労働新聞 2006年9月15日号・2面 社説

同時テロ事件から5年

米帝国主義の歴史的衰退は
ますます明白

 九月十一日、米同時テロから五年が経過した。
 この日、ブッシュ米大統領は、あらためて無法な「対テロ戦争」への「決意」を述べた。
 だが全世界、とりわけ(米帝国主義と闘う)中小国、人民は知っている。ブッシュの居丈高な態度とはうらはらに、米国の没落はより明白となり、その世界支配は大きく揺らいでいることを。
 わが国マスコミでさえも、この五年間で「米国の力の低下」(日経新聞・十日付社説)が明白となり、「国際情勢は大きく変わった」(同)と認めざるをえないほどだ。
 ブッシュはこの二日前、「核開発」を口実にイランに対する金融制裁に踏み切った。だが、それは単独でのもので、同調する国は今のところない。同テロ直後、アフガニスタン侵略を多くの国々が支持・参加した事実と比べれば、米国の影響力低下は否定できない。
 だが、次期首相が有力視される安倍官房長官はもちろん、野党第一党の民主党も、相も変わらず対米追随の道を「堅持」すると言う。御用新聞・読売新聞も「国際社会の戦線再編成が課題」と、わが国が米世界戦略をいっそう支えるべきだと言う。
 こうした見解は、世界のすう勢に反するものである。対米追随外交を転換させることは、ますます急務の課題となった。

世界支配の維持狙う「対テロ戦争」
 同時テロ直後、ブッシュは「これは戦争だ」と拳を振り上げ、二〇〇一年十月にアフガニスタン、続いて〇三年三月にはイラクを攻撃・政権を転覆させた。
 ブッシュは〇二年、「ブッシュ・ドクトリン」を掲げ、イラン、イラク、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)など、自らの世界支配に抵抗する中小国を「悪の枢軸」「圧政の拠点」などと罵倒(ばとう)、核兵器を含む先制攻撃で打倒、政権転覆を図ることを正当化するに至った。それは、キッシンジャー米元国務長官が言う通り、「内政不干渉」を建て前としてきた十七世紀以来の独立国間の諸原則(大国間のものでしかなかったが)を、真っ向から踏みにじるものでもあった。
 米国はこれらの侵略戦争を「テロとの戦い」と呼び、同盟国など世界各国に同調と協力の「踏み絵」を迫った。
 だが、「対テロ」は口実にすぎない。米国は戦略資源である原油の集中する中東を支配することを通して、自らの世界支配の障害となりかねない欧州連合(EU)や中国などの台頭を抑え込もうとしたのである。同時にこれは、経済成長を続けるアジア市場を支配することも意図していた。
 その手段をもっぱら(比較優位にある)軍事力に頼ったこと自身に、見かけの「強さ」とはうらはらの、米国の「弱さ」があらわれていた。
 こんにちこの米戦略は、朝鮮半島から中東へと至る「不安定の弧」地域への注力としてあらわれている。

米国のちょう落早めたイラク戦争
 しかし、全世界の反対の声を押し切って強行したイラク戦争は、かえって米国の力の限界を満天下にさらし、その国際的孤立をあらわにさせる結果となった。
 EU諸国はドイツ、フランスがイラク戦争開戦に最後まで抵抗するなど、欧米間の矛盾が顕在化、欧州はこれを機に、政治・経済の両面で独自性を強めたのである。米国は国連安全保障理事会を利用することができず、「有志同盟」での侵略を強行せざるを得なかった。
 しかし、フセイン政権の打倒には成功したものの、イラク・中東人民の根強い抵抗によって内戦はいっこうにおさまらない。でっち上げた傀儡(かいらい)政権の基盤は安定せず、一部には米国が恐れるイランへの接近という傾向も生まれている。イラクからの米軍撤退期限は、いっこうに明示できないままだ。
 「大量破壊兵器」「テロ支援」など戦争の口実も、こんにちではまったくのデタラメであることが暴露され、ブッシュ自身がこれを認めざるを得なくなった。
 スペインやイタリアなど、「有志同盟」は櫛(くし)の歯が欠けるように脱落した。多くの国々で、イラク戦争を支持した政権は退陣を余儀なくされ、ブッシュの最大の盟友である英国・ブレア首相までもが、一年以内の退陣を表明している。
 アフガニスタンでは「打倒」したはずのタリバン旧政権が復権の勢いを見せ、イスラエルを使ってのレバノン侵略も、ヒズボラなど人民の闘いの前にとん挫した。
 米国は、世界支配のためにイラク侵略戦争を開始したものの、その結果、かえって自らの力の限界をさらすこととなったのである。

対米自主を強める世界の諸国
 こうした米国の衰退を見越して、諸国は自主的傾向を強めた。これは、欧州諸国だけの動きではない。
 アジアでは、中国、ロシアは上海協力機構(SCO)を形成、「不安定の弧」の内陸側諸国の結束を強め、米国をけん制している。韓国は韓米同盟を維持しつつ、北朝鮮との対話路線を堅持、最近では米軍からの「戦時統制権」返還でほぼ合意するに至った。北朝鮮やイランは、米国の敵視や制裁に抵抗する姿勢を捨てていない。
 さらに、インド、ブラジルなどが経済的に台頭、国際政治面でも発言力を増している。米国の「裏庭」である中南米でも、ベネズエラなど「反米」的な政権が次々に誕生した。
 米国内でもブッシュ政権の支持率は急速に低下、十一月の中間選挙を前に「レームダック状態」とも言われるほどだ。しかも、経済の競争力低下は深刻で「双子の赤字」が解決するメドもなく、貧困の拡大も解決できない。諸国の「ドル離れ」をつなぎ止めることもできていない。
 こうして、米国の「弱さ」はいっそう際立つようになり、「米一極支配」とも言われた冷戦後の世界は、大きく変化しているのだ。

時代錯誤の対米追随続ける支配層
 ところが、わが国はこうした世界の現実に背を向ける対米追随を続けている。
 この五年間、政権の座にあった小泉政権は、アフガン戦争やイラク戦争を真っ先に支持し、初の自衛隊「戦地派遣」に踏み込んだ。また、米国との間で、中国を事実上の「仮想敵」とする「共通戦略目標」で合意した。この流れの上に、在日米軍再編やミサイル防衛(MD)構想への参加、北朝鮮への制裁、国内での有事法制整備が強行され、憲法や教育基本法の改悪も策動されている。
 この背後には、落ち目の米国をあえて支えることで、日本の政治軍事大国化を実現しようという支配層、とりわけドル体制に依存し、海外に膨大な権益を持つわが国多国籍大企業の意図がある。
 安倍や谷垣財務相、麻生外相の「ポスト小泉」を狙う政治家のいずれもが、こうした小泉政権を支えてきたし、その売国外交を継承することを公言している。安倍にいたっては「日米同盟は『血の同盟』」などと公言、集団的自衛権の行使容認など、全世界的な規模で米戦略に協力し、そのために国民が「血を流す」ことを求めている。
 民主党の小沢代表も「日米同盟が最も大事だという考えについては人後に落ちない」と、安倍と大差ない。民主党が「与党との対決」と言うのであれば、米軍再編など国の進路にかかわる重大問題で、国民的闘いを組織すべきである。そうした実践なしの「対決」など、ポーズにすぎないと言われてもやむを得まい。
 こうした与野党の態度では、わが国は米国の衰退とともに、世界で孤立せざるを得ない。それは亡国の道である。保守層や財界の中にも、対米追随外交の転換を求める声が起こっているが、世界の流れからすれば当然のことなのだ。
 情勢は、帝国主義の支配と闘う中小国・人民の側にますます有利となっている。
 時代錯誤の対米追随外交を打ち破り、独立・自主の国の進路を実現すること、そのための国民運動の先頭で闘うことは、わが国労働者・労働組合が果たすべき役割である。


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