労働新聞 2007年1月1日号・1〜5面

2007年新春てい談

●参加者:
 秋山 俊彦・党中央委員会
自治体対策部長
 中村 寛三・党中央委員会
労働運動対策部長
 山本 正治・党中央委員会
統一戦線対策部長
●司 会:大嶋 和広・
「労働新聞」編集長

 内外ともに情勢が激動する中、2007年が明けた。労働新聞編集部は、日本労働党中央委員会の秋山俊彦、中村寛三、山本正治の3人の同志に、情勢の特徴や見通し、それにどう対処し闘いを前進べきか、あるいは党の課題などについて、さまざまに語り合ってもらった。以下、掲載する。


激変した国際情勢
昨一年を振り返る


大嶋 皆さん、明けましておめでとうございます。

一同 明けましておめでとうございます。

大嶋 二〇〇七年の「労働新聞」の新年号にあたって、きょうは党中央委員会の三人の同志にお集まりいただいて、昨一年の内外の情勢を振り返りながら、その特徴やそこから何をくみ取るべきか、そして今年の展望やわれわれの課題などについて、さまざま語り合っていただきたいと思っております。新年ですので、気宇壮大(きうそうだい)にと言うか、ざっくばらんに出し合っていただければと思います。
 まず、昨一年の世界の動きですが、たいへん速く、諸事件が矢継ぎ早でした。商業紙などを見ても、米国の力の衰退とこれにどう対処するかは、いろいろな立場はあっても、重要な論点に浮上してきているようです。ここをどう見るか、その辺のところからお願いします。

秋山 確かに昨一年間の世界の動きというのは、非常に劇的なものがありました。ただ、これを見る場合、重要なことは、一昨年暮れのわが党の第六回大会で、われわれがこの世界、特に冷戦終結後のこんにちの世界について分析をして、国際情勢を突き動かしている主要な力、あるいは矛盾は、米帝国主義を中心とする帝国主義とその他の国々との間、ここに主要な矛盾があるということを規定した。そこに目を据えると、米国は引き続き世界情勢で主導的な役割を果たしているにしても、イラクをはじめ全世界の反米、反帝国主義の闘いの前で孤立を深めている。すでに言われるほどの力はなく、衰退を早めざるを得ない、と見通したんですが、これはまったく正しかったと思うんですね。まさにこの一年間の情勢の推移全体は、そのことを証明したし、しかも、その進展は急速だったと思うんですよ。
山本 そうですね。世界のさまざまな状況を分析して、主要矛盾を発見することの重要な意味を、例えば共産党の不破らが「もはや帝国主義はなくなった」とか、「世界にはたくさんの矛盾があって、それぞれに対処しなければならない」などと、情勢論、認識論の混迷ぶりを自己暴露していることと対比させ、確認しておく必要があると思います。
 ちょっと思い出すままに振り返ると、〇四年末前後から、米国のイラク占領の泥沼化は明らかで、ラムズフェルド国防長官(当時)やライス国務長官ら米高官が独・仏など欧州諸国との関係改善に飛び回って、顕在化していた米欧間の政治的亀裂の修復に取りかかった。米国は、抑え込もうとしていた欧州の力を借りざるを得なかった。パレスチナ、中東和平策でもそうですし、例えばイランの核開発問題などについても、もっぱら欧州の力に頼って、制裁などと、イランを抑え込もうとした。しかし、イランは屈服しない。それどころかパレスチナをはじめ中東一帯では反米、反帝国主義の闘いがいっそう高揚する。
 また、ベネズエラ、ボリビアなど中南米で高まる資源ナショナリズムの動きだとか、闘いは中東、アラブ世界にとどまらなかった。東アジアでも朝鮮民主主義人民共和国は、米国の理不尽な制裁、圧迫に対して、独立のための武装を解くことなく闘い抜いている。イランの核開発については、昨年の九月だったか、非同盟諸国会議がこれは正当な権利であると、公然と支持した、というふうなわけで、米国の国際政治における影響力が急速になくなったことを印象づけたと思います。

秋山 しかも、それはとりわけ昨年の後半になって、いっそう鮮明となったようですね。
 昨年十月には朝鮮の核実験を口実とする国連制裁決議が全会一致で採択され、北東アジア情勢は一気に緊迫したんですね。年末になって六カ国協議が再開されましたが、朝鮮は核を手放さず、屈服しない。安倍政権の突出と、中国の変化を好機と朝鮮敵視を強めた米国ですが、イラク問題が手いっぱい。主導性のなさを見せつけました。
 もう一つは、米国の中間選挙の結果でしょう。上下両院、州知事選挙でもブッシュ与党の共和党が大敗した。この結果を受けて、ただちにラムズフェルドが更迭され、さらにベーカー元国務長官らイラク研究グループの「提言」が出され、ブッシュは撤兵を含む対イラク政策の見直しを迫られています。

中村 まさに、国際情勢は大きく動いたなと、改めて思いますね。とりわけ米国中間選挙でのブッシュの大敗北。これは米帝国主義の力の限界と帝国主義に反対する勢力の闘いの巨大な発展、それが米国内部の矛盾の爆発となって、ついには帝国主義の中心の米国が政策を見直さざるを得なくなっている、ということを意味するわけですよ。これは、日本で安倍政権と闘う上でも、国の進路の転換をめざすためにも、そういう国際政治の大きな流れをおさえておくことがきわめて大事だと思うんです。

秋山 経済も悪化しているんですね。年末の発表によれば、〇六年の米国の経常赤字はまた過去最悪を更新することが明らかになったようです。十一月ぐらいからドル安が進んで世界の投資家をあわてさせました。市場の動きですから、さまざまな要因があるのでしょうが、いずれにしてもこれだけの借金大国の米国ドルへの世界の不信が増大するのは当然でしょう。
 考えてみたら、米IT(情報技術)バブル崩壊後の世界不況を救った最大の要因は、旺盛な米国の個人消費だと言われたわけでしょう。日本や欧州、さらに「世界の工場」といわれる中国ですら、輸出で、米国にものを売ることで景気を維持してきた。ところがこの米国の過剰消費を支えたものは、今では明らかですが、住宅バブルだったわけですね。
 しかしこの加熱をいつまでも続けるわけにはいかない。米国は産業競争力がないわけで、買うばかりで売るものがないから、借金はどんどんたまる。ドルをどんどん刷って支払いにあてるわけで、ドルの価値は下がる。インフレは怖いし、ドルが暴落する可能性もある。そこでFRB(米連邦準備制度理事会)が金利を引き締めにかかったわけだが、こうすると住宅バブルは収縮し、一転、米経済は冷え込む。それでは、住宅に代わる消費を見つけられるか、なかなか難しいわけで、つまりこれがソフトランディングできるか、ということでしょう。難題となっている。世界は、その米国に依存しているわけで、これは世界経済の不安要因の拡大であるわけです。
 しかも、実体経済から遊離し、戦後最大規模にまで膨れ上がった資金は、ファンドなどの手を経て米国に還流し、さらに投機に当てられる。金持ちにとって、膨大な利ざやは稼ぐが、一度しくじれば破滅で、世界は、いわば地獄の縁で曲芸しているようなものですね。

中村 まさに、ITバブルからの回復といわれた時期に、次の不況要因が準備されていたわけです。金融などはいっそう肥大化しているし、なによりユーロは存在感を増している。米国とドル世界の危機はさらに深刻ですね。

山本 注目すべきは、帝国主義による世界の収奪が極端に進んでいる問題です。年末発表されたデータによれば、世界の金融資産の五割以上をわずか二%程度が握っている。そして、そのうちの六割は米国と日本の金持ちが握っているというんです。帝国主義と収奪されている人民の矛盾が激化している、ということですね。全世界で人民が帝国主義と闘い、中小国が帝国主義と闘う側に移って、こんにちの局面をつくっている、その基礎がここにあるということをキチンと押さえておく必要があります。


歴史的な米国の衰退

秋山 米国の急速な衰退、こんにちのこの局面を歴史の中でどんなふうに見るのか、ブッシュ・ドクトリンが打ち出された局面、段階と比べて何がどう変化したのか、この点が重要です。
 例えば二〇〇〇年の大統領選挙前に、ブッシュ陣営の外交顧問をやっていたライスが、米国の新たな外交戦略について包括的な論文を雑誌に発表しているんです。これがきわめてあからさまなんです。ライスは、「米国の国益とは何か」として、それは自由貿易体制と安定的通貨システムだと言う。つまり、米主導のグローバル経済の推進と世界を支配するドル基軸体制、これを維持すること、これが米国の国益なんだと規定するんですね。まさに米金融独占の番犬そのものですが、これを全世界に広げると。そして、それをやりあげるためにとして三点。つまり、いよいよ米国経済が斜陽になって、経済的、政治的力だけでは実現することができないので、もっぱら世界最大の軍事力に頼って、このシステムを守り抜くんだと言っている。具体的には、いうところの「ならずもの国家」、反米、あるいはどこかで反米をやったことがある国、これについては先制攻撃、あるいは政権転覆も辞さないんだと、これが一つ。それからもう一つは同盟関係の再構築。日米とか米欧同盟、これを再定義すると。いやいやのご追従(ついしょう)で米国に従うという態度はもう許されない、と。米国と同じ価値観をもって、積極的にいっしょに闘う。湾岸戦争における英国のようなもので、血を流しても米国といっしょに闘う、そこまで一体となった同盟国でなければならんのだと迫っている。これは日本だけでなく当時欧州に向かっても言っているわけです。どう喝ですね。この少し後で、「日米同盟を米英同盟並みに」というのが日本でさかんに言われましたが、もとはこのライス論文にあるんです。
 それから三つ目にあげているのが、中国、ロシアなど今後大国化して米国の覇権に脅威を与える、あるいは競争相手になりそうな大国の登場について、これを許さず関与して、つまり経済的関係を強め、人的パイプも太くして関与することを通じて、コントロールする。あるいは抑えつけるという。
 こう見ると、〇二年に打ち出されたブッシュ・ドクトリンの原型は、すでにこの時点で明確に打ち出されているんですね。すでに米国はその戦略を追求していた。だから、九・一一のテロ事件などというのは口実にすぎないわけです。逆に言うとブッシュ政権は、これを好機としてとらえた。これで軍事で打って出られると。こういうことが九・一一だった。その年の秋にはもうアフガニスタンに侵攻している。そして、いよいよ本番の、世界有数の産油大国、しかも米国の言うことを聞かない中東の地域大国イラクを軍事でもって押しつぶすと、イラク侵攻を始めたわけです。
 この流れ、彼らのあらかさまな狙いを、まずおさえておく必要があると思うんです。そしてそれが何を生み出したのかということです。

中村 ブッシュ・ドクトリンが出された当時、「米国がそう決めた以上世界はそうなる」「強い米国は百年も続く」というような売国奴の「恐米論」をわれわれは暴露しましたが、それを事実で見る必要がありますね。
 一番目の反米国家への先制攻撃、政権転覆論は、まさにイラクの泥沼の中で完全に破たんですね。米国はその凶暴な戦略に踏み出したとたんに、弱小諸国、人民の反米闘争の高揚に火をつけ、まさに数年を経ずにつまずいた。いま、米国は三千人に及ぶ兵士の犠牲を出し、財政負担も耐えがたく、内戦といわれるイラクから、いかに逃げ出すかとなっている。米国が誇る超軍事力といえども反帝、自立を求める諸国、人民の抵抗を抑えきれないということが示された。これは冷戦後の世界での人民、弱小諸国側の一つの重大な勝利ですね。これはさらに全世界人民を励ましており、反米の闘争はいまや全世界に拡大しています。イランにしても朝鮮にしても、米国の力の限界を見透かしている、という状況がありますね。明らかに局面は変化したというべきでしょう。

山本 もう一つの問題の同盟関係の再構築も、イラク戦争開戦時から米欧の政治的亀裂が顕在化して、早くも米国の思惑ははずれた。米国は中東産油地帯を支配して、帝国主義や諸強国にとっての生命線である資源を独占することで、世界支配の指導権を確保しようとしたわけで、EU(欧州連合)統合で経済的に力をつけていた独、仏などが反発するのは根拠があったわけです。
 やむなく有志同盟で開戦したものの、その有志同盟も次々離脱、ブッシュを支えたスペイン、イタリア等々ではみな、国内が行き詰まって政権が移行する。英国のブレアも追い詰められ、ついに政権を手放すことになった。こういうわけです
 ブッシュ・ドクトリンの具体化は、世界の弱小諸国と人民の抵抗を生み出しただけでなく、帝国主義内部の国内矛盾も拡大させ、主要大国間の矛盾、特に帝国主義相互間にある深刻な矛盾を拡大させて、米国はいっそう孤立し、国際的指導力を急速になくすことになったということですね。

秋山 おっしゃる通りで、それらは非常に歴史的なことなんですよね。
 その前に、三つ目に米国が狙った競争相手となる、あるいは脅威となるべき中ロに関与し、抑え込む。これとて今や容易でないわけですね。プーチンのロシアは原油高騰の中でさっさと米欧に対する借金も返して、大国をめざしていますね。よい悪いは別にして。
 イランに対する態度でも米欧と一線を画していますし、中国との戦略連携を強めたり、上海協力機構(SCO)で米国をけん制し、国際政治の中で影響力も非常に強まっています。
 中国についてもご存じの通り、急速な台頭ぶりです。経済での前進を背景にアフリカ諸国との外交関係拡大や資源問題でも独自の外交を強めようとしています。
 もちろん中国の発展は外資に大きく依存したもので、米国が最大の輸出相手です。米国は、朝鮮の核問題での六カ国協議では中国の力を借りねばならないわけですが、朝鮮の核実験に際しては中国も国連制裁決議に賛成するなど、変化も見えます。それでも米国にとって侮れない大国となったことは、すでに事実でしょう。
 いずれにしてもこれらが、ブッシュ・ドクトリンに示された米帝国主義の狙いとその結果で、崩れ始めた世界の一極支配の維持を、経済の衰退の中で軍事力を居丈高に振りかざして実現しようと突撃し始めたとたんに、これを打ち破る要因というか、諸条件を逆に拡大させ、今、米帝国主義は大きな敗北に直面しつつある、ということだと思うんです。
 十二月はじめの「朝日新聞」でしたか、元西独首相のシュミット氏が、イラクでの敗北で米国が衰退に向かうかははっきりしないが、と慎重に見ながら、「一つ確かなことは、もはや米国が唯一の大国ではないということだ」と述べていますね。これが世界の評価ですね。
 この状況を見た時に、イラク、中東にとどまらぬ、全世界の人民や弱小諸国にとって非常に有利な、あるいは歴史的前進の局面が進んでいる、帝国主義の支配とそれに追随する新旧勢力の秩序が、全世界いたるところで困難に当面していると見る。そういう時代に入っているということを、きちんとしておくことが必要なのではないかと思うんですね。


帝国主義に対する朝鮮の闘いは完全に正当

大嶋 もう一つ、注目すべき問題として北東アジアの情勢が一変したことをあげなければなりません。朝鮮の核武装と国連安保理制裁決議は北東アジアを国際情勢の重大な焦点として浮上させたといってよいと思いますが、この点はいかがですか。

秋山 わが党はすでに、昨年十月二十五日号の社説で、この問題についての態度を明らかにしています。われわれは、米帝国主義とその追随者に対する朝鮮の闘いは完全に正当なものだと訴えて、この事態の真実を暴露し、わが国がとるべき態度を明らかにしました。この見解は各界の心ある人びと、あるいは外交問題での専門的な皆さんからも高い評価を得、あるいは大きな反響を呼びました。

中村 そうでした。まさにイデオロギーの力で、その反響に大いに励まされるとともに、責任も痛感したものです。
 司会の同志が触れた通り、この緊張は、朝鮮が一方的に核実験を行ってつくり出したものではありません。経過を見れば、〇五年九月の六カ国協議以降、米国はその合意を反故(ほご)にし、金融制裁など朝鮮締め付けを強めました。わが国安倍政権も拉致問題を騒ぎ立て、独自制裁を強め、果ては訪中、訪韓で対朝鮮共同戦線の構築を図り、朝鮮を追い込もうとしたわけです。核実験はこのような中で、米帝国主義とその追随者に対する警告、またそれに屈しないという意思を示したものと受け止めるべきです。
 これに対して、中東への対処で力が伸びきって、朝鮮の核問題では手詰まりとなった米国が、日本の安倍政権の「主張する外交」に助けられ、中国の弱みと変化をついて、満場一致での安保理制裁決議に持ち込んだこと、こうして中国も含む制裁強化、果ては船舶臨検などと、緊張が高まったわけです。

秋山 しかし、この問題でも米中間選挙での共和党の大敗という結果は、大きく影響を与えているようですね。
 昨年末には六カ国協議が再開されましたが、〇五年九月の協議の合意に、もはや朝鮮は戻らないですね。自国を守る、核兵器を含む武器を捨てない態度で臨んでいます。米国は事実上の二国間協議にも応じざるを得ないようですし、イラクで手いっぱいということもあり、主導性はないですね。
 一時動揺した韓国も、制裁強化に反対ですね。
 この六カ国協議を見ても、世界の大きな流れが貫いている、ということを非常に痛感するんです。

中村 核拡散等々で朝鮮を非難する声があるんだけれど、帝国主義と強国による核独占、その下での世界の古い秩序。この秩序は、世界を収奪している帝国主義にとってはきわめて安定的で、きわめて都合のよいものだろうが、例えば朝鮮のように追いつめられ、米国の核兵器で包囲され、貿易等経済封鎖された国にとっては、耐えがたいことです。朝鮮にしてもイランにしても、断固として古い秩序を打ち破ろう、どんな力をもってしても打ち破って対等な国際関係をつくろうとすることは避けられない。これは歴史の必然で、そこには正義があると思うんです。核の拡散は不幸だとしても、それは大国の核独占を突き崩し、逆説的な意味で、帝国主義による核どう喝政治を無力化させ、核廃絶への展望を切り開くことになるわけです。
 兵器が問題なのではなく、それを使う人間こそ問題なのですから。反帝国主義と結び付けなければ運動は無力でしょう。
 六カ国協議が今後どうなっていくかは、様子を見なければなりませんが、これらのことは明らかだと思います。

山本 そこのところは繰り返し確認しておく必要がありまね。
 朝鮮の指導者たちは、今のような国際関係の中で、核を握ることで、自分たちの国は自分たちで守るということを宣言した。それは、韓国でも盧武鉉大統領が、大国間の争いに自分たちは与せず、バランサーになって極東アジアの平和のために働くんだと、〇五年の春に表明しましたが、その外交にも貫いている。一時期、いろいろあったようですが、それに与しない態度を取っている。北だけでなく南の皆さんも同様の意思を貫く態度をとっている。まあ日本の政治指導者、活動家も、ここから学ぶことはないのか、と言いたい。


安倍政権の成立、その性格

大嶋 安倍政権が昨年九月末に登場しました。小泉政権当時から朝鮮に対する「人権」法や金融制裁を安倍が主導するなど、安倍政権的なものがあったんですが、一挙に北東アジアに緊張を高めた。
 その小泉、安倍と続く政権は共通点があります。その階級的性格、あるいは今までの歴代自民党政権との違いをつかむことは、これと闘う上で重要なポイントだと思います。

山本 まさにおっしゃる通りです。発足した安倍政権は、さっそく、朝鮮の危機をあおって、わが国だけでなく北東アジア全体にとっても危険な政権となっている。また、年末の臨時国会では、教育基本法改悪法案を通したり、防衛庁の省昇格を実現したんですね。
 非常に危険な政権には違いがないが、評価には混乱もある。岸信介の孫の政権で、タカ派で反動だといったような現象的、表面的な見方が多い。きちんとこの政権の基本的な階級的性格とかを見抜いて、その中にある弱さ、この政権の弱さも見ておくことが重要だと思います。
 安倍政権は当然ですが小泉政権の続きでもあります。小泉政権は、それ以前の政権と特徴的な違い、変化があった。この点を改めて整理しておく必要があります。ご承知のように自民党政権というのは、巨大な銀行・企業などの独占体グループや団体、財界が政権と結びつき、国家機関に参加し、政策形成上決定的な役割を演じてきた。そういう意味では小泉以前も小泉政権も、この点は同じなんですね。
 しかし、九〇年代以降、独占内の一部の企業が、多国籍巨大企業にまで成長し、内外で経済的な力を急速に強めた。一方、必ずしもそうならなかった独占企業もあった。いわゆる「勝ち組、負け組」ではないが、ある種の亀裂ができた。これは以降の発展に影響を及ぼす、注目点であるわけです。
 多国籍企業の代表、トヨタの奥田会長が、財界を再編統合して日本経団連をつくって、政治に公然と登場してくる。小泉政権と結びついて経済財政諮問会議をつくって、ここで重要政策が決定され、政府と与党がそれを具体化する仕組みに変わった。それ以前の自民党の政調会を通じてという「調整型」の政治から、財界がより直接に政治を動かすようになった。国家機関の中での財界の発言権、地位がはるかに強化され、直接的なものに変わった。
 政党に対しても直接に政策を変えさせる、ゼニを使って政党を動かした。政党の関係も変わった。変えようとしている。
 小泉政権と、それ以前との違い、特徴は、ここにあります。それ以前とは異なる新たな状況、段階と見るべきです。
 安倍政権はこうした小泉時代に変化した政治の延長であり、継承です。しかし、問題は単なる継承なのかという点で見ると、小泉政権とは違う課題を与えられた政権になっていると思うんです。

中村 いま言われた独占体内部にある種の亀裂が生まれて、多国籍化した独占体、大企業が支配権を握ったという問題を、野党や労働組合など闘う側では不鮮明なまま来ていて、どう闘うか、という問題と結びつけられなかったんですね。
 独占体は少数ですから選挙ではどうにもならない。だから独占体の走狗(そうく)でありながら自民党は議会政治で多数を握るために、農民だとか商工自営業者、さらに非独占の中小企業などを味方に引き入れて「調整型」政治を行っていたのが、明確に崩れたわけです。こうした不満が政治として表面化した非常に象徴的なできごとが、〇五年以来の保守分裂や国民新党などの旗揚げ等ですね。この背景にある独占体間の亀裂を見ないでは、政治の流れは真には理解できないと思います。

山本 財界と政党との関係ですが、財界は公然と政党介入をやって、保守二大政党制をつくろうとしました。奥田の登場と小沢の民主党への合流は深い関係があると見るべきです。昨年、民主党の前原が辞任に追い込まれて、小沢が党首選に打って出るときの表明にはそれがにじみ出ていた。民主党の評価の問題も、日本の政治をだれが握ったかの問題と結びつけて見ないと、その真の階級的政治的評価が確立しないと思う。

秋山 さて、安倍政権についてですが、小泉政権とまったく同じではない。世界中で反米自主の闘いが広がり、ブッシュ政権が行き詰まって、米帝国主義が急速に衰退する中で成立した政権という、この環境の違いがいちばんです。
 日米基軸、突出した対米追随のわが国はドルを支えなくてはならない。米国経済に何かあったときに、例えば八七年のブラック・マンデーの時に財政を出動させてドルを支えたようなことが、財政危機のわが国にできるだろうか。軍事面でも弱った米国から世界規模での貢献を求められ厳しくなりそうだ、等々です。
 また、訪中、訪韓でとりあえずは解決させた格好になっているんだが、財界サイドから、商売にとっても都合が悪い対中韓関係の打開も求められた。改革政治への不満の高まり、いわば「改革疲れ」。国民各層の不満は非常に強まっているが、なおかつ、改革を継続しなくてはならない。また、改革は経済成長を維持しなければ、どん詰まりになる。そして米軍再配置問題。なによりも待ったなしとなった財政の再建。言うところの格差問題も非常に深刻です。難問山積、あげればきりがない。
 こうした深刻で容易に解決できない課題を背負って登場した政権だということです。小泉の続きだというだけでなく、これを打開しなくてはならない政権であることを見ておかなくてはならない。しかも、選挙です。さまざまな矛盾を人びとに押しつけながら、統一地方選挙、参議院選挙に勝ち残ることを問われている。


北東アジア情勢を一気に不安定化させた安倍外交

山本 安倍政権が成立してすぐ訪中し、朝鮮の核問題で中国を引き入れ、国連安保理で「制裁決議」を日米が主導して全会一致で採択させた。その後も安倍政権は制裁で突出し、主導的役割を果たした。この朝鮮敵視政策の強化、瀬戸際的政策によって、北東アジアの情勢は一変した。
 六カ国協議が年末に開かれたなど、その後の経過もありますが、この情勢と安倍政権のこのような選択は、北東とアジア情勢全体を不安定にし、国の経済と国民生活を危険にさらし、一歩誤れば戦火の災いとなりかねない状況をつくり出した。安倍政権とそれに運命を託している支配層にとってすらも、決して展望のある道とは思えないのですが。
 米戦略の枠組みに沿ってとはいえ、わが国が、こうした危険な情勢をつくり出す当事者のひとりとして、しかも、もっとも積極的な当事者として登場したわけです。これは重大な変化ですが、野党や労組指導者は気づいているのでしょうか。

中村 議会の野党は、財界の策動も背後にあって民主党は当然といえば当然ですが、共産党まで含めてこうした危険な安倍政権を暴露できていないですね。安倍が首相になってすぐに、最初の外国訪問として中国、韓国へ行って首脳会談をやったことも響いている。

山本 こうした外交は、わが国財界の要求であり、両国の利害が一致したからにすぎないわけです。しかも、それはことの一面で、もう一面の狙いは対朝鮮の共同戦線の構築であったわけです。野党の指導者がこうした狙いを知らなかったはずはない。しかもこれが安倍の言う「主張する外交」の第一歩であったわけですから。ところが野党各党はほぼ手放しでほめたたえた。
 さらに朝鮮の核実験以後は、いちだんと安倍政権は突出した。野党各党はまたもや、制裁を要求し支持した。わが国の政治軍事大国化は、わが国支配層の既定路線でしょう。朝鮮の核実験は口実に使われたにすぎない。こんなことも野党の指導者はみな知っている。ところが、米国を恐れ、選挙対策で「世論」を恐れて、本当のことが言えない。哀れといえば哀れですが、国民の生活、国の運命がそれで危険にさらされているわけで、許せないことです。
 安倍政権の「主張する外交」には、衰退が明らかな米国を見ながら、他方で、世界中に広がったわが国独占体、多国籍大企業の権益を守るため、積極的に、経済力にふさわしい国際的発言権を実現しようという意図があります。とりわけ、世界の多国籍企業が進出し、争奪の焦点となっているのがアジア地域ですが、わが国多国籍大企業も最近はそこに最も多く進出しています。
 財界は、経済連携協定(EPA)から東アジア共同体を展望し、発展するアジアを自己の経済基盤として形成しようと望んでいます。政治としては、例えばポスト安倍をめざす麻生外相は「自由と繁栄の弧」をめざすなどと、ブッシュの「不安定の弧」戦略とほぼ同じ地域を指しながら、わが国がそこで政治的役割を果たすと打ち出しています。政治軍事大国化の方向で、対米追随という枠内ですが、選択というか模索が始まっています。さらに安倍政権は、五年以内の憲法改悪まで公然と打ち出していますね。

大嶋 核武装問題も出してきた。こんにちの閣僚や自民党幹部の発言は、世論づくりの意味と、もうひとつ、日本の核武装を恐れる中国を牽制し、朝鮮の核武装を阻止する包囲網形成、強化に引き込むという政治的狙いがありそうですね。


アジアの共生は日本の活路

中村 日本にとって、アジアの共生は、多国籍企業だけでなく中小企業も含めて、貿易にしろ企業進出にしろ、さまざまネットワークがつくられているわけですから、アジアと共に繁栄するしかない、ということには異論はないと思うんです。資源のない、輸出に頼らなくてはならない国ですから。
 近隣の友人であるアジアとの深い依存関係は避けて通れない。だから本当に対等平等でお互いに繁栄できるような関係を築かなければ、わが国の未来はない。

秋山 財界の言っている「東アジア共同体構想」などは、戦前の反省もまったくなく、しかも米国の軍事力を背景にして「大東亜共栄圏」をつくろうということでしょう。
 繁栄するアジア、巨大化する中国、これとことを構え、台湾海峡にことあらば軍隊を出しましょうと。〇五年、米国と合意した2プラス2(日米安全保障協議委員会)の路線、米軍再編はそうしたものですね。朝鮮にはギリギリと危機をあおる。韓国の人から見ても、アジアの人から見ても、こんな国では信用できない。しかも、米国という虎の威を借りてでしょう。これでは、アジアで共存などできるはずがない。

山本 本当にアジアと共生しようとすると米国に従属しながらでは不可能です。十一月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で米国が日本の構想に横やりを入れ、安倍がヨロヨロとしたFTA(自由貿易協定)問題のように、支配層にとって危うさでもある。彼らは戦略的展望を描けない。対米従属の政権では腰が定まらないですね。
 米国もアジア経済と深く結びついています。だから日本がアジアを独り占めしようとするような構想を絶対に認めない。かつてEAEC(東アジア経済協議体)構想も、九七年のアジア通貨危機の時のアジア通貨基金構想、みなそうです。これが実際でしょう。

秋山 われわれが本当にアジアで生きていこうとすれば、対米従属の国の進路を根本から改めて、独立し、自主的な外交を確立しなければ、実現できないですね。

中村 小泉は政権末期に、中央アジア等を飛び回って、「わが国独自の資源外交」と言われた。でも、他方では、米国のイラン制裁を支持した結果、わが国が開発権を握っていたアザデガン油田の権利を失った。米国はわが国のエネルギー面の独立を許さないわけです。

山本 同時に、国内で多国籍独占企業が独り勝ちする、この構造をそのままアジアに広げて、アジアを収奪する構造ではうまくいくはずがない。利益ばかり吸い上げる大企業には共生はできない。国民経済を発展させる方向、国内に基盤をもち、アジアと手をつないでしか生きていけない広範な国民の意思が反映してこそ、共生の外交が可能になる。政治のシフトを変えないといけない。

中村 あるシンポジウムで、韓国の元エネルギー長官という人が、どういうアジアとの協力関係をつくるのかということで日本に注文をつけた。一つは、歴史的な反省をきちんとしてくれ。それから、大事なことですが、米国との同盟関係、これは切ってから来てください、と。アジアは日本を見ています。当然ですね、かつての深刻きわまりない教訓があるのですから。


国の進路、アジアをめぐる2つの道

大嶋 とくに朝鮮にどのような態度を取るかが問われますね。

山本 拉致や核を口実にしながら、米国のお先棒を担いで、力で朝鮮を抑え込む道なのか、歴史のきちんとした解決を踏まえた日朝の国交正常化によって問題を解決し、この地域に平和と安定を実現して、アジアの共生の道を進めるのか。安倍が進める制裁と圧力で朝鮮を「やっつける」のではなく、国交実現によって懸案を解決していく、これこそ打開の道だと思う。

秋山 拉致の問題にしても、一国の指導者としての金正日氏が国家犯罪として認めて、謝罪した。朝鮮の人びとにしてみれば、植民地支配など言いたいことは山ほどあるはずですよ。拉致と言えば、とほうもない拉致である強制連行問題、従軍慰安婦など言いたいことは限りなくある。にもかかわらず、朝鮮の指導者がああした態度を取ったことの意味を知るべきです。国家と政治指導者の「品格」にかかわることになる。平壌宣言にある通り、さまざまある懸案は国交交渉の中で解決すべきなんです。ところが日本の小泉も、安倍も、他国との約束を守らず反故にした。代わりに制裁と圧力では、拉致問題も完全解決するはずがない。被害者と家族を利用しているに過ぎない。
 これでは、アジア諸国の信頼など得られるはずがない。

山本 朝鮮をにらみ、さらに中国をにらんだ、米軍と自衛隊との一体化という逆行する動き、米軍再編が進んでいますが、これに対する反対運動が昨年は発展した。労働者や住民の運動だけでなく、保守系の自治体首長が、座間でも岩国でも、あちこちで先頭に立って、市民ぐるみの運動が発展した。沖縄でも頑強に闘われています。横須賀では原子力空母の母港化に反対して、住民投票の署名が必要数を数倍して集まった。危険な動きも進んでいるが、国民の動きも進んでいる。
 だから、今年はそれらも含めて、わが国は対米従属を打破し、アジアと共にどう生きていくのか。世論の喚起に努めなくてはならない。とくに米軍再編に引き続き反対し、これを打ち破る闘いを発展させると共に、当面の政治情勢の中では日朝国交正常化の課題などを重視し、広い戦線の形成を進め、この国の危機を打開する。アジアの共生に向けて切り開いていく年になるし、そうしなくてはならない、と思います。

秋山 敵の側は、排外主義と「脅威」をあおるために、在日朝鮮人とその組織、朝鮮総聯への政治的弾圧と迫害を強めている。これに反対し在日外国人の権利を擁護し連携する闘いは、日本人民の責務であり、戦略的課題です。
中村 財界が進めようとした「東アジア共同体」構想に米国が激怒して見直しが迫られたり、年末の六カ国協議の推移、わが国の「浮き上がり」ぶりなど見ても、対米従属の安倍外交は早くも困難に直面していると言える。朝鮮問題では安倍は「ハシゴを外される」といった見方も多い。自民党の中にも、米国という「虎の威を借る外交」でなく、国交回復の中で拉致問題も解決できる、という意見も出てきている。そういう人びとも含む幅広い戦線をつくる条件は出てきていると思います。


独立の旗を労働運動が握ること

大嶋 小泉前政権は、朝鮮問題、あるいは中国の強大化を、脅威論、排外主義で最大限利用して、対米従属と政治軍事大国化、政権浮揚に利用したように思いますが。

山本 小泉政権は朝鮮での拉致問題を非常に意図的に利用、口実にして、朝鮮、中国に対するべっ視感と脅威をあおり立て、排外主義をかき立てて、政治支配に利用した。小泉の靖国参拝もそういう意味では非常に政治的なものとして仕組まれたと見て置く必要があるんじゃないか。安倍はとりわけ、これをエネルギー、政治資産として首相になることができたと言えますね。
 例えば、イラク戦争での有志同盟。スペイン、イタリアなどの政権は、国内的なさまざまな原因と、とりわけイラク派兵とその犠牲の増大の中で、国民の反米感情の高まりを背景に打ち倒された。
 しかし、同じ有志同盟ながら小泉政権はそうならなかった。それはなぜかというと、朝鮮や中国の脅威をあおることで、本来もっと高まって当然の国民の反米感情を、そちらに振り向けてかわした。そういう意図した世論操作があったわけです。「中国、朝鮮の脅威があるんだから日米同盟は必要なんだ」と。
 沖縄「復帰」を自民党政権が主導し、直後の選挙で大勝した例は典型で、さまざまな経済摩擦など、対米従属下のわが国戦後史で国民の反米感情が高まるたびに、支配層はこれをどうかわすかに腐心してきた。小泉、安倍はこれを引き継いでいるんです。
 この排外主義との闘いでは、偏狭(へんきょう)な排外主義それ自身を暴露して闘う必要があるんですけれども、本質的には、わが国の直面する諸困難の根源、対米従属の政治を徹底的に暴露し、国民の中にある民族感情というか反米感情を正しい方向に組織して闘うこと、とりわけ労働者階級が国の独立の課題を断固として掲げて、主導権を握ること。その中でしか解決しないと思うんです。
 この問題について非常に重大な弱さがわが国の左翼勢力の中にあって、小泉政権を延命させ、安倍政権成立を許す大きな要因の一つになっていたのではないかと思います。これはこれから闘っていく上で非常に重要な教訓です。

大嶋 石原都知事への支持が比較的続いてきた問題も同じですね。

中村 政権発足直後の訪韓、訪中外交も、「効果」は大きかった。政治的主導権を安倍が完全に握ることができた。日中国交回復とか、沖縄返還とか、かつても自民党は民族的課題を利用して主導権を握り、国民の支持を引きつけ、政治的浮揚を果たしてきたんですね。

秋山 安倍の排外主義の問題、「米国とも対等」などとナショナリズムをくすぐる問題も、アジア外交も、ねじれた、そしてきわめて不徹底で欺まん的な「民族」の旗にすぎない。要するに、さっきのAPECじゃないけど、根本的にはわが国の自立こそが求められているんですね。この問題で課題を明確に据えて、われわれが独立の旗を鮮明に掲げて闘わないと敵の策動を許すことになる。安倍政権と闘おうとすると、安倍の側が排外主義、あるいはナショナリズムをくすぐる演技を意識してやっているわけですから、徹底した暴露が必要だと思います。

中村 とくに労働運動が重要です。わが国労働運動では「左派」も含めて、伝統的に米帝国主義との闘い、独立のための闘いが弱く、民族課題の重要さについて認識面で重大な弱点があります。いま、安倍政権の進める政治と闘うとき、この弱点の克服は重大です。
 独立の闘い、民族課題を軽視する政治思想傾向との闘いは、わが党が重視しなくてはならない重要な課題となっています。こうした闘いを進めて、労働者階級が独立・自主の国の進路の旗を高く掲げて、広範な国民運動の先頭に立つように促さなくてはなりません。


大企業には「成長」、国民各層には犠牲

大嶋 安倍政権の国民生活破壊の「改革」政治との闘いも重要ですね。

中村 安倍政権には、小泉政権下で進められた多国籍企業のための「改革」政治を継続することが求められています。しかし、それは「改革」政治がもたらした「二極化」、国民の困窮化の上に押し付けねばならず、しかも先進国で最悪の財政再建は待ったなし。要するに、小泉政権以上に国民各層に犠牲を強いる政治をやらざるを得ないんです。参院選挙を控えているので隠しているが、消費税増税は必至です。
 だからこそ、景気回復を頼んで「成長なくして財政再建なし」と「成長戦略」を吹聴し、「再チャレンジ支援」などと「オトリ商品」を誇大宣伝して、国民をたぶらかそうとしている。
 われわれは、すでに進んでいる国民生活破壊の実態、「改革」政治の犠牲になって苦しんでいる人びとの生々しい怒りを突きつけて、安倍政権の暴露をやる必要がある。「成長戦略」というのは、大企業減税政策が端的に示しているように多国籍企業だけを「成長」させ、国民各層にさらなる犠牲を押し付けるものだ、と。

山本 そもそも「成長戦略」自身が成り立つのかさえ危ういものですよ。小泉政権下で日本経済はすっかり外需依存、企業が海外で稼ぐ体質になっていて、世界経済が減速に見舞われれば、お先真っ暗。しかも、世界的競争力を強化するためにと、労働者の賃金は徹底して抑えてきたので、個人消費、内需に頼る政策手段には限界があります。そういう状況の下での財政再建は、もろに国民への犠牲転嫁となる。

秋山 だからこそ、「再チャレンジ支援」などと言って展望があるかのように宣伝している。「六大改革」を掲げて失敗した橋本政権をかれらなりに総括して、国民全部を敵に回さず、ごく一部は引き付け、国民世論を分断して攻める作戦ですよ。
 そういう安倍政権の欺まん的なやり方と闘うには、中村さんが言われたように、すでに耐え難いほどの痛みが押し付けられている人が怒り、部分的には反撃が始まっている。ここのところに着目して、各所で具体的要求を掲げ、闘いを丹念に組織し、相互の連携を広げていくことが重要だと思うんです。
 社会保障制度は文字通り解体されつつあり、「道州制」を唱えながら自治体の行革、民営化はさらに進む。例えば国民健康保険税だが、福岡市内だけでも十四世帯に一世帯が保険証がなく、十割負担ということで診察にも行けず、手遅れになってから病院に担ぎ込まれるというケースが結構出ている。これを国の命令で地方行政が推進しているわけで、わが党組織、候補者はぜひともこういうリアルな現実を取り上げて暴露し、苦労している人たちの先頭に立って闘う必要があると思うんです。

中村 その通りですよね。この間、労働者の中でも、格差が拡大し、貧困層が急増しています。多国籍企業が海外に安あがりの労働力を求めて進出した結果、下請中小企業に対する収奪はいちだんと強まった。そうした中で正社員がパート、派遣、請負労働者に置き換えられ、低賃金で不安定な非正規労働者が一挙に増え、三人に一人の割合にまでなった。大企業と中小企業で働く労働者の格差は開く一方です。若年層での格差拡大も深刻です。
 民間労働者の中で、年収三百万円未満の層が三八%にも上っています。年末NHKの番組で見られた方も多いと思いますが、昼夜働いても生活保護世帯以下の収入しか得られず、そこからはい上がれずにいるワーキングプア世帯がなんと四百万もあるという。
 連合は、今春闘で「ストップ! ザ・格差社会」のキャンペーンをやろうとしていますが、「恵まれた組織労働者」の自己満足的なキャンペーンになっては意味がない。文字通り同じ労働者階級の一員として、八割以上の組合に組織されていない労働者の要求をいっしょに掲げ、連帯して闘えるかどうかが肝心なことだと思います。
 地域では中小企業に働く労働者が劣悪な労働条件に不満を募らせているし、パートや請負労働者の中に組合をつくる動きも出てきている。そうした未組織の労働者に接近し、不満を聞き、自ら闘い、組合づくりに立ち向かうように支援することが重要だと思う。
 障害者の人たちが国会前に座り込んで「あれは自立破壊法だ、撤回せよ」と困難を押して直接行動に立ち上がっていました。犠牲にされ、死活にかかわれば、大きな力を発揮できると思います。そのエネルギーを信じて、そこに依拠して闘いを組織すること、各社会層の闘いを連携させることがとても重要ですね。

山本 その点では、昨年末の愛知県での「自主・平和・民主のための広範な国民連合」総会が実現した状況は非常に教訓的でした。中小企業家や商店街の代表が来られたり、農村からも、障害者の団体も来られた。いずれも最近知り合ったばかりの人びとで、共通しているのは「何とかしなければ」と立ち上がる中で、大きな力の結集を願い連帯を切実に求めていたことでした。国民連合の総会に参加し自分たちの実情を訴え、手を携えて闘おうということになった。愛知の皆さんの経験に学んで、国民連合の皆さんといっしょにそういう人びとの希望、頼りになるようにがんばりたい。
 もう一つ、オーストラリアとのEPA交渉で北海道の農業が壊滅的打撃を受けるということで、農民団体を中心に各層の連合した闘いが始まりました。畜産、酪製品、小麦や甜菜などの自由化で北海道経済への影響は二兆円規模。北海道拓殖銀行が破たんした時よりも深刻な事態になる。年末、農民が帯広に集まって決起大会をやった。これには連合なども協力していますし、経営者団体も地域経済を守るということで連携できるようです。そういう流れが各所で進み始めて、そこにわが党がしっかり結びついて、広範な勢力を連携させる力を発揮しうるかどうか、非常に重要なところに来ている。

中村 そういう方向で労働運動の先進的活動家の皆さんが闘えるように援助するのも、重要な仕事になりますね。
 そのためには、ここ数カ年の政治の変化、トヨタなど多国籍企業が指導的地位に立ち、その一握りの利益のために、労働者が犠牲にされているだけでなく、中小業者も自営業者も、農民も犠牲にされている政治の実際を正しく認識することが必要です。そうすれば、分断・孤立を打ち破って、犠牲になっている社会層と手を組んで反転攻勢をかける展望が描けます。
 
秋山 安倍が進めようとしている政治は決して盤石(ばんじゃく)なものではなく、その内側に強力な抵抗する力が生まれていると見抜いて闘うことが大事ですね。
 民主党は「政権交代」を掲げて、国民の不満を参議院選挙へと収れんさせようとしていますが、国の進路でも、内政でも明確な政策的対抗軸を示せないし、まったくの議会政党で国民運動を組織する意思も力もありません。
 われわれは、独立・自主の国の進路の旗を高く掲げると同時に、国民各層の要求、エネルギーに直接依拠した強力な国民運動、労働運動を基礎にした大衆行動の発展を勝ち取る、その延長にこそ政治変革の展望があることを強く訴えたい。

山本 そういう闘いを組織し、前進させていく指導政党としてのわが日本労働党の役割はいっそう重要だと改めて感じさせられています。その役割を果たす上で、理論とイデオロギー面での闘争にもっと敏感になり、磨きをかける必要があると思います。
 この国の行き詰まり、危機を打開するような進路を切り開く、独立・自主の広い戦線をつくっていくためにも、切実な課題となっています。

中村 われわれ幹部は昨一年、遅ればせながら弁証法を情勢分析、党活動に適用できるようにと真剣な勉強を始めました。それを生かし、闘いを切実に望んでいる労働者の「下層」に接近し、結びつき、確固とした党組織を全国に建設し、強化する力に変えるように全力をあげたい。なんと言っても、党の組織建設で前進がなければ、すべては空語となります。全国の現場でがんばっている同志たち、地方機関の専従の同志たち、中央諸機関の同志たちと団結し、真剣に取り組み、具体的な成果をあげたいですね。

大嶋 昨年の十月二十五日の社説もそうでしたが、「労働新聞」の役割はますます重要になってきていると痛感しています。政治暴露、批判を鋭くし、いっそう政治闘争、党派闘争の武器になり、先進的活動家の認識面の整頓に役立つような新聞として質を高めたい。同時に、生々しい実態や感情、労働者が「俺のことが載っている」と思えるような労働者新聞への刷新を、読者の皆さんの協力をいただきながら進めていきたいと決意しています。

一同 新年、いっそうがんばりましょう。


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