労働新聞 2006年2月5日号・2面・社説

行き詰まりを深める小泉政権

闘いのチャンス、
広範な闘いを巻き起こそう

 耐震強度偽装問題、ライブドア堀江社長の逮捕、再度の米国産牛肉輸入禁止など最近の諸事件は、対米追随外交と「改革政治」の正体を暴露することで国民の怒りを呼び起こし、小泉政権に打撃を与えている。
 さらに支配層には、焦眉の課題である米軍再編をはじめアジア外交の打開、大増税、公務員の賃金切り下げ・人員削減など、取り組まねばならない難問が山積している。
 地方と国民各層には、改革政治で切り捨てられる不満がくすぶっている。また、米軍再編反対や対米追随外交反対、政治反動などへの国民の抵抗と闘いも、いまだ強力ではないものの、粘り強く闘われている。
 最近特徴的なのは、自民党および政権与党内部の利害対立とヒビ割れが目立つことである。政権与党である自民・公明の両党間および自民党内部の小泉・反小泉勢力の亀裂と対立は深まり、野党の動きとも絡んで、政局は流動化の様相を濃くしている。昨年秋の総選挙で三百以上の議席を獲得して大勝した小泉政権だが、その政権運営は、逆に行き詰まりを深めている。一部では、「小泉政権はすでに末期症状」との声も出始めた。
 闘いのチャンスである。広範な国民的な政治戦線を築き、小泉政権を追いつめよう。

暴露進む小泉の改革政治
 第百六十四通常国会が一月二十日に召集され、小泉首相は施政方針演説を行った。首相は「改革を続行し、簡素で効率的な政府を実現する」と改革推進をぶち上げた。
 しかし、ここにきて耐震強度偽装、ライブドア問題という諸事件が相次いで起こり、「改革」の正体が暴露され、多くの国民は小泉改革への「幻想」から目をさましつつある。
 言うまでもなく、耐震強度偽装事件は、米国とわが国財界の要求の下、建設業の規制緩和を進めた結果引き起こされたものである。
 ライブドアが合併・買収(M&A)を生業(なりわい)として巨大化した背景も、米国が国家戦略として推進した金融グローバル化に呼応して小泉政権が規制緩和など国内改革を意識的に進めたことである。堀江容疑者自身の「小泉政権のおかげで商売がしやすくなった」という発言を見るだけで、それは明らかだ。
 しかも、ライブドアや耐震強度偽装問題で渦中にある企業群と、与党とのゆ着の事実も浮上している。自民党が昨年の総選挙で堀江前社長を実質的に擁立(無所属)・支援し、小泉改革の象徴的な人物・広告塔として持ち上げたことなどは、このゆ着の一部でしかない。
 これに加えて、地方自治体へさらなる犠牲を押しつける三位一体改革の「第二幕」はこれからである。国家財政の赤字解消を要求する多国籍大企業などは、消費税大幅引き上げを求めている。
 米国と多国籍大企業のための小泉の改革政治は国民経済に打撃を与え、地方を疲弊(ひへい)させ、労働者国民各層の暮らしを困難に陥れた。経済格差もかつてなく広がり、改革の正体が暴露されることで、国民の不満が広がっている。

外交・安全保障問題でも難題
 国の進路、外交・安全保障の問題ではどうか。小泉政権の対米従属、軍事大国化への道は内外で厳しい批判にさらされており、その打開は一刻も猶予(ゆうよ)がないところに来ている。
 小泉は国民の食の安全の問題でも、危険な売国奴であることが暴露された。
 米国産牛肉に、除去が義務づけられている脊柱が混入していることが明らかになった。昨年末、国民の反発を押し切って輸入を再開してからわずか一カ月で、米国産牛肉の輸入を緊急に停止する事態に追い込まれたのである。自らの閣議決定にも反し、米国現地調査を怠っていた事実も白日の下にさらされるなど、政府の責任は重大である。
 安全保障の問題でも米国の「不安定の弧」戦略に基づく世界的規模の米軍再編に協力し、沖縄、神奈川など米軍基地の恒久化・強化、自衛隊と米軍の一体化を進めようとしている。これは、わが国を米国の前線基地として整備するとともに、中国や朝鮮民主主義人民共和国を「仮想敵」とし、海外で「戦争のできる国」にする軍事大国化の動きである。
 一月十七日の日米防衛首脳会議では、三月の在日米軍再編最終報告取りまとめに合わせて日米同盟強化をうたう新たな日米安保共同宣言を発表することで一致した。
 これは、日米同盟の意義を日本防衛からアジア太平洋地域の安定維持に拡大した一九九六年の「日米安保共同宣言」をさらに発展させ、部隊の運用レベルまで世界規模での日米共同作戦に踏み込もうというというものである。
 だが、昨年十月の米軍再編の「中間報告」合意を機に、再編基地関係自治体すべてが反対し、一部では議会や商工団体、町内会などをも巻き込んだ集会も開催されている。こうした運動は、横須賀での米兵による強盗殺人事件や沖縄、長崎での米兵犯罪・事故の続発にも加速されており、米軍再編の強行は容易ではない。
 だからこそ、防衛施設庁は地方議会での再編反対決議を妨害するよう、指示を出したりもしているのである。
 小泉政権による米軍再編への協力と軍事大国化は、小泉自身の靖国神社参拝とも相まって、中国、韓国を始めアジア諸国にいっそうの警戒感を呼び起こしている。小泉は「中国、韓国以外に靖国参拝を批判する国はない」と述べているが、昨年の東アジア首脳会議の場では、シンガポールやマレーシア、フィリピンなどから批判的な声があがったことは隠しようもない事実である。

深まる支配層・与党内の矛盾
 こうした、戦後かつてないとも言うべきアジアでの孤立に対し、日本経団連の奥田会長でさえも「(小泉政権のアジア外交は)どう控えめに見てもうまくいっているとは言えない」と苦言を呈したほどである。わが国多国籍大企業が中国市場で膨大な利益をあげるためにも、さすがに黙っていられなかったのであろう。
 また、自民党内にも、小泉首相の靖国神社参拝や、改革政治による格差拡大を批判、危ぐの念を表明する声が高まっている。「ポスト小泉」を展望した権力闘争もあり、この矛盾は容易にはおさまるまい。
 八五年のプラザ合意以降、自民党は自らの支持基盤である中小商工業者、農漁民を切り捨てざるをえなかった。こんにち、多国籍大企業だけの利益を守ることで、財界内部の矛盾も深まっている。昨年総選挙の際、自民党は深刻な分裂を演じたが、その背景には、このような支配層にとっての危機的状況がある。
 小泉政権にとって、内政も外交も、まさに困難続きなのである。

民主党に期待せず闘おう
 このように、難問山積の小泉政権は決して磐石ではない。米ドル体制に依存し、激しい国際競争に勝ち残ることを狙う多国籍大企業にとって、政治の選択肢は限られている。財界や政権は、まさに薄氷を踏む思いでいる。逆に政治の転換を願い、闘う者には絶好のチャンスである。
 ところが、野党である民主党は、前原代表が集団的自衛権の行使を容認、改憲、米軍基地再編問題では特措法を提案、また、「中国脅威論」を内外で唱えるなど、自民党以上の対米追随ぶりをさらしている。
 民主党は、もともと財界が保守二大政党の一つと位置づけた党である。前原代表になって労働組合との関係もすきま風が吹いており、労働者の中で民主党の実態が暴露され、「民主党離れ」が進みつつある。労働者、労働組合がこの党に頼れぬことは、もはや明白である。
 こうした有利な情勢の下、政権を揺さぶり政治の変革を実現するのは、労働者階級を先頭にした国民諸階級の連合した力である。各地の米軍再編反対・基地撤去、改革反対、護憲・政治反動反対の世論と運動を発展させ、その力を連合して壮大な国民運動として発展させることこそ求められている。
 労働者階級、とりわけ労働組合はその先頭で闘い、政治の根本的な転換を実現しよう。


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