労働新聞 2007年4月15日号・2面 社説

イラク首相来日

国益損ねる安倍政権の中東外交

 安倍首相は四月九日、来日したイラクのマリキ首相と会談し、両国の「長期的・戦略的パートナーシップ」構築で合意した。
 「パートナーシップ」の目玉は、イラク特措法を二年延長し、航空自衛隊による「支援」活動を継続することである。併せて、イラク南部バスラの製油所改修などを目的に、一千三十億円の円借款を約束した。
 イラクにおいては、占領に対する人民の抵抗が激しく続き、増派に追い込まれた米軍をいっそう追い込んでいる。マリキ政権は米国の傀儡(かいらい)にすぎず、二〇〇六年五月の発足当初から、イラク国民を代表するものではないことは明らかである。
 米国はこんにち、イラク、イランなど中東における懸案をなんら解決できず、近隣のアフガニスタンでも追いつめられ、力の衰えをあらわにさせている。先日のアラブ首脳国会議で、親米国とされるサウジアラビアの国王でさえもが、米国のイラク占領を「違法」と非難せざるを得なかったのは、この反映にほかならない。
 このような時期に、安倍政権がマリキ政権と「パートナーシップ」と結んだことは、崩壊しかかった米国の中東戦略に追随し、これを支える意思を示したものであるといえる。
 同時に、海外派兵を通じたわが国の国際的発言力の強化と、原油や天然ガスなどの資源確保を狙ったものでもある。イラクの原油埋蔵量は世界第三位。わが国支配層は、長期的、安定的な原油確保を狙って、イラク傀儡政権との関係強化に乗り出している。
 ところで、「主張する外交」を掲げた安倍政権の登場を前後して、わが国の対中東外交が活発化している。
 小泉前首相が退陣直前の〇六年七月、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンを訪問し、「平和と繁栄の回廊」構想を提唱した。
 麻生外相は続く十一月、「自由と繁栄の弧」構想を提示、今年度版「外交青書」にも書き込まれた。この構想は、北東アジアから東欧までの地域に米欧流の「民主主義」を根付かせるというものである。まさに、米国のいう「不安定の弧」戦略をなぞるもので、台頭する中国を敵視し、資源や市場を確保しようというものである。
 この「弧」において、中東は重要な戦略ポイントと位置づけられており、安倍政権は「目に見える地位を中東に維持していく」(麻生外相)などと、中東における日本の「プレゼンス強化」を公言している。
 「核開発」を口実とした米主導のイラン制裁に日本が同調したのも、こうした対中東政策の一貫である。
 今年三月には、イラクからハシミ副大統領を招いた。今回のマリキ首相の訪問とあわせれば、わずか二カ月の間に二人の首脳訪問で、きわめて異例のことである。
 この先も、安倍首相は四月下旬の訪米後、サウジアラビア、クウェート、エジプトなど、中東五か国を歴訪する予定である。しかも、ここには日本経団連など財界代表団が同行するのであるから、意図はあけすけである。五月にエジプトで行われる、イラク安定化国際会議への関与強化ももくろまれている(現在は国連安全保障理事会常任理事国とイラク周辺の計十六カ国)。
 だが、米国に追随して中東地域での「プレゼンス強化」をもくろむことは、歴史的に資源を収奪し、イスラエルを使って紛争の種をまいてきた帝国主義の「仲間入り」をすることでしかない。
 これは、中東諸国・人民に敵対するものである。イラクはもちろん、米帝国主義との闘いを堅持するイランやパレスチナをはじめとする中東諸国・人民との友好の道ではなく、敵に回す亡国的なものである。
 だから、安倍政権の対中東外交は、この地域に原油の九割を依存するわが国の国益を大きく損ねるものでしかない。
 事実、米国に追随してイラン制裁に同調した結果、わが国はアザデガン油田の開発権益を事実上失うことになった。政府は「国益」を掲げて自らの対中東外交を正当化するが、現実に反するものでしかない。阿南前中国大使が麻生の構想を批判したが、当然のことだ。
 長期の国益を考えれば、わが国は米国をはじめとする帝国主義による中東支配と闘う諸国・人民と連携していく以外にない。日本の対中東外交を、独立・自主・平和のものへと転換させなければならない。


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