労働新聞 2007年2月25日号・2面 社説

6カ国協議の合意について

米帝国主義とその追随者と闘い、
即時無条件の日朝国交樹立を

 北京で開かれた六カ国協議は二月十三日、六十日以内の寧辺の核関連施設停止と、これに対する重油五万トン相当のエネルギー提供などの「初期段階措置」。その後、朝鮮民主主義人民共和国が既存のすべての核施設を「無能力化」すれば、さらに重油九十五万トン相当のエネルギーや人道支援を提供するなどの二段階の合意に達した。
 国際交渉だから、その詳細はわからないことが多い。文書の表現や解釈もあいまいで、要するに「玉虫色」である。しかも、ライス米国務長官は、合意直後に「ウラン濃縮停止も今後提起」などと新たな要求を突きつけており、具体化の過程が順調に進む保証はまったくない。
 それでも米政府は、この結果に「非核化の第一歩」と満足の意を示した。米帝国主義とその追随者は、朝鮮の「非核化」を、三十日、六十日と期限を切って押しつけようとしている。
 一方朝鮮は、核保有国としての立場で協議に参加し「経済制裁」をある程度にしろ突破した、という意味で成果があったと見ている模様だ。
 だから今回の合意以降も、ひと波乱もふた波乱も避けられず、合意自身の評価は歴史に待つしかない。

6カ国協議の経過と合意の背景
 今回、合意にいたった「六カ国協議」とは何であったのか。若干経過を振り返り、それを見ておかねばならない。
 米帝国主義による朝鮮侵略戦争とその後の五十年以上にわたって、朝鮮は超軍事大国である米国から核兵器を頂点とする武力でどう喝され続けてきた。現在でも朝鮮戦争は「休戦」にすぎず、韓国と日本に約七万人の米軍が駐留して威嚇、けん制を続けている。
 歴代のわが国政府は、日米安保体制下で米国に従属して、朝鮮を敵視し、包囲網に加わり続けた。
 朝鮮は、これらに対抗し、若干の社会主義国の支援も得ながら経済建設と国防力強化を進め、国の独立を守り抜いてきた。
 九〇年代に入り、社会主義陣営が崩壊して冷戦が終焉(しゅうえん)したが、米国は中国・朝鮮敵視とアジア支配の野望を放棄しなかった。一方、これまでの朝鮮の友好国は、それぞれ国益を最優先させる原理で国際関係を処理するようになった。
 こうした中、朝鮮は従来以上に自己の力に頼り、核どう喝を強める米国に抗し、核武装も含めて戦争に備える道を進んだのは当然であった。
 米帝国主義は、これを阻止しようと、九四年、核危機をあおり、核開発の放棄と引き替えに、朝鮮に軽水炉とエネルギー支援を行うという米朝合意を受け入れさせた。しかし、直後から米国はかさにかかって朝鮮圧殺策動を強め、難癖を付けてこの合意すら反古(ほご)にした。
 〇三年三月、米国は、戦略資源の原油を押さえることで、欧州諸国や台頭する中国を抑え込み、世界支配での衰退を巻き返そうとイラク侵略戦争に突入した。同時にブッシュは、「悪の枢軸」などと朝鮮をどう喝したが、イラク、朝鮮の二正面作戦には力不足で、イラク戦争の泥沼化は米国の衰退ぶりを全世界の前にさらすこととなった。
 朝鮮でも手詰まりとなった米国は中国を引きいれ、中国が主宰する形で、この年の八月、「朝鮮の非核化」のための「六カ国協議」が始まった。伝統的同盟国・中国が協議の先頭に立つことで、朝鮮も参加せざるを得なかったはずである。
 六カ国協議とはこうした条件下で始まったものである。したがって協議参加各国の思惑はそれぞれだったが、米帝国主義にとってこの協議は、形を変えた朝鮮圧殺策動以外の何ものでもなかった。
 当然にも、協議はなかなか進展しなかった。米国の無理強いは通らず、韓国も南北の和解を望み、協議は平和的解決を望む中国主導で進んでいた。米国も中国に頼る以外に手はなかった。
 〇五年九月には「体制保障」と引き替えに「核放棄」の合意が成立したが、これは、「安全が保障されるなら」と平和的解決を望んでもいた朝鮮のぎりぎりの譲歩であった。
 だが、またもや米国は、この合意すらすぐさま反故にし、金融制裁を発動、軍事的威嚇も強め、一気に朝鮮を追い詰めようとたくらんだ。これこそが米国、帝国主義のいつものやり方である。
 こうした中、日本では、拉致問題を口実に排外主義をあおり、反朝鮮策動の先頭に立っていた安倍が首相となった。安倍は、就任直後訪中、訪韓し両国を引き入れて朝鮮包囲網の形成を画策、両国もまた思惑はそれぞれだったが、誘いに応じた。
 特に、中国は朝鮮政策を「一八〇度転換」させ、国連制裁決議実現で決定的役割を果たし、朝鮮制裁の包囲網に加わった。

米国の狙いは朝鮮の体制転覆
 安倍の登場と中国の転換・譲歩で、米国とその追随者による朝鮮圧殺策動が一挙に進んだこと。朝鮮がこれに対し、核保有国となって国の独立と安全を守る決意を明確に示したこと。こうして、北東アジア情勢は新たな緊迫した段階となった。
 これらが今回合意直前の状況であった。協議が合意したとはいえ、この北東アジアをめぐる基調的状況は変わるものではない。
 にもかかわらず「合意」という妥協が成立したのには、それなりの条件があった。それは何より米帝国主義、ブッシュが、中間選挙における大敗で政治上追いつめられ、内外で窮したことである。米国は石油支配維持のために中東問題をますます優先せざるを得なくなった。また、東アジアではますます「対中国戦略」重視となり、朝鮮の「核拡散」阻止のため目前の対処も迫られた。こうして対朝鮮政策はある種の「息継ぎ」、政策変更を余儀なくされた。
 核保有国となった朝鮮は、握った核を手放さない範囲で、一定の息継ぎが必要で、可能となった。こうしたことで米国が拒否し続けた米朝二国間協議が成立したとも言える。
 だが、米国は、朝鮮の政権転覆の基本政策を放棄したわけではない。ブッシュは、合意を「良い最初の第一歩。すべての近隣諸国を一つにまとめた」と、中国を含む関係国が一致し、朝鮮に核放棄を迫る環境が整ったと評価、六カ国協議の真の性格をあけすけに語った。それは米国が民主党政権になったところで同様である。クリントン政権時代の元国防長官ペリーは、協議が成果を出せないなら「威圧的外交」を展開すべきだと述べ、中国が朝鮮包囲で役割を果たすようけん制している。
 だから、合意の先行きは定かでなく、この地域の平和と安定は、朝鮮はもとより、米帝国主義に反対するすべての諸国・人民の闘争の発展いかんにかかっている。

合意への幻想は許されない
 ところが野党、とりわけ共産党は、今回の合意が、北東アジアの平和と安定への第一歩だとか、六カ国協議は平和の共同体に発展していく、などという幻想をあおる。共産党の見解は、朝鮮を悪者にし、一方的な核廃棄を迫るものである。これは、地域の危機をつくり出している張本人が米帝国主義であることを隠し、敵と味方を逆転させるものだ。
 米帝国主義の支配下での「平和」など、朝鮮人民にすれば「奴隷の平和」でしかなく、それは打ち破るべき「秩序」であろう。これは帝国主義の支配に反対し、独立を求める弱小諸国・人民の必死の闘いを敵視、愚弄(ぐろう)するものでもある。
 帝国主義の前で労働者と広範な国民を武装解除させる裏切り者を暴露し、打ち破らなければならない。
 一方、交渉で完全に「かやの外」だった安倍政権は、合意で「はしごを外される」ことを恐れつつ「歓迎」する以外になかった。そこで、国内ではでたらめな口実で在日朝鮮人を弾圧するなど、脅威をあおっている。これは世論の扇動、軍事大国化への口実づくりである。日米軍事一体化と集団的自衛権、核武装計画、憲法改悪などをもくろむ安倍の画策を許してはならない。
 両国間のさまざまな懸案は、わが国政府が植民地支配と戦後の敵視政策を謝罪・清算し、誠実に国交交渉を始めてこそ解決に向かう。
 事態を憂える政治家、活動家は、今こそ即時無条件での日朝の国交実現に向け、力を合わせて闘わなければならない。


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