労働新聞 2007年2月5日号・2面 社説

安倍首相が施政方針演説

国益裏切る「主張する外交」

 安倍首相は一月二十六日、第百六十六回国会の冒頭で施政方針演説を行った。
 首相は改めて、持論である「戦後レジーム(体制)の見直し」を公言した。「新成長戦略」、「再チャレンジ」、地方制度改革、行財政改革、教育改革、社会保障制度改革、「主張する外交」の順に言及した演説は、安倍政権がわが国独占資本、とくに多国籍大企業の利益に奉仕し、対米追随の政治軍事大国化と「財政再建」を中心とする改革政治を推進する政権であることを、如実に示すものであった。
 マスコミや議会政党は、安倍政権を攻撃する材料として、「政治とカネ」あるいは閣僚の妄言を取り上げている。これらの問題における安倍政権の責任は、厳しく追及されなければならないことはもちろんである。
 だが、より肝心なことは、安倍政権の「主張する外交」が、わが国・民族をどのような方向に導くかである。首相は演説で、「五十年、百年の時代に耐えうる国家像」などとぶち上げた。この内容を暴露し、争うことなしに、安倍政権と正面から闘うことはできないはずである。
 心ある政治家・政党、そして労働組合の役割が問われている。

多国籍大企業のための外交政策
 安倍は所信表明演説で、日米同盟を「いっそう強化していく」などと述べた。
 具体的には、ミサイル防衛システムの整備、イラクへの自衛隊派兵継続と政府開発援助(ODA)による傀儡(かいらい)政権への「支援」、同じく北大西洋条約機構(NATO)が駐留するアフガニスタンへの「協力」、米軍再編を「着実に進める」、集団的自衛権の行使容認のための研究、自衛隊海外派兵拡大などである。朝鮮への敵視政策についても、これを続けることを明言したことは言うまでもない。さらに、小泉政権時に一度は破たんした国連安全保障理事会常任理事国入り、憲法改悪のための「国民投票法案」を今国会で成立させる、などである。
 これら、安倍政権の進めようとしている安保・外交政策は、国際的孤立をますますあらわにさせている米帝国主義を世界規模で支え続けるという対米追随の道であり、日本が経済力にふさわしい政治軍事大国化になるという危険な道でもある。朝鮮への制裁に典型的だが、安倍政権は米国を支えながら、アジアに危機をつくり出す積極的な当事者として登場している。
 これは、〇五年二月の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で合意された「共通戦略目標合意」に基づくもので、中国と朝鮮を事実上の「仮想敵国」とすることで、米国とともにアジアに敵対する道である。
 安倍は演説で「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々との連携の強化」と述べたが、これはまさに、米国、オーストラリアなどともに「中国包囲網」を形成し、軍事を含む圧迫を加えることで、中国を(帝国主義にとって無害な)「普通の国」に変えようという、内政干渉の意図を露骨に表明したものである。
 日本国民には、日本全土を米軍の出撃拠点とすることで、基地被害の拡大や経済負担、ひいてはアジアでの戦争の危険性となってふりかかる。沖縄の基地についても、実際には機能強化が図られる。それは昨年十月、嘉手納基地などに新たに地対空誘導弾「パトリオット」(PAC3)配備が強行された事実一つを見るだけで明らかではないか。

内外の困難に突き当たる安倍政権
 だが、安倍が進めようとしている対米追随の政治軍事大国化の道は、早くも困難に突き当たっている。
 それは何より、九月末の安倍政権発足時と比べても、米国の衰退がよりあらわとなったことである。
 ブッシュ政権は、米国民や野党・民主党主導の議会の反対を押し切ってイラクへの増派を決定したが、これでイラクの傀儡政権が「安定」する保障はない。アフガンでは旧政権勢力・タリバンが大攻勢をかけ、米主導のNATO軍を追いつめているし、イランは核開発の意思を捨てていない。朝鮮は核保有によって自国を守る決意を示したし、ベネズエラなどの中南米諸国も、資源国有化などを通じて米国の世界支配に抵抗している。
 こうした急速な米国の衰退は、安倍政権の選択が、世界のすう勢に反する時代錯誤のものでしかないことをいっそう明らかにさせている。
 わが国支配層も、この急速な情勢の変化にとまどいを深めている。御用新聞「読売新聞」は、ブッシュの一般教書演説を機に、米国の衰退にあせりをあらわにし、その影響が対東アジア政策(中国・朝鮮への敵視政策)に影響しないようにと願っているほどだ。
 イラク戦争への態度などをめぐって明らかになっている、閣内からの「異論」も、こうした事態と無縁ではないであろう。
 米軍再編に抗する沖縄・横須賀・岩国をはじめ、全国でねばり強い闘いが続いているなど、労働組合を中心とする国民諸階層の闘いも見逃すことはできない。
 さらに、安倍政権の進める対米追随でアジア敵視の政治軍事大国化の道に対する、アジア諸国・人民の反発も避けられない。
 すでにわが国経済は、中小企業も含めて、アジアとの深い関係抜きに存在できなくなっている。アジアとの平等互恵、共存共栄以外にわが国の進路はあり得ない。
 だが、「基本的価値」などと言って中国を敵視する安倍政権の選択は、中国はもちろん、内政不干渉の原則を守ることを諸国間関係の原則としてきたアジア諸国にとって、受け入れることができないものだ。これは、わが国の国益に反するとともに、アジアの願いにも背を向けるものでしかない。
 安倍は演説で「日本」と三十五回も連呼したが、愛国者を装う言葉とはうらはらに、その政策は国益を裏切る、徹頭徹尾売国的なものでしかない。

外交で争えぬ野党の犯罪性
 相次ぐ閣僚の妄言などと併せ、安倍政権を追いつめる好機である。だが、野党の態度はどうか。
 民主党の小沢代表は、国会の代表質問で「格差是正」「生活維新」を強調した。民主党がそれを文字通り実現できるというのであれば、それはそれで、国民にとっては結構なことであろう。
 だが、小沢代表が「格差」を強調する裏には、外交面で安倍政権と争えず、内政で「違い」を演出してみせることしかできないというジレンマが透けて見える。
 実際、就任早々の安倍が中国・韓国を訪問、関係を「改善」するやいなや、民主党はこの外交政策を支持した。朝鮮の核実験に際しても、安倍政権の危険な朝鮮敵視政策・戦争策動に加担するなど、与党との違いはない。
 また、安倍政権と外交面で争うことは、かえって自党内の対立をあおることになりかねないという党内事情もある。六月の参議院選挙での勝利という狙いからしても、外交政策をこれまで以上にあいまいにせざるを得ないのである。
 これでは、与党と外交面で争えないのも当然である。
 安倍政権の対中・対韓外交を賛美し、朝鮮敵視に唱和しているという点では、共産党も同様である。この党の「支援」は、安倍政権の朝鮮敵視政策と排外主義を大いに助けたのである。
 安倍政権の進める対米従属下での政治軍事大国化の道と闘う国民運動を発展させる上で、これら野党の果たしている危険な役割、欺まんを暴露することは欠かすことのできない課題である。
 安倍政権の進める、対米追随でアジアに敵対する戦争の道を打ち破り、米帝国主義からの完全な独立を勝ち取り、アジアとともに繁栄する国の進路を切り開かなければならない。そのための大衆行動と国民的戦線を形成する上で、労働者・労働組合の役割が決定的である。


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