労働新聞 2006年9月25日号・2面 社説

労働組合は米軍再編との
闘いの先頭に

 安倍官房長官が自民党総裁に選出され、これを受けて、安倍新政権が誕生した。
 多国籍大企業を中心とするわが国支配層が安倍政権に実現を望んでいる課題はさまざまあろうが、その重要な一つは、米国の意にそった在日米軍再編を推し進めることである。
 日米同盟を「血の同盟」と公言する安倍政権は、在日米軍再編を加速化させたい米国にとってもうってつけの存在だからである。
 だがこの策動は、国民各層の大きな反発を引き起こさざるを得ないもので、現に全国で闘いが続いている。それゆえ、小泉前政権は関連法案を国会に提出できず、新政権に「丸投げ」せざるを得なかった。
 新しく誕生した安倍政権は、こうした難問を小泉から引き継ぐだけでなく、集団的自衛権の行使容認など、対米追随の下での日本の本格的な軍事大国化に手をつけようとしている。
 長年、平和運動の先頭に立ってきた労働組合がその役割を果たそうとすれば、まさに正念場なのである。

米軍再編は米戦略の一環
 米軍再編は、米国の世界戦略を実行するための戦略配置計画である。
 米国は二〇〇一年の同時テロ事件を口実に、冷戦後の世界で一極支配を確立するための新たな世界戦略を打ち出した。それが、「敵対国」に対する核を含む手段での先制攻撃を公言した「ブッシュ・ドクトリン」である。
 そこには、中東を支配し戦略資源である石油を確保することで、欧州列強や台頭する中国を抑え込もうという狙いがあった。
 すでに米国は、一九九六年の日米安保共同宣言(安保再定義)を機に、日米同盟を「米英同盟並み」にして、わが国を中国に対して身構えさせる方向を確認させた。「ブッシュ・ドクトリン」は、日米の軍事的一体化をはじめ、日本をより米国との同盟に組み込み、世界中で自らのお先棒を担がせることを要件としていた。
 だが、「ブッシュ・ドクトリン」はその緒戦であるイラク占領で大きくつまずいた。人民の抵抗の前に、米国はイラク戦争に反対した欧州との関係「修復」を余儀なくされ、その威信は大きく傷ついている。
 このような米国の危機の深まりを見たわが国支配層は、積極的に米国を支え、その中でわが国の政治軍事大国化をめざす道を選択している。
 イラク侵略戦争に際してはこれを真っ先に支持、戦後初の戦地への自衛隊派遣を強行した。日米安全保障協議委員会(2プラス2)では、日米「共通戦略目標」で合意、中東から東アジアをにらんだ米「不安定の弧」戦略を補完するため、中国を事実上の「仮想敵」とする道に踏み込んだ。さらに、朝鮮民主主義人民共和国への敵視と経済制裁などが強められた。いままた、民間金融機関の「自主的措置」という形で、イランへの制裁に同調した。
 それは、わが国支配層、多国籍化した独占資本が、対米従属の下で、世界に拡大した経済力にふさわしい政治的、軍事的発言権を確保しようという意図にもそったものである。
 昨年十月末の2プラス2で在日米軍再編の「中間報告」が発表された背景は、以上のようなものである。

再編に根強い抵抗
 在日米軍再編で直接対象となり、基地負担を押し付けられる自治体は、沖縄をはじめ神奈川県キャンプ座間、山口県岩国基地、鹿児島県鹿屋基地、福岡県築城基地、宮崎県新田原基地など、全国に広がっている。まさに、日本全土を米軍の戦争に総動員するための再編である。
 当然にも、全国の関係自治体や住民は「報告」に強く反発した。
 三万五千人の県民総決起大会を開いた沖縄の闘い(三月)を先頭に、座間市や相模原市、岩国市の住民投票と市長選の勝利(三〜四月)。市と農業・商工業などの諸団体、労働組合が連携して集会に立ち上がった鹿屋市の闘い(二月)。区長会が自主的に集会を開いた福岡県行橋市(築城基地)の闘い等々、闘いが発展した。
 だが、政府はこれに背を向け、五月初の2プラス2での「最終報告」を受けて五月三十日、在日米軍再編のための「基本方針」の閣議決定を強行したのである。
 しかし、五月の「最終報告」からすでに四カ月以上が経過しているにもかかわらず、防衛施設庁の集計によっても、五県十六市町の計二十一自治体が反対姿勢を堅持している。
 その背景には、小泉改革の六年間で国民生活が苦しくなり、地方が疲弊(ひへい)していることもあろう。
 これに加え、米軍再編が関係自治体だけの問題でないことは、徐々に国民に暴露されつつある。
 何より、政府は米国に対し、グアムへの米海兵隊の移転費用三兆円を拠出するという。
 社会保障の切り下げなど、国民に改革の「痛み」を押しつけながら、米軍には大盤ぶるまいをしようとする政府に対し、怒りを感じない国民はいないのである。

労働組合の果たすべき役割
 米軍再編を挫折させる闘いはこれからが本番なのである。
 述べたように、米軍再編に反対する闘いを支える「すそ野」は、行政や各種団体を含め、国民各層の中に広大である。闘う側からすれば有利な条件なのである。
 確かに、政府の卑劣な「アメとムチ」の政策の下で「再編受け入れ」を表明する自治体も出ている。だが住民は納得していないし、「受け入れ」の口実である「アメ」とて、何の保障もないものだ。
 それだけに、再編計画を打ち破ろうとすれば、労働者・労働組合が有利な条件を生かし、広範な闘いの中心的組織者として役割を果たすことがますます肝心なものとなってきているのである。
 この間の闘いでも、各地の平和フォーラムや県、地域の連合が積極的な役割を果たしている。
 労働組合の中に闘うエネルギーがあることは、先の自治労大会での代議員発言にもあらわれている。ここには確信が持てる。
 また、少なくない地域で、労働組合が犠牲を強いられる自治体や地元自治会、住民が幅広く連携し、行動に立ち上がったことは重要である。この傾向をさらに発展させることが求められる。
 支配層が公務員バッシングをはじめとする労働運動孤立化策動を強めているからこそ、労働組合の側から広範な住民に呼びかけ、共通の課題で共に闘うことが必要なのである。

議会政党への幻想を捨て闘おう
 労働組合などで組織する「フォーラム平和・人権・環境」は、十一月二十八日、東京で全国規模での米軍再編反対のための集会を開催する予定だという。このような闘いを各都道府県単位で、あるいは地域で積み上げ、発展させることが求められている。
 ところで、このようにわが国の進路にとって正念場とも言うべき情勢であるにもかかわらず、議会各党の態度はどうか。
 公明党は、与党として米軍再編を積極的に支えている。「右傾化のブレーキ役」どころか、「アクセル役」にほかならないこの党に、いっさいの幻想を持つことはできない。
 野党第一党である民主党は、再編に関する三兆円負担に反対している。
 だが、「日米同盟が最も大事だという考えについては人後に落ちない」という小沢代表の言葉に示される通り、民主党は米軍再編の策動と正面から闘おうとはしていない。民主党が本気で三兆円負担に反対するのであれば、国民運動の先頭で闘うべきであろう。それなしの「反対」では、およそあてにはならない。
 選挙による「反自公」の闘いも、あるいは教育基本法改悪反対などの諸闘争も、再編計画と闘う広範な行動と結びついてこそ前進できる。
 さらに、国民運動と結びつき、その発展を促せる議会の新党を形成する闘いの一翼を担うことも、わが国労働組合の果たすべき重要な役割である。


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