労働新聞 2006年6月5日号・社説

米軍再編計画が閣議決定

国民運動を発展させ、
再編計画を打ち破ろう

 小泉政権は五月三十日、在日米軍再編のための「基本方針」を閣議決定した。これは、五月一日に日米安全保障協議員会(2プラス2)で合意された、「最終報告」を前提としたものである。
 在日米軍再編は、日米の軍事一体化をいちだんと加速し、日本を米国の戦争システムに深く組み込もうとするものである。さらに、日本の支配層はこの機会を利用して軍事大国化を進めようとしており、アジア諸国は警戒と反発を高めている。政府がいう「基地負担の軽減」はまやかしで、在日米軍再編は日本の将来を危うくする戦争と亡国の道である。
 当然ながら、基地負担を強いられる自治体や住民は、「最終報告」にも閣議決定にも反発を強めている。
 井原・岩国市長(山口県)や星野・座間市長(神奈川県)など、多くの首長がすぐさま反対の意思を表明した。普天間基地(宜野湾市)の県内移設について、「政府案を基本として対応する」と合意した沖縄県の稲嶺知事でさえも、閣議決定には「極めて遺憾」と述べざるを得なかった。
 政府は、全国の不満に「地域エゴ」などと悪罵(あくば)をあびせていはいるものの、対応に苦慮しているのが実態だ。
 政府は米国との約束を優先し、地元自治体の了解も得ないまま見切り発車に踏み切ったが、広範な反発に、早くも出鼻をくじかれている。政府が閣議決定された基本方針を実現できるという保障はない。闘いを発展させる好機である。

広範な抵抗に直面した再編計画
 一九九六年の日米特別行動委員会(SACO)合意による普天間基地の県内移設は、沖縄県民の闘いによって破たんし、今回の閣議決定で「一九九九年の閣議決定廃止」という形で追認された。そして、決定したばかりの「基本方針」についても、早くも政府内部から「辺野古沖の二の舞いにならないか」という声が上がっている。政府にとって、これは決して杞憂(きゆう)ではない。
 SACO合意で直接対象となった米軍基地は、沖縄県内だけであった。だからこそ、沖縄県民を孤立させ、「振興策」というアメで分断し、一定程度は闘いを押しとどめることも可能であった。
 しかし、在日米軍再編で直接対象になる自治体は、沖縄だけでなく、神奈川のキャンプ座間、山口の岩国基地、鹿児島の鹿屋基地、福岡の築城基地、宮崎の新田原基地など全国五十以上の地方自治体に広がっている。
 三万五千人の県民総決起大会を開いた沖縄の闘い(三月)。市・市議会・自治会が一体になって集会やデモに立ち上がった、座間市や相模原市の闘い。政府・自民党の厳しい圧力や妨害をはねのけた、岩国の住民投票と市長選の勝利(三〜四月)。市と市内の農業・商工業・町内会などの諸団体、労働組合が連携して八千二百人が反対集会に立ち上がった鹿屋市の闘い(二月)。区長会が自主的に千二百人の反対集会を開いた行橋市(築城基地)や新富町(新田原基地)の闘い、等々。
 これらの自治体は周辺自治体と連携し、最終報告や今回の閣議決定に「断固反対」「白紙撤回」などの姿勢を堅持している。平和運動センターや地域・ブロックの連合は、これらの闘いの中で重要な位置を占めている。連合北海道は、都道府県連合として初めて、米軍再編に反対する声明を発表している。
 米軍再編関連以外でも、長崎県佐世保や神奈川県横須賀などで、米軍艦船の入港に反対する大規模な集会が行われている。教育基本法改悪反対など、軍事大国化に抗する闘いも発展している。地方議会でも、再編反対の意見書や決議をあげようという動きが広がり始めている。
 さらに、国民に「改革」の痛み、社会保障の切り下げや増税を押しつけながら、米軍に三兆円の大盤ぶるまいをすることに、国民の八割が怒っている。これらは、米軍再編に反対する闘いを支える広大なすそ野を形成しているのである。
 このように、基地負担を全国に押しつけようとする政府にとっては、前回よりも難問が山積しており、基本方針の実現はいっそう困難になっている。だからこそ政府は、基本方針を下敷きとした「米軍再編関連法案」を今国会に提出できず、「ポスト小泉」に丸投げせざるを得なかったのである。

沖縄県民と連帯する闘いは重要
 特に、沖縄県民の闘いは、政府にとって最大の難関である。沖縄県民は、これまで一貫して、米軍基地の撤去と米兵による犯罪・事故の防止、日米地位協定の改定などを求めてきた。これは、県民にとってますます切実な課題である。
 それにしても、どのような県政・首長をいただくかどうかは、県民運動の発展にとって大きな問題である。
 稲嶺知事は、真に閣議決定に対して「遺憾」だと思っているなら、直ちに超党派の県民大会を開いて、政府に反撃の意思を示すべきであろう。それをせず、政府に対してあいまいな態度を取り、米軍再編への賛否を知事選の争点からはずそうとしている稲嶺知事・与党の態度は、きわめてペテン的で犯罪的である。
 十一月には県知事選挙が予定されているが、政府と闘う側が県政を握れるかどうかが焦点となる。三万五千人の県民総決起大会のような県民運動を、より広範に発展させてこそ、選挙でも前進できる。
 また、本土の闘う人びとにとっては、米軍再編との闘いを発展させる上でも、沖縄県民を孤立させない闘いを全国的に繰り広げることが求められている。米軍再編で米軍と自衛隊が一体化すれば、沖縄県民が長年苦しんできた米軍犯罪や事件・事故が全国に拡大する。「全土の沖縄化」を阻止するためにも、沖縄県民との連帯は緊急の課題である。
 政府・与党は「伝家の宝刀」として、知事の認可権をはく奪する特措法制定という暴挙に出るかもしれない。だが、地方自治をあからさまに破壊するその道は、より広範な国民の反発を巻き起こさずにはいかないだろう。

民主党への幻想捨て、闘おう
 米軍再編の最終報告も基本方針の閣議決定も、米軍再編に反対して闘っている自治体や住民、労働組合の意思をくじくことはできない。逆に米軍再編を進める政府への反発を強め、その闘いにエネルギーを供給する結果となっている。
 米軍再編に反対して闘っている自治体、住民、労働組合は全国的に連携し、相互に情報を交換し、激励し合い、闘いのエネルギーをさらに高めなければならない。
 このとき、野党第一党である、小沢・民主党の態度はどうか。
 小沢・民主党代表は、政府との「対決」姿勢を打ち出している。だが、米軍再編については、政府の「戦略のなさ」と費用負担の「根拠」を問題にするのみである。では、「戦略」を持って堂々と再編に協力すればよいとでもいうのか。費用負担の「根拠」が明確であれば、国民負担に賛成するのか。
 しかも小沢は、前原前代表が再三再四、「米軍再編に協力すべき」と発言してきたことについて、いっさい撤回していない。小沢が真に政府との「対決」を言うのであれば、この発言を完全に撤回し、国民運動を呼びかけることができるはずである。
 もちろん、「日米基軸」を党是とする民主党で、しかも「日米同盟が最も大事だという考えについては、人後に落ちない」(五月九日の会見)と公言する小沢には、そのようなことができるはずもない。小沢・民主党への幻想を捨て去ることは、米軍再編との闘いの発展にとって、ますます重要な意味を持っている。
 労働者・労働組合、議員、自治体は団結・連合し、広範な国民運動で米軍再編を挫折させよう。
 とりわけ、国民運動の中核的組織者としての役割を果たすべき、労働者・労働組合の役割が問われている。


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