労働新聞 2006年5月25日号・社説

「農政重視」のポーズ
強める小沢民主党

 国会は終盤に入っている。
 医療制度改悪法案、共謀罪、そして教育基本法改悪案など、重要法案が目白押しである。米軍再編問題もある。国民運動で、これらの悪法を葬り去らなければならない。
 このとき、改めて呼びかけたいのは、小沢・民主党への幻想を打ち破ることである。
 財界の後押しを受け、「聖域なき構造改革」を掲げた小泉改革の下で、国民生活・国民経済は危機に陥ってきた。労働者はもちろん、中小商工業者や農民など旧来の保守基盤は犠牲となって急速に自民党から離反、「格差社会」や「都市部優遇」への批判という形で、改革政治への不満が高まっている。
 民主党の新代表に就任した小沢は、この「風向き」を最大限に利用している。彼は、民主党代表選に立候補した当初から、「共生」や「公正」をキーワードに、「弱肉強食の格差社会を生み出した」と、小泉改革との「対決」を打ち出している。
 彼は改革によるこれら諸階層の困難を解決するかのように装うことで、保守二大政党の一方としての、自党の支持基盤に変えようと狙っているのだ。
 小沢が労働組合・連合との関係「修復」をはじめ、改革政治の犠牲となってきた全国特定郵便局長会や医師会、JA全中などを精力的に回り、支持を呼びかけているのには、こうした狙いがある。
 とりわけ警戒が必要なのは、小沢が意識的に農民を引きつけようとしていることである。
 来夏の参院選で勝敗のカギを握る「一人区」には、農村を抱える選挙区が多いという事情もある。小沢が選挙準備のため真っ先に訪れた山形県で、候補者を農水省出身者に絞り込むよう指示したことは、象徴的である。
 今国会、農政をめぐって、政府は経営安定化策の対象を一部の「担い手」に限定し、多くの農家を保護の対象から除外する「担い手経営安定対策法案」を提出した。
 すでに、わが国の食料自給率は先進国中最低水準で、農業は存亡の危機にある。「安定対策法案」は、農業・農民の経営を「安定化」させるどころか、少数の「担い手」以外の農民を淘汰(とうた)して生産意欲を奪い、耕作放棄地をさらに増大させ、食料自給率を下げる亡国の法案である。
 民主党はこれに対して独自の法案を提出、「対抗」した。参議院では、小沢の地元である岩手県選出の主濱が質問に立ち、「農業の衰退傾向に拍車をかける」などとして政府案を「批判」、農家への「直接支払制度」を主張することで、農民の歓心を買おうとした。小沢は、さらに民主党独自の「農政抜本改革案」をまとめると表明、農業問題を引き続き「重視」する姿勢を示している。
 しかし、その「抜本改革案」たるや、またも欺まん的なものである。
 そのデタラメさは、「食料自給率一〇〇%をめざす」などと言いつつ、「農産物の全面自由化」を掲げ、わが国農業市場を完全に外国産農産物に明け渡すことを主張していることをあげるだけで十分だ。
 この二つの主張がどうして両立するのか、とくとご説明願いたいものだ。自給率一〇〇%なら輸入の必要はないし、日本を重要な農産物市場と考える米国が、食料完全自給を許すはずもないではないか。小沢は、牛海綿状脳症(BSE)問題をめぐる牛肉輸入問題で、米国がいかに執拗(しつよう)に輸入再開を迫っているか、知らないとでもいうのか。
 そもそも、小沢が主導した細川政権がコメ輸入自由化を決定し、日本農業をこんにちの危機に追い込む要因をつくったのである。これは、長年の自民党政権でさえ、できなかったことである。小沢が、マスコミの力を借りて「岩手県で田んぼをつくっている農協の組合員」(共同通信)などと自らを演出してみたところで、この正体は隠せない。
 歴代自民党政権、小泉政権の売国農政によって危機に瀕(ひん)するわが国農業・農民が、このように徹頭徹尾欺まん的な小沢民主党に期待するとすれば、それは新たな悲劇を生むことにしかならない。
 農村部でも、小沢民主党のペテンを打ち破らなければならない。
 日本農業の未来は、農民が自らの要求を掲げ、労働者をはじめとする国民各層とともに大衆行動を巻き起こす中でしか、切り開けない。そして、大衆行動を基礎にした国民的な政治戦線の形成こそ、切実に求められている。


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