労働新聞 2007年7月5日号・2面 社説

骨太方針2007

国民へのさらなる犠牲
押しつけ許すな

 安倍政権初の「経済財政改革の基本方針二〇〇七」(骨太方針〇七)が、六月十九日に閣議決定された。この骨太方針は、来る参議院議員選挙を意識してかなり策略的・欺まん的である。それでも、安倍政権が経済・財政面で何に直面し、何をやろうとしているのかが、ある程度読み取れる。

改革政治の継続表明した骨太方針
 安倍政権の「飼い主」とも言うべき日本経団連は、本年一月の「御手洗ビジョン」で、消費税率の最大五%引き上げを柱とする税制改革、経済連携協定(EPA)拡大、道州制の推進と労働市場改革などを掲げた。日本の多国籍企業が国際的な競争に勝ち抜くために国内の改革加速が必要であると、安倍政権にハッパをかけた。
 今回の骨太方針は、財界のこの要請に応えたものである。今回の骨太方針は、(1)成長力の強化、(2)二十一世紀型行財政システムの構築、(3)持続的で安心できる社会の実現の三つから成り立っているが、その中心的な課題は、わが国の人口減少と財政難という条件の下で、いかにして経済成長を実現するのかに据えられている。
 この骨太方針について、財界など支配層の一部やマスコミは、公共投資削減を明記しなかったことや消費税を含む税制改革を秋以降に先送りしたことなどをあげて、「改革路線からの後退」と危ぐの念を表明している。
 仮にそうだとしても、安倍政権が参議選を前にして国民の不満の前に一時的にたじろいだということである。併せて安倍政権は、小泉政治で疲弊(ひへい)した地域経済、国民生活の急速な悪化、富める者と貧しい者との二極分解の著しい進行に直面し、それへの一定の対処を余儀なくされてもいる。「成長重視」と言わざるを得ないのは、そのためでもある。
 しかし、改革政治自身が放棄されたわけではない。わが国多国籍企業が国際競争に勝ち抜くための改革政治を進めるという点で、安倍政権は小泉政権と同様なのである。
 大多数の国民からすれば、今後の骨太方針の具体化は(もちろん参院選の結果にも制約されるであろうが)、苦難の道である。安倍政権への不満と怒りは強まることは明らかで、闘いが求められている。

「成長戦略」で経済はよくならない
 では、どのようにして日本経済の成長力の強化を図るというのか。
 骨太方針は、中小零細企業が多いサービス分野(卸・小売、運輸、飲食・宿泊、企業サービスなど)でのIT(情報技術)化支援で労働生産性を底上げする、「地域力再生機構」をつくり、地域再生に取り組む、そして医療・福祉など消費者ニーズが高い分野での規制改革などを挙げている。
 こうしたことで成長力の強化が本当に実現できるのか。
 マスコミも認める通り、現在の「景気回復」は、内需主導のものではなく、外需、つまり「輸出頼み」である。つまり、国際環境の変化に大きく依存する、きわめて不安定なものなのである。
 真の「景気回復」、つまり内需拡大には個人消費の拡大が必要で、そのためには労働者の賃金の向上が必要である。しかし、事態はまさに逆行している。小泉改革の六年間で労働者にリストラ攻撃が加えられ、年収二百万円以下の不安定雇用労働者が増大している。労働者一人当たりの基本給は下がり続け、この四月は二十五万一千円と、景気がどん底だった五年前から見ても一万円も下がっている。
 しかも今後、賃金が上がる見通しはあまりない。大企業は業績はよいが、「国際競争に備える」ということで労働者の賃金を低く抑えているからである。それどころか、安倍の言う「イノベーション」には、狭義の技術革新にとどまらず、「ホワイトカラー・エグゼンプション」というタダ働き残業容認など、労働市場の規制緩和(労働ビッグバン)が含まれている。労働ビックバンで賃金を切り下げ、国際競争力を高めることが狙いだ。
 「中小企業底上げ」にしても、IT化支援だけではどうにもならない。内需拡大を中心に日本経済全体がうまくいくことが中小企業振興の最低の前提条件であろう。しかし、安倍の関心はそこにはない。
 地域経済の再生についても、真剣に考えているとは思えない。「地域再生」といっても、大都市部を除けば、農林水産業を抜きにはあり得ない。その農業・食料政策を国のあり方・進路の中に明確に位置づけ、財政的な保障をしない限り、疲弊した日本農業が救われないことは明らかだ。骨太方針は「農地改革案」の取りまとめをうたい、農業経営者への農地の集積や法人経営の促進を明記している。これでは、主に家族経営で進められてきたわが国農業がますます衰退することは明らかだ。
 もう一つ重要なのは、「グローバル化改革」に関連する問題である。安倍は今国会での施政方針演説でも「アジアなど、海外の成長や活力を日本にとりいれる」と強調している。具体的内容は「EPA推進」であり、多国籍企業の利益のために、農業をはじめとする国内産業を犠牲にするものだ。安全保障面でも、米国と組んでアジアに対峙(たいじ)するという危険な道を選択していることは言うまでもない。
 これでは真の景気回復、内需拡大やアジアと結びついた成長などできるはずもないのである。

「財政再建」口実とした増税
 わが国支配層にとって、激動する世界で陣取り合戦に打ち勝つためには、「成長」と合わせ、膨大な政府(中央、地方)財政の赤字を圧縮し、「健全化」することは不可欠の課題であろう。安倍政権にとって、財政再建は最重要な課題である。
 骨太方針は、昨年の骨太方針で示された歳出・歳入一体改革の実現、抜本的な税制改革、公務員制度改革、道州制を含む本格的な地方分権改革などを掲げている。安倍には、二〇一一年度までに財政のプライマリー・バランス(基礎的財政収支の黒字化)の実現が迫られる。
 歳出削減といっても、問題になるのは福祉や教育、医療など社会保障分野であり、もう一つは地方交付税や補助金・国庫負担金など地方財政関連である。さらに公務員賃金の切り下げであろう。この骨太方針では抽象的な表現であるが、それが書き込まれている。
 すでにこの期間も、「三位一体改革」で地方は荒廃しており、崩壊の危機にあえいでいる。日本経団連など財界が強力に主張する道州制を含めて、攻撃はさらに激化しよう。
 社会保障・福祉面でも、年金、介護保険制度改悪などの国民負担は増大し続けてきた。これも今後さらに進めるということだ。御手洗ビジョンは「社会保障給付の増大を徹底して抑制する」と言い、安倍は忠実にそれを実行しようとしている。
 また、骨太方針は、「二十一世紀型行財政システムの構築」をめざし、所得税、消費税、法人税など税制全般について「総合的に検討」し、税体系の抜本的改革を実現するという。これは、大企業には減税(法人実効税率の引き下げなど)、国民には消費税率の引き上げに帰結する。すでに、定率減税廃止の影響で全国の役所に住民が押し掛ける事態となっているが、負担増はこれにとどまらないのである。
 安倍政権の進める道は、まさに多国籍大企業には恩恵を与え、国民諸階層を切り捨てるものである。
 わが党は、本年年頭、安倍政権の性格や特徴について、「巨大独占体の覇権的利潤追求の政治」と喝破(かっぱ)したが、その後の事態はその正しさを実証した。このような安倍の成長戦略と改革政治に、わが国政治を任せるわけにはいかない。
 安倍政権に対して、すでに全国で不満と怒りが噴出し始めている。とくにEPAをめぐっては、農業者をはじめ、労働組合や地域財界を巻き込んでの闘いが発展している。
 労働運動を中心とする国民運動の形成・発展こそ、確かな力である。わが党は改めて、労働者、国民諸階層、各政党や意識分子に、安倍政権と闘う国民運動を訴える。


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