労働新聞 2007年6月5日号・2面 社説

小沢民主党の
「与野党逆転」は欺まん
現状打開に向けた真剣な議論と
行動を呼びかける

 議会政局は、参院選を控えて政党間闘争が激しくなっている。
 自民党は、日米首脳会談など外交面での「成果」を強調、地球温暖化対策で新提案をも打ち出して世論獲得を狙っている。一方、「年金時効撤廃」などで野党の攻撃をかわし、与党の過半数維持にやっきである。
 民主党は、国会審議で「対決」姿勢を演出、「格差是正」をアピールしている。
 マスコミも「与野党逆転」に焦点を当てて書きたて、社民、共産などの存在は、すっかりかすんでいる。
 こうした中、連合は中央委員会を開き、比例代表の組織内候補八人の当選だけでなく、一人区をはじめとする選挙区での議席獲得で「与野党逆転」を実現すると意思一致した。
 われわれが見るところ、民主党の勝利は必ずしも保障されていない。だが問題にしたいのは、仮に民主党が躍進し、参院での「与野党逆転」が実現したとして、労働者をはじめとする国民各層の困窮化が解決されるのか、さらには安倍政権が踏み込んだ対米従属下の軍事大国化にストップがかけられるのか。それは幻想で、現状を打開する道が求められている。
 安倍政権が登場、国を危うくする重大な転機が一挙にあらわれた下、労働組合の先進的活動家の皆さんに真剣な議論と共同を呼びかけたい。

問われる安倍政権との対抗軸
 安倍政権の登場で、わが国は重大な局面を迎えている。
 安倍政権は、小泉政権の後継として登場し、一握りの多国籍企業の手先という階級的性格は同じだが、異なった特徴がある。それは、世界での反米闘争によって米国が衰退して「多極化」が進み、また小泉前政権が内外政治で行き詰まった中で登場したことと関連して、「主張する外交」を掲げ、「在任中の憲法改悪」を公言する政権だということである。それは安倍個人のタカ派的性格からではなく、わが国に米国からの要求が強まり、多国籍企業が国際競争で勝ち残るために、国際的発言力の強化が必至となったという事情に深く条件付けられている。
 それゆえ安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を公然と唱え、朝鮮の核実験を口実に一気に、対米追随の軍事大国化を進めている。朝鮮制裁と在日朝鮮人弾圧、防衛省昇格、核武装問題、さらにミサイル防衛(MD)構想の前倒しや米軍再編推進法の強行、イラク特措法延長、日米豪防衛首脳会議など日米同盟の強化を世界的範囲で進めた。国民投票法強行、集団的自衛権の行使容認をもくろむ「有識者懇」発足なども進めている。しかし、これは亡国の道である。アジアと敵対してどうして日本は生きてゆけるのか。
 これを直視するならば、野党はもちろん、労働組合をはじめ各界の人びとが、安倍政権の亡国の道を打ち破るために、いかに闘うか、知恵を絞り、力を出し合うべきである。

小沢民主党は対抗軸にならない
 連合傘下の労働組合の活動家諸君に率直に申し上げたいのは、こうした重大な局面で、小沢民主党は安倍政権の亡国の道の対抗軸になっていないばかりか、「格差是正」だけを争点とすることで、安倍政権の亡国の道に手を貸す反動的役割を果たしているといういうことである。
 事実は雄弁である。重大な局面で争われた沖縄の参院補選での野党候補の敗北は、何を示しているか。小沢は「組織力不足」を敗因に挙げたが、それは事実と違う。沖縄では、一貫して米軍基地問題が最大の争点で、安倍政権の軍事大国化と結び付けて批判し、アジアとともに繁栄する沖縄、国の進路を争点化して闘えば、組織力が劣っていても県民多数の支持をうることは可能であった。だが、民主党はそれを意図的に争点からはずし、「格差是正」のみに狭めて、相手候補を有利にした。これは、正面から基地問題で争った宜野湾市長選挙で勝利した事実と比較すると明らかである。
 問題は、こうした民主党の態度は、単なる選挙戦術上の判断の間違いではなく、民主党の本質的な性格から来ている。民主党には、前原前代表をはじめ安倍と変わらぬ連中がおり、安倍政権に対抗軸が示せない。さらには、民主党は、政権がどちらに転んでも財界の利益が守られるという保守二大政党制のための一方の装置であり、日本経団連の献金も受けている。したがって「対決」などと言っても、国の基本政策での対抗軸など示せるはずがなく、「政権交代」によって実現できることは、財界が許容する範囲での「改善」にすぎない。労働組合や国民が期待する生活の真の安心・安全も、まして独立・自主でアジアと共生する国の進路の転換などありえない。
 一九九三年以来の経験を振り返ってみれば、小沢民主党の本質はいっそう明らかになる。小沢は財界の意をくみ、自民党の最大派閥から飛び出して、最大野党の社会党を政権に取り込み、解体し、二大政党制への道を開いた張本人ではないか。
 かれが昨年民主党代表に就任して以降の最大の課題は、「政権交代」を実現して保守二大政党制を完成させることで、そのために参院選での「与野党逆転」をやり遂げることであった。それには何より、選挙運動の手足として連合の力が必要で、自治労をはじめとする官公労組合対策に腐心した。連合と「ともに生きる社会」の共同宣言を発表、懐刀である平野前参議院議員を使って官公労の「左派」幹部工作を進めてきた。一人区対策でも自治労役員を重視し、「野党共闘」を唱えながら、「まずは与野党逆転を」と社民支持幹部さえなびかせてきた。
 先進的活動家は、こうした小沢民主党の現実の役割、苦汁をなめさせらた過去を思い出すべきだ。民主党の言う「与野党逆転」は、組合にとって自殺行為にほかならない。
 こうした二大政党制への再編に呼応するかのように、労働運動の中で改憲を公然と掲げる新たなグループを形成しようとする動きがあることにも注意を喚起し、労働運動内部での公然たる論戦、闘争が不可避だと訴えたい。それは旧同盟系労組を母体に存続してきた友愛会議を衣替えし、「政研フォーラム」を旗揚げしようとする動きである。この「設立趣意書」は「民主的な政治体制の基盤を支える思想ではない勢力」が、「『人権』『平和』『環境』などを声高に唱え、わが国の政治は混乱が続いている」「現行の憲法の見直しなどを通じ、戦後日本で希薄になった国民意識を回復し、健全な国家観をはぐくんでいく」などと訴える。この動きを放置しては、労働運動が安倍政権との闘いで先進的役割を果たすことはできない。

真に展望ある闘いの道
 小沢民主党の「与野党逆転」、保守二大政党制路線ときっぱりと手を切り、真の展望のある打開の道を選択し、行動に移るべきときである。
 真の打開は、労働者が自立し、議会主義の野党に頼らず自ら闘う、政治を握る覚悟を持った巨大な労働運動と革命的な政党なしにはあり得ない。先進的労働者に、わが労働党への結集を呼びかける。
 また、支配層の進める保守二大政党制が進み、社民勢力にはますます展望がない。わが党が九〇年代以降の経験や現状を踏まえて提唱してきた、社民勢力を中心に安倍政権との闘いを望む広範な人びとによる「議会主義の新党」は展望であろう。
 対抗軸については議論を通じての合意が必要だが、安倍政権の対米従属、アジア敵視の大国化に反対し、独立・自主でアジアの共生を実現する、憲法改悪阻止などの政策方向と一定の議席数があると共に、強力な国民運動が展開できるような条件が必要だろう。
 労働組合のまじめな幹部も、民主党の政策を心底から信じて「民主党基軸」を選択しているわけではない。だから、この提案に沿った動きが出てくれば、大きな影響が出るに違いない。この問題は、第一義的には政党、とりわけ社民党、新社会党など党、政治家の選択の問題だが、この間の経験からして、労働組合の社民勢力の皆さんが率先して踏み込むことが必要ではないか。
 われわれはこの「議会主義の新党」には加わらないが、このような党は安倍政権と闘う国民運動の発展に大いに貢献するに違いない。だから、社民勢力の皆さんが決断されるのであれば、できる支援は惜しまない。
 政治の転換は一党でできる事業ではなく、広範な統一戦線なしには不可能だからである。


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