた、超円安、外国人投資家の日本株買いなどの諸条件に変化の兆しも見える。
 米国はイラク・中東に釘付けで、全世界での反米の闘いを前に、衰退を速めている。世界は多極化の傾向を強め、強国間、各勢力間の争いが激化している。
 このような国際環境の中で、わが国支配層、多国籍大企業は、生き残りをかけ、国内での「財政再建」「小さな政府」の実現と、政治軍事大国化と憲法の改悪、アジアでの権益確保のための「東アジア経済圏構想」などを急いでいる。
 ある財界首脳は、参院選挙に先んじた経済同友会の軽井沢セミナーで「EPA締結など、懸案が山積する中で、政権交代などしている余裕はない」と、支配層の本音を語った。
 自民大敗となった今、マスコミは、財界の意を受け、衆参「ねじれ」の中、民主党に与党との協調、「大人の対応」を求め、安保外交、改革推進など基本政策での一致と協力を要求してけん制を強めている。

「小沢戦略」の直面する矛盾
 見たように、内外の環境はいよいよ支配層にとって余裕のないものとなった。したがって、小沢が、選挙に勝たんがために打ち出した農家への「戸別所得補償」その他は、財政削減やEPA締結のため国内市場の早期開放を望む多国籍大企業にとって、決して容認できるものではない。
 もとより、テロ特措法、米軍再編への「反対」などは、対米従属のわが国支配層の基本的利益に反するもので、これに逆らえばどうなるか、保守政治家として小沢が知らないはずはない。
 しかも民主党内部には、自民党、安倍と寸分違わぬ連中が多くいて、財界、自民党と呼応している。小沢が、安保外交や改革など、基本政策でマヌーバーとはいえ少しでも踏み込もうとすれば、この勢力がどう動くか。民主党が統一を維持できるかという問題に発展しよう。
 前原前代表などは、対米関係優先で、すでにテロ特措法での妥協の方向を探り始めている。
 参院選挙では、「小沢戦略」は功を奏したように見える、しかしそのことがまた民主党内に深刻な矛盾を持ち込み、拡大させて、この党の困難は以降さらに深まることとなろう。

二大政党制の本質的限界
 そもそも九三年の非自民政権成立以来、激動下での議会政治の安定をめざして支配層が狙ってきた二大政党制は、基本政策が財界、多国籍大企業の容認する範囲で、差のない二つの政党間での政権交代劇をつくり出そうという目論見で、民主党はそのための一方の装置であった。
 八〇年代半ば以降、対米従属の下、グローバル化に対応して世界展開を果たそうとする多国籍大企業の要求に従って、市場開放、規制緩和など国内の効率化、再編が避けがたくなった。しかしそれは旧来の自民党の「利益配分型」政治を困難にし、支持基盤であった国内産業、中小企業や農業を切り捨て、自民党一党支配を不安定化させ、限界に導いた。
 二大政党制とは、このような政治の局面に対応し、支配層、財界が新たな安定的議会支配を確立しようとする模索であった。
 九三年に自民党を割って、細川連立政権をつくり、財界の意を受けて二大政党制づくりへと踏み出した小沢は、この担い手として財界によって温存されてきた。したがって、政策的対抗軸などといっても、民主党には本質的に余地はなく、小沢に与えられた選択肢も限られたものである。
 対決姿勢を強める民主党小沢だが、果たして財界の要求にそむいて、参院選での公約を貫くことができるだろうか。

新たな展望を切り開くために

 間違いのないことは、政局はいよいよ混迷の度を深めるということで、政党組織それ自身の再編を含んだ、激変をはらむ議会情勢となろう。
 この中で、事実の発展を通じて労働者階級と広範な国民の、民主党と二大政党制についての暴露が進めば、それは大局から見て悪いことではない。
 とりわけ連合指導部が民主党への幻想を振りまいている中で、これを暴露することは先進的労働者にとってきわめて重要な課題である。意識的努力、政治闘争が求められている。
 今回選挙の結果、社民、共産両党は、二大政党制に埋没した。共産党はいくらか得票を増やしたなどといっているが、それは慰めにもならず、新たな政局に対応する方針もないようである。
 社民党は選挙では民主党との選挙協力を進め、見返りにわずかな比例当選を得たが、それは政党としての自殺行為に等しいのではないか。
 この党の指導部は、選挙中から「小沢路線」へ追随を明らかにし、今、「政権共闘」を進めようなどという話まである。しかしそれはいよいよ社民党の存在意義を失わせる破滅的な選択で、地方や労組で闘いの発展を望んでいる活動家を納得させられるものではない。
 見たように、支配層にとって二大政党制への移行の困難さはきわめて大きく、まだまだ幾多の曲折が予測される。
 無党派層の拡大であれ、自民党支持基盤の離反であれ、対米追随と改革政治、こうした基本政策を同じくする二大政党制への国民の怒りと失望の反映である。求められているのは真の対抗軸であり、それを実現するための強力な労働運動とそれを中核とする国民運動の発展である。選挙結果を見ても、都市と農村にその基盤が広範に存在することを読みとることができる。議会内での闘争でも、それと結びついた新たな政党、勢力結集にこそ展望がある。
 だから社民勢力、広範な活動家、人士の大きな決断が求められているのである。

 わが党は、革命の党として、自らの力を強め、国民運動の発展と、広範な団結をつくり上げるため、引き続き全力で闘う。


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