労働新聞 2006年7月5日号・社説

日米首脳会談

地球規模での新たな日米同盟を宣言

 小泉、ブッシュの最後の公式会談となった日米首脳会談は六月二十九日、日米「同盟」の「地球規模」への拡大という、アジアと世界の平和にとってきわめて挑発的で危険な方向を公然と宣言した。
 首脳会談が発表した「新世紀の日米同盟」と題する共同声明は、「日米関係は歴史上最も成熟した二国間関係」となったと、小泉、ブッシュの下でのこの五年間の日米関係を総括。「自由、人権、民主主義、市場経済、テロとの闘い」などの「価値観と共通の利益に基づく世界の中の日米同盟」を強調、「二十一世紀の地球的規模での協力のための新しい日米同盟を宣言した」と明記した。
 これは、イラク侵略戦争支持を確認した、二〇〇三年五月の日米首脳会談で打ち出された「世界の中での日米同盟」という表現を、さらに一歩進めて共同宣言の文言にまで盛り込んだもので、「共通の価値観と利益」という、日米の「共通の戦略目標」(昨年二月の日米安保協議委員会で確認)に沿って、わが国が米国の世界支配のための戦略を、まさに地球規模で支えていくことを明らかにしたものである。
 これはまた、日米安保条約の地理的範囲を、極東から全世界規模へと拡大し、米国が全世界で引き起こす侵略戦争にわが国がその手先として動員されることを意味し、さらには政治、経済面など広範な課題での「同盟」機能の無制限の拡大をも意味するものである。
 「地球規模での日米同盟」。これは、わが国が支配層が、徹底した対米従属の下で、アジアと世界で拡大した経済力にふさわしく政治、軍事的な影響力、発言力を確保しようとするもので、世界とアジアの平和に敵対し、わが国を戦争の瀬戸際、孤立と亡国へと導く、最悪の決断である。
 広範な国民世論を結集し、国民運動で、わが国政府が踏み込んだこの危険な道を徹底的に打ち破らなければならない。

「もっとも成熟した二国関係」とは
 「地球規模」にまで拡大された「日米同盟」だが、その発端は〇一年六月の小泉、ブッシュの初の首脳会談にある。ここでは、「揺るぎない同盟のパートナー」と、日米関係を「日米同盟」と位置づけた。
 米国は、当時、冷戦後の世界の中で、一極支配を確立するための新たな世界戦略に着手し始めており、すでに一九九六年には日米安保共同宣言(安保再定義)で、日米安保の役割を拡大、わが国を中国に身構えさせ、アジア支配に動員する方向を確認した。さらに〇〇年には、「アーミテージ・ナイ報告」という提言が出され、「日米同盟を米英同盟並みの成熟した政治同盟」にすること、具体的には、わが国政府に集団的自衛権の行使と米国の指揮下での海外派兵が公然と要求されていた。
 〇一年、IT(情報技術)バブル崩壊後の危機の中で登場したブッシュ政権は、九・一一同時テロ事件を契機に、テロとの戦争を宣言、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、イラク、イランなど反米国家の政権転覆・先制攻撃も辞さずとする、凶暴な戦略「ブッシュ・ドクトリン」を打ち出し、アフガン、そしてイラクへと侵略戦争を拡大させた。
 こんにちでは明らかなことだが、米国の狙いは、中東を支配し、戦略資源である石油を押さえることで、競争相手として登場しつつあった欧州列強、さらに台頭する中国を抑え込み、自らの世界支配を維持しようとするものであった。
 しかし、イラク開戦に欧州が反対し、米欧の政治的亀裂が顕在化したことで、早くもこの米国の戦略は行き詰まった。しかも、イラク占領の泥沼化と、中東はじめ全世界で高まる反米の抵抗の嵐に直面して、米国の力の限界が明らかとなった。力の伸びきった米国はこんにち、ひとたび対立した欧州との修復、関係改善を求めざるをえなくなった。
 このような米国の危機の深まりを見てわが国支配層は、これをチャンスとばかりに積極的に米国を支え、その中でわが国の政治、軍事大国化をめざす道を選択した。アフガン侵略では、「特措法」でインド洋へ海上自衛隊を派兵し、イラク侵略戦争に際してはこれを真っ先に支持、戦後初の戦地への自衛隊派遣を強行した。ミサイル開発など日米軍事一体化が進められ、外交では、中東から東アジアをにらんだ米「不安定の弧」戦略を補完し、中国を包囲する形で、中央アジアやモンゴル、インド外交が強められた。
 「歴史上もっとも成熟した二国関係」と共同声明が自画自賛する日米関係とは、このような中で形成されたもので、それは力の限界が明らかな中で、世界支配の意図を貫こうとする米帝国主義が、わが国をその世界戦略に従わせ、政治、軍事、経済など多方面で動員しようという狙いに沿うものである。またそれは、わが国支配層、多国籍化した独占資本が、対米従属の下で、世界に拡大した経済力にふさわしい政治的、軍事的発言権を確保しようという意図にも従うものである。

顕在化し激化する対米追随への矛盾
 しかし、この「同盟」は早くも深刻な矛盾に突き当たっている。
 日米の「共通戦略目標」に従って、中国を事実上の仮想敵として身構えるわが国の態度に対し、中国はじめアジア諸国は不信と警戒感を高めている。米国の武力に頼った強圧的な朝鮮敵視政策は、北朝鮮、さらには韓国の強い反発を呼んでいる。いまやアジア外交は完全に行き詰まり、わが国の孤立は明らかである。経済発展と地域統合を進めるアジア諸国の中にあって、わが国の存在感は急速に低下している。
 排外主義を政権の浮揚力にしようと、靖国参拝を繰り返す小泉の手法への懸念と不満の声が自民党や保守政治家内部からも高まっている。
 このような中で、経済同友会がアジア外交の見直しを求める提言を発表するなど、中国などアジア経済に依存する、経済界の少なくない部分の不満が公然化した。
 中国に対して「民主主義、自由などの価値観を共有していない」ので「変革」させる、などと政権転換の意図をあからさまにし、「強固な日米協力が、中国の活力を生かし、北東アジアの平和と安寧の維持に資する」と宣言する今回の共同声明の態度は、わが国世論の分岐をさらに深刻に拡大させるものとなろう。
 また、首脳会談はイランの核開発問題をめぐって、「包括的見返り案」受け入れを求め、イランが「誤った選択」をした場合、「断固たる立場で臨む」ことを確認した。これは、石油輸入の一四%弱をイランに依存し、アザデガン油田開発など友好的な関係を維持してきたわが国にとって、「国益」を売り渡すに等しい重大な屈服である。わが国はまた、米国に従って自主的なエネルギー政策を放棄することとなった。これは当然にも国の進路をめぐる重大な課題として浮上するだろう。
 なにより、小泉後のわが国政府が突きつけられる深刻な課題は、米軍再編の「完全かつ迅速な実施」を今会談で確認させられたことである。
 日米両政府の合意にもかかわらず、米軍再編による基地負担強化には、沖縄をはじめ基地周辺住民と自治体があげて反対を表明している。労働者、地域住民の団結した闘いは引き続き頑強に続いている。さらに三兆円にものぼるといわれるグアムへの米海兵隊の移転費用の負担は、ただでさえ小泉改革で切り捨てられ、犠牲を押しつけられる国民、自治体の反発を呼んでいる。宮沢元首相のような日米安保条約の成立に関わった保守政治家からさえ、反対の声があがっている。

広範な国民運動のカギは労働運動に
 日米関係をめぐり、アジア外交をめぐって、国論の分岐、矛盾の激化はいよいよ避けがたくなった。広範な国民的な運動、統一戦線の形成の条件はかつてなく拡大している。
 しかし、この闘いを真に指導し、発展させうるのは労働者、労働組合の力である。すでにマスコミなどは、北朝鮮の「ミサイル」や、海底資源や領土問題をあえて騒いで、アジア諸国を敵視し、排外主義をあおり、日米基軸を「国益」とするキャンペーンを強めている。
 労働者階級は、民族の前途、真の独立を勝ち取る課題で、支配層の欺まんを打ち破り、もっとも徹底的に闘わなければならない。


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