労働新聞 2006年11月5日号・2面 社説

北朝鮮の「脅威」口実とした
安倍政権による
政治軍事大国化を許すな

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)による核実験に対する国連安全保障理事会決議を最大限に活用し、安倍政権はわが国の政治軍事大国化を一気に推し進めようとしている。
 与党の言う北朝鮮の「脅威」は口実である。安倍政権はイラク占領に手を取られ、イランの核開発を阻止できない米国の衰退をも横目で見ながら、これを支えつつ、冒険的とも言うべき政治軍事大国化の道に大きく踏み込んでいるのだ。
 これと闘う国民的戦線づくりは、喫緊の課題である。

矢継ぎ早の政治軍事大国化策動
 安倍政権は、北朝鮮に対する独自の制裁措置として、あらゆる船舶の入港禁止、輸入の全面禁止、北朝鮮国籍者の入国を原則禁止などを実施しただけではない。実行は今月中にも予定される六カ国協議に左右されるとはいえ、周辺事態法適用や特措法制定による船舶検査と米軍の後方支援策動が公然化。日米「共通戦略目標」合意に基づき、米軍再編実施への策動も強まった。ミサイル防衛(MD)構想の前倒しが決められ、沖縄にはパトリオット・ミサイルの配備が強行された。インド洋に自衛艦を派遣するテロ特措法は、ろくな国会審議もないまま延長されたし、防衛庁の「省」昇格法案も上程された。また、菅総務相は、NHK国際放送で拉致問題を重点的に扱うよう命令することを決めている。
 麻生外相や中川・自民党政調会長にいたっては公然と核武装を呼号、わが国の核武装に向け、世論を誘導しようとしている。
 靖国神社参拝問題もあいまいなままであり、旧日本軍による従軍慰安婦強制を認めた「河野談話」の「再検討」要求までも飛び出した。
 さらに、教育基本法改悪案の強行採決が策動されているし、憲法改悪のための手続き法である国民投票法案、共謀罪などの成立がもくろまれている。
 大国外交も強まっている。すでに、七月のミサイル発射直後、政府は北朝鮮に対する国連制裁案をすぐさま安保理に提示した。今回の核実験に際してもそれは同様で、安保理議長国であったことも最大限に活用し、米国のお先棒を担いで、制裁案採択に動き回ったのである。
 塩崎官房長官はこうした「実績」を総括し、今後もこうした対応を取るには、新憲法制定と併せ、国連常任理事国入りが「どうしても必要だ」と言う。塩崎は、この二つに代表される政治軍事大国化の道こそが、安倍首相の言う「戦後レジームからの船出」であり、「主張する外交」であると自白しているのだ。
 安倍政権による政治軍事大国化への動きは、法律、思想などにわたる全面的なものである。

政治軍事大国化は多国籍企業の要求
 政治軍事大国化の策動は、対米従属のものであると同時に、多国籍大企業にまで成長したわが国財界の要求である。
 すでに財界は、一九九〇年代から政治軍事大国化への願いを隠さなくなっていた。とりわけ、二〇〇二年に発足した日本経団連は、〇五年一月に「我が国の基本問題を考える」を発表、「グローバルな活動を進める我が国企業」にとって、テロや朝鮮半島情勢は「自らに対する直接の脅威である」と決めつけ、これに対応するものとして、大国外交や憲法改悪、武器輸出三原則の緩和・撤廃などを要求した。
 今回の北朝鮮の核実験をめぐっても、財界はすぐさま政府の態度を支持、制裁への「民間企業の協力」を表明している。
 世界中に権益を持つにまで巨大化したわが国多国籍大企業は、これを守るために経済力にふさわしい政治・軍事の力を求め、アジアで覇権を唱えようとしている。
 こうした多国籍大企業のための政治軍事大国化は、諸外国との友好協力に基づくものでないことは言うまでもない。だからそれは、わが国がアジアでいっそう孤立する道であるばかりか、北東アジアの緊張を一気に高める、きわめて危険な亡国の道である。

反動的な野党、民主党の犯罪性
 わが国の進路、将来にかかわる重大な情勢である。だからこそ、北朝鮮への制裁に関して周辺事態法を適用することに対しては、与党内にも動揺がある。
 平和を求める国民各層が幅広く結束して、大衆行動を巻き起こさなければならない。
 だが、野党はいずれも、北朝鮮敵視を口実とした政治軍事大国化に追随・加担するという反動性をあらわにしている。
 野党第一党の民主党は、北朝鮮敵視をめぐって「政府に対し協力すべきところは大いに協力する」(鳩山幹事長)という具合で、安倍政権による制裁措置に賛成するなど、「挙国一致」の先兵となっている。しかも、〇二年の平壌宣言を「白紙に戻す」(菅代表代行)ことを主張、政府に「制裁強化」を申し入れるなど、安倍よりも強硬な態度である。
 北朝鮮への制裁強化のための周辺事態法の適用には「反対」と言う。だが、その理由たるや「場当たり的だから」(小沢代表)というものでしかない。小沢は、場当たり的でないよう「憲法上の原則を打ち立てるべき」と主張しており、実際には改憲による集団的自衛権の行使容認など、対米戦争協力を主張しているのである。前原前代表らにいたっては、周辺事態認定を容認する言動を繰り返している。これこそが、民主党の本音である。
 防衛庁の「省」昇格についても、民主党は当初これを支持していた。当面の統一地方選や参議院選挙を考慮して「反対」に回ったが、その根拠たるや、防衛施設庁の官製談合問題への「国民の納得が得られる」ことを優先すべき、という「手続き論」でしかない。現に小沢代表は、防衛庁が「省」でないことについて、「決して良いことではない」と、本音を吐露(とろ)している。
 教育基本法改悪案についても、同様に「反対」している。だが、民主党が独自に提出した教基法改悪案は、御用マスコミ・産経新聞に「与党案よりもよい」と言われるありさまだ。
 このように、政府・与党の政治軍事大国化策動に対する民主党の「批判」なるものはきわめてペテン的で、信用のならないものである。これは与党との「対決」どころか、策動に手を貸すものでしかない。
 自民党と同様、日米基軸を党の基本政策とし、国連安保理常任理事国入りも主張している民主党が、このような態度を取るのは不思議なことではない。今回の態度は、この党の正体を改めて暴露したものといえるが、小沢民主党への幻想を捨てることは、国民運動の発展のためにますます重要となっている。
 共産党の果たしている役割も、きわめて反動的である。
 共産党は、北朝鮮非難の国会決議や制裁のための国連決議にも賛成、ついには、制裁措置にも賛成した。しかも、教基法改悪案の「成立阻止で野党が一致」などと、民主党の本音を十分に知りながらこれを批判しないなど、きわめて犯罪的な態度をとっている。
 野党は、このように与党に追随する態度をとっていて、来年に近づいた統一地方選挙や参議院選挙で、どうして自民・公明の与党と闘えるのか。外交問題で与党に追随し、争えなかった結果、神奈川・大阪の衆議院補欠選挙で、野党は一議席も獲得できなかったではないか。
 安倍政権の戦争策動と闘う大衆行動は、これら野党の態度を打ち破ることなしに発展させることはできない。

 安倍が選んだわが国の進路は、武器を持ち、相手に身構える道であり、アジアでの戦争への道である。北東アジアの平和と安定を求めるのであれば、安倍政権の策動を打ち破り、各国の友好と協力、共生の道を進まなければならない。国民の大多数は、そうした方向を望んでいる。
 だから、国民運動の組織者として、労働者・労働組合の果たすべき役割はいよいよ重大となっている。


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