労働新聞 2007年7月25日号・2面 社説

急速に進む国民の貧困化

多国籍大企業のための
改革政治が根源

 参議院選挙の投票日が迫った。安倍政権与党の自民党・公明党は「主張する外交」と「改革」の実績を強調し、小沢民主党は「与野党逆転」を叫んで、それぞれの陣営の過半数獲得に血道をあげている。財界の意を受けたマスコミは、保守二大政党制への国民の関心をあおり立てている。
 だが、これは茶番である。
 年金問題が「最大の争点」としてクローズアップされているが、安倍政権が踏み込んだ時代錯誤の国の進路、改革政治による国民の困窮化など真の争点は有権者からおおい隠されている。

餓死事件は政治の責任
 参院選告示の直前、またも、改革政治を背景とする痛ましい事件が起きた。
 福岡県北九州市で七月十一日、一人暮らしの男性が、自宅で死後一カ月、一部ミイラ化した状態で発見された。男性は「病気で働けない」として、昨年十二月から生活保護を受けていたが、今年四月に受給を「辞退」していたという。だが、男性の日記には、「働けないのに働けと言われた」「おにぎり食べたい」などと書かれていた。怒りと悲しみを抜きに聞くことはできない事件だが、このような事例は初めてのことではない。
 同じ北九州市では、〇五年一月に八幡東区で当時六十八歳の男性が、昨年五月に門司区で当時五十六歳の男性が自宅で死亡しているのが見つかった。ともに、区役所に生活保護受給の相談をしたが、死亡時は受給していなかった。
 「何度出向いても申請用紙をもらえなかった」など、生活保護率を抑制するため、生活困窮者をさまざまな理由で門前払いするやり方は、「水際作戦」などと呼ばれている。
 このような情け容赦のない非道な手法は、北九州市だけの問題ではなく、全国で起こっている。
 厚生労働省は、生活保護費の圧縮を狙って、昨年三月「生活保護行政を適正に運営するための手引き」を出し、全国の自治体に申請者の徹底した収入・資産の調査を求めている。さらに政府は、この数年、地方交付税削減などで自治体財政を干上がらせており、これも生活保護費圧縮に拍車をかけている。
 まさに国の政策こそ根本にあり、自治体の責任は、それを忠実に受け入れたところにある。悪政が住民を死に追い込んでいるのであり、国民にとって、北九州市のような事例は決してよそごとではない。

急速に進む国民の貧困化
 国民の困窮化はそれ以前も過酷だったが、小泉前政権による「聖域なき構造改革」によっていちだんと進んだ。安倍政権はこれを継承、さらに加速させようとしている。
 大騒ぎになっている「年金」の記録漏れどころか、月々の保険料を負担することすらできず、社会保険制度から疎外されている人びと(未加入者、未納者、各種保険料免除者)は、〇五年度で八百万人にも達しようとしている。国民健康保険料も四百七十万世帯が滞納しており、事実上医者にかかれない世帯は三十二万世帯にのぼっている。
 「貯蓄ゼロ世帯」は、日本の全世帯の二二・九%の約一千万世帯。母子世帯百二十三万世帯の平均収入は百六十二万円しかなく、三人世帯の場合は生活保護費にも満たない。
 パート、アルバイトなど非正規労働者は千六百万人を超えている。パート労働者の賃金を事実上規定する最低賃金法は、今年ようやく生活保護費との整合性に「配慮する」ことが決まったが、それずら財界は渋っており、実態は生活保護以下の最低賃金が横行している。年収二百万円以下の給与所得者は九百八十一万人(〇五年)にも達し、この五年間で百五十七万人も増加した。
 九八年に年間三万人を超えた自殺者は、「好景気」が言われる中でもいっこうに減らず、毎年七千人が経済的理由で命を絶っている。
 わが国での餓死者は、失業率が三%を超えた一九九五年以降急増し、この十一年間で計八百六十七人にも達する。年平均約八十人近い数であり、しかもこれは「氷山の一角」だ。
 六月からの「住民税増税」「定率減税の全廃」も国民の生活難に拍車をかけ、全国の自治体窓口に抗議と問い合わせが殺到している。〇三年に消費税の免税点が引き下げられ、百十四万の個人事業者が新たな課税業者となり、多くの零細業者が廃業を余儀なくされている。
 障害者自立支援法による負担増、母子家庭への児童扶養手当の大幅削減、地方交付税削減などの地方切り捨て、農業切り捨てなど、書けば枚挙にいとまがない。
 一方で、高額所得者への減税、多国籍企業をはじめ大企業へのさまざまな優遇措置、減税など「金持ちのための政治」がやられてきた。法人税率引き下げ、株式売買所得への税率引き下げとその延長などである。
 だから、真に「格差是正」を唱えるなら、このようなむごたらしい政治をやめ、「金持ちからとりあげて、貧乏人に回す」以外にない。しかし、自民党はもちろん、民主党も本質上は「改革推進」であるから、国民はなんの期待も寄せることができない。

改革加速化を主張する財界
 そのような中、経済同友会の夏季セミナーが軽井沢で開かれた。
 セミナーで合意された「軽井沢アピール」によれば、今後の政治に対して、今後の最大の政策課題は「小さな政府を実現するための構造改革の継続と加速」であるとし、全力で取り組めと要求している。
 そして、消費税率の引き上げを含む税制の抜本改革、基礎年金の財源を消費税とすること、公務員削減などの公務員制度改革、独立行政法人の抜本的改革、安あがりな地方政治のための「新分権一括法(仮称)」や道州制への移行に向けた中長期の工程の策定、法人営農・大規模営農の促進、農協の役割の見直しなどの農業改革など、財界の要求を具体的に列挙・提言している。
 そのために、「経済財政諮問会議の強化」を提言、民間議員の過半数を常勤職とするよう求めている。経済財政諮問会議は、小泉政権以降、政治の最高意思機関とも言うべき存在となったが、その主導権を握っているのは、財界人やその御用学者で構成される民間議員である。財界は、この「強化」により、多国籍大企業の要求が今までより以上に政治に直接反映するようにしようというのである。
 このような要求は、本年一月、「財界総本山」である日本経団連が発表した「御手洗ビジョン」と同様のものである。財界の主導権を握ったわが国多国籍大企業は、自らが国際競争に勝ち抜いて利益をむさぼるため、安あがりな国内政治を求めており、「政党評価」などを活用しながら、政治にその断行を求めている。
 参院選の勝敗の度合い、それによって醸し出される政治情勢にも注目しなければならないが、いずれにしろ、財界の要求は「待ったなし」なのである。自民党、民主党という「二大政党」のいずれが勝とうが、こうした財界の意向を無視することはできず、財界の許容する範囲内での政治が継続される。それこそが保守二大政党制の本質なのである。
 結局、国民各層の実際の困難は深まるばかりなのである。財界の意を受けた改革政治を打ち破らなければならない。

改革政治を打ち破る国民運動を
 財界が断行を願う改革政治は、国民大多数にこれまで以上の「痛み」を強いるものである。議会政治が国民の願いに応えられなければ、国民は直接民主主義に訴えざるを得ない。それは必然的なことである。
 しかし、社民党、新社会党などの社民勢力、あるいは共産党も、労働者階級をはじめ事態の打開を求める国民各層に展望を示すことはできていない。
 財界のための政治と真っ向から闘う、労働運動を中心とする強力な国民運動、広範な統一戦線の結成が不可欠であり、その道だけが確かな勝利の展望である。


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