労働新聞 2006年4月15日号・社説

欺まん的な普天間移設合意

沖縄と全国の闘い強め、
米軍再編打ち破ろう

 四月七日、政府と沖縄県の名護市は、米海兵隊普天間飛行場の名護市辺野古崎、米海兵隊キャンプ・シュワブ沿岸部への移設について合意した。
 具体的な合意内容は、政府が固執してきた「キャンプ・シュワブ沿岸案」については一切譲らず、滑走路の角度を十度変えることと新たにもう一本滑走路を建設し、V字型に配置するというものである。
 名護市の島袋吉和市長は、政府に「住宅の上空を飛ばない原則に配慮していただいた」とし、今回の合意で住民の危険を回避できたと繰り返し述べた。しかし、飛行ルートをどう決めようと、米軍機は通常でも決められたルートを無視して飛行しており、基地間の移動や演習場へ飛行する米軍ヘリコプターが住宅地上空を飛ばない保証などどこにもない。
 しかも、滑走路を二本に増やすということは、むしろ米軍にとっては願ったりの基地機能の強化、拡大である。住民にとっては危険性の拡大、基地負担のいっそうの強化に外ならない。また滑走路の増設は周辺の海の埋め立て面積の拡大となり、自然環境を破壊し、建設費用の増大にもつながる。
 島袋市長は、今年一月の市長選で「沿岸案反対」を公約にして当選したが、今回の合意はまさに沿岸案そのものである。これは明確な公約違反であり、市長の屈服は市民への裏切りと言わなければならない。市民の中から市長リコールを求める声が高まっているのも当然である。
 なにより許せないのは「振興策」などをちらつかせ、小手先の「再修正」で名護市側を協議に引き込み、アメとムチで追いつめ、押し切った、政府の態度である。

沖縄県民、全国の闘いを抑えることはできない

 「合意」を受けて政府は、これを今月内にも予定されている米軍再編成に関する日米両政府の「最終報告」に盛り込むことで動き出した。
 そもそも今回のキャンプ・シュワブ沿岸部への移転案は、日米両政府によって昨年十月に開催された日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、在日米軍再編の「中間報告」として、地元の頭ごしに合意されていたものである。しかし当初、三月末とされていた「最終報告」は、沖縄県はもとより神奈川、東京、広島、福岡、宮崎、鹿児島等々、米軍基地をかかえる地域、自治体や米軍施設の移設対象となっている基地周辺で、米軍再編、基地強化に反対する地域ぐるみの闘いが高揚する中で、先延ばしを余儀なくされてきた。
 焦りを深めた政府は、米軍再編の象徴となっていた普天間基地の移設に関わる地元合意をなんとしてでも実現させることで、全国で巻き起こっている反対運動に水をかけ、抑え込もうと狙ったのである。
 またも犠牲にされたのは沖縄であった。
 戦後六十年、加重な基地負担にあえぎ続けてきた沖縄に、新たな米軍基地建設を押しつけ、さらに県民世論の分断を図ろうなどという政府の売国的で卑劣な態度に、沖縄県民はさらなる怒りをかき立てている。
 名護市長が屈服しようが、あるいは稲嶺恵一沖縄県知事がどのような態度をとろうが、沖縄県民の怒りの闘いを押しとどめることはできないだろう。マスコミなどの世論調査では、辺野古崎への移設に県民の七二%が反対した。反対の内、米国への移設を望む人が八四%を占めた。これこそ沖縄県民の意思であろう。三月五日の県民大会でも、その意志は明確に示されている。
 さらに、例えば住民投票で米軍空母艦載機の移転反対の民意を示した山口県岩国市では、自治会や住民団体は「名護は名護、岩国は岩国」「国は岩国の意見に耳を傾けろ」と闘いを継続させている。また宮崎県新富町では名護の合意翌日の八日、航空自衛隊新田原基地への米軍戦闘機訓練移転に反対する町民集会が開かれ、全町民の六・四%にあたる約千二百人が参加した。

理不尽で売国的なグアム移転経費負担を国民は許さない

 さらに、普天間飛行場の移設問題と並んで焦点の一つとなっているのが、沖縄に駐留する米海兵隊の一部、司令部機能のグアム島への移転問題である。日米両国政府は、二〇一二年までに海兵隊員八千人、家族も含めると一万七千人を移す方向で検討している。
 しかし問題は、米国がその移転費用の負担を日本に要求していることである。米側が積算した移転費用は、総額で約一〇〇億ドル(約一兆千七百億円)という途方もない金額で、その内の七五%(八千八百億円)を日本に負担せよと言うのである。
 朝鮮、ベトナム戦争や湾岸戦争など二次大戦後、米軍は沖縄を出撃基地として、世界で侵略戦争を展開してきた。その在沖縄米軍、とりわけ海兵隊は、かずかずの凶悪な事件、事故を引き起こし沖縄県民を蹂躙(じゅうりん)し続けた。それが、「負担を軽減してやるのだから金を出せ」などと、移転費用だけでなく訓練施設や諸整備費まで含め、大幅な水増し要求を突きつけるなど、盗人たけだけしいとはこのことである。
 しかしこの理不尽な米国の要求に対して、小泉首相は「ある程度はもつ用意がある」と早くも呼応する姿勢を示している。すでに一般会計から三〇%強の直接負担と融資の形での三〇%強もの負担を米国側に申し出る方針を固めたとも伝えられる。
 本来、米海兵隊の司令部機能をグアムへ移転する計画は、米国の世界規模での軍事戦略、米軍再配置の中枢をなすものである。それは、戦略資源である石油を支配すること、中長期的には中国を抑え込むことを狙った米国の政治的、軍事的戦略、「不安定の弧」戦略に規定されたものである。司令部機能をグアムに移転しその安全性を高めながら、実戦部隊は沖縄に駐留を続け、中国から中東一帯を射程に、機動力と攻撃力の飛躍的強化を図ろうというのがそのねらいである。米国はそれを、わが国の資金、血税で進めようというのである。
 すでにわが国政府は、毎年二千三百億円ほどを在日米軍駐留経費(「思いやり予算」)として、国民の血税を米軍のためにつぎ込んでいる。その上、外国にある外国軍隊の基地建設から兵員家族の福利厚生まで資金を出してやる国が、いったい世界の何処にあるというのか。
 しかも一方で、財政再建などといって国民には犠牲を押しつけ、負担を強い、さらに増税まで画策しながらの米軍への財政支援など断じて許し難いことである。

国民的闘争で米軍再編打ち破ろう

 米軍再編に反対する闘いでは、さらに注目すべき動きも出てきている。
 先月二十八日には、超党派の全国の地方議員五百二十二名が共同署名を行い、「米軍再編推進関連法案」の国会提出中止の要求書を政府に突きつけた。要求書では「国民に増税、医療など社会保障の給付削減、負担増をおしつけ、自治体への地方交付税や補助金・国庫負担金を削減しながら、国外の米軍施設建設に巨額の血税を浪費するなど言語道断」とし、「米軍再編推進関連法案に絶対反対」と表明している。
 昨年二月の日米安全保障協議委員会は、中国を事実上の仮想敵とし、日米の「共通戦略目標」を確認した。両国政府が「最終報告」を急いでいる米軍再編は、まさにこの共通の戦略目標にそって、わが国が全世界で米国を支え、さらには自衛隊を米軍の指揮下により深く組み込み、統合運用体制を強め、米軍と一体で戦争できる体制づくりを急ごうというものだ。それはしかし、全世界での反米の嵐に直面、孤立し、力の限界をさらす落ち目の米国と共に、アジアと世界での孤立、戦争と亡国へと導く、時代錯誤の選択である。
 全国四十七都道府県の五百二十二名もの地方議員が、共同して米軍再編に反対の声を上げたことは、まさにこの課題が全国に拡大する条件を示した。
 米軍再編に反対することは、沖縄はじめ基地負担に苦しむ一部地域や自治体、住民だけの問題ではない。それは、自主的で平和な国の進路への転換を目指す全国民的な課題である。
 沖縄、さらには基地強化に反対する全国の闘いを孤立させることなく、一層闘いを強め、米軍再編を打ち破り、米軍をアジアと日本から追い出すために闘おう。


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