労働新聞 2007年4月5日号・2面 社説

米軍再編特措法が審議入り

既成事実化にも反対し、
大衆行動で闘おう

 在日米軍の再編を進めるための在日米軍再編促進特別措置法案が三月二十三日、衆議院本会議で審議入りした。
 すでに安倍首相は、就任直後の所信表明演説で米軍再編を「強力に進める」ことを明言しているし、二月末に来日したチェイニー米副大統領にも「米軍再編を着実に進めていく」と約束するなど、法案成立に執念を見せている。
 日米両政府が昨年五月に合意した米軍再編についての「ロードマップ」によれば、沖縄県名護市への普天間基地代替の新ヘリ基地建設、東京都横田基地の日米共同使用、神奈川県座間基地への新戦闘司令部創設、山口県岩国基地への米空母艦載機部隊の移駐などが実施される。
 これまでも述べてきたように、米軍再編の狙うものは米国の戦略に日本をいっそう引きずり込むことであり、わが国の軍事大国への道である。
 労働者・労働組合を中心とする、広範な闘いが緊急の課題となっている。

アメとムチ、卑劣な特措法
 法案は、二〇一七年三月末までの時限立法である。それまでという時限を区切り、先に述べた政府案の受け入れや施設の着工などの進ちょく状況に応じて「再編交付金」を配分、公共事業などへの国の補助率も増減させるというものだ。
 これは、カネをチラつかせて、各自治体に基地負担の受け入れを迫るどう喝にほかならず、絶対に許せないものだ。
 また、在沖海兵隊のグアム移転のための資金は、国際協力銀行(JBIC)の業務に特例を設けることで拠出するが、これは国民負担にほかならない。しかも、建設されるものには家族住宅や娯楽施設なども含まれる。
 政府は金額を明言しようとしないが、負担総額は三兆円近くにのぼるといわれる。
 米国内に建設される住宅や娯楽施設までを日本国民の血税で負担させるとは、なんという売国的、国辱的な法案か。こんなことは、米軍の駐留を認めている諸国でさえ行っていないことである。

米戦略に奉仕する軍事一体化
 この米軍再編の狙うものは、日米の軍事的一体化である。実態は米国の世界戦略、日米の「共通戦略目標」の名の下、世界中で行う戦争策動にわが国を引き込むものである。この同盟は、オーストラリアを含めて強化されてきている。
 国際的に孤立し影響力を失いつつあり、世界戦略の立て直しを迫られている米国にとって、成長するアジアや資源の集中する中東を含むこの地域を押さえることは、台頭する中国や欧州に対抗して世界支配を維持する上で不可欠になっている。
 だからこそ、朝鮮半島、台湾海峡から中東地域までの「不安定の弧」を見据え、米軍を迅速展開させ、軍事的圧迫と侵略戦争を進めるための再編を急いでいる。だが、この手段を軍事力に頼らざるを得ないところが、米国の弱さのあらわれである。
 このような米国に追随し、集団的自衛権の行使容認など日本の軍事大国化の道を進むことは、世界の流れに逆行し、アジアに敵対する亡国の道である。憲法違反であることはいうまでもないことで、朝鮮の核実験や中国の「軍拡」、あるいは「対テロ」などは口実にすぎない。
 米軍再編は米国の求めによると同時に、わが国多国籍大企業の要求である。世界中に進出し巨大化した多国籍大企業は、その権益を守るため、わが国自衛隊の海外派兵拡大を願っているのである。

進む再編の既成事実化
 特措法の審議は始まったばかりだが、米軍再編と結びついた在日米軍や自衛隊の再編が進められている。
 福岡県の航空自衛隊築城基地(築上町)に三月初旬、在日米軍戦闘機の訓練が初移転したのをはじめ、沖縄県嘉手納基地には、ミサイル防衛(MD)システムの一環として地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の配備が強行された。同じ沖縄にはステルス戦闘機も配備され、パラシュート降下訓練など米軍による無謀な訓練が増加、早くも車両落下事故が起きている。神奈川県では、横須賀基地への原子力空母配備を県知事が受け入れ、配備にともなう港湾浚渫(しゅんせつ)工事が近く認可される。
 自衛隊においても、埼玉県の航空自衛隊入間基地にPAC3が配備され、「対テロ」を掲げた防衛相直轄の中央即応集団が発足した(埼玉県朝霞駐屯地)。
 シーファ米駐日大使は、再編計画ともからめて、日本の防衛費増額を要求する内政干渉発言を行った。
 まさに、日本全土が、「不安定の弧」を見据えた基地として強化されつつある。政府のいう「基地負担の軽減」などはウソっぱちで、全国的な基地機能強化、つまり負担増大が進んでいるのである。
 地方自治体に対する圧力も強まっている。
 山口県岩国市では、空母艦載機移転に反対する市長に対し、国は卑劣にも、新庁舎建設のための補助金を打ち切った。市議会内の自民系保守四会派と公明党は事実上の「移転容認決議」を提出するなど、国の意を受けて策動している。
 沖縄県名護市に対しても、キャンプ・シュワブ沿岸部への普天間代替基地移設をめぐり、防衛相は「再編交付金ゼロ」をちらつかせ、政府案の受け入れを迫っている。
 このような政府の策動、き弁を打ち破らなければならない。

「日米基軸」の民主党には頼れぬ
 神奈川県座間市は二月二十三日、特措法に反対する意見書を可決した。他の自治体でも、ねばり強い抵抗が堅持されている。
 フォーラム平和・人権・環境や各地の平和運動センターも、各地で闘いを強めている。特措法をはじめ、すでに既成事実化されてきている攻撃の一つ一つに反撃し、保守層を含む幅広い戦線を形成することが重要である。基地を抱える沖縄や神奈川を先頭とする闘いを、全国的なものとしていっそう発展させなければならない。
 ところで、野党の態度はどうか。
 野党第一党の民主党は、米軍再編について安倍政権を「批判」してはいる。しかし、国民や地元の負担についての「議論がない」(小沢代表)と言い、国民負担の根拠を追及する程度で、一度も「再編反対」と言ったことはないのである。
 そもそもこの党は、日米同盟を「わが国の安全保障の基軸」としている党で、小沢代表も「日米同盟が最も大事だという考えについては、人後に落ちない」と公言している。前原前代表も、米軍再編の「推進」を明言していたほどである。こうした党の立場からすれば、米軍再編や特措法と正面から闘えるはずもないのは、当然ではある。
 労働者・労働組合は、このような民主党に幻想を持つべきではない。肝心なのは国民運動の力であり、それこそが事態を動かせるし、政府や支配層の策動を阻止、あるいは譲歩を闘い取れることは、一九九五年の沖縄における少女暴行事件の際の経験で明らかであろう。
 同時に、この闘いを国民的なものとして首尾良く発展させるためにも、闘いの基盤と結びついた、新たな議会政党を形成するために奮闘しよう。
 現在行われている統一地方選挙においても、米軍再編に対する態度は重要な争点である。ほんの一例をあげれば、横田基地の日米共同使用は、石原都知事の初当選時の公約と矛盾する。石原氏は米軍再編に事実上賛成しており、かれのいう「反米」はこの程度のものでしかないのである。
 関連する都道府県・市町村は全国に及ぶ。住民の生活と営業を真に守ろうとするならば、事件・事故、犯罪と隣り合わせの米軍や基地機能強化は、受け入れられるはずもないのである。負担受け入れを叫ぶ首長などを暴露し、大いに争うべきである。


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