労働新聞 2006年5月15日号・社説

財界の意を受け、
保守二大政党制狙う

小沢民主党への幻想捨て、闘おう

 衆議院の千葉七区補欠選挙が四月二十三日投開票され、民主党の太田候補が僅差で当選した。
 民主党は、ライブドア事件の「メール問題」をめぐり、一時は「存亡の危機」とまで言われた。この勝利で、その危機を脱したかのように見える。鳩山幹事長は、「政権交代に準備が整った」などと有頂天になっている。
 四月八日に代表に就任した小沢・民主党新代表は、執行部の発足を前に、早速にも労働組合・連合の三役会議に飛び入り参加、前原前執行部との「違い」を強調した。二十九日に行われた連合中央メーデーでも、小沢は参加した労働組合員の歓心を買うべく、パフォーマンスを演じた。
 連合中央の指導部がこれに積極的に呼応したこともあり、前原前執行部の下で崩れかけていた民主党への幻想が、一部労働組合幹部の間に広がりをみせている。他の野党幹部の中にさえ、「反自公」での共闘に期待する気分が広がっている。
 だが、民主党が労働者のための党ではなく財界のための党であること、とりわけ小沢新代表がそうであることは明白である。さまざまなパフォーマンスは、その正体を覆(おお)い隠す危険な術策でしかない。
 小沢・民主党への幻想を打ち破ることは、ますます重要である。

小沢の掲げる政策は小泉と同じ

 小沢の掲げる政策は、労働者の利益に合致するものではまったくない。
 小沢は、「外交に関する私の一つの信念は、米国との密接な同盟関係を堅持すること」と明言している(日本改造計画)。
 つまり、彼の外交政策の基本は日米軍事同盟の強化であり、米戦略に従って、わが国の海外派兵を拡大させようというものである。彼が「(派兵は)国連決議が前提」とか「自衛隊とは別組織」などと言ったとしても、本質的な違いはない。また、小沢は「普通の国」の名による憲法改悪と集団的自衛権の行使容認、国連安保理常任理事国入りなど、対米追随の下での政治軍事大国化を主張する。まさに、小泉政権と同様の政策である。
 しかし、それは世界のすう勢に反する時代錯誤の道で、わが国の真の国益と真っ向から対立するものだ。
 ところで、小沢は十月下旬の訪中を検討するなど「アジア重視」の姿勢をアピールしている。
 すでに、わが国は日米安全保障協議委員会(2プラス2)で「共通戦略目標」を策定、米「不安定の弧」戦略に追随し、中国を事実上の仮想敵国とし、身構える道に踏み込んでいる。その下で、米軍再編と自衛隊の米軍の一体化が進行している。
 「アジア重視」と言うなら、このアジアでの戦争への道と真っ向から闘わなければならない。
 だが、小沢民主党は、小泉が踏み込んだこの危険な道と闘おうとはしていない。前原前代表による「米軍再編へに協力すべき」という立場は、撤回されていない。
 小沢の「アジア重視」はポーズにすぎず、これでは、アジアと真に共生する国の進路を実現することなど、できようはずがない。
 また、内政面では、小沢は「格差是正」などと言う。ところが、彼の本音は「構造改革の断行」であり、それは格差をこれまで以上に拡大させるものでしかない。
 事実、彼は消費税増税と法人税減税を持論にしており(日本改造計画)、財界の国際競争力強化のため、国民生活をさらに破壊する政策を掲げている。
 以上が小沢代表の本音であり、彼の掲げる政策は、徹頭徹尾、国民の利益と相反するものでしかない。
 この本音は、現在でも変わっていない。小沢は民主党代表選時の演説で、「『日本改造計画』の具体化」をうたったほどだ。

保守二大政党制もくろむ財界

 この時期、小沢が民主党の新代表に就任し、「政権交代」で日本が変わるかのように叫んだ背景には、多国籍大企業が主導する財界の意図がある。
 財界は危機の時代が到来することを見越して、保守二大政党制の実現に向けた策動を強めている。
 保守二大政党制の下では、基本政策で違いがない二大政党が交替で政権を担うため、政権がどちらに転んでも、財界の政治支配は「安定」する。また、労働者・国民に「政権交代」の幻想を与えることで、大衆行動を抑え込める。こうした経験は、米欧諸国で見られる通りである。
 小沢は自民党時代から、こうした財界の意に忠実であった。彼が主導した細川政権は小選挙区制を導入、国民運動の中心的存在であった社会党を崩壊させた。さらに新進党の結成を主導、二大政党制の一方の極をつくるべく、策動したのである。

二大政党制の危機に再登場した小沢

 二大政党制実現のためには、二大政党の一方が労働組合を支持基盤としてつなぎとめ、無力化することがカギとなる。
 だが、前原前代表が与党との「対案路線」を打ち出し、「脱労組依存」を公言してはばからなかったことなどから、労働組合内に民主党への批判が高まっていた。これは、二大政党制への策動が危機に陥ったことを意味する。
 こうした事態に対する財界の危機感を背景にして、小沢新体制が登場した。だからこそ、小沢は連合との「関係修復」に努め、財界はそうした小沢に「期待」を隠さないのだ。
 奥田・日本経団連会長は、小沢の代表就任直後に「民主党は党としてまとまるだろう。自民党と拮抗する勢力ができるのはよいことだ」と、「歓迎」の意を示した。北城・経済同友会代表幹事も、「小沢氏の強いリーダーシップに期待したい」と述べている。
 その「期待」のあらわれとして、財界は衆院千葉補選で小沢民主党を後押しした。
 選挙区内にあるキッコーマン労組が民主党候補を支持するよう、茂木・キッコーマン会長(経済同友会元副代表幹事)自らが小沢と連携して動いたことは、マスコミでも報じられている通りである。その茂木は、新しい日本をつくる国民会議(二十一世紀臨調)共同代表の一人でもある。同臨調は〇三年に新発足して以来、「政権公約(マニフェスト)推進」などを掲げて保守二大政党制の実現のために策動してきた、財界の別働隊にほかならない。
 小沢新体制に「期待」をかけているのは、ほかならぬ財界である。

小沢新体制への幻想を捨てよう

 保守二大政党制は財界の政治支配維持のための戦略であり、決して政治の変革を意味しない。
 民主党は、その保守二大政党制の一方の極となることを、自己の目的としている。このような党が、労働者、国民諸階層にとって信用できない党であることは、これまで以上に明らかである。
 ところが、このような小沢の正体を知らないはずもないのに、横路・衆議院副議長(現在は離党)を中心とする民主党内旧社会党グループは、小沢新体制を積極的に支えている。「政権交代には小沢体制がいちばん」ということかもしれないが、どのような政策を実現するのかこそ、肝心なことではないか。
 民主党内旧社会党グループの現在の姿勢は、客観的には「政権交代」を名目に財界の願う二大政党制への策動を支えているわけで、犯罪的な行為といわねばならない。このようなグループにも、労働者は期待することはできない。
 自民、公明の与党と争う「議会の野党」が必要だと考えるのであれば、対米追随で多国籍大企業のための政治と真正面から闘わなければならない。
 そうした政策で結集し、国民運動の先頭に立つ新しい議会政党こそ、労働者と闘う人びとが共同の力でつくるに値する党であろう。そのような党であれば、この情勢の下で重要な役割を果たせるはずである。
 労働者、労働組合は小沢民主党への幻想を捨て、自らの力に依拠して、断固として闘おう。


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