労働新聞 2006年6月15日号・社説

米国、対イラン制裁で理不尽な圧力

わが国の国益守るため、
断固拒否せよ

 早くも、危ぐしていたことが現実となった。
 小泉政権が踏み込んだ時代錯誤の選択−−米国の新たな世界戦略、「不安定の弧」に追随し、中国への対峙(たいじ)を中心に中東から東アジアまでをにらんだ同盟へと日米安保を強化し、自衛隊の海外派兵拡大、軍事大国化を進める−−が、わが国の国益を損なう事態を招来している。
 最近、核開発問題でイランに圧力を強めている米ブッシュ政権が、わが国に金融制裁に踏み込むよう要求してきた。それだけではない。米下院は四月末、「イラン自由法案」を可決し、日本がイランのアザデガン油田開発に投資することを阻止する段取りを整えた。
 わが国は、原油の一五%をイランに依存している。もし、わが国が米国の要求に従って対イラン制裁に踏み込む事態となれば、イラン政府の報復措置によって、わが国はイタリアと並んでもっとも甚大な経済的打撃を受けると言われている。国民生活への悪影響も、計り知れないものが予想できる。
 小泉政権の米国世界戦略追随、「共通戦略目標」合意の選択によって、わが国の国益が大きく損なわれようとしているのである。
 この重大な国の運命にかかわる事態にもかかわらず、与党はもちろん、野党にも危機感がなく、関心も低いのは異常なことと言わねばならない。
 われわれは、こうした国益を損なう危機が起きる大元には、小泉政権による、時期を画する日米戦略合意、日米安保体制の質的強化の選択があることを指摘したい。
 各界の皆さん警鐘を乱打して、今一度それが国民と国益に何をもたらすかを徹底的に暴露し、これを挫折させるために強力な国民運動を構築するよう訴える。

イランの核開発に圧力強める米国
 昨年夏、アハマディネジャド大統領が就任すると、イランはウランの濃縮活動を再開した。
 イラン当局がたびたび表明しているように、核の平和利用は独立国として当然の権利である。これは、多くの第三世界諸国がイランの立場を支持していることにもあらわれている。
 これに対し、国際原子力機関(IAEA)は「深刻な懸念」を表明し、国連安全保障理事会への付託を決めた。これを受けて安保理は三月、議長声明で濃縮活動の中止を求めた。米国は、新「国家安全保障戦略」でイランを「専制国家」と名指し、「単一の国家としては最大の脅威」とまで非難し、いちだんと強硬な対応を欧州、中国、ロシアに求めている。
 イランはこれらの圧力を拒否して濃縮活動を継続、四月にはさらに拡大の動きを見せ「ウラン濃縮に使う遠心分離機を五万四千基まで増やす」と発表した。
 米国は、「有志連合」による制裁をちらつかせて圧力をかけたにもかかわらず、中国、ロシアはもちろん、欧州の同意も得られなかった。
 そこで、欧州主導で出されたのが今回の「包括的見返り案」である。包括案は、イランの核の平和利用の権利を一顧(いっこ)だにせず、「アメ」と「ムチ」を組み合わせてイランに対応を迫るものだ。イランが「包括案」に沿ってウラン濃縮活動を停止した場合には、見返りとして軽水炉建設など原子力開発計画の支援を、逆に拒否した場合には、制裁的措置としてイラン政府関係者の渡航禁止や在外金融資産の凍結などを行う、としている。
 「包括的見返り案」への回答期限は、七月サミットまでと言われている。攻防は、いよいよ正念場を迎えた。

米国の理不尽な対日要求
 こうしたイランへ敵視政策を強化する中、中ロの同意もままならず、米国は主導性を発揮できなかった。そこで米国は、この戦線に日本を引き込もうと、三月以来、日本に本格的に働きかけてきた。
 四月末には、「イラン自由支援法案」を可決して、わが国によるアザデガン油田開発をけん制し、またトルコでの大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)にもとづく共同演習にオブザーバー参加させた。
 逆に五月初旬には、ニューヨークで行われた国連安保理常任理事国とドイツによる、イランの核開発問題をめぐる六カ国外相会合に日本を呼ばなかった。これを知った塩崎外務副大臣は「がくぜんとした」という。
 米国は事前の会合の場からわが国をはずすことで、支配層の動揺を誘い、屈服を強いているのだ。まさに、悪らつな手口と言わねばならない。
 そして、六月十日のG8(主要八カ国財務相会合)の席では、スノー財務長官が谷垣財務省に対し、イランに対する金融制裁に加わるよう圧力をかけた。すでに、米国は欧州の金融機関に同様の圧力をかけ、一部では制裁措置が発動されている。
 こうした策動は、今月末ごろに予定される日米首脳会談やサミット(主要国首脳会議)の場でも持ち出され、より強まることは間違いない。
 このように、米国は何が何でも、イラン制裁にわが国を引き込もうとしているのである。
 とくに見逃せないのは、マイケル・グリーン・米戦時国際問題研究所上級顧問の発言である(五月二十二付「日経新聞」)。
 グリーンは、「イランに対し、日本が融和策をとるのは国益に反する」「イランが核兵器開発を認められれば、湾岸地域全体の脅威になる」と、わが国にどう喝をかける。彼はこの暴論を合理化するために、日米戦略目標合意の重要性を説き、「民主主義の欧米」を選ぶのか「非民主主義国の中国や専制色を強めるロシアとともにあるのか」とまで言う。
 これは、衰退する米国が、世界戦略の一端を日本に担わせ、あえて日本の国益が犠牲になってもかまわないという、実に手前勝手な要求である。
 これに呼応する言論もあるが(岡部直明・日経論説主幹、五月二十九日付など)、この道では、わが国の国益を守ることはできない。

米国の要求を断固として拒否せよ
 米国がわが国に対イラン外交での屈服を迫る背景には、昨年の日米安全保障協議委員会(2プラス2)で合意した「共通戦略目標」がある。米国の世界戦略につき従う日米の戦略合意が国益に何をもたらすか、この間の対イラン外交をめぐる対日圧力の激化で、よりはっきりした。
 国益を損ねるのは、イラン問題だけではない。わが国は、イスラム大国・インドネシア産出天然ガスの最大の顧客である。米国は、反米気運を高める同国にも「警戒感」を高めている。もっとも国益に反しているのは、隣国である対中・対韓国外交が一向に打開できないことである。
 こうした諸問題は、今一度、小泉政権の選択の愚かさと時代錯誤ぶりを明らかにしている。
 こうした中、経済同友会が対中外交をめぐって、政府批判とも取れる提言を公然と行ったことは注目に値する。元財務相財務官で、政府中枢にいた榊原英資・早稲田大学教授でさえ、「(米軍再編は)全く議論がなされていない」と、危ぐを表明した。
 彼らの意図はどうあれ、国の進路をめぐって、支配層内に深刻な分岐が生まれていることが実証されている。対米追随の亡国外交を挫折させるために、国民な闘いを巻き起こす条件が広がっているのである。
 それにつけても、野党のこの問題で鈍感な態度に終始していることは、国民運動を発展させる上で大きな問題である。米国の対日要求と小泉の選択の売国性、そして支配層内の動揺を見抜き、闘いを発展させることが求められている。
 まだ遅くはない。
 対イラン制裁とそれへのわが国の加担に、きっぱりと反対しなければならない。さらに、日米共通戦略目標を打ち破るための、国民的な闘いを巻き起こさなければならない。


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