労働新聞 2007年8月5日号・2面 社説
「新三法」で深まる
商店街の危機
大型店出店に反対する
闘いを強めよう
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地方への大型商業施設の進出が、ここに来て激しくなっている。
北海道函館市、秋田県能代市、東京都東久留米市、山梨県昭和町、岐阜県各務原市、滋賀県草津市、静岡市、奈良県大和郡山市、長崎県長与町、熊本市など全国で、イオンを中心とする大型施設の出店計画が相次ぎ、住民や自治体、議会が反対の声を上げている。
大都市でも同様の動きがある。大手家電量販店であるヤマダ電機は、東京都心部への相次ぐ出店計画を発表。JR東日本もいわゆる「駅ナカ」(駅構内)商業施設の開発を加速させている。
この背景には、本年十一月に施行される都市計画法の変更など、新「まちづくり三法」(以下、新三法)が昨年六月に成立したことがある。
大型店の一方的な出店に反対し、商店街や地域経済を守る闘いが、改めて重要になっているのである。
新三法は「抜け穴だらけ」
新三法の内容は、(1)大型店の出店を都市中心部の商業地域などに限る、(2)それ以外の場所に出店する場合は市町村が都市計画を変更する必要がある、(3)都道府県を中心に大型店の立地について広域調整する協議会を設置できる、などというものである。
確かに、大型店の郊外への出店は一定程度は難しくなる。最近の「出店ラッシュ」は、その前に「駆け込み」を行おうという姑息(こそく)なものである。
だが、新三法は「抜け穴だらけ」であり、警戒も必要である。
まず、郊外への出店であっても、延べ床面積一万平方メート未満の店舗に規制はない。旧大規模小売店舗法(大店法)で「大型店」とされたのが五百平方メートル以上の店舗だったことと比べると、よほどの大規模施設でないと規制対象にならないのである。しかも、自治体が規制しようと思っても、大店立地法で「商業調整の禁止」が定められているので、「都市計画の変更」に関すること以外に法的手段はない。また、新三法は、都市部への大型店出店を野放しにしている。ヤマダ電機などの動きは、新三法の「先取り」というべきものなのだ。
流通大資本からすれば、地方や郊外での出店は「一巡」し、これからは売り場面積当たりの売上高が大きい都市部の市場に「期待」しているということであろう。都市部では、郊外に比べれば比較的商店街が残っているが、これからはそこが「シャッター通り」化する危機に直面するのである。
このように、新三法は大型店を完全に規制するものではない。いわんや、中小零細商店を守るための法律ではなく、幻想は禁物なのである。
大型、小規模店間の「格差」開く
形ばかりとはいえ、政府が新三法で「譲歩」を見せたのには、大型店の出店によって商店街が立ち行かなくなるなど、地方経済の疲弊(ひへい)が深刻化し、政治問題となっていることがある。
二〇〇〇年、米国の巨大商業資本、およびわが国の巨大商業資本の要求によって、大店法が廃止され、大店立地法など「旧三法」が成立した。それ以前も、日米構造協議など米国の圧力によって大店法が規制緩和され、玩具チェーン「トイザらス」をはじめとする米巨大資本が上陸、国内流通大手も店舗の巨大化を進めていた。「旧三法」成立によって、そうした大型店の出店は事実上野放しとなり、郊外を中心に出店が一気に激化したのである。
この結果、地元商店街は壊滅的危機に追い込まれ、長期のデフレ不況と〇一年からの小泉改革、消費税免税店の引き下げなどが苦境に追い打ちをかけた。
「商業統計」によれば、九七年から〇四年の期間で、売り場面積五百平方メートル未満の中小規模店の販売額は約六十九兆円から約五十三兆円へと大きく減った。一方、五百平方メートル以上のそれは約四十二兆円から約四十八兆円へと増えている。群馬、滋賀、和歌山、島根、高知、佐賀の六県では、中小規模店の総販売額が二五%以上減り、逆に大型店のそれは二五%以上増えた。
個人商店のような零細商店に限れば、販売額減少などの影響はさらに多大であることは疑いない。
総じて、中小零細商店の倒産・廃業が急増し、その下で働く労働者の生活にも深刻な影響を与えた。加えて、深夜営業などによる地域環境の悪化、交通渋滞やごみ問題など、さまざまな弊害が生まれている。
こうして商店街が衰退した結果、県庁所在地であっても、昼間に町中を歩く人をほとんど見かけないところも多い。どこへ行っても全国チェーンの店舗しかなくなり、地域の独自性も失われつつある。「まちづくり」どころか「まち壊し」が進んだのである。
一方、イオン、セブン・アンド・アイ(旧イトーヨーカ堂)などの流通大手は、競争に負けた資本を次々に買収・合併し、海外にも進出して、多国籍企業にまで巨大化した。
繁栄する流通大手と崩壊する商店街の「格差」は、政治が生んだものである。
「旧三法」を見直すのであれば、以上のような、米巨大資本と国内流通大手のための政治こそ、根本的に見直されなければならなかった。だが、対米追随で多国籍企業のための政治を行う小泉・安倍と続く政権が、そのような態度を取るはずもないのである。
自治体での闘いが問われている
都市部を含む、全国の自治体での闘いが問われている。
例えば、東京都池袋駅前へのヤマダ電機の出店に際して、豊島区は、「駐車場は店舗から三百メートル以内」という東京都条例を事実上無視して、出店を許可した。能代市では、市長が農地保全のための「農振指定解除」受付の凍結を突如解除、直後にイオンが解除申請を行うなど、露骨な「出来レース」を演じた。行政のこのような姿勢を許してはならない。
十一月を前にした「駆け込み」に反対することはもちろん、その後も、広範な住民の行動で大型店出店に反対し、地域商店街、地域経済を守ることが求められている。また、政府に、大型店出店の法規制や中小零細商店への営業支援を要求する闘いも必要である。
大型店の出店に抵抗する運動は各地に広がっている。中小企業家同友会全国協議会も、これ以上の大型店進出を規制するよう、大店立地法による「商業調整の禁止」の廃止を政府に求めた。福島県議会や青森市議会は独自の出店規制条例を可決、同様の動きは他の県・市町村にもある。闘いの芽はあり、これを発展させることが求められている。
頼れぬ与野党、住民の闘いこそカギ
この際、既成の与野党に期待することはできない。
与党の一角である公明党への幻想は禁物である。公明党は「中小企業の味方」(太田代表)などという。かれらは新三法は「商店街を活性化させる流れ」などと「実績」を強調するが、連立与党として「旧三法」成立や小泉改革に加担し、「シャッター通り」を増やした責任はどうなのか。公明党の態度は、実に恥知らずなもので許し難い。
参議院で第一党となった民主党にも期待できない。
民主党の参院選「マニフェスト」には「商住一体のまちづくり」といったスローガンはあるが、大型店の出店を規制するという公約はどこにもない。商店としての営業が立ちゆくような政治を実現せず、どうして「まちづくり」ができるというのか。
民主党は、規制緩和などの改革を自民党と競ってきた党であり、日米基軸、多国籍大企業のための政治という点で、自民党と変わりはない。大型店の出店規制など、真に中小零細商店を保護する政策など打ち出せるはずもないのである。
労働者・労働組合、そして心ある地方議員は、地域経済を守る闘いを発展させるために広く連携し、力を尽くすべきである。
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