労働新聞 2006年5月25日号・社説

北朝鮮制裁法案を許すな

 自民・公明の与党は「北朝鮮人権侵害問題対処法案」(以下、「法案」)を了承、国会に提出した。
 同法案は、「拉致問題の解決」を口実に、政府に特定船舶入港禁止法・外為法などによる経済制裁発動を義務づけるというものである。しかも、政府内に特命班を設置、日朝間の出入国管理、輸出入取引、金融取引など「ヒト、モノ、カネ」の出入りについて、日常的監視を強化するという。さらに、「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」(仮称)を定め、国と地方公共団体がさまざまな事業を実施することまで定めている。
 まさに、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への敵視に満ちたもので、アジアでの戦争の危機を高める危険な策動である。
 これは、二〇〇四年に北朝鮮人権法を制定、北朝鮮の武装解除と体制転覆を狙って圧迫を強める米ブッシュ政権に追随したものであると同時に、わが国の政治軍事大国化を狙ってのものである。広範な勢力を結集し、北朝鮮への敵視と排外主義を打ち破らなければならない。
 小泉政権による北朝鮮への圧力は、この「法案」にとどまらない。
 政府は、拉致被害者家族の感情を最大限に利用し、米国や韓国を訪問させることで「国際的な世論形成」をたくらんでいる。
 こんにち、米国がイラク占領に手を取られ、核開発問題をめぐるイランへの圧力も中国・ロシアの抵抗で思うようにならない。小泉政権はこれを好機とばかり、北朝鮮敵視の「先鋒役」を買って出ているのだ。
 だからこそ、ブッシュ政権は拉致被害者家族に対して異例の「配慮」を見せたのである。
 さらに政府は、歴史的に「在外公館に準ずる」ものとして課税減免措置が取られてきた在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)関連施設に対して、自治体の課税減免措置を見直すよう各都道府県連に通達を出した。
 あろうことか、支配層はマスコミを最大限に使って、朝鮮総聯と在日本大韓民国民団(民団)の歴史的和解にまで、悪罵(あくば)をあびせている。「和解が、北朝鮮と韓国による日米への対抗、けん制工作に利用されないよう注意する必要がある」(日経新聞)などというのは、その最たるものである。
 こうした北朝鮮、在日朝鮮人への敵視と排外主義は、わが国による朝鮮侵略と植民地支配、国家的な強制連行と従軍慰安婦の強制といった事実を隠蔽(いんぺい)することと一体で、恥知らずなものである。
 また、これらの策動は、韓国民の願いにも真っ向から反している。韓国・盧武鉉政権は対北朝鮮柔軟政策を堅持しており、五月末には五十五年ぶりに、南北の軍事境界線をまたぐ縦断鉄道の試験運行が始まる。
 北朝鮮への敵視ではなく、南北朝鮮の平和的統一を切に求める南北朝鮮政府・国民と連帯することこそ、わが国の真の国益となる。
 「経済制裁の実施」を求めている拉致被害者家族に対しても、言わねばならない。経済制裁は日朝間の緊張を極限にまで高め、戦争の危険さえ招くものであることを知るべきだ。それは、拉致問題の真の解決にも逆行することである。拉致被害者家族はいつまで、米日両政府の北朝鮮敵視政策に利用され、先兵としての役割を担い続けるのか。
 拉致問題を含む日朝間の懸案は、日朝の国交正常化を直ちに実現してこそ、解決することができる。これは、〇二年の日朝平壌宣言で確認済みのことでもある。
 北朝鮮制裁法案をはじめとする敵視と排外主義を打ち破り、日朝国交正常化を実現することは、アジアの平和にとって待ったなしの課題である。


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