労働新聞 2006年3月5日号・2面・社説

対中敵視公言する米「国防計画」

対米追随断ち切り、
独立・自主の進路を

 米国防総省は二月、四年ごとの「国防計画見直し」(QDR)を発表した。これは、今後二十年の米軍事戦略を示したものである。
 今QDRは、九・一一同時テロ事件以降の「対テロ戦争」の継続を表明するとともに、核兵器など大量破壊兵器の拡散阻止、中国など「戦略的岐路にある国々」への対処と、そのための部隊・戦力再編を重要課題として挙げた。
 QDR発表に先立つ一般教書演説(一月三十一日)で、ブッシュは中国を経済面での「競争相手」と述べたが、軍事戦略上も、事実上の敵視をむき出しにさせたのである。
 わが国御用マスコミは早速、「中国への対応は、日米同盟の最優先すべき課題」(読売新聞)と、米戦略に乗っかった世論誘導を強めている。
 しかし、この道を進めば、わが国のアジアでの孤立はいっそう深まることは疑いない。独立・自主の国の進路の実現は、ますます緊急の課題である。

中国敵視を明言するQDR
 今QDRは、敵対国への先制攻撃を公言した「ブッシュ・ドクトリン」(二〇〇二年九月)下で初のものである。「ブッシュ・ドクトリン」は、「対テロ戦争」を口実に、欧州連合(EU)や中国などの台頭を抑え込み、世界の一極支配を再構築することを打ち出したものであった。
 QDRは、自らを「戦時下で初の報告」と規定し、全世界で孤立を深める米帝国主義の危機感をあらわにする。そして、イラク戦争後の国際的孤立と力の弱まりをばん回し、戦略資源である原油を有する中東から、朝鮮半島に至る「不安定の弧」での優位を確保しようという意思に貫かれている。
 「潜在的敵対国家」として、イラン、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を名指しし、体制転覆を隠さないことは言うまでもない。
 だが最大の特徴は、中国、ロシア、インドの三カ国を名指しし、「二十一世紀の国際安全保障環境を決定づける」と、これへの監視・関与を強め、米国にとって「無害」な国へと誘導するという姿勢を示したことである。
 とくに、中国は「米国にとって軍事的に最大の潜在的競争国」「対策を講じなければ、いずれ米国の軍事的優位性が失われる可能性もある」と、あからさまな脅威論を吹聴している。これは、これまでの台湾海峡という局地的な「脅威」としてではなく、米国の世界支配に対抗しうる「脅威」として、中国を位置づけたことを意味する。一方、インドは対中けん制の意図を含め、「主要な戦略的パートナー」としている。
 米国は、昨年七月の国防総省年次報告で、初めて中国の「脅威」に公式に言及したが、今QDRはこれに続くものである。
 これは、同時テロ直後に発表された前QDR(二〇〇一年)とは対照的である。前QDRは「不安定の弧」の地域で「敵対的な軍事力が台頭することへの懸念」を打ち出しこそすれ、中国に対する名指しは避けていた。
 米帝国主義は今QDRで、中国に対して本格的に備えることを表明したのである。

中国に備えた兵力配備打ち出す
 QDRでは、中国に備えての兵力配備の見直しも打ち出している。
 世界に展開する空母を十二隻から十一隻に削減する一方、太平洋では現状の六隻は維持する。横須賀への原子力空母配備はこの一環であるし、約七十隻ある潜水艦の六割も太平洋に配するという。
 さらに、原潜搭載用の新型長距離通常弾道ミサイルの研究・二年以内の配備や、「核兵器開発能力の二〇三〇年までの刷新」も打ち出されており、本年六〜八月には、空母四隻が参加する大規模な演習が太平洋地域で行われる。
 まさに、中国をターゲットとする兵力配備が、着々と進められようとしている。

力の低下を自認、同盟国に頼る米国
 一方、QDRは「国防総省だけではこんにちの複雑な課題に対処することはできない」と、米国の力の低下を公然と認める。
 それゆえ、「対テロ戦争」などへの同盟国の支持・協力とともに、同盟国以外からの協調取りつけがカギだとする。同時に、それら同盟国以外が米国に敵対した場合に備え、「同盟国と(対策を)講じる」としている。
 これは、米帝国主義の力の弱まりを背景に、同盟国以外(中国やロシアなど)に対し、同盟国を動員して「硬軟両様」の対処を行うことを打ち出したものである。
 そのための同盟強化の対象として明示されているのが、太平洋地域の日本、オーストラリア、韓国である。これらの国は、米国の敵対国への対処はもちろん、同盟国以外の協調取りつけが思わしくなかった場合にも、政治的・外交的措置などの共同対応に動員されるということだ。
 そして、この「同盟強化」の軍事的裏づけが、現在、米国が世界的に進めている軍事再編である。わが国においては、神奈川県キャンプ座間、山口県岩国基地などへの米軍司令部配備や部隊移転、自衛隊との一体化としてあらわれている。

QDRへの追随を示す小泉政権
 わが国小泉政権は、この米軍再編に積極的に協力することを表明、「伝家の宝刀」特措法を隠しつつ、米軍基地の一部返還や補助金などで、各地の住民を「納得」させようとしている。
 ラムズフェルド国防長官は「選挙のたびに待たされてきたが、待ったなしだ」と、小泉政権の尻たたきに懸命である。三月末には、国民の反対を押し切って、日米安全保障協議委員会(2プラス2)で米軍再編についての合意がなされる見通しだ。
 わが国がこのQDRの方向に追随し、米軍再編を受け入れることは、戦争と亡国の道である。隣国である中国に対する敵視を強め、その前線基地を引き受ける。これでは、わが国の自主的外交など、完全に吹き飛んでしまう。すでに、日本は靖国神社参拝問題などにより、アジア、世界で孤立しているが、これはさらに深刻となろう。
 ところが、わが国多国籍大企業を中心とする支配層は、マスコミを駆り立て、「日本にとって『不安定の弧』への対処は、自らの平和と安全に直結する国家的課題」(産経新聞)などと言う。彼らは米国の力の弱まりを好機とばかり、これを支えることで大国化をめざそうというのである。
 小泉政権は、この多国籍大企業の忠実な代理人である。対米追随と軍事大国化の道を打ち破らなければならない。

敵の弱さ見抜き広範な戦線で闘おう
 米国やその代理人の策動は、早くも困難に直面している。
 「不安定の弧」の東端に当たる朝鮮半島では、韓国が対北朝鮮外交などで自主的な態度を強めている。盧武鉉政権は、朝鮮半島以外への在韓米軍派遣を拒否する意向も示している。米国がQDRで「米韓同盟は米国の力の源泉」と述べたとしても、韓国が思い通りになる保証はない。
 また、日本内においても、対米追随の小泉政権に対する批判が高まり、米軍再編に対して、少なくない地域で幅広い抵抗が起こっている。米国が今QDRでもイランを敵視していることには、わが国支配層内にも少なからぬ対米不満がある。これは、石油資源という重大な権益にかかわるからである。
 さらにブッシュ政権自身が、「不安定の弧」西端のイラク占領で行き詰まり、国内では支持率低下に悩んでいる。闘う側には好機である。
 QDRへの追随と、その具体化である米軍再編に反対しなければならない。全国で起こりつつある反米軍基地の闘いに見られるように、国民は闘うエネルギーを持っている。そこにしっかりと依拠し、広範な運動を巻き起こさなければならない。
 労働者・労働組合がその先頭で闘い、組織者の役割を果たすことは、闘いを勝利させる確かな道である。


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