労働新聞 2007年3月25日号・2面 社説

日豪EPA/FTA交渉

多国籍大企業のための
農業破壊を許すな

 いま、日本の農業はかつてない存亡の危機にある。
 政府は四月から、オーストラリアとの経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)の交渉入りを明言している。その具体化に向けた日豪首脳会談も行われた。
 安倍政権は一月二十五日、「日本経済の進路と戦略」(新中期方針)を閣議決定。そこでは「世界貿易機関(WTO)を基本として、EPA交渉を戦略的・効果的に展開する」とするなど、策動が強まっている。
 日豪EPA締結は、すでに危機的状況にあるわが国農業にトドメをさしかねないものである。締結を許さない、広範な闘いが求められている。

日豪EPAは農業破壊の道
 わが国の食料自給率は、歴代保守政権による売国農政の結果、先進国中最低の四〇%でしかない。農業による所得低下や後継者不足、耕作放棄などが深刻化し、地方切り捨ての「三位一体改革」がこれに拍車をかけている。
 これに対して、オーストラリアは食料自給二三〇%という農業超大国である。農用地面積は日本の約八九倍、一戸当たり平均経営面積は一八八一倍と、まさに「大人と子供」である。
 この農業超大国産の農産物が、国境措置(関税や数量制限など)がなくなってわが国に流入すれば、日本農業は一瞬にして吹き飛ばされてしまう。その影響は、牛肉・乳製品・砂糖・コメ・小麦など広範囲に及ぶ。タイとのFTA締結交渉時、鶏肉業者が大きな被害を受けるとして行動を起こした当時とは、比較にならない。
 農水省の試算においてさえ、わが国の食料自給率(カロリーベース)は一二%に落ち込み、三百七十五万人もが失業するという。まさに亡国の道である。ひいては、地方経済のいっそうの疲弊(ひへい)・崩壊をもたらすものだ。
 とりわけ、経済全体における農畜産業の比重が高い地方、北海道への影響は甚大なものがあるとされる。もし農林水産物の関税が撤廃された場合、北海道の経済的損失は約一兆三千七百億円にも上るという。これは、九七年の北海道拓殖銀行の破たんを上回る経済的打撃となることは必至である。
 このように日豪FTA問題は、民族の前途、安全保障の点からも、わが国の農業者・農業団体はもちろん、国民諸階層にとって重大な問題なのである。

財界が熱望するEPA/FTA
 EPA締結を推進しているのはだれか。売国的なこの策動と闘うためには、この点が明らかにされなければならない。
 わが国多国籍大企業が主導権を握る財界、その総本山である日本経団連は本年一月、「希望の国、日本」(御手洗ビジョン)を発表した。そこでは、アジア地域におけるEPA/FTA締結を急ぐべきこと、これまで段階的に進めてきた(シンガポール、マレーシアなどとは締結済み)交渉を「面」へと急いで拡大すべきことが明記されている。これによって、二〇一一年までに東アジア地域全体のEPAをめざすという。
 これは、わが国多国籍大企業にとって、アジア市場をわがものにし、安価な労働力と資源を収奪して肥え太り、アジアでのEPAで先行する中国に対抗して覇権をうち立てようというものである。オーストラリアとの間においては、ウランや天然ガスなどの資源を安定的に入手するという狙いもあり、財界は安倍政権にハッパをかけ、EPA締結を急がせているのだ。
 また、EPAをテコに日本国内の農業改革(企業の全面参入など)を急ぎ、それが可能かどうかはともかく、「国際競争力をもった」農業を育成しようというもくろみもある。
 つまり、財界は自らの利益のため、わが国農業を生贄(いけにえ)に差し出そうというのである。
 オーストラリアでは塩害がはなはだしく、ここ五年間のコメ生産量は年十万トン〜百万トンの間を乱高下、平均四十万トン程度にまで落ち込んでいる。これは、〇一年生産量の四分の一でしかない。このような状況にある国に食料を依存することは、食料安全保障の面からも、絶対に容認できないことである。
 民族の生存の基礎である食料は、可能な限り自国で生産するのが当然で、どの国でも行っていることである。これは、食品の安全の観点からもそうである。多国籍大企業・財界はまさに売国奴なのである。

EPAは「日豪同盟」の一環
 オーストラリアとの間での締結ということでは、もう一つ重要な問題がある。
 先日の日豪首脳会談では「安保協力に関する日豪共同宣言」を締結、事実上の同盟国関係となった。
 この関係はすでに、イラク派兵や対朝鮮敵視政策、インドネシアのスマトラ沖地震の際の救援活動における日米豪の共同歩調などにあらわれている。
 日米、米豪の同盟と併せ、「日米豪の三角形が太平洋を囲む」(日経新聞)形で、中国へのけん制や朝鮮敵視で共同、アジアを支配する意志を示したのである。
 日豪EPAはこの策動の一環であり、対米追随のアジア敵視という、わが国支配層の選択を如実に示したものなのだ。
 だから、仮に与党が参議院選挙への影響を恐れて交渉を選挙後に先延ばししたとしても、財界や支配層の「日豪同盟」、その一環としてのEPAへの意志は変わらず、警戒をおろそかにすることはできない。

欺まん的な態度とる民主党
 このような財界のためのEPAに対し、農業者・農業団体は、すでに闘いに立ち上がっている。
 JA全中が「交渉入り」そのものに抗議したのをはじめ、北海道では全中、農民連盟、行政、議会、商工会議所など十八団体が連携して行動を開始した。昨年の十二月議会では、道内の約百四十の市町村議会で「重要品目は例外に」「北海道農業を守れ」などの意見書が採択された。鹿児島県や栃木県などでも、農業者と各界が連携した行動が取り組まれている。問題の重要性からしてきわめて当然の動きである。
 ところで、野党は、日豪EPA交渉に「反対」の意思を示している。
 だが、野党第一党の民主党の態度は、きわめてあいまいなものだと言わねばならない。
 民主党は、日豪EPA交渉に「早急な締結の必要性は薄い」(篠原・ネクスト農水相)と「反対」している。一方、EPAに対する基本姿勢は、「積極的に推進」(政権政策基本方針、〇六年十二月)ともいう。
 いったいどちらが本音なのか。締結が早急でなければよいのか。
 民主党は参議院選挙を意識して、所得の直接保障など、農業者の支持を得るための政策アピールに懸命だ。だが、肝心のこの問題でこのような態度をとっては、政府・与党と闘うことはできない。
 EPA問題における民主党の態度は、売国的自民党農政の転換を望む、農業者の願いを裏切るものである。同時に、この党が財界のための党であることを自己暴露するものにほかならない。このような民主党には、農民は一切の幻想を持つべきではない。
 わが党は、農業者・農業団体を中心とするこの闘いを支持し、ともに闘う。
 また、労働組合はわが国の進路における重大問題として、EPA問題で先進的に闘うべきである。多くの労働組合が参加するフォーラム平和・人権・環境がこの問題を取り上げ、闘い始めている。さらに幅広く発展させることが求められている。
 小泉政権以降の「改革政治」によって、地方をはじめ多くの国民諸階層が切り捨てられ、生活と営業を破壊され、怒りが満ちている。安倍政権と有効に闘うためには、労働組合がこれら諸階層と広範に連合し、国民運動の組織者として闘うことが求められている。


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