労働新聞 2006年7月25日号・2面 社説

北朝鮮非難決議で策動

政治軍事大国化の
新たな段階に踏み込んだ支配層

 国連安全保障理事会は七月十五日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のミサイル発射に関する決議を「全会一致」で採択した。
 決議それ自身は、「玉虫色」である。安倍官房長官や麻生外相があれほど声高に叫んだ制裁措置、いわゆる国連憲章第七章関連は、いっさい盛り込まれなかった。ミサイルの「脅威」なるものへの対処としては、実質的な効果はあまりないといわれる。しかし、安保理が北朝鮮を「非難」したことは間違いない。
 ミサイル発射を理由に一国を非難するという国連のこの暴挙を、北朝鮮は即刻、全面的に拒否した。主権国家として当然である。
 一方、わが国では、マスコミはもちろん民主や共産などの野党各党も、「国際社会の一致した総意」とのキャンペーンで、北朝鮮敵視をいちだんと強めている。政府は、次の制裁措置の検討に入った。
 この決議で、しかも、わが国が安保理の協議で強硬論の先陣を切ったことで、日朝両国関係はいちだんと敵対的なものとなった。北朝鮮敵視と排外主義のキャンペーンに追随してはならない。北朝鮮と対抗する道ではなく、即時の国交正常化によってこそ、両国の平和と安定、繁栄の道が開ける。そのための真剣な努力がいまこそ問われている。

中国を見据えた大国化策動
 「金正日に感謝しないといけない」。この麻生の発言に、わが国支配層・政府の策動のすべてが凝縮されている。支配層、政府は、北朝鮮のミサイル発射を「チャンス」とばかり、中国を主要な仮想敵国とする政治・軍事大国化を、意図的に強力に推進した。
 外交面では、ミサイル発射前から準備されていたが、中ロ、とりわけ中国に対抗して、「大国」として安保理で振る舞うことだった。中国が拒否権を行使し、決議が流れれば、「安保理改革」の気運を高め、わが国の常任理事国入りのチャンスになる、との判断もあったという。「脅威」は口実で、日本の政治大国化が狙いなのである。
 この間の経過からも明らかだが、米国にとっても、日本にとっても、朝鮮問題は中国問題でもあった。
 米国のアジアでの中長期的な目標は、「世界の工場」となって経済発展する中国の政権を瓦解(がかい)させ、穏健な「普通の国」に変えることである。この戦略課題で、日米両国は連携している。米日にとって、朝鮮問題は北朝鮮の政権転覆をめざすと共に、間接的に、中国内政に関与するチャンスでもある。台湾問題も同様の性格である。
 六月末の日米共同宣言での「強固な日米協力が、中国の活力を生かし、北東アジアの平和と安寧の維持に資する」との合意は、それを指している。さっそく「チャンス」が来た。米国は安倍らを「強硬論」で操り、役割を分担しながら、中国を通じて北朝鮮の屈服を迫り、かつ中朝両国間を離間させようとした。
 とりわけイラク戦争の過程を通じて力の弱まった米国は、当面の世界戦略を、中国やロシアの協力なしには進められない。とくに、石油資源のかかったイラン、中東問題は、ブッシュの当面する最大の課題である。米中関係の決定的亀裂は避けなければならない。それはイラク戦争での米欧亀裂問題の教訓でもある。中国にとっても、対米関係の維持と東アジアの「安定」は、現代化推進の不可欠の前提である。
 わが国では、トヨタなど多国籍大企業が対中投資を急増させ、中国に膨大な資産をもつに至った。だが、わが国多国籍大企業の中国での企業活動、すなわち自由な搾取をだれが保障し、権益を擁護するのか。多国籍大企業とその手先にとっては、中国との友好協力関係の推進によってではなく政治軍事の力に頼る、これが階級的、歴史的にも、当然の結論なのだろう。わが国支配層は当面、米国の政治軍事力に頼りつつ、自らが政治軍事大国として中国を抑え込み、アジアに覇を唱える力を持つ方向で一致している。
 安倍らは、米国とわが国多国籍大企業の手先として、対中国強硬姿勢を演じ抜いた。この結果、日中関係、日韓関係はいちだんと悪化することとなった。
 ところがマスコミは、安保理決議が出ると、「主導した日本は、国益に立って一定の役割を果たせた」(読売新聞)と、さっそく世論をあおっている。
 この間、わが国政府は軍事面でも踏み出した。安倍や額賀防衛庁長官は、「敵基地攻撃能力保有論」を公然と唱え、検討に入った。ミサイル防衛(MD)構想の前倒しも決めた。近隣諸国はもちろん、欧米のマスコミすら、この急テンポな動きを、日本の核武装を含む軍事大国化の策動として警戒している。
 わが国の政治軍事大国化の策動は新たな段階に入った。これは「不安定の弧」と呼ばれる米国の世界戦略を支え、「共通戦略目標」の対象とした中国を抑え、アジアの政治・軍事大国となろうとするものである。東アジアの平和と安定は、北朝鮮ではなく、それを口実とする日米の策動により不安定さを増した。

野党らしく政府と正面から闘うべき
 この支配層の計画に反対すべき野党の役割は、非常に重大である。社民党中央などが選挙を意識するのはやむを得ない面もあるが、国民に真実を語らずに野党といえるだろうか。
 野党とはいっても民主党は、党の由来からして、支配層の政治的別働隊である。にもかかわらず、いつもは「歯切れのよい」小沢代表が、「日米中三角形論」や「経済制裁慎重論」など、米国と距離をおくかのような発言を行っている。その結果、民主党内外に、小沢氏への期待や幻想が生まれている。それも小沢氏の狙いだろうが、同時に、そこには対米従属と政治軍事大国化の道の深刻さが反映している。
 民主党が本当に闘おうとしているのであれば、結構なことである。しかし、小沢氏の「与党との対決」は、欺まんである。例えば、経済制裁に「慎重」なのは、「一国だけでは効果が限定的なため」というに過ぎない。むしろ、北朝鮮の体制転換を明確に戦略目標に据えろと主張している。
 結局、ミサイル問題では「政府は強力なリーダーシップを発揮するべき」(民主党談話)と、「対決」はどこへやらである。結局この党の朝鮮問題政策は、わが国政府と、したがって米国と何ら変わらない。
 共産党は、民主党に輪をかけて安倍らの応援団に徹した。「制裁もあり得る」などと、連日、反北朝鮮キャンペーンを繰り広げている。
 国連決議についての「赤旗」主張は、「国際社会の総意が示された」と手放しで持ち上げている。それが「国際社会の総意」どころか、米中二国間の妥協の産物であることは周知の事実である。
 共産党は「安保理が分裂」しなかったことを「評価」するが、中ロと米国の分裂は、イラン問題などでの中ロの協力を必要とする米国がもっとも恐れたことだった。しかもその分裂は、東アジアが、一方に中ロ、北朝鮮、韓国、他方に日米へと分裂することに発展しかねないものだった。米国が阻止したいのは、そうした状況だ。「国際社会の総意」などと評価する共産党は、客観的には米国の狙いを代弁しているのである。非難決議の次は「国際社会」による制裁で、行き着く先は戦争である。米国が主導する「国際社会」が平和を実現することはあり得ない。
 帝国主義への幻想を労働者国民の中に持ち込む共産党の態度は、平和を願う労働者、国民への裏切りである。

 労働者と国民の闘いだけが平和を実現できる。真の野党であれば、労働者と国民に呼びかけなければならない。武器を準備して隣国と向き合う敵対と戦争の道か、それを打破する平和と安定、各国がいずれも繁栄する道か。労働者と国民の大多数は、戦争の道を拒否している。
 野党と労働組合の指導者は、そこに確信を持つべきである。一時の感情ではなく、ましてや選挙に有利か不利かではなく、国際政治の真実を、国内の諸階級諸勢力の真の利害関係を明らかにして、労働者と広範な国民に道を示すため奮闘しなくてはならない。


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