労働新聞 2007年5月15日号・2面 社説

統一地方選、参院補選の結果について

 第十六回統一地方選挙と参議院補欠選挙が、四月二十二日に終わった。
 今回の選挙は、統一地方選前半戦が全国十三都道県知事選挙と政令市議・市長選挙および四十四道府県議選挙、後半戦は一般市長、区長、区町村議選挙などが闘われた。また、同時に参院補欠選挙が福島、沖縄の両選挙区で闘われた。
 選挙結果には、それぞれ異なった特徴があるものの、評価に当たっての共通の関心事は、夏の参院選にどう響くか、ということであった。
 とりわけ、県議選挙は各党の消長が参院選の組織的基盤、力関係に反映するという意味で、また、知事選挙は議員選挙などと異なり、全県一区で闘われ、世論の動向を比較的あらわしやすいという意味で、その結果が注目された。
 さらに参院補選は、通常の時期と異なり、夏の本選直前ということで、過半数獲得を目標とする与野党の現在の力関係と獲得議席目標をも左右し、政党支持率も本選結果を予測させるものとして注目された。

各党の消長とその評価
 参院補選は、福島では知名度で勝る民主党公認候補が、大差で自公与党候補を破り議席を守った。沖縄では自公与党候補が接戦とはいえ野党候補を破って議席を奪い、与野党対決の結果は一勝一敗となった。
 知事選挙では、現職九人が全勝した。民主党は、小沢代表が言うほどには対立候補を立てられず、一部では自公与党と相乗りするなどした結果、自民、民主対決型の構造は五県にとどまって、それも与党候補が三勝二敗となった。知事選全体での与野党の勝敗は必ずしも鮮明とはならなかったが、自民党が負けなかったことは確かであった。
 道府県議選挙では、自民党は、前回比九十七議席も減らし、千二百十二議席。議席占有率も四九・七%から四七・六%へと大幅に減らした。また、一般市議選挙でも同様の傾向で、二百十六議席減らし五百九十八議席へと後退した。
 公明党は三議席増で百八十一議席となり、占有率も六・八%から七・一%への微増となった。市議選では百六十六議席減らしたが、定数削減の中、占有率では一一・一%から一二・一%へとわずかに伸ばした。
 自民党の、農民、自営業者や地方経済その他を犠牲にする改革政治で深刻な不満が高まり、歴史的支持基盤の自民党離れが続いていると見ることができる。したがって自民党は、参院選でも公明党依存を深めざるを得ず、この党の組織基盤はいっそう衰退する傾向である。
 民主党は、県議選で百七十議席増で三百七十五議席。占有率は七・八%から一四・七%へと前進した。市議選挙でも八十三議席増やし三百七十五議席へと前進した。
 この党は、県議、市議選で候補者数を増やし、また無所属の現職を党公認で擁立することで、議席を増やすことに成功した。また、都市部を中心に「支持政党なし層」の票を、自民党に比して多く獲得した。
 最大の原因は、候補者も選挙運動も労働組合の連合が全国で支えたことで、「与野党逆転」の幻想を振りまき、連合指導部を抱き込んだ小沢戦略は、この意味で功を奏した。
 共産党は、県議選で七議席減らし百議席に。占有率も四・一%が三・九%へと後退した。市議選では百六十八議席減の七百七十一議席となったが、定数削減の中で、占有率ではほぼ現状維持であった。
 共産党が議席を減らしたのは民主党が伸びた県が圧倒的で、自民、民主の争いに跳ね飛ばされたといえる。
 一方、社民党は、県議選で二十一議席減らして五十二議席に大きく後退。占有率も二・八%から二・〇%へと減らした。市議選でも九十六議席減らして百四十三議席に後退。占有率も二・三%から一・八%へと後退した。
 社民党は、東北、九州、北陸など比較的党組織が残っていた県で県議の議席を減らしたが、これもおおむね民主党が前進した県である。
 結果を受け、各党はこれを論評することで自党の宣伝に努め、あるいは、教訓をつかんで政策、組織のてこ入れを行い、夏の参院選での前進を図ろうと必死である。
 今回の結果は、一般的にいえば、国政選挙での基盤である県議選、さらに市議選で自民党が大きく減らしたこと、民主党が躍進したこと、この限りでは民主党の前進で、優位に立ったように見える。社民党の激減、共産党の後退で、二大政党化もより形になってきたように見える。
 しかし、それは参院選での民主党の勝利を必ずしも保証するものではない。選挙は組織力、候補者数や知名度、さらに有権者の意識をうまくとらえられるかという意味での政策など、いくつかの要因が優劣に影響する。だが、今回の民主党優勢の要因が、以降も持続されるか否か、それは定かでないからである。

民主党の問題について
 支配層の進める二大政党制は、どちらの党が政権を握っても支配層の政治支配が守られるという意味で、まったくの欺まんである。
 「与野党逆転」とか「対決」などといっても、それぞれの政党が掲げる政策は、どちらもしょせん支配層の容認する範囲のことで、その利益を侵すことはあり得ない。
 したがって民主党は本質的に、国民の重大問題の解決で、自民党に対する真の対抗軸など示せるはずがないのである。今回の選挙は、そのことを見事に暴露するものとなった。  民主党は、一連の選挙で「格差是正」を中心的な争点として闘った。参院選もこれで闘う方針である。
 格差問題は、低賃金、不安定雇用や福祉切り捨てなど労働者の問題だけでなく、農民、自営業者、企業間格差、地域間格差など、小泉、安倍政権と拡大され、深刻化したのは事実で、民主党が有権者の支持を一定程度獲得できた根拠であった。
 しかしそれは、あくまで一定程度に過ぎず、限界も露呈した。
 格差問題が深刻だった北海道の知事選挙では、民主党候補が惨敗した。それは、民主党が多国籍大企業の利益のために国民に犠牲を押しつける改革政治に反対できず、むしろ改革推進の立場に立っているからである。だから、民主党は格差の真の理由も暴露できず、政策も中途半端なものにならざるを得なかった。北海道の有権者は、格差が深刻であるがゆえに、「与党の力で格差是正を」と国政とのパイプ、財政的裏付けを強調した現職の与党候補に期待をつなぎ、投票した。
 また、民主党は沖縄参院補選でも格差是正を争点に、小沢代表以下幹部を張り付け、重視し闘ったが、敗北した。小沢代表は「力負け」と、組織力不足を敗因にあげたが、それは事実ではない。
 沖縄では、米軍基地問題が本来、重要な争点であった。しかし、民主党はそれを意図的に争点からはずし、選挙政策を「格差是正」のみに切り縮めた。
 米軍再編への協力、普天間基地の県内移設など不利な課題を抱える自民党も、基地問題が争点化するのを避け、いずれも内政で闘った。
 その結果、基地問題は焦点化されず、格差問題では国政とのパイプを強調し、経済振興策などを示した与党候補が業界団体や公明票をまとめて逃げ切った。
 これは、参院補選と同じ政党関係の下で闘われた宜野湾市長選挙で、現職の伊波候補が基地撤去を正面に掲げて、自公推薦候補に圧勝したこととは対照的であった。
 本来、国の存亡にかかわる重大な情勢に際して、国政を争おうとすれば、国の進路、安全保障を含む外交全般と内政は不可分で、安倍自公政権に対して決定的な対抗軸を示すべきである。
 だが民主党は、安倍と寸分違わぬ売国奴、多国籍大企業の走狗(そうく)たちがいて、集団的自衛権行使はもとより、憲法改悪から核武装まで公言するほどの実態がある。重大な日米関係、外交の課題で対米追随の与党への対抗軸が示せない。
 格差問題だけを争点に国政を争うつもりのようだが、これとて改革に対する基本的な姿勢で、安倍政権と相違があるわけではない。ここに民主党の欺まん性と限界がある。
 すでに安倍首相は、この民主党の弱点を見抜いて、対中関係の改善、日米首脳会談と中東歴訪など外交的「成果」を演出、朝鮮敵視で排外主義をあおり、内政でも国民投票法を国会で押し切り、改憲を真正面に掲げて、国民世論を獲得することで、参院選に勝ち抜こうとしている。
 さらに、今回地方選の投票率は軒並み過去最低であった。道府県議選の平均投票率は過去最低。知事選も過去三番目の低さ。市長選、市議選、そして町村長、町村議選の投票率も過去最低を記録した。
 今回の地方選挙は、きわめて深刻な国民生活の危機、自治体のあり方が切実に問われた下での選挙であった。しかも、夏の参院選挙での与野党逆転の可能性が言われ、その前哨戦として各政党も騒ぎ、マスコミもまたあおり立てた。
 にもかかわらず、多くの有権者は騒ぎに踊らず、投票所に行かず、棄権した。これが多数派であった。
 多くの有権者は自らの希望、要求を託す候補、政党が見つけられず、むしろ「どれも悪党ばかり」と既成政党への不信を強め、選挙それ自身にも期待を抱かなかったことを示す。
 知事選挙では、何人もの有力候補が、実質上政党の支持を受けながら、推薦を断った。推薦を受ければ不利に働くと判断したからである。
 出口調査によれば、投票した有権者の中でも「支持政党なし層」が増加しているが、そこにも政党不信があらわれている。
 参院選に向けて、今回の棄権者を投票に参加させ、「支持政党なし層」を獲得しようと、政党が大きな関心を示すのは当然である。
 調査によれば、知事選、県議選で、都市部を中心に「支持政党なし層」が自民より民主を支持した割合がやや多かった。しかし、この「風」がいつまで吹くか。それはまったく不確かで、以降も持続する保証は何もない。
 次の参院選で、棄権者が増えるのか減るのか、「支持政党なし層」が、与野党どちらに大きく傾くか、これらは、どういう争点が提起されるか、どのように闘われれか、これらにもかかっている。
 結果としてこの層の動向もまた、参院選挙の帰すうを決する大きな要因と見なければならない。

社民党にとってどんな展望があるだろうか
 社民党は国政選挙の基盤となる県議、市議の議席を大きく減らした。
 新社会党も伸びたともいえまい。
 この現状から見て参院選、あるいは以降の国政で社民党も新社会党もどういう展望が描けるのだろうか。
 社民党は、参院選に向け民主党と「選挙協力」を進めている。一人区での前進をめざす小沢戦略にそって選挙区で候補者を立てず、比例での現状を維持しようということだろうが、これでは現状維持も難しく、政党としては自殺行為であろう。
 わが党はこれまでも社民党・社民勢力に、新たな、より大きな展望のある党をめざす選択を呼びかけてきた。それは支配層の二大政党制戦略、それと闘い打ち破るための、九〇年代以降の歴史的経験や現状を踏まえてのものである。
 わが党は目下、自らの党を拡大、強化することを中心任務としている。それでも国民運動の大前進は、党の事情にかかわらず、どの政党にとっても避けがたい任務である。
 国民の多数が必要とする大きな政治転換は、一党だけでできる事業ではなく、広範な統一戦線なしには不可能である。その意味でわが党は、社民党・社民勢力の皆さんの、現状を打開するための大きな選択を切実に望んでいる。
 したがって、社民党・社民勢力の皆さんが決断されるのであれば、わが党は、できるだけの支援は惜しまないし、それはまた可能である。
 安倍が登場し、国を危うくする重大な転機が一挙にあらわれたこの情勢下で、わが党はもう一度この問題を提起しておきたい。

 わが党は今回地方選挙で、わずかな候補者を立て、若干の成果があった。党組織と党の活気は上向きとなった。だが、情勢にこたえうるにはもっと大きな努力と大前進がなければならない。そのために全力を尽くしている。
 わが党は、重大な時局に際して、闘う人びと、諸勢力、党派との団結を熱望している。そして、売国的、亡国的な安倍政権と闘う、行動する広範な国民運動を形成するために全力をあげる。


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