労働新聞 2006年3月25日号・社説

重大局面を迎えた
米軍再編の闘い

 全国で展開されている米軍再編、米軍基地強化に反対する闘いが、政府の思惑を超えて高まり、小泉政権を追いつめている。
 沖縄の空中給油機移駐先とされた鹿児島県・鹿屋では2月26日、地元JA、町内会、PTA、女性団体や連合をはじめとする労働組合など40団体、8200人が移駐反対の市民集会を開いた。また沖縄では3月5日、「知事権限を奪う特措法反対、普天間基地の頭越し・沿岸案に反対する沖縄県民総決起大会」に、3万5000人が参加。米兵による少女暴行事件に抗議して開かれた95年10月の県民大会以降、最大規模の集会となった。
 その他、神奈川や東京など米軍基地をかかえる地域、自治体、さらに米軍部隊の移設対象となっている基地周辺など、まさに地域住民、自治体、広範な各層一体となったさまざまな反対運動が展開されている。
 たとえ日米両政府が米軍再編の「最終報告」で合意しようと、「米軍再編関連法」の整備など課題はつきず、何より全国の反対運動を抑えることはできない。
 米軍基地強化に反対し、基地撤去を求める闘いを一層発展、連携させ、国民運動の力で米軍再編を打ち破らなければならない。

岩国住民の意思踏みにじる売国政府

 3月12日、国民の多くが注目する中で岩国市の「住民投票」が行われた。
 岩国市民は、日米両政府が押しつけた米空母艦載機部隊移駐案に対して明確に「ノー」を示した。投票率は58.68%、「移駐反対」は87%と9割に迫り、有権者の過半数が反対であった。政府の様々な脅しや圧力、「反対し続ければ振興策がなくなる」などとという一部勢力の住民投票ボイコット運動などの妨害をはねのけ、岩国市民は艦載機部隊移駐反対の民意を明確に示したのであった。
 「今より騒音や危険が増すのは避けられない」と、移駐計画に一貫して反対してきた井原勝介・岩国市長は、この結果を受けて国に対して計画の「白紙撤回」を求めた。当然の要求である。
 この結果は、住民投票を固唾をのんで見守っていた米軍の再編強化に反対する全国の関係自治体や住民・国民を大きく励ました。
 一方、「国防は国の専管事項」と居丈高な論理を振りかざし最終報告をめざす政府には大きな打撃となった。あせった政府は、「一種の地域エゴイズム」(片山虎之助・自民党参議院幹事長)などど、住民投票に現れた民意を低め、その全国への波及を押さえ込もうと必死である。
 「地元に相談もなく決定された中間報告」という関係自治体の批判に対して、これまで政府は「地元の頭越しには進めない」と説明してきた。しかし、3月末が期限とされる最終報告が迫る中で、全国での反対運動に手を焼く政府は「地元無視の見切り発車」に踏み切ろうというのである。安倍晋三官房長官にいたると、「最終合意は日米が協議していることで、日米で協議が整い次第、それが最終合意になる」と、地元との合意がなくても最終報告をまとめる、との考えを公然とさせている。

米国の世界支配戦略にそった米軍再編

 「外交、安全保障は国の専管事項」などと居直る政府だが、米軍再編は、わが国の安全や平和に全く逆行するものである。
 18日、オーストラリアのシドニーで初めて開かれた日米豪3国の閣僚級戦略対話は、急速な経済成長をとげる中国の、軍備拡大への警戒感をあからさまに示し、「共通の戦略的利益を守るために共同で取り組む」と、対中国での3国の政治、軍事戦略上の連携強化を確認した。
 さらにこの戦略対話に先立つ16日に発表された、米「新・国家安全保障戦略」では、「中国政府が国民のために正しい戦略を選ぶよう促すが、そうならない場合の布石をうつ」と述べ、中国の「政治改革」、国家体制の転換を求め、それに向けて介入と圧力、さらには軍事的包囲を強化する意図を示している。
 イラク戦争開戦から3年、イラクで泥沼にはまり、全世界で高まる反米の嵐を前に危機と孤立を深める米国は、危うくなった世界支配を維持しようと、中東をはじめとする産油地帯を支配し、更には中国の台頭を抑え込むことをこの時期の世界戦略として推進している。しかし、力の限界は明らかで、原油支配もままならず、逆にイラク開戦で激化した欧州との亀裂の修復にも迫られている。
 一方アジアで米国は、中国を米多国籍企業にとっての最適な生産拠点、「世界の工場」に押しとどめ、米国の世界支配にとって、有力な競争者として登場することを阻止しようとしている。
 昨年の日米安全保障協議委員会(2プラス2)は、中国を事実上の仮想敵と見立て、日米の「共通戦略目標」を確認したが、今回の3カ国戦略対話は、これを米国の指揮下で日豪の「有志同盟」に拡大し、中国けん制の「包囲網」を形成することを狙ったものである。これはまさに米戦略にとっての「布石」に他ならない。
 米軍再編はこうした米戦略に導かれたもので、在日米軍の世界、アジアをにらんだ効率的配備と戦闘能力強化、さらには日米の軍事一体化を急速に強化しようとするものである。
 わが国多国籍大企業を中心とする支配層は、米国の力の弱まりを好機とみて、米国の世界戦略を支えることで世界とアジアで政治・軍事大国化をめざそうとしている。小泉政権は、この多国籍大企業の忠実な代理人として、米国を支え、米軍再編をしゃにむに進めようとしているのである。
 しかし、衰退し、窮地を深める米国に追随して、中国、朝鮮などアジアの隣国を敵視し、戦争の脅威をつくり出すことは、発展と統合化を進めるアジアの中で、好んで孤立を選ぶものである。それは、時代錯誤の亡国の道といわねばならない。

理不尽な米国の費用負担要求

 しかも米国は、膨大な費用負担までわが国に押しつけようとしている。
 政府の試算によると米軍再編にかかわる日本側経費は、普天間の代替基地建設費、沖縄海兵隊のグアム移転経費、岩国、嘉手納の基地整備費など総額3兆円を超すという。とんでもない話だが、米国はさらにグアム移転経費を100億ドル(1兆1600億円)と膨大に見積もり、その75%の75億ドル(8700億円)を日本が負担せよとまで要求している。
 小泉政権が、財政再建を口実として、医療や年金など社会保障費の切り捨て、地方の切り捨て、定率減税廃止など大衆増税で国民犠牲を強いている今日、多くの国民にとって、米軍再編のための血税投入など許せるはずがない。
 理不尽なグアム移転経費については、政府内部でも不満と反発が出ているという。「基地周辺住民の負担軽減につながる」などと経費負担に前向きな安倍や公明党神崎らは、徹頭徹尾の売国奴である。

団結して米軍再編を打ち破ろう

 高まる米軍再編反対の闘いに対して、窮地の小泉政権は、普天間飛行場移設問題での「微修正」をにおわせ、あるいはわずかばかりの返還案や振興策を振りまいて、「地元合意」を引きだそうと卑劣な画策を強め始めた。
 しかし対米公約優先こそが政府の本音であり、だまされてはならない。地域、自治体や住民はいまこそ全国的に連携、団結し闘いを強めなければならない。
 米軍再編に反対する闘いは、集団的自衛権の行使などをねらった憲法改悪を阻止するための、具体的な闘いでもある。国民投票法など明文改憲への攻撃を打ち破るためにも、いままさに高揚する米軍再編反対の闘いをいっそう強めて、国民的な力をつくり、鍛え上げなければならない。
 労働組合の連合内部でも米軍再編に反対する動きが広がっている。注目すべき変化である。労働者・労働組合がその先頭で闘い、組織者の役割を果たすことは、闘いを勝利させる確かな道である。
 対米関係優先で、集団的自衛権も容認する前原ら民主党の犯罪性を見抜き、労働者、労働組合は国民運動の先頭で、断固として闘おう。


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