労働新聞 2006年2月15日号・2面・社説

イラン核開発問題

国連安保理付託決議を評する

 国際原子力機関(IAEA)緊急理事会は今月四日、イランの核開発問題を国連安全保障理事会に付託する決議案を、異例の多数決の形で採択した。
 理事会では、英仏独の三カ国が上程した決議案に対し、米国など国連安保理常任理事国(核保有国)の五カ国が賛成に回ったものの、理事国三十五カ国のうちベネズエラなど三カ国が反対、非同盟諸国など五カ国は棄権した。
 安保理に付託されても、常任理事国の中国とロシアは経済制裁に反対で、今後の展開はいまだ不透明である。しかし、経済制裁などの権限をもつ安保理への付託は、〇三年二月の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発問題以来で、米国、欧州などの帝国主義諸国は、この決議採択でイランへの国際的圧力をいっそう強めようとしている。
 しかし、イランは「核の平和利用」は、国際的に認められた権利であると、当然にも主張し、内政干渉と米国はじめ核保有国による核独占に対する反発と抵抗を強めている。

窮地の米帝国主義の悪あがき
 イラクへの侵略戦争と占領で泥沼にはまり窮地に陥っている米国が、この時期、核開発を口実にイランへの圧力や介入を強めている意図は明白である。
 世界第四位の産油国であるイランは、かつてのパーレビ王制下では米国の中東支配と原油資源略奪の先兵であった。しかし、一九七九年のイラン革命を経て米国の影響力を一掃し、自国の資源を自国民自身が握る道を選択した。以降、イランの政権は、米欧の帝国主義と争って、資源自主権、民族自決を貫いてきた。この反米、反帝国主義の態度は、民族、宗派の違いを超えて中東諸国、人民に大きな影響を与えた。
 米国はこのイランを中東支配にとっての敵と位置づけ、八〇年代のイラン・イラク戦争ではイラクを支援し、イラン政権の打倒を図ったが果たせなかった。
 九一年の湾岸戦争以降は、同じく資源自主権を掲げるイラク・フセイン政権がこの地域の米国の主敵として登場したが、イランに対する敵視政策も引き続き行われた。ブッシュ政権が、イラク、北朝鮮と並んでイランを「悪の枢軸」と決めつけ、ブッシュ・ドクトリンで先制攻撃や政権転覆の対象にあげ、凶暴などう喝外交を続けてきたことは周知の通りである。
 こんにち、イラクの泥沼にはまった米国は、戦略的に追求してきた中東の石油資源独占もままならず、逆に占領支配の犠牲と負担の増大にあえいでいる。米主導で進めてきた「中東和平策」もパレスチナ人民の抵抗を前にとん挫、停滞している。反米、反イスラエルで存在感を増すイランは、米国にとっていよいよ邪魔な存在となったが、力が伸びきった米国には、イラクと合わせイランと軍事的に対峙(たいじ)することは容易ではない。
 窮地の米国は、イラク開戦を契機に対立を激化させた欧州の力に頼らざるをえなくなった。IAEA理事会への英仏独の欧州諸国の共同提案は、このような経緯で行われたと見るべきであろう。

中東支配で対米同盟を選んだ欧州
 独仏など欧州の帝国主義諸国は、米国によるイラク戦争開戦に反対し、フランスなどは安保理での拒否権も辞さずとする強硬姿勢を貫いた。しかしそれは、アラブ、中東人民の立場に立ってのものでは、もちろんなかった。中東は欧州帝国主義諸国にとって原油など資源の多くを依存する地域である。二十一世紀もいっそう戦略的重要性をます原油資源を米国に独占され、そのことで米国の世界と欧州への支配が強まること、自らの経済的権益が侵されることに対する反発こそ、独仏のイラク開戦反対の真の理由であった。独仏などの国内で高まる階級闘争、反米機運もこれら諸国の支配層、政府の背中を押すこととなった。欧州の支配層は、石油資源を米国に独占されることには反対だが、中東地域がこれ以上混乱することも望まない。いわんや中東人民が自らの手に原油資源をにぎることには反対である。
 しかも、時とともに米国の力不足は明らかとなってきた。一昨年来、ブッシュやライス国務長官は矢継ぎ早に欧州を歴訪、関係修復に努めた。ラムズフェルド国防相などは、イラク開戦時に「古い欧州」などと揶揄(やゆ)した自分の発言の撤回に走り回った。
 イランの核開発問題では、欧州は当初、米国と一線を画し、イランに代替エネルギー支援などを約束し、独自外交をとる姿勢を見せていた。しかし、イランの核開発の意思と力が揺るがないと見ると、昨年夏以降は強硬姿勢に転じるようになった。欧州の強盗たちにとっても、イランが核技術を持って帝国主義諸と対峙することは容認できないのである。昨年九月の欧州連合(EU)非公式外相会議は国連安保理付託も辞さないという方針を確認した。十月、シラク仏大統領とライスは「イランが核兵器を保有する展望を持つこと」すら認めないと合意した。これは事実上、イランの平和利用を含む核開発のすべてを否定するものであった。こうして、米欧はイランの核開発阻止で同盟することに合意したのである。
 激化する経済競争を背景に、冷戦後の世界での米欧の帝国主義間の矛盾と対立は深まっている。にもかかわらず帝国主義はまた、世界支配維持のために相互に同盟する必要にも迫られている。地球人口の一割程度でしかない帝国主義諸国、先進国が、他の九割の人口を要する諸国、人民を支配し、資源を略奪し、その貧困の上に豊かな生活を維持している。これこそ帝国主義の同盟の根拠であり、それは本質的な帝国主義の弱さをあらわしている。

イランの態度には道理がある
 イランが独自に核技術開発を行おうとすることは、固有の権利で誰にも止めることはできない。核兵器開発などと米国が騒ぎ立てる「疑惑」は、相変わらずあいまいなもので、ありもしないイラクの核開発、大量破壊兵器疑惑を捏造(ねつぞう)し、開戦の口実にした米国の言い分など、世界のどの国が本気で信じるだろうか。
 昨年五月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、核保有国による核技術独占に強く反発する非核保有諸国の圧倒的な声で、逆に、イランと北朝鮮への制裁を画策した米国の孤立が際立った。ベネズエラのチャベス大統領は「イランには原子力エネルギー開発を行う権利がある」と言明し、非同盟諸国の多数もこれを支持している。
 しかも、米国に支援された核保有国イスラエルが、イランへの核攻撃の意図を隠していないのである。仮にイランが核武装を願ったとしても、それは根拠のあることで、責められるべきはイランではない。
 核兵器廃絶を望むならば、核兵器を独占し、「使える核兵器」開発などを公然と進める米国はじめとする帝国主義の核どう喝政策と正面から闘わねばならない。核廃絶の闘いは、帝国主義反対の闘いと不可分に結びついてこそ展望がある。

自主的な対中東外交を樹立しよう
 米国はすでにわが国のイラン制裁への同調を強く求めてきている。原油資源の圧倒的な部分を中東に依存するわが国にとって対中東外交は死活的である。
 中でも、イランはわが国の原油輸入総量の一五・九%(三位、二〇〇三年)を占める相手国であり、日本は同国アザデガン油田の権益の七五%を有している。イランにとっても、日本は第一の輸出先(二七%、〇四年)である。紆余曲折(うよきょくせつ)はあるが、米国がイラン敵視を続ける中でも、日本・イラン関係は比較的良好であったのだ。
 しかし、イラク派兵に続いてイラン制裁に同調すれば、友好的な中東外交など成立する余地はない。わが国政府のイラン敵視政策に反対しなければならない。「(イランは)安保理付託の重みをかみしめよ」(公明党)などと言う党は米帝国主義の手先であり、打ち破らなければない。
 日本の自主・独立の国の進路をめざす、国民運動を発展させることが求められている。


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