労働新聞 2006年12月15日号・2面 社説

株式譲渡・配当への
課税強化は当然

 株式譲渡益・配当への課税優遇措置をめぐる問題が、「安倍政権の隠れた重要施策」(日経新聞)となっている。
 現在、企業や個人が株式の売買や配当によって利益を得た場合、一〇%(所得税七%、住民税三%)の税金が課税されている。だが、この税率は〇三年一月に二〇%(所得税のみ)から引き下げられたものである(五年間の「時限措置」)。
 これは、バブル崩壊後の長期不況と株価低迷を口実とした施策であったが、その実、竹中金融・経済財政政策担当相(当時)らが推し進めた「貯蓄から投資へ」という政策に基づくものであった。
 それは、約千五百兆円とされたわが国民間個人の金融資産を、(元本が保証された)貯蓄中心から、株式などの(リスクの高い)投資にシフトさせることであり、国民の汗の結晶としての富を、米欧を中心とする巨大金融資本の食い物として差し出そうという政策の一環でもあった。
 またこの措置は、国内外に投資を行い、その収益や配当で膨大な利益をあげている、わが国多国籍大企業や資産家には大減税となるもので、かれらにとっては大いに歓迎すべき政策であったのだ。
 例えば、トヨタは子会社デンソーの株式の約二五%(約二億株)を保有有し、〇六年三月期には約七十六億円もの配当を受け取った。だが、この受取収益から払った税金は、(ほかの優遇制度もあるため)わずか一・五億円程度でしかない。
 優遇が行われた期間もいまも、労働者など大多数の国民には低賃金とリストラ攻撃が吹き荒れ、「老後のために」と生活費を削って銀行に預金しても、低金利政策によって利子はゼロ同然で、しかも、その利子には二〇%の所得税が課せられたのである。
 この結果、税金が半分ですむ株式投資に資金が流れた。政府やマスコミは「自己責任」とか「グローバル・スタンダード」などと言うが、政策による意図的な誘導だったのである。
 このような経過で導入され、多国籍大企業や大金持ちを潤し、大多数の国民に苦難を与えた株式譲渡益・配当への課税優遇措置は、直ちに廃止するのが当然である。現行制度上の期限(譲渡益は〇七年末、配当は〇八年三月末まで)を待つ必要など、そもそもないのである。
 だが、先ごろ安倍首相に答申を行った政府税制調査会(本間正明会長)は、優遇措置を「廃止」するとしつつも、「課税で株価が下がる恐れがある」ことを口実に、「激変緩和措置」をとるよう提案した。
 自民・公明の与党にいたっては、「緩和措置」どころか、軽減税率適用期間をそれぞれ一年延長することを主張している。五味・金融庁長官は、この軽減税率を「拡充・継続せよ」とまで述べている。
 まさにこの連中は、多国籍大企業や金融資本、大金持ちの代理人であることを自己暴露している。
 自民党はもともとこういう党だが、公明党のこの態度は、低所得者層が多いとされる同党支持者を明確に裏切り、多国籍大企業のための悪政に加担していることを示すものでしかない。
 本間・税調会長の「税制は民主主義の学校」という発言にいたっては噴飯(ふんぱん)もので、怒りなしに聞くことはできない。
 多国籍大企業や金融資本、大金持ち優遇策の軽減税率適用は、直ちに撤回しなければならない。むしろ、株式譲渡益・配当への課税を強め、強度の累進税とすべきである。


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