労働新聞 2007年6月15日号・2面 社説

多極化進む国際情勢

対米追随外交の時代錯誤ぶりは
ますます明白に

 ドイツのハイリゲンダムで開かれた主要国首脳会議(G8サミット)は、地球温暖化ガスの排出量削減や世界貿易機関(WTO)交渉などが議題となった。サミットの内容だけでなく、これを前後する各国の動きにも、この数年間で急速に進む世界政治の変化が見て取れた。
 例えば、米国が計画しているミサイル防衛(MD)の東・中欧配備問題で、米国とロシアは激しく対立し、サミット内の不協和音を大きくした。米欧間でとりあえず玉虫色の妥協が成立した温暖化ガス対策では、サミット参加国だけでは解決できず、G8は中国やインドなどの新興経済国を招いて協力を要請したが、合意にはいたらなかった。
 いまや、米欧日の帝国主義諸列強だけでなく、ロシア、中国、インドなども世界政治のプレーヤーとして無視できない存在となった。「先進国クラブ」と言われたサミットだけで世界を動かすことは、ますます明らかになっている。
 まさに、米国の衰退と世界政治の多極化が急速に進んでいることが印象づけられたのである。

「死に体」となったブッシュ政権
 世界情勢の最大の変化は、冷戦崩壊後、世界の一極支配を事実上誇っていた米国の衰退が進んでいることである。もはや米国の指揮棒で世界政治が動かないことは、誰の目にも明白である。
 それが端的に示しているのは、米国のイラクでの危機と孤立がいよいよ深刻となっていることだ。戦費問題でようやく議会与野党の妥協が成立したが、当のイラクでは毎月百人以上の米兵が死亡するなど、完全な内戦状態である。傀儡(かいらい)マリキ政権も内部分裂を深め、統治能力を失いつつある。
 米国はイラク情勢「安定化」のため、「悪の枢軸」などと敵視し、核を含む先制攻撃の対象としてきたイランとの直接対話に踏み切らざるを得なかった。まさにこれは、米国の弱さのあらわれである。
 アフガニスタンも同様に困難で、旧政権・タリバンの復活は著しく、占領軍は追い込まれている。また、〇一年のアフガン戦争を好機として駐留軍を置いた中央アジア諸国では米軍の撤退を求める声が高まり、一部では撤退に追い込まれた。パレスチナ情勢も、パレスチナ人民とイスラエルの対立激化など、米国が抑え込もうと狙った中東地域の不安定化はいっそう進み、米主導の「和平構想」は完全に吹き飛んだ。
 これらを背景に、ラムズフェルド前国防相、ボルトン前国連大使、ウルフォウィッツ前世界銀行総裁、ペース参謀本部議長など、ブッシュ政権を支えた中心人物は次々にその地位を追われ、議会対策も困難で政権はすでに「死に体」である。
 経済の面でも、米国の「双子の赤字」という構造的問題は解決のメドはなく、基軸通貨・ドルの相対化も進んでいる。米国の旺盛な消費の基礎となってきた住宅バブルにもかげりが見え、株高もバブル崩壊の影におびえる状況だ。

米一極支配揺るがすEUの台頭
 一方、イラク戦争に反対したドイツ、フランスをはじめとする欧州連合(EU)は、対米協調を維持しつつも、米一極支配を相対化させる位置を占めてきている。
 共通通貨、ユーロの地位はますます高まり、ユーロ非加盟国における利用も拡大している。
 政治面でも、わが国マスコミは、フランスのサルコジ新政権を「親米的」などとするが、これは事態の一面でしかない。サルコジ大統領は、一方で「地中海連合」を提唱、東アフリカ諸国を含め、同地域での独自のプレゼンス強化をめざしている。ドイツも対イランで権益を追求している。
 逆に、イラク戦争への国民の不満の高まりの中、ブッシュの「盟友」英国ブレアはついに退陣を表明した。米英同盟自身は維持されるにしても、英国が引き続き米国の世界規模での侵略戦争に無条件で追随し続けることは、容易ではなかろう。

米欧への対抗強めるロシア
 ロシアの変化も見逃せない。
 プーチン大統領は、ブッシュが計画する東欧諸国へのMD配備を激しく非難。併せて、「人権」を口実にロシアや旧ソ連諸国への介入を強める欧米への対抗を強めている。
 とくにMDについては、計画を撤回しなければ欧州を標的に新型中距離ミサイルを配備する可能性にまで言及、冷戦期に締結した中距離核戦力全廃条約の見直しを求める意向まで示して北大西洋条約機構(NATO)をけん制。さらに、米国がチェコにMD関連施設を建設計画していることを逆手に取り、アゼルバイジャンのレーダー施設の共同利用を提案、ブッシュを揺さぶっている。イランの核開発問題、旧ユーゴスラビアのコソボ問題でも、米欧と異なる態度を取っている。
 ロシアは、従来からの核兵器に加え、原油・天然ガスなどの豊富な資源を背景に、大国的な外交政策を強めている。経済面でも、ドル離れを強め、自国通貨ルーブルの地位向上をもくろんでいる。
 もちろん、ロシアは今後も、ときには米欧と協調も見せるだろう。だが、ロシア(あるいは中国)の動向もまた、世界の複雑な多極化を促す要因の一つとなっている。

台頭し、独自性強める中小国
 帝国主義国や大国ばかりではない。
 朝鮮は握った核兵器を手放さず、金融制裁の実質的な解除を求めて、慎重に事態を見極めようとしている。米国の同盟国である韓国は、この朝鮮との対話を進めるなど、柔軟姿勢を堅持している。
 イランも米欧の圧力の下でも核開発の権利を放棄せず、地域大国としての影響力を高めている。
 ベネズエラなど中南米諸国も、独自の国際金融機関づくりなどで自主性を強めている。
 サミットで問題となった温暖化ガス削減にしても、G8の「合意」をよそに、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、メキシコの五カ国首脳は、先進国に都合の良い、一律の削減目標づくりに反発している。
 以上のような世界の変化は、米国が敗北したベトナム戦争当時とはもちろん、わずか六年前、米国が諸国を動員してアフガン侵略戦争を行った当時と比べてさえ、きわめて大きなものがあると言わねばならない。
 世界はまさに、「多極化」が進んでいる。しかも、帝国主義に不利に、それ以外の諸国には有利に動いている。闘う者にとっては、まさに展望の開ける情勢である。

わが国対米追随外交の限界は明らか
 米国の衰退と世界政治の多極化が急速に進み、欧州諸国や中小国が独自の道を進む中、対米追随外交を続けるのが、わが国安倍政権である。
 いまや、ブッシュの「盟友」は安倍とハワード首相(オーストラリア)だけともいえる。安倍をはじめとするわが国支配層は、米国の衰退を知りつつ、それを積極的に支えることを通じて、対米追随の軍事大国化を一挙に進めようとしている。
 安倍は「主張する外交」を掲げ、米軍再編推進法の強行、イラク特措法の二年延長、朝鮮への敵視と制裁、防衛省昇格、MD構想前倒しや「核武装」の公然化、憲法改悪のための国民投票法強行、集団的自衛権の行使容認を狙う策動などである。
 これは、孤立する米国からの対日要求が強まっていることと、わが国多国籍企業が国際競争で勝ち残るために、国際的発言力の強化が必要となったという事情に条件付けられている。しかしこの道は、世界のすう勢に反する時代錯誤のものである。また、アジアと事をかまえることになりかねない亡国の道である。
 野党はもちろん、労働組合をはじめ各界の人びとは、安倍政権の亡国の道を打ち破るために闘いを強めなければならない。
 サミットに先立つ六月二日、ドイツではサミットに反対して八万人が集会、デモを行った。日本の労働者階級も、米国に追随して国民各層を犠牲にして多国籍企業の利益をはかる安倍政権の内外政治に反対して、国民運動で闘おう。


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