労働新聞 2007年7月15日号・2面 社説

中国敵視隠さぬ
07年版防衛白書

安倍の中国敵視を
暴露しない共産党

 安倍政権は七月六日、閣議で〇七年版防衛白書(以下、白書)を了承した。
 今回の白書は、「主張する外交」を掲げる安倍政権下で初めてのものであり、防衛省に移行してから初めてのものでもある。
 白書は、旧防衛庁の「省昇格」にわざわざ一章分のスペースを割いていることと併せ、自衛隊の海外派兵が「本来任務」となったことを強調、派兵拡大で米国の世界戦略に奉仕することを正当化している。そして、日米ミサイル防衛(MD)協力を強調、米軍再編の「円滑な実施」なども打ち出している。
 もっとも注目すべきは、上記の策動を正当化するため、これまで以上に中国への敵視をあらわにしたことである。
 十二日に告示された参議院選挙では、安倍政権の進める集団的自衛権の行使容認やMDなどの問題は、まったく争点化されていない。このような国の基本的な問題で対抗軸を打ち出せない民主党をはじめとする野党の責任は重大である。
 選挙の結果いかんにかかわらず、独立・自主の国の進路をめざす国民運動と、そのための広範な戦線の形成を強めなければならない。

中国包囲進める安倍政権
 白書があらわにさせた中国への敵視は、わが国支配層、とりわけ小泉政権以来の系統的な策動の一環である。
 小泉前政権下の〇五年二月、日米安全保障協議委員会(2プラス2)の「共通戦略目標」で、中国を事実上の「仮想敵国」とし、抑え込む姿勢を示した。
 この下で、小泉、安倍と続く政権は中国への敵視をエスカレートさせた。小泉前首相らの靖国神社参拝、閣僚の相次ぐ「中国脅威」発言、従軍慰安婦の否定など歴史わい曲、領土問題を口実にした対中敵視キャンペーンなどが相次いだ。
 今回の白書でも、中国の「軍事力近代化」への「警戒感」という形で敵視、「中国と台湾の軍事バランス」が「中国側に有利な状態へと向かって変化しつつある」などと言う。台湾は中国の一部であり、中台間の問題は中国の内政問題である。これは、一九七二年の日中共同声明などで、わが国歴代政府も認めていることだ。しかし、白書は「バランス」うんぬんなどと言って、中国の内政問題に公然と介入しているのである。
 さらに、日米同盟強化と併せ、オーストラリアやインドとの連携強化を打ち出し、中国をけん制している。MDシステムの真のターゲットが中国であることは、白書で中国のミサイル実験を大げさに取り上げていることからも明らかである。
 マスコミも、白書にあらわれた中国敵視を「妥当な分析」(産経新聞)と誉(ほ)めそやし、「中国に対し、安全保障上の懸念はきちんと伝えるべき」(読売新聞)と政府に追随している。
 昨年十月、誕生直後の安倍政権は中国との関係を「改善」したが、こうした中国敵視の姿勢に本質的な変化がないことは明らかだ。
 この白書に対して、中国外務省は「強い不満を表明する」と反発しているが、当然であろう。

安倍政権の策動は亡国の道
 安倍政権は「主張する外交」「戦後レジームからの脱却」を掲げて登場し、対米追随の軍事大国化を進めている。朝鮮への制裁と在日朝鮮人弾圧と排外主義の扇動、「核武装」発言の公然たる登場、憲法改悪のための国民投票法や教育基本法改悪、集団的自衛権の行使容認を打ち出した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(有識者懇)の組織化などである。さらに、白書でも触れられている防衛省への昇格、MD構想の前倒し、米軍再編推進法、イラク特措法の延長、日米豪防衛首脳会議など、わが国の将来を危うくする動きが急速に進んだ。
 とくに、MDシステムにおける日米の協力強化が、四月の日米首脳会談以降急速に進んでいる。日米は七月六日、MDの共同対処訓練を日本近海で実施。有識者懇は、「米国に向かう弾道ミサイルは自衛隊が迎撃すべき」とする方針を固めた。MD関連の軍事技術について、日米企業が直接交換できるようにする態勢づくりも進んでいる。
 対米追随の軍事大国化策動は、衰退する米国が、わが国に対してよりいっそうの「貢献」を求めていることに応えるとともに、世界中に持つ権益を武力が武力で守られることを願う、わが国多国籍大企業の要求に基づくものである。ひと言でいえば、わが国巨大独占体の国際市場における覇権的利潤追求のための政治を着々と進めているのである。
 中国、あるいは朝鮮敵視の強まりは、これを首尾良く進めるためのものでもある。
 だが、これは米国に追随してアジアに敵対する戦争の道にほかならない。イラク戦争で泥沼に陥り衰退ぶりが顕著な米国の足元を見て、帝国主義列強のみならず、中国やロシア、インドなど各国は駆け引きをあらわにし、世界は多極化に向かっている。こうした中での安倍政権の選択は、まさに時代錯誤のものだ。

安倍の対中敵視暴露せぬ共産党
 安倍政権の危険な中国敵視政策を暴露しないことで、客観的には、この策動に加担する役割を演じているのが共産党である。
 共産党は防衛白書について、「赤旗」七月七日付の記事、および十日付「社説」で論評している。なるほど、「海外派兵の本来任務化」など、米国の戦争に追随・協力する白書の危険性については、それなりに言及してはいる。
 しかし、この両記事のどこにも、「中国」「台湾」への言及はない。つまり、安倍政権の下で初めて発表された白書が、中国への敵視を強めていることに対する、暴露や批判はいっさいないのである。
 共産党はかねてから、中国の内政問題にほかならない台湾問題について、「武力統一に反対」と主張してきた。この点で、台湾問題を口実に中国への干渉を策動する、米ブッシュ政権や安倍首相などわが国反動派と同じ立場に立ってきた。
 このような共産党ではあるが、〇五年度防衛白書に対しては、米軍再編について述べた部分で、中国と朝鮮を「事実上仮想敵」とするもので「アジアでの軍事的緊張を高めることになります」と「批判」していた(〇五年八月三日付「赤旗」社説)。
 二年前には言及し、今回は無視する。この間に、わが国政府は中国への敵視政策をやめたとでも言うのであろうか。そうでないことはすでに述べた通りで、白書が対中敵視をあらわにしていることは、マスコミでさえも指摘しているほどだ(もちろん「支持」する立場からだが)。
 変化したのは、共産党の方である。かれらは、安倍政権による対中関係「改善」をもろ手をあげて「歓迎」した。小泉前政権下で悪化した対中関係の改善は国民の願いであったにしても、財界などわが国支配層も、対中関係が一定「改善」されることを望んでいたし、核実験を行った朝鮮への包囲網に中国を巻き込むためにも、安倍は「改善」を演出する必要があった。この背景に気づかず、あるいは意識的に無視して、共産党は事実上、安倍政権の対中政策を支持したのである。
 このような共産党の態度からすれば、安倍政権が対中敵視政策を捨てていないことを批判できるはずもない。さらに、中国の「脅威」を口実として、わが国支配層が進める対米追随の政治軍事大国化策動と闘い、アジアと共生する新しい国の進路を提起することもできない。共産党は安倍政権の対中敵視政策を暴露せずに、米軍再編やMD配備とどう闘おうというのか。
 このような共産党の態度は、わが国の自主的な国の進路、アジアの平和を願う人びとによる闘いの発展を妨げる、犯罪的なものである。
 独立・自主の国の進路を切り開く上で、共産党に期待することはできない。労働運動を中心とする広範な国民運動こそ、事態を真に打開できるもっとも確かな道である。


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