労働新聞 2006年8月5日号・2面 社説

トヨタが大量リコール

グローバル化と過密労働、
下請け犠牲が背景

 連結売上高が二十一兆円以上にも拡大した多国籍大企業、トヨタで、リコール(欠陥製品の回収・修理の公表)が相次いでいる。
 トヨタは〇六年三月期には百九十三万台のリコールを発表。これは、同期に販売した新車台数(百七十三万台)を超えるほどの規模だ。
 〇四年八月には、経営陣が不具合情報を報告されながらリコールを怠ったことが原因で、熊本県下で五人が重軽傷を負う事故が起きている。まさに、「人災」である。七月十一日、トヨタ品質保証部門の幹部三人が業務上過失傷害容疑で書類送検されたのは、遅いとはいえ当然のことである。
 こうした欠陥発覚は、〇三年を前後しての三菱ふそうによる「リコール隠し」にみられるように、他の大企業でも続発している。
 だが、トヨタの全リコール台数に占めるシェアは、〇五年には三四%(〇一年には一・四%)に急増している。しかも〇一年以降では、不具合によって人身事故を引き起こしているのは、トヨタだけである。
 トヨタの相次ぐ欠陥発覚について、マスコミは原因を「設計のデジタル化」に求めている。だが、これは、国民の命を奪いかねなかった欠陥の根本原因を隠すものだ。
 トヨタがリコールを発表した車種は、一九九五年度以降に製造を開始したものに集中している。
 九五年は、奥田現相談役が新社長に就任、多国籍大企業としての展開を一気に進めた年に当たる。〇〇年〜〇一年には、海外拠点が本格稼働を始め大増産に拍車がかかった。この結果、〇一年にはトヨタの世界シェアが一〇%を突破した。
 トヨタは利益の極限的な拡大のため、〇〇年には総原価の三〇%削減をうたった「CCC21」を開始、部品の共通化などコストダウンを加速させる。
 だがこうした中でも、従業員数は増えなかった。従業員一人当たりの生産台数は、九八年には五十台以下だったが、〇五年には約六十台と、十台以上も増えた。年間三百六十時間を超える残業をしている従業員は、〇〇年には約二千人だったのに、〇三年には一万人と約五倍に増えた。「サービス残業」は恒常化し、労働基準監督署でさえ、二度も「是正勧告」を行った。臨時雇用の労働者数は同じ三年間で倍以上に拡大、〇四年からの製造現場への労働者派遣容認も、現場の雇用の不安定化に拍車をかけた。
 当然、下請け企業には、これまで以上にコストダウン要求が強まった。下請け部品メーカーの内部資料には、「急激な増産に現場が対応できない」とあるほどだ。
 トヨタの空前の利益は、こうして「達成」されたのである。
 かねて、トヨタが労働者に強いる過酷な労働は「乾いたタオルを絞る」と言われた。だがこんにち、いっそう搾り取ったツケが、欠陥車の続出と、利用者である国民の命を危険にさらすという形であらわれているのである。
 これでは、肝心の品質が守られるはずはない。
 しかも、奥田らトヨタ経営首脳は小泉政権を後押しし、規制緩和などの悪政を推進してきた。その利益を最大限に享受したのも、彼らであった。
 労働者、国民からすれば、トヨタの犯罪性はきわまっている。彼らに、その責任を果たさせなければならない。
 多国籍大企業を規制し、その横暴を許す政治を転換させなければならない。それなしに、国民の命や労働者の生活、下請け企業の営業は守れない。とりわけ、多国籍大企業の代表格であるトヨタ資本と闘う、労働者の闘いが問われている。


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