労働新聞 2006年10月5日号・2面 社説

日本経団連が新政権に「提言」

企業減税と大衆増税求める財界

 安倍新政権の発足当日の九月二十六日、わが国財界の「総本山」である日本経団連は、「新内閣への要望」を提出した。その「要望」は、「イノベーション」による経済成長、日米基軸の外交、歳出入一体改革、道州制導入、教育・憲法改悪の五項目である。
 日本経団連は、その直前の九月十九日にも、歳出入一体改革にからめて「税制改正に関する提言」(以下「提言」)を発表した。
 「要望」や「提言」は、財界が安倍政権に求める優先的政策課題の一つが、「税制改革」であることを如実に示している。
 だが、その「税制改革」は徹頭徹尾、多国籍大企業の利益に奉仕するもので、その財源は国民諸階層の負担となる。
 まさに、安倍政権は多国籍大企業の利益に奉仕する政権である。
 「提言」が真っ先に要求しているのが、法人税率の引き下げである。
 「提言」は、現行約四〇%の法人実効税率を三〇%程度にまで大幅に引き下げることをはじめ、減価償却制度や固定資産税の見直し、地方独自の法定外税の規制、企業合併の際の税制柔軟化、研究開発への税控除など、ありとあらゆる減税要求が網羅(もうら)されしている。
 財界は、自分たちの減税を求める一方で、国民諸階層に対する大増税を公言してはばからない。併せて、深刻な国と地方の財政問題も「二〇一一年にプライマリーバランスを黒字化」ということで、国民各層の犠牲の上に「解決」せよというのだ。
 つまり、「消費税の拡充」という名の消費税率大幅引き上げが「早期に必要」だと言うのである。この身勝手な要求に、怒りを感じない国民はいない。
 わが国財界の主導権を握った多国籍大企業は二〇年、日本経団連としての財界団体の統合を主導し、「奥田ビジョン」を掲げて「改革政治」を求めてきた。消費税増税も大企業減税も、すでに「奥田ビジョン」に大枠が示されている。今回の「提言」もこの延長上にあり、財界は、消費税率を一五〜一六%とすることをもくろんでいる。
 御手洗・日本経団連会長は「構造改革をさらに推進せよ」と叫び、政府の経済財政諮問会議の民間委員として、「大企業減税・国民大増税」の陣頭指揮をとろうとしている。
 その狙いは、国際競争力強化のために、自らの負担を軽くすることである。事実、「提言」は「税制改革」の狙いを「(大企業の)国際競争力強化の視点」にあると露骨に述べている。
 行政改革や道州制の導入も、同じ狙いである。
 安倍首相は早速、こうした財界の要求に呼応し、減価償却の限度額拡大を中心に、来年度予算で六千億円規模の大企業減税を実施する意向だという。
 一方、安倍政権は来年の統一地方選挙や参議院選挙への影響を恐れ、消費税増税に「逃げず、逃げ込まず」などと言い、「歳出削減を優先する」と宣伝している。
 だが、公営事業の民営化や公務員削減、地方交付税削減などの「歳出削減策」は、それ自身が多国籍大企業の要求であると同時に、大衆増税のための「地ならし」でもある。
 「歳出削減」策で国民に犠牲を押し付け、さらに大企業への減税を行った上で「財源が足りない」と開き直り、「堂々と」大増税に踏み出す。政府・財界のシナリオはこうであろう。まさに、際限のない国民犠牲を国民に「納得」させるための、卑劣な策動である。
 すでに、小泉政権下の五年余の間に、医療費自己負担増、年金制度改悪、定率減税半減など、国民には約五兆二千億円もの大増税が強行された。一方、大企業には研究開発減税や株式配当減税など、約二兆九千億円もの減税が行われた。
 まさに、改革政治は「国民から奪い、大企業に分配した」のである。この手厚い「保護」や無慈悲なリストラの結果として、いまや大企業は空前の利益を得ている。安倍政権は、このような連中にさらに減税という「補助金」を出そうというのである。
 勤労国民にとって、絶対に許せない策動である。大企業減税が大衆増税と一体のものであることを見抜き、闘うことが求められている。


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