労働新聞 2006年6月25日号・社説

村上ファンドらは小泉改革の産物

改革政治との闘いなしに、
国民経済は守れない

 投資ファンド「村上ファンド」の村上代表が六月五日、ニッポン放送株に関する証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で逮捕された。
 村上容疑者は、ライブドアが同放送株を大量に取得する方針を決めたことを知りながら公表前に同株を約百九十三万株購入して高値で売り抜け、約三十億円の利益を得ていたという。逮捕は当然である。
 さらに、福井・日銀総裁が村上ファンド設立時に一千万円拠出し、日銀総裁となった以降も今年二月(堀江・ライブドア前社長らが逮捕された時期)まで解約せず、約千五百万円の運用益を得ていたこと、「元日銀副総裁」の肩書で投資について助言する「アドバイザリーボード(経営諮問委員会)」メンバーであったことなども明らかになった。
 また、政府の規制改革・民間開放推進会議議長を務める宮内・オリックス会長が村上ファンドの事実上のスポンサーであったことも周知の事実である。加えて、与謝野・経済財政・金融担当相は、同ファンドから政治献金を受け取っていた。松井・民主党参議院議員にいたっては、献金に加え、秘書給与の肩代わりまで受けていたという。
 こうして村上容疑者の逮捕は、政局に影響を与え始めている。
 村上ファンドの金もうけのやり方は、確かにあくどい。しかし、マスコミや財界関係者が言うように「市場のルールを守れ」というだけで解決できることでもない。
 小泉政権の「構造改革」と結びついた日本資本主義のあり方自身が問われる重大問題なのである。小泉改革を支持する者に、村上やホリエモンなどを非難する資格はない。

米主導の金融グローバル化こそ問題
 村上は、数多くの企業銘柄について「株主価値を高める」などと声高に叫んで株価をつり上げ、高値で売り抜けて巨万の富を得た。
 これを可能にした条件は何であったか。
 一つは、国際的な過剰なドル資金の存在と米国の金融資本、投資ファンドを中心とする国際的な投機が、世界経済の中で重要な位置を占めるようになったことである。
 米国は長年、経常収支の赤字を続け、巨額のドルを海外に流出させた。しかし、先進国経済が過剰生産に陥る中、ドル資金は有効な投資先のない過剰資金として、投機的利益を求めて世界を駆けめぐっている。
 米国は、覇権国としての地位確立とドル支配体制の延命をめざし、金融グローバリズムを国家戦略として推進した。米国は、「金融の自由化」を義務づけたWTO(世界貿易機関)協定をたてに加盟国に金融自由化を迫り、国際的に金融市場を拡大し、利益をせしめた。
 貿易取引に使われる資金は年間十兆ドルであるのに、投機を含む為替取引には、いまや一日で一兆数千億ドルもの巨額な資金が動いている。
 実体経済から乖離(かいり)した金融の肥大化は、一九九七年のアジア通貨危機にみられるように、世界経済を著しく不安定なものとした。
 一方、世界最大の債権国となった日本など黒字国は、ドル暴落による混乱を避けるために、世界経済の主要な決済通貨としてのドルを支える道を選択した。
 日本の外貨準備高は、膨大なドル買い介入(買い支え)によって、〇四年三月末時点で八千二百六十六億ドルという規模に達した。その大半は、米財務省債である。米国債などで還流する過剰ドル資金は米国の金融資本が吸収し、それがまた国際的なマネーゲームに使われている。
 このように、ドル還流システムが、米国主導でつくられた。
 村上やホリエモンらが「活躍」できたのは、こうした「カネ余り」の舞台があったからである。

米国と多国籍企業のための改革
 米国主導の金融グローバル化という世界資本主義の構造的な変化が起こる中、多国籍企業までに肥大化したわが国大企業、金融資本は、国際的な大競争に打ち勝つべく、従来の金融システムを再編強化することに迫られた。
 また、米国も圧倒的な力を持つ自国の巨大銀行や保険会社、投資ファンドなどの「ハゲタカ」どもが国際的に商売をするために、とりわけ世界最大の資産・債権大国(民間個人の金融資産は約千五百兆円)とされるわが国に、金融市場の開放と自由化を強く迫った。
 こうして小泉の「構造改革」が始まった。それは、九八年来の金融ビックバンを受け継ぎ、金融・経済・財政の大「改革」を徹底的に進めるものであった。とりわけ、不良債権処理や米国式の金融システムを構築することをめざした。
 小泉や竹中金融相(当時)らは、バブル崩壊後のデフレ不況の長期化で深刻化した銀行の不良債権処理を優先的に急いだ。
 また、国際的な金融再編(米シティグループによるトラベラーズの買収など)と「金融コングロマリット」化の動きへの対応も進んだ。
 こうして、日本の三つのメガバンクグループ(三菱UFJ、みずほ、三井住友)が誕生した。
 郵政民営化、米国式コーポレートガバナンスや時価会計制度の導入、外国資本による株式交換によるM&A(合併・買収)認可など、金融・証券分野を中心とする規制緩和も進められた。宮内こそ、規制緩和を断行する上での、財界側の先兵であった。

改革で国民経済・国民生活は犠牲に
 主に金融分野での「構造改革」は、何をもたらしたのか。
 まず、米金融資本、投資ファンドが日本市場に進出、日本企業へのM&Aが急速に増大した。投資ファンドのリップルウッドは、長銀(現・新生銀行)をタダ同然で日本政府から買収し、数千億円の利益を得た。米国投資集団は、村上ファンドと同じ、いや、もっと悪らくなことを「巧妙、合法的に」行っている。
 また、大量の米国債購入による外貨準備の拡大など、小泉改革の六年間で日本経済・金融は米ドル体制にますます結びつき、それを支えるようになった。
 誕生したメガバンクは「資本の効率性」を唯一の尺度に、労働者を大規模にリストラした。支店の合理化で利用者の利便性は悪化し、預金者はゼロ金利で収奪された。
 情け容赦のない貸し渋り・貸しはがしで、幾多の中小商工業者が倒産・廃業に追い込まれた。三大メガバンクは、消費者金融やクレジット会社を次々に子会社化した。これら子会社は、大銀行から資金を供給される一方、違法な取り立ててで、債務者を地獄の苦しみにたたき込んでいる。
 大銀行は、以上のような直接・間接の方法で、労働者をはじめとする国民各層からなけなしの財産を吸い上げ、ますます肥え太っている。しかも、巨額の利益をあげながら、法人税を一切払っていない。
 他方、地域経済と結びつき、これまで地域経済の振興に一定の役割を果たしてきた地方銀行、信用金庫などは再編・淘汰(とうた)され、地域経済は疲弊(ひへい)した。
 このように、急激な金融改革によって、わが国国民経済・国民生活は多大な犠牲を受けた。
 小泉のこうした構造改革こそ、村上ら投資ファンドが登場するもう一つの条件となったのである。

国民経済擁護の旗を掲げよう
 ホリエモンや村上などはこうした小泉改革の流れの産物であリ、あだ花といえる。
 最近、マスコミなどが「改革政治の光と陰」と指摘せざるを得ないほど、小泉改革が国民経済・国民生活を犠牲にしてきたことは明白である。それだけに、国民各層の不満は深く、強い。だが、わが国多国籍大企業にとっては、米主導のグローバリズムに従い、その中で生きるしか選択肢がない。
 福井総裁をはじめとする連中には、その政治的・道義的責任を取らせなければならない。しかし、たとえ小泉が政権から去り、民主党などが政権を握っても、それだけでは事態は変わらないのである。
 国民経済・国民生活を守るためには、米金融資本と多国籍企業のための改革政治を打ち破ることが必要不可欠である。


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