労働新聞 2006年9月5日号・2面 社説

安倍官房長官が
総裁選出馬表明

「主張する外交」は
対米追随の大国化

 安倍官房長官が九月一日、二十日に投開票される自民党総裁選への立候補を表明した。すでに立候補を表明している谷垣財務相、麻生外相とともに、候補者が出そろったことになる。
 その安倍は「美しい国、日本。」と題する「構想」を公表した。
 本来、一政党の党首選における「構想」であり、自民党員向けの「公約」にすぎない。だが、政権政党である自民党内の大勢は「安倍支持」で固まっている。次期総裁ひいては首班に安倍が選出されることは、ほぼ確実だと言われている。
 だから、次期政権との闘いに備えるべき国民諸階層、とりわけ労働組合にとって、安倍の「構想」は真っ先に打ち破るべきものである。
 安倍「構想」の特徴は、小泉政権下で進んだ対米追随の政治軍事大国化をいっそう推進することを、あけすけに宣言していることである。
 その具体的政策は、米戦略を軍事的に支えるための集団的自衛権の行使容認や、憲法・教育基本法改悪などである。自民党総裁選に際して集団的自衛権の行使容認を明言したのは、安倍が初めてである。
 これは軍事力によって、自らが世界中に持つ権益が守られることを願う、わが国多国籍大企業の要求でもある。
 安倍は、これを「主張する外交」「戦後レジーム(体制)からの脱却」などと言う。もちろん、わが国戦後政治を規定した対米追随外交を見直すのではない。彼が「脱却」しようというのは、(すでに実質上は形骸化しているとはいえ)「軽武装・専守防衛」を建前としてきた戦後日本のあり方そのものである。
 安倍は自らの著書において、「日米同盟は『血の同盟』」と、米国のために国民が「血を流す」ことを露骨に求めている。集団的自衛権の行使容認とは、そういうことである。
 これは、米「不安定の弧」戦略に追随し、全世界でその戦争を支えるというものだ。それは米国の国際的孤立が深まるというすう勢に反する、時代錯誤で亡国の道である。「構想」は、この道を「美しい国」「強い日本」などという復古調で大国主義的なスローガンで「美化」しており、きわめて危険である。
 もちろん、安倍が「中国、韓国などとの信頼関係の強化」と言ったとしても、深刻な対アジア関係を本質的に打開することなどできない。
 そもそも、安倍が自民党幹事長、あるいは官房長官などとして支えてきた小泉政権下で、どのような事態が進んだのか。
 それは、イラク戦争への支持や中国を事実上の「仮想敵」とする日米「共通戦略目標」合意、在日米軍基地再編への全面協力、有事法制整備、朝鮮民主主義人民共和国への制裁発動と「敵基地攻撃論」の公然化などである。小泉は「日米関係が良ければよいほど、アジアとの関係もよくなる」と、その対米追随ぶりを開き直ってみせた。
 こうした事実と「構想」の内容を見てみれば、安倍はわが国の平和と国益、国民の命を米国に売り渡す売国奴にほかならないのである。
 また、安倍は「再チャレンジできる社会」などと、国民諸階層に「『格差』解消」を語る。
 だが政策の中身は、小泉改革の「継承」である。「聖域なき構造改革」を掲げた小泉改革によって、国民各層の生活は悪化した。安倍は、このような改革政治も積極的に支えてきたのである。
 その上、「総合的な税制改革の邁進(まいしん)」などと、七月の「骨太の方針」と同様、消費税大幅増税などの国民負担増を宣言している。国民生活がいっそう悪化することは必至で、許し難いものだ。
 安倍「次期政権」の危険性は明白である。このような「政権」に、国民は期待を寄せることはできない。
 広範な国民運動の組織者として大衆行動に立ち上がり、対米追随の大国化と改革政治を打ち破ることは、労働者・労働組合、青年学生の重要な任務である。


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