労働新聞 2006年2月25日号・2面・社説

「財政再建」を口実とした
増税・社会保障制度改悪

多国籍大企業のための
国民犠牲を許すな

 国会では、二〇〇六年度予算案が審議中である。だが、すでに小泉政権は来年度以降を見通しながら、よりいっそうの歳出削減と増税攻撃に打って出ようとしている。
 多国籍大企業、トヨタの奥田会長(日本経団連会長)が参加し、事実上の政府の最高意思決定機関とも言うべき経済財政諮問会議は二月十五日、「歳出・歳入一体改革について」議論を行った。ここで、吉川洋・東大教授ら民間委員らが二十兆円規模の歳出圧縮を提案したのである。
 すでに、政府は一月二十日、「構造改革と経済財政の中期展望」を改定・閣議決定し、膨大な財政赤字と「景気回復」を口実にして、「規制、金融、税制、歳出の分野を中心とした構造改革」加速化を宣言している。
 だがこれら「歳出・歳入一体改革」は、すでに始まっている介護保険制度改悪などの社会保障引き下げや「三位一体改革」による地方切り捨て、定率減税半減をはじめとする増税など、国民犠牲をさらに進めるものである。
 国民運動による、断固とした反撃が求められている。

「歳出削減」は増税の隠れみの
 小泉政権は、昨年末に「行政改革の重要方針」を閣議決定し、「小さな政府」実現に向けてアクセルを踏んでいる。
 吉川らは、国と地方で約七百七十五兆円に及んでいる財政赤字を口実にして、二〇一一年までに歳出を二十兆円削減し、プライマリー・バランスを均衡、または黒字化させよと叫び、「年金、医療制度などの社会保障費や人件費(義務的経費)を減らさないと、公共事業などの裁量的経費を四割も削減せざるをえない」と国民をどう喝している。
 彼らは「増税しないとすると……」と各種シミュレーションを行うことで、さも歳出削減だけを強調するかのようだが、「歳出・歳入一体改革」と言われるように、本音は「歳出削減と増税による歳入増のセット」である。さまざまな「試算」は、そのための世論誘導策、隠れみのにすぎない。
 例えば、政府の各種審議会役員を歴任している御用学者、中谷巌・三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長(多摩大学学長)は、都内の講演で露骨に述べている。「歳出削減は、(二十数兆円のうち)半分はできる。あとの半分は、実は隠し球の消費税引き上げになる」。実際、消費税を現行の五%から一〇%に引き上げれば、それだけで十二兆五千億円もの税金が、国民かのフトコロから搾り取れるのである。
 政府税調は、六月にも消費税増税を含む大増税案を取りまとめることが予想されるし、経済財政諮問会議による次期「骨太の方針」にも、こうした方針が盛り込まれる可能性は大である。
 「任期中は消費税率を上げない」としている小泉首相の任期切れが九月に近づき、政局が全体として「ポスト小泉」に向かう中、この動きはいっそう急速である。
 消費税増税に、社会保障費削減と公務員削減、「市場化テスト」などによる公営事業の民間への移譲、これにいくらかの税収増(景気が回復すればだが)を加えれば、確かにプライマリー・バランスは均衡するかもしれない。
 だが、それは国民の生活と営業にいっそうの困難をもたらすものである。

「財政再建」は多国籍大企業のため
 政府が、このようにしゃにむに財政再建と増税に突き進むのは、多国籍大企業の国際競争力を維持せんがためである。
 現に、昨年十一月の政府税調の席では、定率減税廃止などの国民増税の方針が打ち出される一方、「日本企業の国際競争力を強化する観点から税制の後押しは必要」と堂々と語られているのだ。
 多国籍大企業は、激しい国際競争に生き残るため、経費としての国内政治を身軽で効率的なものにすることを切望している。だからこそ、トヨタ会長である奥田が直々に、経済財政諮問会議で陣頭指揮を執り、小泉政権を叱咤(しった)激励しながら、さまざまな改革政治を推し進めているのである。
 消費税増税ひとつを例にとっても、日本経団連はかねてから一六%前後への税率引き上げを提案しているし、経済同友会も一〇%以上への引き上げを打ち出している。一方、財界は法人税減税を求めるなど、身勝手にも自分たちの負担は軽減することをもくろんでいる。政府が法人税減税を打ち出さないのは、国民への増税と同時期では反発を買うため、いまのところ「控えている」にすぎない。
 政府・与党の増税策動は、これら財界の意にそって行われているのである。

危機深める支配層の策動
 だが、財政再建をもくろむ政府の置かれた環境は危機が深い。
 まず、最近言われる「景気回復」は、大企業に空前の利益をあげさせ、いくらかの税収増など歳入を増やしてるという意味では事実ではあるが、これ自身が続く保証はない。「回復」は借金漬けの米国や中国といった外需に支えられたものであり、日本国民のフトコロが豊かになった結果としてのものではない。現に、わが国の貯蓄率が五%程度にまで下がり、「貯蓄なし」の世帯が約四分の一に及ぶことに示されるように、長期の不況の中、国民はわずかな貯蓄を取り崩すなどして生活せざるをえないのである。
 この上に、社会保障費削減や増税を進めればどうなるか。診療報酬引き下げなどの医療改革に対して医師会が闘っているのは典型で、消費税引き上げとなれば、労働者のみならず中小商工業者の反発は避けがたい。これ以上の国民犠牲は、従来の自民党の支持基盤をいっそう崩壊させ、各層の闘いを発展させずにはおかないのである。
 それゆえ、マスコミや御用学者は、財政赤字を呼号するだけでは飽きたらず、安全保障の問題とも結びつけて、国民に「財政再建」のイデオロギー攻撃を仕掛けている。「このまま赤字国債を発行すれば、(国内では国債が消化できず)中国に大量に日本国債を保有される」「そういう政治のカードを中国に渡したくない」(中谷)などというのがそれで、経済発展を続ける中国の「脅威」をも引き合いに出して、国民犠牲の道を「納得」させようとしているのだ。
 このような、悪らつなイデオロギー攻撃を許してはならない。

民主党は期待できぬ
国民的大衆行動の発展を
 だが、議会政党の現状はどうか。
 公明党は、児童手当など微々たる「成果」を針小棒大(しんしょうぼうだい)に言い立てているが、小泉改革政治の忠実な共犯者である。「福祉」を掲げながら、現実には社会保障削減を進めているわけで、この党の果たしている役割は、きわめて犯罪的である。
 野党第一党の民主党は、総選挙マニフェストなどで「消費税増税」を掲げてきたことに示されるように、基本的に財界の意にそって小泉と「改革を競う」党である。このような党が票目当てに「サラリーマン増税反対」などと言ってみたところで、それは「天につばする」ものでしかない。
 昨年総選挙時に、民主党と連合が税制問題での見解が一致できなかったのも、当然ではある。連合中央でさえ見解が一致できぬ民主党に、労働者・労働組合は期待することはできない。
 小泉改革は、医師会や中小商工業者など従来の保守基盤、さらに地方に広範な怒りを蓄積させている。この怒りを結集し、幅広い戦線を築けるかどうかは、国民運動の中心的組織者たるべき労働組合にかかっている。
 「財政再建」の名による攻撃が多国籍大企業のためのものであることを暴露し、闘いを発展させることは、ますます切実な課題となった。


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