労働新聞 2007年5月25日号・2面 社説

集団的自衛権の行使容認
もくろむ安倍政権

米国に従い、アジアに敵対する
亡国の道許すな

 「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権は、歴代政権さえも「憲法上の制約」を理由に認めてこなかった集団的自衛権の行使容認に向け、策動を強めている。
 安倍首相は、昨秋の自民党総裁選の公約にも「集団的自衛権の事例研究」を掲げていたが、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(座長・柳井前駐米大使、以下「懇談会」)なるものを発足させ、五月十八日に初会合を行った。安倍首相は、(1)米国に向かう弾道ミサイルの迎撃(2)公海上の米艦船への攻撃に対する応戦(3)国連平和維持活動(PKO)などでの他国軍隊の救援(4)PKOなどでの後方支援という四つの事例をあげ、検討を指示した。
 「懇談会」の顔ぶれは、安倍首相のブレーンである岡崎久彦・元駐タイ大使、葛西敬之・JR東海会長、中西寛・京大教授など、従来から対米追随の政治軍事大国化を唱え、集団的自衛権の行使容認に積極的であった人物ばかりである。
 「懇談会」は秋までに結論を出すとされるが、結論はすでに見えており、集団的自衛権の行使容認に踏み込むための「手続き」に過ぎないことは明らかだ。また、検討する四項目がきわめて具体的なものである点にも、安倍政権がこれまでの政府見解をもくつがえし、集団的自衛権の行使容認に並々ならぬ決意を持っていることがあらわれている。
 集団的自衛権の行使容認は、わが国をよりいっそう米国の戦略に縛り付ける危険な道である。それは、わが国をアジア・中東諸国、人民と敵対させる亡国の道で、断じて許してはならない。

落ち目の米国支える集団的自衛権
 安倍政権がいま、集団的自衛権の行使容認を行おうとしているのは、米国の要求にそったものである。
 米帝国主義はイラク占領に手こずり、軍高官が「(安定には)あと十年かかる」と述べざるを得ないほど、中東人民の抵抗に追いつめられている。朝鮮やイランなどの中小諸国も、帝国主義の支配に粘り強く抗している。ロシアや中国も、ときに米国に協調もしながらだが、多極化の流れを後押ししている。
 「手の伸びきった」米国は、世界にわずかとなった「頼れる同盟国」として、日本が「英国並み」の同盟国になることを欲している。
 だからこそ、二月に発表された、アーミテージ元米国務副長官らによる「第二次アーミテージ報告」では、日本が集団的自衛権の行使を認めていないことを日米同盟の「制約」と位置づけたし、シーファー駐日米大使も「日米同盟の役割と将来にとって絶対に不可欠」と、政府に集団的自衛権の行使容認への決断を迫ったのである。
 他方、わが国支配層も、この米国の衰退を見ながら、むしろ積極的に支えることを通して政治軍事大国化を実現し、国際政治上の発言力を増そうと画策している。背景には、米ドル体制に依存しながら膨大な権益を世界中に持ち、軍事力によってそれが守られることを願う、わが国多国籍大企業の存在がある。
 先の日米首脳会談で、安倍首相が「懇談会」の設置をわざわざブッシュ米大統領に報告、ゲーツ国防長官から「努力をたたえる」と「評価」され有頂天になっているのには、こうした背景がある。
 すでに日米両国は、日米安保共同宣言(一九九六年)以降、米国の世界戦略に沿い、中国、朝鮮を事実上の「仮想敵」とする共通戦略目標合意(〇五年二月)、在日米軍再編の正式決定(〇六年五月)と、同盟強化の道を進んできた。
 集団的自衛権の行使容認は、この流れの「集大成」ともいうべきものなのである。米軍と自衛隊を一体化させ、日本が米国と肩を並べて海外で戦争を行える国となることを狙うものである。
 安倍は「戦後レジームからの脱却」などと言い、集団的自衛権の行使容認で日本がさも一人前の国家になるかのごとき言動をはいているが、対米追随の大国化なのである。

集団的自衛権容認は実質的な改憲
 現在、自衛隊の海外派兵は常態化し、アフガニスタンでの「反テロ戦争」を名目にインド洋上で米軍艦船に補給を行い(テロ対策特措法)、さらにクェートを拠点に、イラクを占領する米軍支援のための輸送(イラク特措法)を行っている。今月初旬に行われた日米安保協議委員会(2プラス2)では、ミサイル防衛(MD)の前倒しで合意、米国だけでなく、オーストラリアも加えた研究も検討されている。さらに、航空自衛隊は常時、米軍に管制情報を提供、その戦闘活動を支えている。
 このように集団的自衛権の行使は事実上容認されているも同様ではある。だが、政府見解が変更されれば、「戦闘行為が行われないと認められる地域での後方支援」という、法解釈上の「限界」を突破して、また従来のような「特措法」方式による立法によらず、海外派兵と米軍との共同作戦がいっそう大手を振ってまかり通ることは明白である。
 憲法改悪の最大の眼目の一つも、この集団的自衛権の行使容認である。先に国会を通過した、改憲手続き法である国民投票法は三年間凍結されるため、憲法改悪の発議は早くても二〇一〇年となる。ゆえに安倍政権は、憲法改悪を待たずに集団的自衛権の行使容認を認めるためにも、「懇談会」を組織したのだ。

民主党の態度は安倍政権と同じ
 この問題をめぐる政党の態度についてふれておかねばならない。
 与党の一角、公明党は「懇談会」の設置を容認しながら、「集団的自衛権の行使は認めない」などというペテン的態度をとっている。この党は、とうに「平和の党」ではなくなっているが、この期に及んで「右傾化の歯止め役」のごとく振る舞おうとすることには、徹底的な批判が必要である。
 また、野党の民主党は、集団的自衛権の行使を容認している点で、安倍政権と違いはない。
 民主党の枝野・憲法調査会長は、「懇談会」で議論される四事例について「全部問題ない」と発言するなど、安倍政権と同じ立場である。前原・前代表にいたっては、九八年当時から「憲法解釈を変更すべき」と主張してきた札付きの人物だ。
 これらは、民主党の一部の見解ではない。現に、七月の参議院選挙に向けた「政権政策(たたき台)」(昨年十一月発表)では「個別的・集団的といった概念上の議論の経緯に拘泥(こうでい)しない」と、事実上、政府の憲法解釈を見直す方針を掲げた。これは、マスコミが「米軍艦船の護衛など、これまで集団的自衛権の行使に当たるとされてきたケースの一部容認を想定している」(毎日新聞)と論評したもので、民主党もこれを否定せず、まさに安倍政権に呼応したものであった。
 民主党は「与党との対決」「政権交代」などと吹聴しているが、これだけを見ても、外交・安全保障問題では政府・与党と違いはなく、争う点がないのである。だから、小沢は「格差」を強調することで、国政選挙である参議院選挙の争点を内政問題に限定しようとしている。
 このような小沢民主党が政権についたとしても、細川政権、村山政権と同様、政治に根本的な変化が生まれるはずはない。
 民主党への幻想を捨て、安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認に反対しよう。労働者・労働組合はもちろん、学者・文化人、青年など、幅広い国民運動で策動を打ち破ることが求められている。

集団的自衛権
 「外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力で阻止する権利」とされる。歴代政府は、日本も「集団的自衛権を持っている」としつつ、憲法上の制限によって「集団的自衛権を行使することは、憲法上許されない」としてきた。


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