労働新聞 2006年8月25日号・2面 社説

「格差」への批判強まるが…

資本家と労働者の
「格差」こそ肝心

 「格差」問題がいま、内政上の大きな課題となっている。
 マスコミはもとより、自民党総裁選を目前にした安倍官房長官も、また参院選を見据えて民主党の小沢代表も、みな「格差是正」を主張している。厚生労働省も、〇六年版「労働経済白書」で「非正規雇用が著しく増加し、所得格差が拡大している」と指摘せざるを得ないほどだ。
 「格差は別に悪いことではない」などと開き直る小泉首相、竹中総務相らは論外としても、「格差批判」の強まりは、小泉改革の下で進んだ現実を一定反映したものである。
 しかしはっきりさせなければならないのは、何と何との間の格差が主要なものなのか、格差問題の本質は何かということである。多くの論調は問題の一部だけを取り上げ、またねじ曲げている。だまされてはならない。
 マスコミなどが問題にしているのは、労働者内部の格差、とくに正規雇用と非正規雇用間のものである。
 確かに、パート、派遣などの非正規雇用労働者は急増し、慢性的な低賃金状態におかれている。しかも、パート労働者の賃金は、対正規雇用労働者比で九〇年の四五・九%から〇四年には四一・五%へと下がった。
 大幅賃上げをはじめとする非正規労働者の待遇改善は、待ったなしの課題である。
 しかし、以上のような「労働者内部の格差」は問題にされるが、マスコミや与野党も、資本家と労働者の格差拡大については決して言及しようとしないのである。真に問題にされるべきは、この格差である。
 わが国大企業の社長の平均年収は約三千二百万円とされるが、パートの女性労働者は平均わずか百十六万円以下である。その差は何と二十七倍を超える。
 多国籍大企業、ソニーの経営陣の年間報酬は、一人二億円を超えている。
 日産自動車の取締役(十一人)も、報酬は一人あたり二億二千九百七十二万円(〇五年度)である。日産には約三万人以上の労働者がいるが、この報酬総額は、これらすべての労働者に七万六千円余支払えるほどの額である。しかも、日産の取締役の報酬額は、〇三年から〇四年にかけて約四〇%もアップした。労働者との格差は、それだけ開いたのである。
 トヨタも最近、「日産に学べ」とばかりに、二十六人いる取締役の月額報酬合計額上限を約五割引き上げることにした。奥田会長の報酬は現在年約六千万円であるが、これでも「足りない」と言いたいようだ。
 米国主導のグローバル資本主義が進展する中、株価に応じて報酬を支払う「ストックオプション」などが普及するなどで、大企業の資本家・経営陣の所得が急増している。ドル体制に依存するわが国多国籍大企業もこの道を選択、小泉政権をけしかけて、労働法制の規制緩和など改革政治を進めてきた。かくして資本家と労働者の間の格差が、絶望的なまでに拡大しているのである。
 労働者には過酷なリストラと低賃金、超過密労働を強要し、ときには死に追いやっておきながら、自らはばく大な報酬をお手盛りでせしめる。この実態を知り、怒りをおぼえない労働者・勤労国民はいない。この連中がふところに入れる富は、労働者が稼ぎ出したものなのだ。
 もし、与野党が真に「格差是正」を願うのであるなら、まずはこれらのボッタクリ資本家・経営者どもへの課税を強化し、労働者の賃金を大幅にアップさせなければならない。併せて、非正規雇用者の待遇改善に取り組まなければならない。
 労働組合も、本気で賃上げに取り組むべきである。資本家や経営者どもから、少しでも多く取り返そうではないか。


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