労働新聞 2006年7月15日号・社説

北朝鮮による
ミサイル発射について

真の敵を暴き、追随者に
反対しなければならない
即時「国交を樹立」し、
日朝関係を正常化しよう

 (1)

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)によるミサイル発射に対して、日米両政府とマスコミは北朝鮮を非難し、あたかも「危機」が差し迫っているかのように、連日異常な敵視キャンペーンを繰り広げている。
 小泉政権は、北朝鮮との連絡船「万景峰92号」の入港を六カ月間禁止するなど、すぐさま七項目の制裁措置を実施した。さらに、制裁決議案を国連安全保障理事会に提出するなど、世界でも突出した強硬姿勢をとっている。
 民主党は、党の由来からして、この問題でも本性をさらけ出したにすぎないが、共産党と社民党は、またしても狼狽(ろうばい)し誤った態度をとった。
 来年は地方選挙、参議院選挙と続く。操作される世論の動向は野党の気になるところでもあろうが、ことの真実を語り有権者に訴え、米国を頼りに再び軍事大国として世界の一角を占めようとする、支配層の計画に反対するのが、野党の重大な役割のはずである。
 「世論」を恐れてはならない。何千万の労働者と勤労国民、諸階級・階層の有権者は、支配層を信じているわけではない。操作されているとはいえ「半信半疑」である。わが国が第二次世界大戦までにアジアで歩いた道、支配層が導いた「この道」を、わが国民が忘れていると思うのは誤りである。これを信じなければ、野党にどんな展望があるというのだろうか。北朝鮮非難のキャンペーンに追随してはならない。
 わが党は、北朝鮮敵視と排外主義、さらには、この問題を利用しての米軍再配置、日本の軍事大国化及び米日軍の一体化に断固反対して闘う。
 ブッシュや小泉によるさまざまな宣伝はデタラメなもので、自らの真の意図をおおい隠す方便にすぎないからである。米国とその追随者こそが、朝鮮半島危機の真の根源であり、今回の事態の責任も、米国とわが国政府にある。
 北朝鮮はこのような条件下では、米帝国主義、日本のような追随者と闘うため、自国の独立を守る完全な権利があり、どんな武装も原則として主権に属することである。どの国もそうやっている。
 平和はどの国でも、地域でも必要で、争いを避けたいと願うのであれば話し合い、外交をすべきである。だが、そうするのなら主権は尊重されねばならない。わが国支配層の現在の政策では、平和でなく戦争と亡国の道は避けがたい。これを阻止する道、力は、何千万の勤労国民、とりわけ労働者階級・労働組合の中にある。
 どの政党が破局を避ける道を提起し、かつ行動を導くことができるか、これを判断するのは何千万の人民、労働者階級・労働組合である。この判断の是非は、これからの歴史の選択でもある。

 (2)

 今回のミサイル発射を、日本政府とマスコミは、「国際法」や「日朝平壌宣言」に違反したとか「アジアの平和と安定への脅威」といって、北朝鮮を「無法者」呼ばわりしている。
 その「国際法」の一つ、国連海洋法条約のどこにも、ミサイル発射を禁止する項目はない。国際海事機関(IMO)決議にいたっては、拘束力のないガイドラインにすぎない。ミサイル発射を理由に「国際法違反」と非難された国は、いまだかつて一つもないのでである。
 「平壌宣言への違反」という宣伝も、白を黒と言いくるめるものだ。
 二〇〇二年に合意された平壌宣言では、日朝両国の「国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する」ことが明記されている。このほか、日本による過去の植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」の表明などと合わせて、北朝鮮による「ミサイル発射のモラトリアム」が「表明」された。
 拉致や核開発問題などを持ち出してこの合意を事実上反故(ほご)にし、国交正常化交渉をサボタージュしてきたのは、わが国政府の側である。北朝鮮だけに「モラトリアム」を要求する資格など、小泉政権にはない。
 「平和と安定への脅威」と言うが、ミサイルを発射し、実験を繰り返しやっているのは、北朝鮮だけではない。世界中がやっている。インドも七月九日、弾道ミサイルを発射した。だが、これらはだれも人を殺傷はしていない。反対に、イスラエルは連日のようにミサイルをパレスチナ人民の頭上に降りそそぎ、なによりも米国自身が、今でもミサイルでイラク人民を殺りくし続けている。
 他国を侵略し、ミサイルで人びとを殺傷している米国やイスラエルは非難されず、自国防衛とための、しかもだれも殺傷しなった「発射」で、北朝鮮が非難される。北朝鮮が、「大国が(ミサイル)実験を行っても、国際社会は何も反応しない」と憤(いきどお)るのも当然である。このような国際政治の不平等さこそ、問題にされなければならない。
 北朝鮮のミサイル発射は、周辺諸国になんらの人的・物理的損害をもたらしていない。ミサイルは北朝鮮およびロシアの近海に着水しており、「新潟沖」などと言って大騒ぎするのはデタラメもいいところである。

 (3)

 今回のミサイル問題を考えるには、過去・現在にわたって朝鮮半島に危機をつくりだしているのはだれなのか、ということを明確にしなければならない。
 米国こそが、朝鮮戦争あるいはその後も、朝鮮半島に軍事的緊張をつくりだしてきた張本人である。米国が「南北、朝韓人民」の願いを無視して、朝鮮敵視政策をとり続け、絶えず軍事的政治的に圧迫し、南北対立をあおり、結果として、朝鮮戦争はまだ終わっておらず、「休戦」が続いているにすぎない。日本の歴代反動政権も米国に追随し、これに加担してきた。
 ブッシュ政権登場以降、米国は「ならずもの国家」「悪の枢軸」などの悪罵(あくば)を北朝鮮に投げつけ、その武装解除と体制転覆、核兵器を含む先制攻撃を、いっそう露骨に公言するようになった。
 北朝鮮への軽水炉支援を約束した一九九四年の「米朝合意」は完全に反故にされ、一時期生まれた米朝関係改善の可能性は、大きく後退した。
 さらに、昨年の六カ国協議で「朝鮮半島の非核化」に向けた努力が合意されたにもかかわらず、米国はその直前に対北朝鮮金融制裁に踏み切った。
 また、この三月末には米韓合同演習、五月末からは環太平洋合同演習(リムパック)を強行、北朝鮮近海に膨大な数のミサイルを撃ち込むなど、軍事的締めつけを強めた(北朝鮮への「事前通告」など、もちろんない)。
 米国に従属するわが国政府も、北朝鮮に対する過去の植民地支配への謝罪と補償を、戦後半世紀以上も放置している。韓国に対する膨大な経済援助と比べると、この差は著しいものである。
 歴代政権の中でも、日米協調を重視する小泉政権は、日米「共通戦略目標合意」や六月末の日米首脳会談などを通じて、ブッシュ政権の「不安定の弧」戦略に完全に追随した。この下で、拉致問題も利用しながら「北朝鮮人権法」を制定するなど、敵視をエスカレートさせている。
 北朝鮮の今回のミサイル発射は、こうした米日による敵視と包囲の強まりに対する、北朝鮮なりの対応策である。
 イラクのフセイン政権は、湾岸戦争以後、米英両国と「国際」的批判と軍事的圧迫の中で譲歩を重ね、事実上武装解除した。それでも、米国の無法な侵略戦争によって打ち倒された。北朝鮮に限らないが、帝国主義による軍事・政治・経済の全般にわたる包囲網の下で、中小国が独立国として存続し、人民の最低限度の生活を維持しようと思えば、軍事力に頼らざるを得ないのが現実で、北朝鮮の「先軍体制」による、いわば重武装はやむを得ないことである。
 日米の歴史的な包囲・締めつけがなければ、北朝鮮は経済力以上の重武装を選択する必要もなかった。豊富な鉄鉱石などの天然資源、高い教育水準を活用して、より国民生活の向上に配慮した経済建設を実現できていたはずである。最近の南北和解の機運は、「朝韓」人民が、米帝国主義と日本の反動政権がつくりだしている敵視と包囲政策を打ち破ろうとする闘いの前進で、それはまた戦争を避けるための唯一の平和政策である。
 このような事実を見れば、日米政府が北朝鮮を「平和の脅威」などと決めつけるのは、きわめて手前勝手なものでしかないことがわかる。

 (4)

 わが国政府が異常な北朝鮮敵視を行うのは、ミサイル発射を「チャンス」とばかりに、自らの政治目的を達成することに利用したいがためである。
 彼らが狙うのは、北朝鮮への敵視と排外主義をあおることを通して、対米追随外交に対する国民の批判を抑え込み、「日米共通戦略目標」の具体化や在日米軍再編などを断行する、有利な環境をつくることである。
 実際、ミサイル発射前後の期間を通して、米軍と自衛隊は一体的な動きを強めたし、神奈川県の米海軍横須賀基地には、新たにイージス艦が配備された。
 さらに軍事大国をめざす支配層と右派勢力は、この時期を利用して、計画を一気に進めようとしている。例えば、「ポスト小泉」をにらんで、安倍官房長官が発表した「安倍ドクトリン」は、「自由・民主をアジアに拡大する」などと、米国の意を受けて中国・北朝鮮などへの内政干渉を強め、体制転覆をめざすことを公言している。これは、米「ブッシュ・ドクトリン」の日本版、あるいは世界の中の米日関係での「日本の戦略」ともいうべきものである。
 さらに、安倍や額賀防衛長官は、「敵基地」への先制攻撃能力を持つべきと公言、ミサイル防衛(MD)構想の前倒しにまで言及している。こうした策動の先には、憲法・教育基本法の改悪、海外派兵拡大や集団的自衛権行使の容認、国連安保理常任理事国入りなどが狙われている。
 政治・軍事大国化をめざすことの背景には、世界中に権益を持つに至ったわが国多国籍大企業の意思があることは明らかなことだが、北朝鮮のミサイル発射が、右派勢力の好機となったことは疑いのないところである。
 しかし、いっそうの対米追随と日米協調、政治・軍事大国化は、アジアで生きるべきわが国の真の国益と根本的に反するもので、成功の見込みはない。世界のすう勢が見えない反動派の階級的な歴史的な限界、幻想である。アジアで「歴史問題」も清算せず、大国ぶっても、支持は得られまい。国際的には孤立を深め、国内でも評判を落とすことは必定である。これは、亡国の道である。

 (5)

 米国の後ろ盾を得たわが国は、英国やフランスなどを巻き込んで、安保理決議を採択させ、北朝鮮にさらなる圧力を加えようとしている。
 さらに、制裁に反対・慎重である中国やロシアを「国際的孤立」などと描き出すことを通して、とりわけ中国に対する敵対感情をもあおっている。これは、中国を事実上の「仮想敵」とする日米同盟を強化し、中国の屈服を迫るためのものだ。
 だが、日本政府が「頼り」とする米国の世界支配策動はすでに窮地に陥っている。日米同盟に命運を託し、そのお先棒を担ごうとするわが国支配層の選択は、まさに時代錯誤のものでしかない。
 米国は、イラク支配もままならず、イランの核開発問題では欧州に頼らねばならず、身動きも取れない。パレスチナ周辺は収拾がつかない。アフガニスタンも再び戦争状態となった。その力は限界に達しつつある。この上に、今回の北朝鮮問題である。米国は選択肢の一つとして「武力行使」を排除しないというが、武力行使を選択する力はすでにない。まして、国交がない北朝鮮を経済的に締めつける手段もなく、結局は、隣国の中国・韓国の協力に頼らざるを得ないのである。
 その中国・韓国だが、ミサイル発射に対する短期的な反応はともかくとして、中長期にわたって米国の思惑通りとなる保障はない。
 韓国にいたっては、大統領府が今回のわが国の対応を「大騒ぎをしなければならない理由はない」と批判、日本の安保理決議案にも反対を表明している。また、南北閣僚級会談も予定通り実施するなど、その対北朝鮮柔軟政策に揺るぎはない。
 これは何としても戦争の惨禍(さんか)を避け、民族の悲願としての統一を実現したいという、朝鮮民族の強固な意思のあらわれである。
 他の国も同様で、今回の事態を通して、北朝鮮制裁に踏み切った国は、世界広しといえども日本だけである。大局的に世界を見れば、「孤立」しているのは日米の側であり、北朝鮮や中国ではないのである。

 (6)

 日米両政府の策動に抗し、国民的な闘いを発展させることが求められている。しかるに、野党のこの問題に対する態度は政府と似たり寄ったりである。
 民主党は、北朝鮮を「無法者外交」と決めつけ、「日本外交の転換」などと言って、平壌宣言の破棄宣告を要求している(鳩山幹事長)。枝野・憲法調査会長も、「ミサイル基地の破壊は専守防衛の範囲内」などと、武力攻撃を扇動している。小沢党首は北朝鮮制裁には「慎重」であるとされるが、それは、制裁が一気に戦争の危機を高めかねないことに対する、彼なりの危ぐをあらわしているにすぎない。
 小沢党首が「アジア重視」などと言うのであれば、アジアの立場に立ち、北朝鮮敵視策動に反対すべきであろう。だが、与党と同じ「日米基軸」を党の基本路線とする民主党には、そのようなことは不可能である。この党の「与党との対決」という欺まん的なポーズは、今回の事態で早くもはげ落ちている。
 共産党も、安保理での協議を「当然」とし、経済制裁も「ありうること」と容認する立場である。これまでも選挙での票目当てに、ことあるごとに北朝鮮を「無法」と決めつけてきた共産党からすれば、この態度は驚くに値しない。
 だが、経済制裁に賛成すれば、その延長上の武力攻撃にも反対できないではないか。共産党の態度は、事実上、北朝鮮への武力行使を容認するもので、東アジアの平和を愛する労働者・国民への大きな裏切りにほかならない。
 社民党はどうだろうか。発射直後の福島党首名の談話は、北朝鮮を非難し、経済制裁には「的確に対応すべき」という態度であった。その後の福島党首の発言などを見る限り、社民党は経済制裁には「慎重」な立場のようである。だが、「慎重」というあいまいな態度では、支配層の策動と正面から闘うことはできない。われわれの見たところ、社民党の現場活動家が望んでいるのは、この逆流と闘うための、中央の勇気ある態度である。
 来年に控えた地方選挙と参議院選挙への影響は気になるにしても、ここで支配層の策動に乗ることは、一人社民党のみならず、わが国の将来にとって大きな禍根(かこん)を残すこととなろう。
 
 (7)

 ミサイル発射という事態を通してではあるが、わが国と北朝鮮、アジアとの関係はどうあるべきか、国民各層に深刻な選択が突きつけられている。短期的には支配層の攻撃が強まるにしても、わが国の進路についての真剣な選択が迫られていることが明らかになったわけで、悪いことばかりではない。
 隣接したわが国と北朝鮮が国交もなく、しかも、互いに武器を突きつけ合う敵対関係が長期に続いていることは不幸なことである。両国民の平和と安全にとって、この関係は打開されなければならない。そのためには、両国の国交正常化以外に道はない。わが国政権に「その意思」があるならば「平壌宣言」も手がかりにはなり得る。
 わが党は、小泉政権、その後継者らの策謀、米国追従と軍事大国化路線を暴露しつつ、「政権交代」を当面の最大の目標としている民主党の欺まんを、集中的にていねいに批判し、民主党への幻想を打ち砕くために闘う。共産党とも政治暴露面で闘う。社民党に対しては二面政策、団結もするが批判もする。
 わが党は、北朝鮮問題での小泉政権とその後継者、支配層の策動キャンペーンに反対し、亡国の道に反対し、団結して闘うよう労働者階級と幾千万の勤労人民に呼びかける。問題は北朝鮮と対抗する道ではなく、即時の「国交正常化」である。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2006